2016年、北京市の基礎中等高等裁判所は合計で一審知的財産事件22890件(民事16798件、行政6092件)、二審知的財産事件4116件(民事1072件、行政3044件)を結審し、受理件数と結審件数がいずれも過去最高を記録した。全市の各等裁判所が挙げた候補判例について、北京市高等裁判所の知的財産法廷は検討した上で、2016年の「10大事件」と「10大革新的事件」を選び出した。選出されたすべての判例は2016年に終審判決が確定した事件である。
事例1:「ヌクレオチド類似体を含む錯体又は塩及びその合成方法」発明特許無効審判請求の審決取消事件
二審事件番号:(2015)高行(知)終字第3504号
合議体:焦彦、岑宏宇、劉慶輝
原告:吉聯亜科学股份有限公司(以下「吉聯亜社」という)
被告:中国特許庁特許審判委員会(以下「特許審判委員会」という)
第三者:陶珍珠、張敏奥、鋭特公司
【概要】
吉聯亜社は、特許番号が98807435.4である「ヌクレオチド類似体を含む錯体又は塩及びその合成方法」という発明特許(以下、本事件特許)の権利者である。陶珍珠氏等はそれぞれ特許審判委員会に本特許権に対する無効審判請求を提起した。2013年7月9日に、特許審判委員会は特許権の全部を無効とする第20990号無効審判請求の審決(以下、第20990号審決)をした。吉聯亜社は審決を不服として北京市第一中等裁判所に取消訴訟を提起した。裁判所は(2013)一中知行初字第3496号行政判決(以下、第3496号判決)をし、第20990号審決の取り消しを判決するとともに、改めて審決をするよう特許審判委員会に命じた。特許審判委員会等は判決を不服として北京市高等裁判所に上訴した。2014年12月19日に、北京市高等裁判所は、第3496号判決を取り消す旨の(2014)高行終字第2060号行政裁定(以下、第2060号裁定)をし、改めて審理するよう北京市第一中等裁判所に命じた。
一審裁判所は再審理した結果、以下のとおり判示した。
証拠1″にはビス(POC)PMPA(即ち、Bis(POC)PMPA)が開示されている。請求項1はビス(POC)PMPAのフマル酸錯体又は塩に関するものである。本事件特許の明細書の記載から、フマル酸塩が遊離塩基及び他の塩に比べて予想外の最適の理化学的性質の効果を有することを読み取れず、Bis(POC)PMPAフマル酸塩が「良好な経口バイオアベイラビリティ」という効果を有することも実証できない。このように、請求項1が証拠1″に対して実質上解決する課題は、同一の活性を維持するまま、化合物Bis(POC)PMPAを塩に転換することによって、塩形成化合物が通常備える比較的高い溶解度及び安定性等の性質を得ることのみである。証拠2″には本事件特許の構造と似ているヌクレオチドリン酸誘導体を有機酸(例えば、フマル酸)と塩形成させるという示唆がある。よって、Bis(POC)PMPAをフマル酸と塩形成させ、それによって、塩形成化合物の通常の性質を得ることは、当業者が当業界の一般的な動機付けに基づいてなし得る設計的事項である。したがって、本事件特許請求項1は証拠1〃と証拠2〃の組み合わせに対して進歩性を有せず、2001年改正の中華人民共和国特許法(以下、2001年特許法)第22条第3項に規定する要件を満たしていない。以上より、一審裁判所は、特許審判委員会による第20990号審決を維持する旨の判決をした。吉聯亜社が当該判決を不服として上訴した結果、二審裁判所は一審判決を維持した。
【コメント】
本事件は化学医薬分野の特許の進歩性判断に関する典型的な審決取消訴訟事件である。本事件の裁判では、以下のルールを明らかにした。化学医薬分野の特許の進歩性判断において、本事件特許が先行文献と類似した化学構造を有する場合、本事件特許が進歩性を有することは、本事件特許が予想外の効果を奏していることが前提である。本事件特許の明細書の記載から、予想外の効果を有することを読み取れず、先行文献に対する改良は、当業者が当業界の一般的な動機付けに基づいてなし得る設計的事項である場合、本事件特許が進歩性を有しないと認定すべきである。本事件により決定した、化学医薬分野の特許の進歩性判断のルールはこのような事件の審理には指導的意義があり、化学医薬分野の発明創造水準の向上の促進には積極的な指導効果がある。本事件の権利者である吉聯亜社は世界で有名な製薬企業である。本事件特許は当該会社製のB型肝炎やエイズを治療するための抗ウイルス薬である「テノホビル」に関するものである。吉聯亜社の年報によれば、2010年のこの薬品の売上高は60億ドルを超えている。したがって、本事件は社会及び産業界からの注目を浴びている。
事例2:「セルラー移動無線システムにおけるハンドオフを改善する方法」PCT発明特許権無効審判請求の審決取消事件
二審事件番号:(2013)高行終字第1737号
合議体:莎日娜、周波、陶鈞
原告: テレフオンアクチーボラゲツトエルエムエリクソン(以下、「エリクソン社」という)
被告:中国特許庁特許審判委員会(以下「特許審判委員会」という)
第三者:Huawei技術有限公司(以下「Huawei社」という)
【概要】
