最高裁判所による営業秘密侵害の民事事件の審理における法律適用に関 する若干問題の規定2020.9
「最高裁判所による営業秘密侵害の民事事件の審理における法律適用に関する若干問題の規定」は2020年8月24日に最高裁判所審判委員会第1810回会議を通過し、ここに公布する。規定は、2020年9月12日から施行する。
最高裁判所
2020年9月10日
法釈〔2020〕7号
最高裁判所による営業秘密侵害の民事事件の審理における法律適用に関する若干問題の規定(2020年8月24日に最高裁判所審判委員会第1810回会議を通過し、2020年9月12日から施行する)
営業秘密侵害の民事事件を適正に審理するため、『中華人民共和国不正競争防止法』、『中華人民共和国民事訴訟法』などの関連法律の規定に基づき、裁判の実務と結び付け、本規定を制定する。
第一条 技術に関する構造、原料、構成成分、調合、材料、サンプル、様式、植物新品種繁殖材料、工芸、方法又はその手順、アルゴリズム、データ、コンピュータプログラム及びその関連文書などの情報について、裁判所は不正競争防止法第九条第四項にいう技術情報にあたると認定することができる。
経営活動に関する創意、管理、販売、会計、計画、見本、入札募集・入札資料、顧客情報、データなどの情報について、裁判所は不正競争防止法第九条第四項にいう経営情報にあたると認定することができる。
前項にいう顧客情報は、顧客の名称、住所、連絡方式及び取引習慣、意向、内容などの情報を含む。
第二条 当事者が、特定顧客と長期的に安定した取引関係を維持するという理由だけで、当該特定顧客が営業秘密に属すると主張する場合、裁判所はこれを支持しない。
顧客が、従業員個人に対する信頼に基づき当該従業員の所在する単位と取引を行い、当該従業員の離職後、顧客が自ら当該従業員又は当該従業員の所在する新しい単位と取引を行うことを証明できる場合、裁判所は当該従業員が不正手段を用いて権利者の営業秘密を獲得していないと認定しなければならない。
第三条 権利者が保護を求める情報は、被疑侵害行為の発生時点でその属する分野の関係者に一般的に知られておらず、且つ容易に獲得できないものである場合、裁判所は不正競争防止法第九条第四項にいう公衆に知られていないと認定しなければならない。
第四条 以下の状況のいずれかに該当する場合、裁判所は関連情報が公衆に知られていると認定することができる。
(一)当該情報はその属する分野において一般的常識又は業界慣例に属する場合
(二)当該情報は、製品のサイズ、構造、材料、部品の簡単な組み合わせなどの内容にのみ係り、その属する分野の関係者が発売製品を観察することにより直接に獲得できる場合
(三)当該情報はすでに公開出版物又はその他のメディアに開示発表されている場合
(四)当該情報はすでに公開の報告会、展示会などの方法で公開されている場合
(五)その属する分野の関係者がその他の公開ルートから当該情報を獲得できる場合
公衆に知られている情報を整理、改良、加工して形成した新たな情報が、本規定の第三条規定に該当する場合、当該新たな情報は公衆に知られていないと認定しなければならない。
第五条 権利者が営業秘密の漏洩を防止するため、被疑侵害行為の発生前に講じていた合理的な秘密保持措置について、裁判所は不正競争防止法第九条第四項にいう相応の秘密保持措置と認定しなければならない。
裁判所は、営業秘密及びその記録媒体の性質、営業秘密の商業価値、秘密保持措置の識別可能な程度、秘密保持措置と営業秘密との整合度及び権利者の秘密保持意思などの要素に基づき、権利者が相応の秘密保持措置を講じたか否かを認定しなければならない。
第六条 以下の状況のいずれかに該当し、通常の状況において営業秘密の漏洩を防止するために十分である場合、裁判所は権利者が相応の秘密保持措置を講じていたと認定しなければならない。
(一)秘密保持契約を締結した又は契約に秘密保持義務の取り決めがある場合
(二)規定、研修、規則制度、書面による告知などの方式を通じて、営業秘密に接触、獲得できる従業員、元従業員、サプライヤー、顧客、来訪者などに秘密保持を要請した場合
(三)営業秘密に関連する工場、作業場などの生産経営場所に対して、来訪者の制限又は区分管理を行っている場合
(四)標識、分類、隔離、暗号化、密封保存、営業秘密の接触、獲得が可能な人員の範囲の制限などの方式を通じて、営業秘密及びその記録媒体に対して区分と管理を行っている場合
(五)営業秘密に接触、獲得できるコンピュータ設備、電子機器、ネットワーク設備、保存設備、ソフトウェアなどに対して、使用、アクセス、保存、複製の禁止又は制限などの措置を講じている場合
(六)退職後の元従業員にその接触又は獲得した営業秘密及びその記録媒体の登記、返却、消去、廃棄、並びに継続的な秘密保持義務を求めた場合
(七)その他の合理的な秘密保持措置を講じている場合
