インターネットの成功は、20世紀後半における人類にとって最も偉大な業績の1つである。ネットワーク技術は、人間生活に便宜を図ると同時に、多くの形式の新たな知的財産権侵害を生じさせている。たとえば、ネットドメイン名の紛争、商標権紛争、及び著作権紛争などである。本文では、ネットワーク上の権利侵害事件に関する分析を通じて、ネットワーク上の管轄権問題、侵害責任の認定問題を明確にし、かつ、如何に有効な証拠を取得するかの問題を解析する。この文章が少しでも参考になれば幸いである。
1、管轄権の問題について
まず、深セン市遠航科技有限公司と深セン市騰訊計算機系統有限公司、騰訊科技(深セン)有限公司、深セン市騰訊計算機系統有限公司西安分公司との商標権侵害及び不正競争紛争事件を顧みる。
事件概要
当該事件において、原告深セン市遠航科技有限公司は、自主的に「掘坑」、「保皇」というネットゲームソフトウェアを開発した。その後、原告は国家商標局に「掘坑」、「保皇」商標を登録出願し、かつ、「掘坑」、「保皇」登録商標専用権を取得した。2005年2月、原告は、深セン市騰訊計算機系統有限公司等の3被告が原告の同意を得ずに自社のウェブサイトQQゲーム登録ホールにおいて原告の登録商標と同一のゲームソフトウェアを使用していることを見つけた。原告は、3被告公司が自社の商標専用権を侵害し、かつ、公正な競争の原則に違反したと判断し、西安市中等裁判所に訴訟を提起した。被告は、答弁期間において西安市中等裁判所に管轄権に対する異議を申し立てた。西安中等裁判所は、審理を経て被告の異議申立は成立しないと認め、棄却裁定を言い渡した。当該裁定を受けた後に、被告は当該裁定を不服として、陝西省高等裁判所に上訴を提起した。陝西省高等裁判所は、審理を経て原審による事実認定は正確であると認め、「上訴を棄却し、元裁定を維持する」旨の終審裁定を言い渡した。
本事件に関する分析
本事件のキーポイントは、ネットサーバーの所在地を侵害行為の発生地とみなせるか否かである。従来の商標権侵害事件は、通常、侵害行為の発生地と被告住所地を管轄地とする。その法律根拠は、「最高裁判所の商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」第6条の規定、すなわち、「登録商標専用権が侵害されたとして提起された民事訴訟は、商標法第13条、第52条に定めた侵害行為の実施地、侵害品の保管地又は封印差押地、被告住所地の裁判所が管轄する。」という規定である。ただし、ネットワーク商標権侵害行為の実施地を如何に確定するかについては未だ規定されていない。ネットワークの虚構特性とネット侵害形式の厳しさに鑑み、最高裁判所は、かかる司法解釈を発布した。すなわち、「最高裁判所のコンピュータネットワーク著作権に関わる紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」第1条には、「ネットワーク上の著作権侵害紛争事件は、侵害行為地又は被告住所地の裁判所が管轄する。侵害行為地には、被疑侵害行為を実施したネットサーバー、コンピュータ端末などの設備の所在地を含む。」と定めている。したがって、当該規定に基づき、商標専用権侵害紛争におけるネットサーバーの所在地を権利侵害行為の実施地とみなした両裁判所の裁定はいずれも正確であると認めるべきである。
結論
中国商標法と民事訴訟法の関連規定に基づき、従来の商標侵害行為の管轄権は基本的に明瞭であるものの、ネットワーク商標権侵害の管轄権問題については、法律上、未だ明確な規定がない。しかし、ネットワーク商標権侵害事件管轄権を確定する際には、「最高裁判所のコンピュータネットワーク著作権に関わる紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」中の関連規定を参照することができると判断する。
2、権利侵害責任の認定問題について
権利侵害責任の認定を分析する前に、次の事例を提示する。当該事例は、大衆交通公司、大衆搬場公司が百度網訊公司、百度在線公司及び百度在線公司上海分公司を訴えた商標専用権侵害及び不正競争紛争事件である。
事件概要