エリクソン社は、「セルラー移動無線システムにおけるハンドオフを改善する方法」というPCT発明特許(以下、本事件特許)の権利者である。2010年11月12日、Huawei社は本事件特許に対する無効審判請求を提起した。無効審判において、エリクソン社は請求項1、4、5における「少なくとも1つの候補目的基地局」という記載を「少なくとも2つの候補目的基地局」に訂正した。特許審判委員会は、このような訂正は中国の審査基準に規定する許容可能な訂正手法に該当しないとして、エリクソン社の訂正クレームを採用しなかった。2011年6月2日、特許審判委員会は、本事件特許が中国特許法第22条第3項に違反するとして、本事件特許を無効とする第16765号審決をした。エリクソン社は審決を不服として取消訴訟を提起した。
裁判所は以下のとおり判示した。
請求項の技術的範囲は、請求項に記載されているすべての内容を1つの全体として特定されるものである。したがって、請求項の訂正が中国特許法実施細則第68条第1項に適合するか否かを判断する際に、発明の全体から把握しなければならない。本事件において、本事件特許の請求項1、4、5の発明はいずれも「在少なくとも1つの候補目的基地局」で、移動端末によってサービス無線基地局へ送信されたアップリンク信号から信号強度および到着方向パラメータを測定すると規定しているが、エリクソン社が提出した訂正書では、請求項1、4、5の「少なくとも1つの候補目的基地局」は「少なくとも2つの候補目的基地局」へと訂正した。文言からすれば、このような訂正は、発明における候補目的基地局の数を縮減するものにすぎず、当初の権利範囲を拡大するのではなく、むしろ当初の権利範囲を限縮する訂正である。請求項1、4、5に規定する発明には理論上、1つのみのの候補目的基地局で発明の目的を達成できる発明は含まれている。これは、少なくとも2つの候補目的基地局がないと、上述した発明の目的が達成できないという発明とは明らかに異なるものである。両者には性質上の本質的な違いがある。また、形式からすれば、請求項1、4、5は並列的選択肢形式のクレームではなく、クレームから削除してもその実質的内容に影響を及ぼさない同等な発明は存在しない。したがって、エリクソン社による請求項1、4、5の訂正は、中国特許法実施細則の規定に適合しない。本事件特許の登録書面を対象として審理した特許審判委員会の判断は妥当である。
さらに、裁判所は、本事件特許が進歩性を有しないとした特許審判委員会の判断を確認した上で、第16765号審決を維持する旨の判決を言い渡した。
【コメント】
本事件の裁判において、裁判所は法律の具体的な条文の単純な適用に留まらず、特許法の全体から思考し、発明の全体に着眼して、「公開」の代償として「権利」を付与するという特許制度の基本的価値観から、訂正発明を認めるべきかを検討したので、今後の参考として積極的な意義を持っている。法律の具体的な適用について、クレームの訂正が適法であるか否かの判断は、訂正後の範囲の広さだけではなく、特許法の立法趣旨から、かかる発明の実質的内容に変わりがあるかを考察すべきである。訂正発明の技術的範囲が狭くなっても、発明の内容に実質的変化が生じたのであれば、このような訂正発明は元のクレームとは異なる新たな発明として扱うべきであり、かかる訂正は無効審判請求において認められるべきではない。本事件では上述の裁判ルールが確立されているため、今後の実務に有利な影響を与える。
事例3:「微信」商標に関する異議不服審判行政事件
二審案件番号:(2015)高行(知)終字第1538号
合議体:焦彦、莎日娜、周波
原告:創博亜太科技(山東)有限公司(以下「創博亜太公司」という)
被告:国家工商行政管理総局商標審判委員会(以下「商標審判委員会」という)
第三者:張新河
【概要】
創博亜太公司は、2010年11月12日に、第8840949号「微信」商標(以下「被異議申立商標」という)を第38類の「メッセージ(情報)の送信、電話によるサービス、電話による通信、セルラー式電話による通信」などの指定役務において登録出願した。法定の異議申立期間内に、張新河は当該商標に対して異議を申し立てた。2013年3月19日に、商標局は被異議申立商標の登録出願を拒絶するという審決を下した。創博亜太公司は商標局の裁定を不服とし、商標審判委員会に異議申立不服審判請求を行った。2014年10月22日に、商標審判委員会は第67139号審決を下した。当該審決によれば、被異議申立商標の登録出願が社会公益と公の秩序に消極的、ネガティブな影響を与える可能性があり、既に『商標法』第10条1項(8)の禁じられた状況に該当するため、被異議申立商標の登録出願を拒絶すると決定した。創博亜太公司は当該審決を不服とし、行政訴訟を提起した。
裁判所は以下のとおり認めている。被異議申立商標が漢字「微信」より構成されている。既存の証拠を以って、当該商標標識又はその構成要素が中国の政治・経済・文化・宗教・民族などの社会公益と公の秩序に消極的、ネガティブな影響を与える可能性があることを十分に証明できない。よって、被異議申立商標の登録出願が『商標法』第10条1項(8)の規定に違反しない。商標審判委員会が第67139号審決において、被異議申立商標の登録出願が『商標法』第11条1項の規定に違反したかのことについて認定したが、全面審査の原則に従い、裁判所はこの点についても審査すべきである。これに基づき、裁判所は被異議申立商標が上述の指定役務において顕著性を欠如するので、その登録出願が拒絶されるべきだと認める。したがって、裁判所は第67139号審決にある間違った認定を是正したうえ、商標審判委員会の裁定(結論)を維持する。