第七条 権利者が保護を求める情報は公衆に知られていないために現実的又は潜在的な商業価値を有する場合、裁判所は審査を経て不正競争防止法第九条第四項にいう商業価値を有すると認定することができる。
生産経営活動において形成された段階的な成果が前項の規定に該当する場合、裁判所は審査を経て当該成果が商業価値を有すると認定することができる。
第八条 被疑侵害者が法律の規定又は一般に認められる商業道徳に違反する方法で権利者の営業秘密を獲得した場合、裁判所は不正競争防止法第九条第一項にいうその他の不正手段による権利者の営業秘密の獲得に属すると認定しなければならない。
第九条 被疑侵害者が生産経営活動において、営業秘密を直接使用し、又は営業秘密に対して修正、改良して使用した場合、又は営業秘密に基づき関連生産経営活動を調整、最適化、改良した場合、裁判所は不正競争防止法第九条にいう営業秘密の使用に属すると認定しなければならない。
第十条 当事者が法律の規定又は契約の約定に基づき負う秘密保持義務について、裁判所は不正競争防止法第九条第一項にいう秘密保持義務に属すると認定することができる。
当事者が契約に秘密保持義務を約束していないものの、信義誠実の原則及び契約の性質、目的、締結過程、取引習慣などに基づき、被疑侵害者がその獲得した情報が権利者の営業秘密であることを知っている又は知るべきである場合、裁判所は被疑侵害者がその獲得した営業秘密に対して秘密保持義務を負うと認定しなければならない。
第十一条 法人、非法人組織の経営、管理人員及び労働関係を有するその他の人員について、裁判所は不正競争防止法第九条第三項にいう従業員、元従業員と認定することができる。
第十二条 裁判所は従業員、元従業員が権利者の営業秘密を獲得するルート又は機会があるか否かを認定する場合、それに関する以下の要素を考慮することができる。
(一)職務、職責、権限
(二)担当した本職の仕事又は職場から割当てられた任務
(三)営業秘密に関する生産経営活動に関与する具体的な状況
(四)保管、使用、保存、複製、支配又はその他の方法で営業秘密及びその記録媒体に接触、獲得したか否か
(五)考慮すべきその他の要素
第十三条 被疑侵害情報と営業秘密とは実質的な区別がない場合、裁判所は被疑侵害情報と営業秘密が不正競争防止法第三十二条第二項にいう実質的に同一のものにあたると認定することができる。
裁判所は前項にいう実質的に同一のものにあたるか否かを認定する場合、以下の要素を考慮することができる。
(一)被疑侵害情報と営業秘密との相違・類似の程度
(二)その属する分野の関係者が被疑侵害行為の発生時点で被疑侵害情報と営業秘密との区別を容易に思い付くか否か
(三)被疑侵害情報と営業秘密の用途、使用方法、目的、効果などに実質的な差異があるか否か
(四)公的分野における営業秘密の関連情報の状況
(五)考慮すべきその他の要素
第十四条 自主開発・研究又はリバースエンジニアリングを通じて被疑侵害情報を獲得した場合、裁判所は不正競争防止法第九条に規定される営業秘密侵害行為に属しないと認定しなければならない。
前項にいうリバースエンジニアリングとは、公開ルートから取得した製品に対して、技術手段を通じて製品の分解、測量、分析などにより当該製品に関する技術情報を獲得することをいう。
被疑侵害者が不正手段で権利者の営業秘密を獲得した後、またリバースエンジニアリングを理由として営業秘密を侵害していないと主張する場合、裁判所はこれを支持しない。
第十五条 被申立人が不正手段により、権利者の主張している営業秘密を獲得、開示、使用又は他人に使用の許諾をしようとする又はすでにしており、行為保全措置を講じないと判決の執行が難しくなる又は当事者にその他の損害をもたらし、又は権利者の合法的権益に対して補填することが難しい損害をもたらす場合、裁判所は法により行為保全措置を講じる裁定を下すことができる。
前項に定める状況が民事訴訟法第百条、第百一条にいう緊急な状況に属する場合、裁判所は四十八時間以内に裁定を下さなければならない。
第十六条 経営者以外のその他の自然人、法人及び非法人組織が営業秘密を侵害し、権利者が不正競争防止法第十七条の規定に基づき、権利侵害者が民事責任を負うべきであると主張する場合、裁判所はこれを支持しなければならない。
第十七条 裁判所が営業秘密の侵害行為に対して、侵害の差止めの民事責任の判決を下した場合、侵害の差止め期間は通常、当該営業秘密がすでに公衆に知られている時まで継続しなければならない。
前項の規定に基づき判決した侵害の差止め期間が明らかに不合理である場合、裁判所が法により権利者の営業秘密の競争優位を保護する上で、権利侵害者に一定期間又は範囲内で当該営業秘密の使用の差止めの判決を下すことができる。
第十八条 権利者が権利侵害者に営業秘密の記録媒体の返却又は廃棄、その支配する営業秘密情報の消去を命じる判決を請求した場合、裁判所は通常、これを支持しなければならない。
