北京林達劉知識産権代理事務所
商標部
商標異議申立と商標審判の案件は中国商標制度において重要な役割を果たしています。この2種類の案件は商標権の確定及び帰属に関する民事係争問題につながり、その後の商標権の行使にも重大な影響を与えますので、人々に重要視されています。近年来、中国商標の登録出願件数が激増するに伴って、商標異議申立や商標審判案件の申請件数も増えつつあります。案件申請件数の増加速度は大幅に案件の審決速度を上回っています。その結果、異議申立と審判案件の滞貨がますます深刻になりますので、人々のそのような案件に対する注目度も高まっています。ここに、以下の三つの面、すなわち、申請件数、申請手続き及びこれらの案件において著名商標認定の申請状況からその概要をご紹介します。ご参考になれば幸いです。
I. 中国の商標異議申立案件
1.
異議申立件数
調査によると、2001年から2005年まで中国の商標異議申立の件数は年々増加してきました。具体的なデーターは下表をご参考願います。中国の商標異議申立案件は、商標局の異議裁定一処と異議裁定二処の審査官たちにより審査されています(注:「処」は中国商標局の一部門のことをいう)。現在、異議処には審査官とその他のスタッフが約20名います。去年、審決の異議申立案件数は8000件ぐらいありました。現在は、2003年末~2004年始めに提出された異議申立案件が審査されているそうです。このように、1件の異議申立案件の審査は約3~4年間かかっています。
2001年~2005年中国の商標異議申立件数の統計表
2. 異議申立の手続き
商標異議申立は、自然人、法人又はその他の組織が、法定の期限内に、商標局の予備的査定を経て公告された商標に異議を申し立て、商標局に当該商標の予備的査定を取り消し、当該商標の登録を認めないよう請求するという法定の手続きです。異議申立を提出する人を異議申立人といい、商標登録の出願人を被異議申立人といい、当該予備的査定の商標を被異議申立商標といいます。現行の中国商標法によれば、異議申立人の適格に対して何の制限や要求もなく、何人も異議申立を提出することができます。但し、予備的査定を経て、公告された異議申立期間内の商標にのみ異議を申し立てることができます。しかも、1件の異議申立は1件の商標に限られています。次に、異議申立の手続きの流れを紹介します。
(1) 異議申立――商標法第30条によれば、予備的査定された商標について、その公告日から3ヵ月以内に、何人も異議を申し立てることができます。上記期間内に異議申立がなかった場合、登録を許可し、商標登録証を交付し、かつ公告します。また、商標法実施条例第22条第1項によれば、異議を申し立てる場合、異議申立人は商標局に商標異議申立書を一式2部提出しなければなりません。商標異議申立書には、異議を申し立てる商標が掲載された「商標公告」の発行号数及びその予備的査定番号を明記しなければなりません。商標異議申立書には明確な請求と事実根拠を記載し、かつ関連証拠資料を添付しなければなりません。
異議申立期間は、出願商標が公告された日から3ヶ月以内です。例えば、ある商標が2008年4月20日に予備的査定を経て、公告された場合、その異議申立期限は2008年7月20日です。
(2) 異議申立の受理――商標局は商標異議申立書を受領した後、方式審査を経て、受理条件に満たすものに対して「受理通知書」を発行します。
(3) 異議答弁――異議申立が方式審査を経て受理された場合、商標局は、異議申立期間が満了したてからの1ヶ月以内に、商標異議申立書の副本を被異議申立人に送付し、同時に定められた期間内に答弁が行えることを通知します。商標法実施条例第22条第2項によれば、商標局は商標異議申立書の副本を速やかに被異議申立人に送付し、かつ商標異議申立書を受領した日より30日以内に答弁させなければなりません。被異議申立人が答弁しなくても商標局の決定に影響を与えることはありません。
(4) 異議申立及び答弁の証拠資料の補充――商標法実施条例第22条第3項によれば、当事者が異議申立又は答弁を行った後、関連資料を追加提出する場合、その旨申立書又は答弁書に明示し、かつ申立書又は答弁書を提出した日より3ヶ月以内に提出しなければなりません。期間内に提出がない場合、当事者は関連資料の追加を放棄したものとみなされます。
(5) 異議申立の裁定――商標法第33条によれば、異議申立があったときは、商標局は異議申立人及び被異議申立人が陳述する事実及び理由を聴取し、調査をして事実を明らかにした後、裁定を下さなければなりません。商標法第34条第2項によれば、裁定により異議が成立しない場合は、登録を許可し商標登録証を発行し公告します。異議が成立すると裁定されたときは、登録は認められません。