【コメント】
本事件を審理した際、テンセント(騰訊控股有限会社)のソフトウェア「微信」は既に8億超のユーザーが持ったため、本事件の審理結果は膨大なユーザー群が当該名称でそのソフトウェアを使用し続けるかと直接に関連する。この案件について、社会の注目度が高く、影響が広い。しかも、本事件は、『商標法』の重要な関連法律条項及び最高人民裁判所の関連指導意見の適用問題にかかるため、法律及び社会影響においても、比較的大きな影響力があり、学界、実務界及び社会公衆の関心が高まっている。二審裁判所が、「その他の悪影響」の認定対象を商標標識及びその構成要素自身に限定し、最高人民裁判所の「その他の悪影響」に関する認定基準を堅持して、裁判基準の一貫性を守った。同時に、二審裁判所は本事件において行政訴訟の全面審査原則を模索して、今後の関連司法解釈の発表に、司法実践における基礎を築き上げた。
事例4:「上専及び図形」商標に関する行政紛争事件
二審案件番号:(2016)京行終2985号
合議体:潘偉、陶鈞、樊雪
原告:上海専利商標事務所有限公司(以下「上専所」という)
被告:国家工商行政管理総局商標局(以下「商標局」という)
【概要】
上専所は、2014年8月28日に、第15244242号「上専及び図形」を第42類の「技術的事項に関する研究、技術的課題の研究、情報技術に関するコンサルティング、コンピュータソフトウェアに関するコンサルティング」などの指定役務において登録出願した。2014年9月12日に、商標局は「商標登録出願不受理通知書」を発行し、上専所の登録出願を受理しないと決定した。上専所は不服とし、行政訴訟を提起した。一審訴訟中、『商標法』第19条4項の理解と適用問題に関して、一審裁判所は中南財経政法大学知識産権研究センター、西南政法大学知識産権研究センター、華東政法大学知識産権法律と政策研究院、中国政法大学無形資産管理研究センター、北京務実知識産権発展センター、5つの機構の意見を求め、且つ関連フィードバックを受けた。
一審裁判所は以下のとおり認めている。『商標法』第19条4項は商標代理機構が「代理サービス」のみにて商標を登録出願することができると規定されるが「代理サービス」の解釈について、商標法上には明確に規定されていない。この問題に関する理解は、行政法規及び規則の関連規定に基づき考えるべきである。『商標法実施条例』第84条によれば、「商標法にいう商標代理には、委託者の委託を受け、委託者の名義で商標登録出願、商標審判又は他の商標業務を代行すること」。同条項の基礎に、『商標代理管理弁法』第6条1項には商標代理行為について更に規定されている。「商標代理組織が委託者の委託を受け、商標代理人を指定して下記の代理業務を行うことができる。(一)商標登録出願、変更、更新、譲渡、異議申立て、取消し、審判、侵害苦情通報などの関連事項の代理;(二)商標に関する法律コンサルティングサービスの提供、商標に係わる法律顧問の担当;(三)商標に関連するその他の業務の代理」。上述の規定に基づき、商標代理機構は上述の業務内容のみにおいて自分の名義で商標を登録出願することができる。本事件商標の指定役務が第42類の「技術的事項に関する研究、技術的課題の研究」などであり、明らかに商標代理サービスに属さない。よって、本事件商標は『商標法』第19条4項に規定される登録できない状況に該当する。上記をまとめ、一審裁判所は上専所の訴訟請求を棄却した。二審裁判所は、以下のとおり認めている。本事件商標の指定役務が第42類の「技術的事項に関する研究、技術的課題の研究」などであり、『商標法』第19条4項に規定される「代理サービス」に属さない。よって、本事件商標の登録出願を拒絶したという商標局及び一審裁判所の認定は、不当なところがないため、上専所の上訴を棄却して、原判決を維持する。
【コメント】
本事件は2013年に改正された『商標法』第19条4項の理解と適用にかかわる。2003年より商標代理機構の設立及び商標代理人の資格に関する行政決裁が廃止された後、商標代理活動において混乱現象が現れ、商標の市場秩序も乱された。この問題を解決するために、2013年改正された『商標法』には、第19条4項の規定が追加され、商標代理機構より登録出願できる商標の区分が「代理サービス」のみに限定された。しかし、実践上、「代理サービス」の拡大解釈の可否について、係争が残されている。本事件にては、法律規定の理解について、一般的にその文字の通常意味に基づくべきであるが、文字の解釈の結論は、法律規定の無駄になり、或いは法律システムの各条項の間で重大な抵触を生じさせるなどの重大な特定状況は例外である。同時に、商標代理活動における混乱現象及び商標市場秩序の混乱を明確に解決するために、『商標法』に追加された商標代理機構の行為規範に関する内容を厳格的に執行すべきである。また、随意に「商標代理」に対して拡大な解釈をして、当該条項の立法目的を達成できないことはしない。当該案件は、今後類似案件の審理及び法律規定の解釈方法の適用について模範的な裁判と見なされる。
事例5:パナソニック「美容器」意匠権侵害紛争事件
二審事件番号:(2016)京民終245号
合議体:劉輝、蘇志甫、劉慶輝