当該事件において、原告大衆交通公司は、「大衆」登録商標専用権を有し、原告大衆搬場公司は、「大衆」登録商標の排他的使用権を有しており、2007年、両原告は、百度網訊公司などの3社が百度ウェブサイトの「競売価格番付」、「火爆地帯」の2広告欄において、無断で「大衆」登録商標を使用していることを見つけ、上海市第二中等裁判所に訴訟を提起し、百度網訊公司などの3被告が商標権侵害及び虚偽広告により不正競争行為を構成すると主張した。同裁判所は、審理を経て、3被告が第三者のウェブサイトに対し侵害行為を実施するよう便宜を提供した主観的な故意を証明できる証拠がないので、百度ウェブサイトが直接商標権侵害行為を実施したと認定されるべきではないと認めた。しかしながら、同裁判所は、3被告は合理的な注意義務を果たしていないため、主観的な誤りを有し、客観的にみて、第三者のウェブサイトが商標権侵害行為を実施することを幇助し、かつ、損害の結果をもたらしていることに鑑み、直接権利を侵害した第三者ウェブサイトと共同して権利侵害を構成し、民事責任を負うべきであるが、権利侵害行為を幇助したことに対してのみ相応の民事責任を負うものとすると認定した。
本事件に関する分析
直接侵害と間接侵害の認定について
本事例を通じて、裁判所は、百度ウェブサイトが原告商標専用権に対する侵害を構成するか否かを認定する際に、直接侵害行為と侵害幇助行為に区別していることがわかる。実は、ネットワーク権利侵害理論において、さらに有効に権利者の権益を保護するために、学者等は、ネットワーク権利侵害に関する責任帰属の原則を創造した。すなわち、「直接権利侵害」と「間接権利侵害」である。前者は、権利者の許諾を得ていない場合をいい、「合理的使用」、「法定許諾」などの法定抗弁理由も欠乏し、無断で権利者による制御を受けている専用権を実施する行為である。後者は、「直接権利侵害」に相対する行為であり、行為者の実施した行為は如何なる権利者の専用権による制御も受けていないものの、「直接権利侵害」行為となんらかの特定関係を有することにより権利侵害を構成すると認定されることをいう。したがって、「専用権」による制御を受けていない行為を商標権侵害行為として認定する場合は、当該行為は、必ず問責可能性を有しなければならない。すなわち、行為者は主観的な誤りを有し、かつ、客観的にみて、教示・誘導・幇助の行為を実施していなければならない。
結論
プロバイダーには、技術プロバイダーと内容プロバイダーがある。技術プロバイダーとは、主にアクセス、キャッシュ、情報メモリースペース、検索及びリンクなどのサービス類型を提供するネットワーク主体をいう。内容プロバイダーとは、主動的にユーザに対し内容を提供するネットワーク主体である。本事例において、百度ウェブサイトが担う役割はプロバイダーであり、適切にいえば、技術プロバイダーである。百度公司は、当該事件にて最終的に負うべき責任は、権利侵害幇助責任である。それでは、ネット権利侵害事件におけるプロバイダーの責任は如何に認定するか?ここに、次の数種類に纏めることができる。
(1)
直接権利侵害責任 プロバイダーが主動的に実施した商標権侵害行為が法律に定めた構成要件を満たす場合、商標権侵害責任を負わなければならない。
(2)
間接権利侵害責任 プロバイダーが主動的に商標権侵害行為を実施せず、かつ、ユーザによる権利侵害行為を知っていない状況の下で、一定の注意義務を有し、その注意義務を果たしていない場合は、間接権利侵害責任のみを負う可能性がある。たとえば、上記の事例にて百度ウェブサイトが負った権利侵害責任である。
(3)
「取下げ」義務 新たに公布された「権利侵害責任法」第36条第2款
[i]によれば、「ユーザがネットサービスを利用して権利侵害行為を実施する場合、被害者は、プロバイダーに対し削除、マスク、リンクの切断などの必要な措置を取るよう通知する権利を有する。もし、プロバイダーが通知を受領した後、適時に必要措置を取らなかった場合、プロバイダーは自社が適時に必要措置を取らなかったことにより拡大された損害部分について、直接権利侵害者と共に連帯責任を負わなければならない。」
(4)
過失責任 プロバイダー(特に技術プロバイダーをいう)が、ユーザが自社のネットサービスを利用して他人の商標権を侵害していることを知っていながら必要措置を取っていない場合、当該ユーザと共に連帯責任を負わなければならない。ここで、プロバイダーが権利侵害責任を負う前提は、他人がネットサービスを利用して権利侵害行為を実施することを「知っている」ことである。無過失責任の適用を提議する者もいるが、筆者はそれを認めたくない。ネットワークの初期発展段階において、ある国の裁判所は、かつて無過失責任により上記のプロバイダーに権利侵害責任を負わせる判決を言い渡したものの、ネットワーク問題に関する研究が日増しに深まるにつれて、研究者は、技術サービスを提供するプロバイダーは、直接公衆に情報を提供せず、ユーザによる情報の検索のためにプラットホームを提供するのみであり、毎日甚だしい数量の情報に対し、技術上、逐一審査することは不可能であり、従来の著作権分野における出版者と異なり、かかるプロバイダーに無過失責任を負わせることは、同プロバイダーに過重な義務を負わせかねないため、同プロバイダーが負うべき責任の範囲を遥かに超え、ネットワーク業界の正常な発展を妨げ、最終的には社会公共の利益を害しかねないと認識した。