第十九条 権利侵害行為により営業秘密が公衆に知られている場合、裁判所が法により賠償額を確定する時、営業秘密の商業価値を考慮することができる。
裁判所が前項にいう商業価値を認定する場合、研究開発のコスト、当該営業秘密の実施による収益、得られる利益、競争優位の維持可能期間などの要素を考慮しなければならない。
第二十条 権利者が営業秘密の使用許諾料を参照して権利侵害により受けた実際の損失を確定するよう請求した場合、裁判所は、許諾の性質、内容、実際の履行状況及び権利侵害行為の性質、状況、結果などの要素に基づき確定することができる。
裁判所が不正競争防止法第十七条第四項に基づき賠償額を確定する場合、営業秘密の性質、商業価値、研究開発のコスト、イノベーションの程度、もたらす競争優位及び権利侵害者の主観的過失、権利侵害行為の性質、状況、結果などの要素を考慮することができる。
第二十一条 当事者又は訴外人の営業秘密に係る証拠、資料に対して、当事者又は訴外人が書面により裁判所に秘密保持措置を講じるよう請求した場合、裁判所は保全、証拠交換、証拠調べ、鑑定委託、尋問、開廷審理などの訴訟活動において必要な秘密保持措置を講じなければならない。
前項にいう秘密保持措置の要求に違反して、営業秘密を無断で開示し、又は訴訟活動以外で訴訟において接触、獲得した営業秘密を使用し、又は他人に使用を許諾した場合、法により民事責任を負わなければならない。民事訴訟法第百十一条に定める状況にあたる場合、裁判所は法により強制措置を講じることができる。犯罪にあたる場合、法により刑事責任を追及することができる。
第二十二条 裁判所は、営業秘密侵害の民事事件の審理にあたって、営業秘密侵害犯罪の刑事訴訟の手続きにおいて形成された証拠に対して、法定手続きに基づき全面的且つ客観的に審査をしなければならない。
公安機関、検察機関又は裁判所により保存された被疑侵害行為と関連性のある証拠に関して、営業秘密侵害の民事事件の当事者及びその訴訟代理人が客観的な理由により自ら収集できず、調査・収集を申立てた場合、裁判所はこれを許可しなければならない。ただし、進行中の刑事訴訟手続きに影響を及ぼす可能性がある場合は除く。
第二十三条 当事者が、発効した刑事裁判で認定された実際の損失又は違法所得に基づき、同一の営業秘密侵害行為に係る民事事件の賠償額を確定することを主張する場合、裁判所はこれを支持しなければならない。
第二十四条 権利者が、権利侵害者が権利侵害により獲得した利益について初歩的な証拠をすでに提供しているが、営業秘密侵害行為に関する帳簿、資料が権利侵害者に把握されている場合、裁判所は権利者の申立に基づき、権利侵害者に当該帳簿、資料の提供を命じることができる。権利侵害者が正当な理由なく、提供を拒否又は事実のとおりに提供しなかった場合、裁判所は権利者の主張とその提供した証拠に基づき、権利侵害者が権利侵害により獲得した利益を認定することができる。
第二十五条 当事者が、同一の被疑営業秘密侵害行為に係る刑事事件がまだ結審されていないことを理由として、営業秘密侵害の民事事件の審理の中止を申立てた場合、裁判所は当事者の意見を聴取した後、当該刑事事件の審理結果を根拠とすることが必須と認める場合、これを支持しなければならない。
第二十六条 営業秘密侵害行為に対して、営業秘密独占使用許諾契約の被許諾者が訴訟を提起した場合、裁判所は法により受理しなければならない。
排他的使用許諾契約の被許諾者が権利者と共同で訴訟を提起し、又は権利者が提訴しない状況で自ら訴訟を提起した場合、裁判所は法により受理しなければならない。
非独占的使用許諾契約の被許諾者が権利者と共同で訴訟を提起し、又は権利者の書面による授権により単独で訴訟を提起した場合、裁判所は法により受理しなければならない。
第二十七条 権利者は、第一審の法廷弁論の終結前にその主張する営業秘密の具体的な内容を明確にしなければならない。一部のみを明確にすることができる場合、裁判所は当該明確な部分に対して審理を行う。
権利者が第二審の手続きにおいて、第一審中で明確にしていない営業秘密の具体的な内容を別途主張する場合、第ニ審裁判所は当事者の自由の原則に基づき当該営業秘密の具体的な内容に関する訴訟請求について調停することができる。調停が成立しない場合、当事者に別の提訴を告知する。当事者双方がともに第二審裁判所での併合審理に同意した場合、第二審裁判所は併合して裁判を行うことができる。
第二十八条 裁判所は、営業秘密侵害の民事事件の審理にあたって、被疑侵害行為の発生時の法律を適用する。被疑侵害行為が法改正の前にすでに発生し、改正後に継続している場合、改正後の法律を適用する。
第二十九条 本規定は2020年9月12日から施行する。最高裁判所が以前公布した関連司法解釈が本規定と一致しない場合、本規定に準拠する。
本規定施行後、裁判所による審理中の第一審、第二審事件は本規定を適用する。施行前にすでに発効した裁判の事件は、再審で本規定を適用しない。