原告: 松下電器産業株式会社(以下「パナソニック社」という)
被告:珠海金稲電器有限公司(以下「金稲社」という)、北京麗康富雅商貿有限公司(以下、「麗康社」という)
【概要】
本事件意匠は、2012年9月5日に登録になった名称が「美容器」で、登録公告番号がCN302065954Sで、意匠権者がパナソニック社の登録意匠である。パナソニック社は、金稲社が製造、販売、販売の申出を行っており、麗康社が販売している「金稲イオン蒸気美容器KD-2331」が上記意匠権に対して侵害になると主張し、上記両被告が侵害行為を停止した上で、金稲社が経済損失額300万元、両被告が共同で合理的な支出20万元を賠償するよう請求した。また、請求した賠償額300万元の算定根拠として、パナソニック社は、公証付き証拠取りにより特定される一部の電子ビジネスプラットフォームで検索することによって得られた被疑侵害品に該当する同一規格の製品の販売総数18,411,347台及び当該製品の平均単価260元を挙げた。一審裁判所は、両被告の行為がパナソニック社の意匠権への侵害となり、パナソニック社がネットに示される侵害品の販売台数及び平均単価に基づいて300万元の賠償額を請求するのは合理的であるとして、パナソニック社の賠償額の請求を支持するとの判決をした。金稲社、麗康社は上記判決に対して不服があり、上訴した。
二審裁判所は以下のとおり判示した。本事件意匠の図面を2つの被疑侵害品の実物又は写真とそれぞれ比較すれば、本事件意匠が被疑侵害品と全体の視覚効果が類似し、被疑侵害品が本事件意匠の権利範囲に属する。また、特許法第65条第1項に規定される権利者の損失、侵害者が得た利益及び特許実施許諾料などの3事項について、権利者と侵害者が共に証拠を挙げることができ、裁判所は証拠を全面かつ客観的に確認した上で、論理的な推理及び日常生活の経験に基づいて、当事者が関連証拠によって証明しようとする損害賠償の事実が相当程度に達する可能性を判断しなければならない。パナソニック社が主張した被疑侵害品の販売総台数と製品の平均単価の乗積によれば、たとえ侵害品毎の合理的な利潤を低く考えても、計算して得られた金額が300万元より遥かに大きい。上記証拠のサポートによって、パナソニック社が主張した300万元の賠償額の合理性は高いと思われる。金稲社は、開設した「金稲旗艦店」以外の、他のネットで販売した被疑侵害品の大半が偽物で、ネットで示される販売台数が実際の販売台数と一致しないと主張したが、この主張を証明するための証拠は提示できなかったため、認められない。したがって、二審裁判所は上訴を却下し、一審判決を維持する旨の判決を言い渡した。
【コメント】
本事件は、賠償額が320万元で、北京裁判所が今まで審理した意匠民事侵害事件において賠償額が最も大きい事件である。本事件意匠が名称「美容器」の意匠にも関わらず、この意匠の市場価値は高い。本事件の高賠償額から、知的司法保護の注力及び権利侵害賠償により知的財産の市場価値が反映される司法理念が十分に明らかにされている。権利侵害行為の挙証が困難であり、権利侵害行為に関連する帳簿や資料は主に侵害者が持っていることを考慮し、侵害者が侵害により得た利益に対して権利者が力を尽くして証拠を挙げ、例えば侵害者が外部宣伝や他のルートで示される侵害品の販売数を提示し、かつ侵害者が反証により権利者の主張を覆せない場合、侵害者が侵害により得た利益は権利者の主張及びその証拠に基づいて認定することができる。また、侵害者の利益が明らかに最高法定賠償額より高いと証明する十分な証拠がある場合、一対一の証拠で具体的な金額の精確な算定過程を示すことができないにも関わらず、権利者が、その主張した賠償額の算定根拠を十分に説明でき、かつその合理性を証明する証拠があれば、権利者の最高法定賠償額以上の賠償請求を認めることができる。上記規定の説明は、同じような事件に対して参考にされるものである。
事例6:「脈脈」が「微博」のユーザ情報を不法に取得する不正競争事件
二審事件番号:(2016)京73民終588号
合議体:張玲玲、馮剛、楊潔
原告:北京微夢創科網絡技術有限公司(以下「微夢社」という)
被告:北京淘友天下技術有限公司(以下「淘友技術社」という)、北京淘友天下科技発展有限公司(以下「淘友科技社」という)
【概要】
微夢社が運営している「新浪微博」(ミニブログサイト)は、ソーシャルプラットフォームであり、第三者アプリにインターフェースを提供するオープンプラットフォームでもある。両被告が運営している「脈脈」は、移動端末用の人脈ソーシャルアプリであり、初期は「新浪微博」と連携していたので、ユーザは「新浪微博」のアカウント及び個人の携帯番号により「脈脈」に登録・ログインすることが可能であった。ユーザは登録の際に「脈脈」に個人の携帯電話における連絡先をアップデートする必要があり、「脈脈」は微夢社との連携に基づいて「新浪微博」ユーザのID、プロフィール画像、ニックネーム、友人関係、タグ、性別等の情報を取得できる。微夢社は、「脈脈」ユーザの一次人脈には、多くの非「脈脈」ユーザも、「新浪微博」アカウントのプロフィール画像、名前、職業、学歴等の情報が表示されていることが後に分かった。その後、双方は連携をストップしたが、非「脈脈」ユーザの「新浪微博」ユーザ情報は合理的な期間内で削除されなかった。