3、ネット権利侵害における証拠の収集問題について
ネット権利侵害における証拠の収集問題について、次の典型的事例により説明する。新伝在線(北京)情報技術有限公司が中国網絡通信集団公司自貢市分公司を訴えた情報ネット伝達権紛争事件である。
事件概要
当該事件において、原告は、2006年7月11日に中映華納横店影視有限公司が発行した著作権授権書を取得し、中国大陸における映画「瘋狂の石頭」のネットワーク伝達権を取得したが、有効期間は3年である。その後、原告は、被告自貢網通が原告のウェブサイトにて映画「瘋狂の石頭」を提供するオンライン伝達サービスを実施していることを見つけ、訴訟を提起し、被告自貢網通が映画「瘋狂の石頭」に対する原告のネット情報伝達権を侵害したと主張した。原告は、証拠として、四川省成都市蜀都公証所が発行した2つの公証書を提出した。裁判所は、審理を経て、原告の提出した公証書は何らかの原因で真実性と客観性が欠乏しているため事実判定の根拠にならないと認め、原告の訴訟請求を棄却する判決を言い渡した。原告は、一審判決を不服として、四川省高等裁判所に上訴を提起したが、四川省高等裁判所は、審理を経て、原審判決を維持する判決を言い渡した。原告は、さらに四川省高等裁判所による判決を不服とし、最高裁判所に再審を申し立てたが、最高裁裁判所は審理を経て原告による再審申立を却下した
[ii]。
本事件に関する分析
全てのネット権利侵害事件には、最終的に1つの核心キーポイントが欠かせないが、それは、如何に証拠を収集するかの問題である。ネット権利侵害の証拠は、電子証拠であり、電子証拠とは、コンピュータ又はコンピュータシステムの運行過程にて生じ、かつ記録された内容により事実を証明する電磁記録物をいう。ネットワーク上の内容は、絶え間なく更新され、絶え間なく変化するため、ユーザはネット上の内容に対し比較的大きい改正又は増加・削除することができ、かつ、増加・削除前の内容を復元しかねるが、これは、ネット権利侵害事件における証拠の収集が従来の権利侵害事件に比べより複雑にさせる。ネット権利侵害事件は特殊性を有するため、公証付形式で証拠を保存することは、現段階において大部分ネット権利侵害事件における証拠収集の最優先となっている。しかし、ネットワーク技術の発展につれて、従来の公証手段も新たな挑戦に臨んでいる。
上記の事件において、原告の提出した公証書は真実性と客観性が欠乏し、事実判定の根拠とならないと認定された原因は、主に当該公証書に及ぶ公証行為が新伝在線社(原告)の委託代理人の提供した場所で行われ、公証に用いたPC及びポータブルハードディスクも当該代理人が提供し、かつ、当該代理人が具体的に操作し、当該公証書にはPC及びポータブルハードディスクに対するクリアランス状況を検査したか否かの内容についても記載されておらず、かつ、技術上、確かに事前に現地のPCに対象ウェブサイトを設置する可能性も存在し、当該PCによりインターネットにアクセスする場合、当該虚構目標ウェブ頁及びその他の真実のインターネットウェブ頁が同時に並存する可能性も存在するからである。したがって、当該公証書に記載された内容の真実性と客観性は、疑わざるを得なくなる。
結論
ネット権利侵害事件における証拠収集の際に、当事者は次の点に注意を払わなければならない。
(1)適時に証拠を収集すること。これは、全ての事件に係る証拠の収集過程において相当必要なことである。ネットワークが有する特性により、適時に証拠を収集することは、ネット商標権侵害事件において極めて重要なことである。
(2)全面的にかつ的中性を持って証拠を執すること。これは、法律上、常に提示されている関連性である。実際上、当事者は、有用と認める証拠を発見した場合、何れに対しても固定しなければならない。それは、ネットワーク上の瞬間性はユーザが短時間内で有効な判断をしかねるため、かかる証拠は無関係なものに見えても、往々にしてその他の証拠に対する傍証の役割を果たすことができる。
(3)ネットワーク技術の発展により、電子データは、通常、たやすく改正され、さらに偽造されることもあるため、公証の際には、中立の第三者のサーバーを通じて証拠を収集しなければならない。実際上、公証機関又は法律事務所にて独立のコンピュータを通じて証拠を収集することが多い。