この度、弊所が担当した中国発明特許の無効審決取消事件は、二審で勝訴を受け、実施可能要件違反の無効理由が中国最高裁に認められ...
近日、当所が代理したある発明特許に係る無効審判審決取消訴訟は一審で、明細書の開示不十分を理由として対象特許の全部無効に成功...
賠償請求額CNY1500万の発明特許が終審判決で無効審決維持


この度、弊所が担当した中国発明特許の無効審決取消事件は、二審で勝訴を受け、実施可能要件違反の無効理由が中国最高裁に認められて無効審決維持の判決となりました。
 
【経緯】
 
本件の特許侵害訴訟におけるイ号製品は、明陽社の主要な事業に関わるものであり、賠償請求額は同社の営業利益の27.45%に相当するものであった。明陽社の北京証券取引所への上場申請において、本件の係争は重要な問題として審査されていました。

本件特許が無効審決を受けたため、サンゴバン社は特許侵害訴訟の取り下げを余儀なくされました。明陽社は上場の障害を乗り越え、2023年3月15日に北京証券取引所に上場しました。
 
【本件のポイント】

♦ 戦略策定段階
弊所は、本件特許に対する無効審判請求の依頼を引き受けた後、本件特許を深く検討した上で、先行技術の詳細な調査を行い、調査で見つかった文献に基づいて、新規性・進歩性欠如の主張をメイン、実施可能要件違反及びサポート要件違反の主張をサブとする戦略を策定しました。さらに、本件特許が全部無効にならなくても非侵害の抗弁を行えるように、無効審判においてクレームを限縮する訂正や解釈を特許権者に行わせることを狙って、実施可能要件、新規性などに関する無効理由の主張を工夫しました。
 
♦ 無効審判の審理段階
案件の進行はほとんど予想どおりの展開となり、特許権者が新規性欠如の無効理由を解消するために、クレームを限定する訂正を行い、クレームから変性剤等の選択肢を多く削除しました。

一方、特許権者は、意見書において、本件特許の中間層ポリマーがグラフト共重合により得られるものであり、主引用例に記載のモノマー共重合により得られるポリマーとは異なるものであると明確に解釈しました。実際に明細書にはグラフト共重合によるものであるという明確な記載はなく、技術の観点からも不合理であるため、このような主張は確かに弊所の予想外でした。

そこで、弊所は特許権者のクレーム訂正及び主張に応じた戦略調整を行い、本件特許の全部無効を目指して実施可能要件違反を主な無効理由として主張する方向へと転換しました。また、特許侵害訴訟の対応方針も、明陽社が独自で開発したイ号製品の中間層重合体ポリマーがグラフト共重合により得られるものではないことを主張し、証拠を集める方向へと調整しました。

口頭審理において、本件特許の発明の効果が中間層ポリマーによるものであることを強調するとともに、実施可能要件違反の理由を詳細に説明し、特に発明のポイントであるポリマーについて、当業者が実施・再現できる程度の記載としてはどのような内容が必要なのかについて十分に説明しました。さらに、本件の担当弁理士が高分子専攻の出身であることを活用して、グラフト共重合変性の不合理性を技術の観点から説明するとともに、論文などの証拠を提出しました。

2021年7月1日、中国特許庁は、本件特許のクレームをすべて無効とする旨の審決をしました。

♦ 審決取消訴訟段階
審決取消訴訟の一審及び二審において、特許権者は、本件特許の出願前に、請求項1に記載の無水マレイン酸でETFEをグラフト変性する方法が一つしかなかった旨の主張を行い、反証を提出しました。
その主張について、弊所の担当弁理士は多くの証拠及び自身の研究経験から、無水マレイン酸変性ETFEについては、モノマー共重合、連鎖移動、グラフト共重合などを含むいくつかの反応経路があり、グラフト共重合自体にも公知の方法がいくつかあることを論証しました。さらに、特許権者の提出した反証が、無水マレイン酸変性ETFEのグラフト化の詳細な方法を開示した唯一の文献ではないことを示す証拠も見つかりました。このような証拠により、特許権者の反証が、そのポリマーの製造方法が当業者には明白であるということの証にはならないことを証明しました。

その結果、弊所の主張は一審及び二審の裁判所に認められました。特に、二審において、中国最高裁判所は、「本件特許の中間層ポリマーは明確に確認されていない。本件特許にはこの中間層ポリマーを得るための詳細な方法は記載されていないため、当業者はその発明を実施することができない。グラフト化は当分野の一般的な手段であり、さまざまな方法がある。また、変性方法もいろいろある。無水マレイン酸によりETFEを変性する方法が新たな証拠によって開示されたとしても、それは当業者がこの反応を必然的に使用することを意味するものではない。ポリマーの反応にはある程度の複雑さと不確実性があり、製造方法の詳細な条件が確認できない場合、重合反応の一般的なパラメータも確認できず、そして中間層ポリマーの分子量分布、構造、組成なども一切確認できない。よって、すべてのクレーム発明について本件特許の明細書が実施可能要件を満たしていないとした本件審決の判断は妥当である。」という判断をしました。
 
【まとめ】

中国企業の急速な発展に伴い、製品の性能及び品質は向上し続けており、市場規模も拡大していることを背景に、知的財産訴訟のリスクに直面する企業が多くなり、企業の発展を保護するために、プロな知的財産専門家の力を借りる必要があります。

特許侵害訴訟が起こされた場合、無効審判請求を提起することは、有効な対抗手段となりますが、より良い結果を達成するために、適切な戦略を策定し、案件の展開に応じて方針を柔軟に調整することが重要です。

実施可能要件違反という理由で特許が無効になることは稀です。通常、単に空虚な主張を行うだけでは、審判官に認められず、十分な説明及び立証を行ってこそ、成功する可能性があります。そのため、技術及び法律に対する弁理士の把握がより高く求められています。
 

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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