微夢社は本事件訴訟を提起し、両被告が①「新浪微博」ユーザの職業、学歴等の情報を不法に取得して利用し、②「脈脈」登録ユーザの携帯電話における連絡先と「新浪微博」ユーザとの対応関係を不法に取得して利用し、③「新浪微博」のVIP認証体制及び表示形態を模倣し、④微夢社を中傷したとして、両被告が不正競争に該当すると主張した。微夢社は、不正競争の差し止め、影響の解消、損害賠償1000万元等を請求した。両被告は上述の不正競争行為を否認した。両被告は、①微夢社との連携期間において、ユーザは携帯番号又は「新浪微博」アカウントにより「脈脈」に登録する際に、個人の携帯電話における連絡先情報をアップデートする必要があり、「脈脈」アカウントの一次人脈は「脈脈」ユーザの携帯電話における連絡先及び「新浪微博」フレンズに由来するものであり、二次人脈は一次人脈ユーザの携帯電話における連絡先及び「微博」フレンズであること、②微夢社との連携終了後、ユーザは携帯番号のみにより登録・ログインでき、一次人脈は「脈脈」ユーザの携帯電話における連絡先だけであり、他の人が「脈脈」ユーザの携帯番号を記録していれば、その人も「脈脈」ユーザの一次人脈に現れること、③一次人脈は必ずしも「脈脈」ユーザではないことを説明した。
裁判所は以下のとおり判示した。
両被告はアプリ「脈脈」を運営し、ユーザに対して「脈脈」アカウントを作成する際に自分の携帯電話における連絡先をアップデートするように要望することによって、それら連絡先と「新浪微博」ユーザとの対応関係を取得し、「脈脈」に登録していない連絡先らの個人情報を「脈脈」ユーザの一次人脈として示するとともに、その「新浪微博」アカウントにおける職業、学歴等の情報を表示した。また、双方の連携終了後、両被告は、微夢社から取得した「新浪微博」ユーザのプロフィール画像、名前(ニックネーム)、職業、学歴、個人タグ等の情報を即時に削除しておらず、引き続き使用している。両被告の上述の行為は、「新浪微博」ユーザの情報のセキュリティ及び微夢社の適法な競争利益を害っており、微夢社に対する不正競争となっている。また、両被告がインターネットで発表した発言は、微夢社へのビジネス中傷となっている。しかし、両被告が「新浪微博」のVIP認証体制及び表示形態を模倣したことも不正競争であるとした微夢社の主張は成立できない。
以上より、裁判所は、両被告が不正競争行為を直ちに止め、影響を解消し、損害賠償200万元及び原告の合理的な訴訟費用約20万元を支払う旨の判決をした。
【コメント】
ビッグデータ時代において、ユーザ情報を適法に利用し、ユーザ情報の保護を重視することは、業者の行為の正当性を判断するための重要な根拠となり、消費者の適法な権利及び利益を守る不正競争防止法の立法趣旨及び目的における重要な内容である。本事件は中国初めてのソーシャルプラットフォーム不正競争紛争事件であり、消費者の権利及び利益への保護を、業者の行為の正当性を判断するための根拠とした代表的な事件でもあり、広く注目されている。本事件はビッグデータ時代におけるネットワークユーザ情報の保護について、以下の示唆をしている。ユーザ情報の適切な保護は、消費者の適法な個人権利及び利益の重要な反映である。ユーザは、自由意志を十分に表示して、他者に自分の情報を提供するか、又は提供しない権利があり、他者がどのような範囲で自分の情報をどのように利用するかを十分に把握し、不合理なユーザ情報利用行為を拒否する権利もある。また、ユーザ情報はインターネット業者の重要な事業資源であり、ユーザ情報をどのように表示するかは、その事業活動の重要な内容である。ソーシャルプラットフォームにおける各種のユーザ情報を保護することは、インターネット業者が正常な事業活動の展開、ユーザのアクティビティ維持・向上、競争優位性の確保を図る上での必要条件であり、ユーザの権利及び利益への尊重及び保証にもなる。他の業者はソーシャルプラットフォームと連携する際に、ソーシャルプラットフォームのユーザ情報を適法に取得すべきだけではなく、ユーザ情報を保護しながら正当に利用しなければならない。
事例7:「中国好声音」による訴訟前の仮処分申立事件
保全裁定番号:(2016)京73行保1号
合議体:杜長輝、陳勇、張暁麗
申立人:浙江唐德影視股份有限公司(以下「浙江唐德公司」という)
被申立人:上海燦星文化傳播有限公司(以下「上海燦星公司」という)、世紀麗亮(北京)國際文化傳媒有限公司(以下「世紀麗亮公司」という)、夢響強音文化伝播(上海)有限公司(以下「夢響強音」という)
【概要】
「THE VOICE OF…」番組は、オランダTalpa会社が創作した歌唱コンテストオーディション番組である。Talpa会社のライセンスの下、第1~第4シーズンの「中国好声音」は上海燦星公司により、2012年から2015年の間に制作、放送された。また、浙江唐徳公司は2016年1月28日から2020年1月28日まで、中国大陸で使用、配布、市場開拓、広告放送、宣伝及びその他の形式で「中国好声音」番組に係わる知的財産権の独占かつ唯一のライセンスを取得している。