(6) 異議申立の裁定に対する審判――商標法第33条によれば、当事者は商標局の異議申立の裁定に不服があるときは、通知を受領した日から15日以内に、商標審判委員会に審判を請求することができます。
II. 中国の商標審判案件
1. 審判案件の請求件数
2002年から2005年までの商標審判案件の請求件数と審決件数の統計データは下表の通りです。審判案件を審理する機関は商標局ではなく、商標審判委員会です。商標審判委員会は商標局と同格の商標行政審理機構であり、商標係争案件、拒絶査定不服審判、異議裁定不服審判と取消決定不服審判を受理します。当事者は商標審判委員会の決定や裁定に不服がある場合、北京市第一中級裁判所に行政訴訟を提出することが可能です。現在、商標審判委員会には70数人の人員がおり、2001年~2002年請求された当事者双方に関する各種の案件及び2004年以後請求された商標拒絶査定不服審判案件を審理しているところです。
2. 案件のタイプと請求人の適格
商標審判案件は以下の4種類に分けられています:
(1) 商標拒絶査定不服審判――商標局が下した商標登録出願の拒絶査定に不服があり、商標法第32条の規定に基づき、審判請求される案件です。この案件の請求人は商標局に拒絶された商標の出願人に限られています。
(2) 商標異議裁定不服審判――商標局が下した異議裁定に不服があり、商標法第33条の規定に基づき、審判請求される案件です。この案件の請求人は、商標局が異議裁定で記載した当事者、つまり、異議申立人又は被異議申立人に限られています。
(3) 商標取消決定不服審判――商標局が下した登録商標を取り消す決定に不服があり、商標法第49条の規定に基づき、審判請求される案件です。この案件の請求人は商標局に取り消された商標の商標権者に限られています。
(4) 商標係争案件――登録された商標に対して係争があり、商標法第41条の規定に基づき、係争審判請求される案件です。この案件の請求人は適格がより複雑です。商標法第41条によれば、登録された商標がこの法律第10条、第11条、第12条の規定に違反している場合、又は欺瞞的な手段又はその他の不正な手段で登録を得た場合は、商標局はその登録商標を取り消します。その他の組織又は個人は、商標審判委員会にその登録商標の取消しについて審判を請求することができます。登録された商標がこの法律第13条、第15条、第16条、第31条の規定に違反している場合、商標の登録日から5年以内に、商標権者又は利害関係人は商標審判委員会にその登録商標の取消しについて審判を請求することができます。ただし、悪意による登録について、著名商標の所有者は5年の期間制限を受けません。前2項に規定された状況を除き、登録商標に異議があるときは、その商標の登録日から5年以内に、商標審判委員会に審判を請求することができます。ここからみれば、係争案件の請求人は、商標権者、利害関係人であり、当該商標が欺瞞的手段で又はその他の不正手段によって登録を取得した場合はその他の組織と個人も請求人となることができます。
3. 法定期限
中国商標局が下した各種の決定や裁定に不服があり、審判請求をするとき、その提出期限は商標局の拒絶通知書、又は異議裁定書、又は登録商標の取消決定書を受け取った日から15日以内です。その期間が満了しても、審判請求を提出しない場合は、審判請求の権利を失い、商標局の決定又は裁定は正式に発効します。
係争審判請求の法定期限は状況によって違います。商標法第41条第1項の規定により提出された係争審判請求は期限の要求がありませんが、商標法第41条第2項又は第3項の規定により審判請求する場合、係争商標の登録日から5年以内に商標審判委員会に書面で係争審判請求書を提出しなければなりません。著名商標権者は当該係争商標がその著名商標の権利を侵害し、悪意による登録であると主張する場合のみ、係争審判請求人は著名商標権者として5年間の制限を受けません。
4. 審判請求の手続き
(1) 審判請求――商標法実施条例第30条第1項によれば、商標審判を請求する場合、商標審判委員会に請求書を提出し、同時に相手方当事者の数に相応する部数の副本を提出しなければなりません。商標局の決定書又は裁定書に基づいて審判を請求する場合、同時に商標局の決定書又は裁定書の副本を提出しなければなりません。
(2) 受理――商標審判委員会は請求書を受け取った後、審査を経て、受理条件に合致しているものを受理し、30日以内に請求人に「受理通知書」を交付します。