上海燦星公司がライセンスを許諾されていない状況下で、「中国好声音」という番組名称と関連の標識宣伝を無断で使用して、第5シーズンの「中国好声音」を宣伝、普及、制作したこと、及び世紀麗亮公司が上海燦星公司による全国各地のキャンパスにおけるオーディション活動の組織、主催に協力したことは、その所有する未登録の馳名商標権と知名役務特有の名称権の侵害に当たり、かつ、「2016中国好声音」は、2016年6月に撮影が開始され、7月に放送される予定であったが、「2016中国好声音」が一旦撮影され放送されると、補填することができない損害が生じることになるとして、浙江唐徳公司は、上海燦星公司と世紀麗亮公司に対して権利侵害行為の即時差止めを裁判所に請求した。裁判所は、浙江唐徳公司による訴訟前の仮処分申立を受けてから、公聴会を直ちに開催し、かつ、訴訟前の仮処分の民事裁定を下した。当該裁定は、上海燦星公司に対して、歌唱コンテストオーディション番組の宣伝、普及、オーディション、広告代理、番組制作の過程における「中国好声音」、「The Voice of China」という文字を含む番組名称及び第G1098388号、第G1089326号登録商標の使用の即時差止め、及び世紀麗亮公司に対して、歌唱コンテストオーディション番組の宣伝、普及、オーディション、広告代理の過程で「中国好声音」の文字を含む番組名称の使用の即時差止めを命じることを内容とするものであった。
上海燦星公司と世紀麗亮公司は、当該裁定を不服として、それぞれ不服申立を提出し、当該裁定の取消し、又は当該裁定における「中国好声音」の文字を含む番組名称の使用の即時差止めについての訴訟前の仮処分の取消しを要求した。
裁判所が、不服申立に対する公開公聴会を開催したが、合議体は、本事件が重大かつ複雑な事件であることに鑑み、審判委員会に提出され、審判委員会が検討して決定されることとなった。その後、裁判所の審判委員会は、法に従って、不服申立の申立人の主張、被申立人の答弁意見及び関連証拠に対して、書面審査、検討を行った上で、2016年7月4日に、上海燦星公司、世紀麗亮公司の不服申立を棄却する裁定を下した。浙江衛星テレビ局は2016年7月6日、司法の権威性を守るために、浙江衛星テレビ局の「2016年中国好声音」という番組名称を「中国新声音」に変更することを、書面にて裁判所に報告した。これをもって、上記の不服申立裁定が履行されることになり、本事件は、良好な社会的な効果を獲得した。
【コメント】
本事件は、訴訟前の仮処分の裁定を下した事件として、広く注目を集め、訴訟手続の面からも、知的財産権に対する保護がますます重視されていることを体現した典型的な事件ともいえる。本事件の審理において、裁判所は、公聴会を開催し、申立人と被申立人のそれぞれの意見に充分に耳を傾けることで、当事者の訴訟権利を保障した。また、仮処分の措置をタイムリーに講じることを通じて、権利者の合法的な権益に補填することのできない損害をもたらすことを未然に回避し、訴訟前の仮処分の予防的な救済機能を充分に発揮させたものである。
また、本事件の裁定は、商標権侵害事件及び不正競争紛争事件において、訴訟前の仮処分に係る裁定を下す際、以下のような要素を考慮する必要性があることを明確にした。
①申立人が権利者又は利害関係者であるか否か。
②申立人が勝訴する可能性はあるか否か。
③緊急性を有するか否か、及び仮処分の措置を直ちに講じないことで、補填することのできない損害が生じるか否か。
④損害のバランス性、即ち、被申立人により関連の侵害行為の差止めを命じなかった場合、申立人にもたらされる損害が、それによる被申立人への損害より大きくなるか否か。
⑤被申立人に関連の侵害行為の差止めを命じることは、社会公共の利益を損なっているか否か。
⑥申立人が相応する担保を提供したか否か。
そのほか、本事件は、審査の範囲、主管と管轄及び訴訟前の仮処分の性質、担保額と形式の確定など複数の問題などに関わり、今後の同様の事件の審理に指導的な意義を有すると思われる。
事例8:温瑞安氏の武侠小説の翻案権侵害・不正競争紛争事件
一審事件番号:(2015)海民(知)初字第32202号
合議体:曹麗萍、袁衛、梁銘全
原告:温瑞安
被告:北京玩蟹科技有限公司(以下「玩蟹社」という)
【概要】
温瑞安氏は「四大名捕」シリーズ武侠小説の作者である。このシリーズの小説は多くの有名な武侠作家による武侠小説と同等の知名度を持っている。「諸葛正我」、「無情」、「鉄手」、「追命」及び「冷血」は上記シリーズ小説の主役キャラクターである。2012年10月、玩蟹社により開発された「大掌門」というオンラインカード系スマホゲームがアプリストアに登場した。温瑞安氏は、同氏の作品を映像化した「四大名捕最終章」という映画の2014年8月上映の際に、玩蟹社が同氏の許諾なしに、同氏の作品における「諸葛正我」、「無情」、「鉄手」、「追命」及び「冷血」等を「大掌門」ゲームのキャラクターとして翻案し、しかもセールスポイントとして広く宣伝したことは、作品の翻案権侵害となり、また、上記キャラクターの4人に「四大神捕」と名付けたことは、有名作品の固有名称である「四大名捕」を無断使用する行為となったと主張した。同氏は、侵害行為の差し止め、謝罪、影響解消、損害賠償500万元等を請求した。
裁判所は以下のとおり判示した。
温瑞安氏は、その作品である「四大名捕」シリーズ小説の著作権を所有している。「四大名捕」シリーズ小説において、「無情」、「鉄手」、「追命」、「冷血」及び「諸葛先生」は、最初から最後まで活躍した主役キャラクターである。かかるキャラクター5人は、温瑞安氏の小説における独創性の高い構成要素であり、独創的なキャラクターとしての重要な表現を示している。温瑞安氏が持っている上記小説の著作権には、その中の独創的な部分に関する著作権も含まれている。「大掌門」ゲームにおける上記キャラクター5人の身分、武術、性格等の情報についての紹介、および同ゲームにおける上記5人の登場のタイミングから、「大掌門」ゲームにおける「神捕無情」、「神捕鉄手」、「神捕追命」、「神捕冷血」及び「諸葛先生」はすなわち、温瑞安氏の「四大名捕」シリーズ小説における「無情」、「鉄手」、「追命」、「冷血」及び「諸葛先生」であることが分かる。玩蟹社が開発・運営している「大掌门」ゲームは、ゲームの画面情報、カードキャラクターの特徴、文言説明及びキャラクター同士の関係により、温瑞安氏による「四大名捕」シリーズ小説における「無情」、「鉄手」、「追命」、「冷血」及び「諸葛先生」のイメージを表現している。つまり、カード系オンラインゲームにより、温瑞安氏小説における独創的なキャラクターを表現している。したがって、玩蟹社の行為は、温瑞安氏作品における独創的なキャラクターの表現を翻案する行為に該当する。この行為は温瑞安氏の許諾を取得しておらず、ゲームの営利を目的とするため、温瑞安氏が所有している作品翻案権を侵害している。玩蟹社は「大掌門」ゲームにおいて、キャラクター4人のカードのみに「四大神捕」を注記しており、顕著な文字により示していないため、このような注記はオンラインゲームを「四大名捕」の小説と混同する誤認を招くことはない。よって、玩蟹社が模倣行為に該当するとした温瑞安氏の主張は採用しない。
裁判所は、玩蟹社が温瑞安氏に80万元の賠償額を支払い、影響をなくす旨の判決をした。当事者双方は上告しておらず、一審判決は確定した。
【コメント】
本事件はオンラインゲームによる小説への翻案権侵害の認定問題に関する事件である。オンラインゲームの複雑化に伴い、オンラインゲームに係る侵害紛争はオンラインゲームの権利者間だけではなく、オンラインゲームの権利者と小説、漫画、アニメ、ドラマ、映画など他の作品の権利者との間にも多く起こっている。これにより生じる重要な課題は、翻案権の認定問題である。本事件は、有名な武侠小説家である温瑞安氏が提起したオンラインゲームによる翻案権侵害の代表的な事例である。本事件の代表性は、翻案権における「原作品の翻案」は、完全な原作品の翻案を意味しておらず、作者の創作思想を反映できる原作品中の独創的な部分を翻案することも、原作品への翻案に該当し、翻案権の範疇内であることを明確にした点にある。オンラインゲームの画面は、かかるキャラクターの境遇、性格、外観、武術、他のキャラクターとの関係等をピクチャ及び文言で示し、原作小説のキャラクターを十分に再現できるため、小説の独創的なキャラクター表現への翻案に該当する。オンラインゲームの開発運営者が許諾なしに小説の独創的なキャラクター表現を翻案して営利のために利用したことは、小説の著作権者が所有している翻案権への侵害に該当すると認定することは妥当である。
事例9:86版「西遊記」音楽作品著作権事件
一審事件番号:(2016)京0107民初1812号
合議体:易珍春、趙燕茹、董徳虎
原告:許鏡清
被告:藍港オンライン(北京)科技有限公司(以下「藍港オンライン社」という)
【概要】
許鏡清氏は、1986年版のテレビドラマ「西遊記」における音楽作品『西遊記序曲』(『西遊記前奏曲』又は『雲宮迅音』ともいう)及び『猪八戒背媳婦』の作者である。許鏡清氏は2015年12月初に、藍港オンライン社が運営しているオンラインゲーム「新西遊記」の中で、同氏が作曲した作品である『西遊記序曲』及び『猪八戒背媳婦』の2曲を使用し、使用中に署名をしなっかたことを発見した。許鏡清氏は、藍港オンライン社が同氏の許諾・署名なしに、同社が開発・発行しているゲーム「新西遊記」のサウンドトラックに、同氏が著作権を持っている『西遊記序曲』、『猪八戒背媳婦』の2曲を使用し、当該侵害行為がゲームの最初から最後まで貫き、同氏が法的に所有している署名権、翻案権、情報ネット伝播権を侵害していると主張した。同氏は、侵害行為の差し止め、謝罪、損害賠償160万元及び訴訟費用を請求した。
裁判所は以下のとおり判示した。
藍港オンライン社は許諾使用期限を超え、許鏡清氏の署名なしに、運営しているオンラインゲーム「新西遊記」の中でかかる音楽作品を使用し、同氏が所有している署名権、情報ネット伝播権を侵害している。当該ゲームの背景音楽において、かかる音楽作品を使用し、原曲と若干の違いがあるが、藍港オンライン社の使用行為により、原曲を変更して、新しい作品となることは確認できない。よって、藍港オンライン社は翻案権侵害行為に該当しない。藍港オンライン社は、影響解消、損害賠償の民事責任を負わなければならない。賠償額について、許鏡清氏は、実際の損失、即ち合理的な使用許諾費用に基づいて損害額を算定し、根拠として、第三者に使用許諾をしたかかる音楽作品1曲の授権書を提示した。同氏は、損害賠償160万元を請求した。藍港オンライン社は、かつて音楽著作権協会から許諾を取得しており、その許諾料が許鏡清氏の主張した賠償額よりも遥かに低く、同社の行為が過失による侵害であり、そして近年、かかるゲームが赤字になっていることを理由に抗弁を行い、許鏡清氏が主張した賠償額は高すぎると主張するとともに、関連証拠を提示した。上述の証拠、権利者の実際の損失及び侵害者の違法行為による所得の確認が困難であるため、本事件は法律に基づいて、法定損害賠償方法を適用し、50万元以下で賠償額を算定すべきである。これにより、裁判所は、藍港オンライン社が許鏡清氏に16万元の賠償額及び訴訟費用15488.7元を支払う旨の判決をした。当事者双方は上告しておらず、一審判決は確定した。