(3) 答弁――商標審判規則第19条によれば、審判請求に被請求人がいるときは、商標審判委員会は請求を受理した後に、請求書の副本及び関連する証拠資料を被請求人に送達しなければなりません。被請求人は当該請求書の副本を受領してから30日以内に商標審判委員会に答弁書を提出し、併せて請求人の人数に応じ必要部数の副本を提出しなければなりません。期間が満了しても答弁書が提出されない場合は、答弁が放棄されたものとみなされます。
(4) 審判請求又は答弁の証拠資料の補充――商標審判規則第20条によれば、当事者が審判の請求を行った後に関係証拠資料の補充が必要なときは、請求書又は答弁書にその旨を記載しなければならず、請求書又は答弁書の提出の日から3ヶ月以内に請求書又は答弁書と同じ部数の証拠資料を提出しなければなりません。請求書又は答弁書の中に当該記載がなく、又は期間が満了しても提出がなされないときは、関係証拠資料の補充は放棄されたものとみなされます。ただし、期間の満了後に新しい事実に基づいて形成した証拠又はその他の正当な理由がある場合はこの限りではありません。
(5) 証拠交換――被請求人が答弁書類を提出した後に、商標審判委員会は被請求人の答弁書類を請求人に発送しなければなりません。請求人は、定められた期間内に証拠調べを行います。請求人は、被請求人が主張した事実を異なる証拠がある場合、商標審判委員会に補充の証拠資料を提出できます。
(6) 裁定――商標法第43条第1項によれば、商標審判委員会は、登録商標の維持又は取消を裁定した後、関係当事者に書面で通知しなければなりません。
(7) 司法救済――商標法第43条第2項によれば、当事者は商標審判委員会の裁定に不服がある場合、通知を受領した日から30日以内に、裁判所に対して訴訟を提起できます。裁判所は商標裁定手続きの相手側の当事者に第三者として訴訟に参加するよう通知しなければなりません。
III. 異議申立及び審判案件における著名商標認定の申請
ここ数年、商標局と商標審判委員会が商標管理案件、異議申立案件及び審判請求案件において認定した著名商標の統計データーは下表の通りです。
異議申立案件と審判案件において著名商標認定の申請件数が年々増えてきたので、商標局と商標審判委員会の認定申請に対する要求もますます厳しくなっています。2007年10月25日に商標局が公布した「商標登録手続きの流れ等の調整の関連事項に関する通知」によれば、異議申立案件において著名商標認定を申請する申請人は、規定に基づき関連する異議申立資料及び著名商標認定の関連証拠を提出する同時に、「著名商標認定の申請資料摘要」の書面資料と電子版を提出しなければなりません。当該摘要は主に、①著名商標認定申請の商標の基本情報;②関連公衆の当該商標に対する周知の情況を証明する関連資料;③当該商標は著名商標として保護された記録;④当該商標の中国及び外国(又は地域)における登録状況;⑤当該商標の被異議商標が出願登録する前の過去三年間の広告宣伝量、販売量、販売額、税金などの経済指標データー;⑥著名商標認定を申請する企業の紹介とその他の情報などを含みます。
上述の情報から見れば、著名商標認定の申請に必要な証明資料は大体「著名商標の認定と保護に関する規定」の規定と一致しています。しかも、著名商標認定申請の商標は中国で関連公衆に周知され、且つ高い知名度を有している商標でなければなりません。よって、中国で発生又は形成した証明資料は、審査官が認定するときの主要な証拠になり、外国での証明資料は参考のみになります。
従って、異議申立案件と審判案件において著名商標認定を申請するとき、中国で発生又は形成した証拠を重点的に提出すべきです。しかも、広告宣伝量、生産量及び販売量などの証拠も相手商標の登録出願にかかるまで過去三年間のデーターを中心にすべきです。
上述のとおり、中国の商標異議申立案件及び審判案件の申請件数は年々増加していることに対して、審理の案件数も増えていますが、そのスピードは申請件数に遥かに及びませんので、案件の滞貨は既に商標局と商標審判委員会が直面しなければならない深刻な問題になりました。現在、商標法第三回の改正の意見稿は各分野の専門家の意見を募集しています。審理手続きの簡素化によって審決を加速し、関連の法律規定を完備させて抵触商標を減少させるなどの方法でその問題への解決を求めています。その問題が適切に解決されること、そして、条件に満足するより多くの商標が異議申立案件と審判案件において著名商標認定の保護を受けることを期待しております。
(2008)