【コメント】
本事件はオンラインゲームによる著名な音楽作品への著作権侵害に関する典型的な事件である。本事件の争点は主に、賠償方法の適用及び賠償額の確定である。権利者は2曲の係争音楽作品に対して、合理的な使用許諾費用に基づいて実際の損失を算定すべきであり、根拠としてかかる音楽作品1曲の使用許諾費用を提示した。同氏は、損害賠償額160万元を請求した。被告は、かつて法的許諾を取得しており、その許諾料が原告の主張した賠償額よりも遥かに低く、主観的過失による侵害であり、そして近年、かかるゲームが赤字になっていると抗弁した。当事者双方は損害賠償額の算定について一定の根拠を提示した場合、賠償額をどのように算定すべきかに対して、裁判所は本事件において十分に理由を説明し、明確にした。即ち、権利者が係争音楽作品1曲の許諾費用を提示したが、この許諾費用により、もう1曲の音楽作品が同等のビジネス価値を有することは証明されていない。現在の証拠によれば、権利者の実際の損失及び被告の侵害行為による所得を証明できない場合、法的に法定賠償方法が適用され、係争音楽作品の知名度、ビジネス価値、被告の主観的過失の程度、係争音楽作品のかかるゲームにおける役割、そのゲームの影響力、被告のかかる音楽作品の具体的な使用形態、侵害持続の時間等の要素によって、賠償額を確定すべきである。上述の要素を総合的に考慮して、本事件において、最終的に確定した賠償額は同種作品の通常の賠償標準額よりも遥かに高い。
事例10:宗芳などによる偽造登録商標の商品販売に係る事件
一審審理の案件番号:(2015)上刑初字第1771号
合議体:覃波、王秀華、王魯
公訴機関:北京市海淀区人民検察院
被告:北京盈兆業方科技有限公司(以下「盈兆業方公司」という)
被告人:宗芳、呉海印、楊超
【概要】
盈兆業方公司の法定代表者である宗芳は、販売者として呉海印などを雇用し、思科系統(中国)網絡技術有限公司(以下「シスコシステムズ」という)のライセンスを得ずに、ローエンドの機種のシスコスイッチをグレードアップして得られるハイエンドのシスコスイッチ55台(そのうち、WS-C2960-24TC-L型のシスコスイッチ26台、WS-C2960-48TC-L型のシスコスイッチ29台)を、148,850元で楊超に販売した。しかし、調査によって、これらの販売されたスイッチがシスコシステムズの偽造登録商標の商品であることが明らかになったため、宗芳と呉海印は2014年10月14日、公安機関に逮捕された。公安機関は、盈兆業方公司の倉庫で、多機種のシスコスイッチ計112台を押収した。しかも、これらのスイッチは、すべてシスコシステムズの偽造登録商標の商品で、鑑定によって、その商品総額が計580,482元に達することが明らかになった。
楊超は2014年10月、盈兆業方公司から購入した前述のシスコスイッチ4台、及び光プリント基板24枚を239,100元の価額で販売し、無線コントローラーなどの設備も合わせて販売した。調査によって結果、これらの設備も、シスコシステムズの偽造登録商標の商品であることが明らかになった。楊超も2014年10月14日、公安機関に逮捕され、その場で2種類のシスコスイッチ9台が押収された。調査により、当該押収された9台のスイッチもシスコシステムズの偽造登録商標の商品であることが判明した。
裁判所は、審理を経て、①盈兆業方公司に対して、偽造登録商標の商品販売罪で罰金32万元の支払い②宗芳に対して、偽造登録商標の商品販売罪で、懲役3年、及び罰金8万元の支払い、③呉海印に対して、偽造登録商標の商品販売罪で、懲役3年、及び罰金7万元の支払い、④楊超に対して、偽造登録商標の商品販売罪で、懲役2年、及び罰金12万元の支払い、⑤押収された権利侵害製品、関連工具、及び違法製品などの法に基づく没収を命ずる判決を下した。
【コメント】
本事件は、同一の商標のローエンド製品を加工しパッケージを変え、ハイエンド製品にグレードアップさせ販売することに係る知的財産権刑事事件である。加工、パッケージの変更によって得られる「グレードアップ」電子製品は、その基本構造、重要部品、主要性能などにおいて実質的な変化が生じるため、再生製品とみなすべきであり、同一の商標を利用しパッケージすると、偽造登録商標の侵害商品とみなされる。押収された製品は、訴えられた犯罪金額に含まれないが、これらの物が違法製品であることを証明する証拠があれば、これらを違法製品であると判示することができる。したがって、本事件の判決から、知的財産権に関する刑事司法では、偽造登録商標の商品販売行為を厳しく取り締まっていることが分かり、今後同様の事件の処理の参考になるものと思われる。
日付:2017年4月20日
情報ソース:北京高等裁判所
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