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SEPライセンス交渉においてFRAND違反とされる行為について--【法規篇】


北京林達劉知識産権代理事務所
 
近年、巨大な商業的利益が関与しているため、SEPは世界中で話題となっている。その中で、SEPに係る訴訟では差止請求権の行使が認められるかについての議論が多い。中国北京市高等裁判所が2017年4月に発表した「特許侵害判定指南」、EUが2017年11月に発表した「Setting out the EU approach to Standard Essential Patents」、中国広東省高等裁判所が2018年4月に発表した「標準必須特許に係る紛争事件の審理に関する手引き(試行)」及び日本特許庁が2018年6月に発表した「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」には、差止請求権の行使が認められるかについての言及がある。この4つでは、いずれもSEPの特殊性を考慮して差止請求権の行使は通常認めるべきではないが、特許権者がFRAND義務を満たしており、実施者が誠実に対応しなかった場合は除くとされていることから、ルールはほぼ共通していると言える。

SEPライセンス交渉において、どのような行為がFRAND違反とされるかについて、中国の「特許権侵害判定指南」、「標準必須特許に係る紛争事件の審理に関する手引き(試行)」及び日本の「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き 」には具体的な行為がいくつか例示されている。この3つに例示された行為の比較を下表に示す(性質が類似する行為は同じ行に記載する)。下表から明らかなように、この3つに記載のFRAND違反行為は抵触がなく、多くは一致するが、日本特許庁による上記手引きにおいて、FRAND違反行為の説明はより具体的なものである。例えば、秘密保持契約の締結について、同手引きでは、披露する情報に機密情報が含まれるかに基づいて、実施者が秘密保持契約を締結しないことがFRAND違反に該当するかを判断するとの記載がある。
 
  北京市高等裁判所による「特許権侵害判定指南」 広東省高等裁判所による「標準必須特許に係る紛争事件の審理に関する手引き(試行)」 日本特許庁による「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き 」
特許権者 ▪特許権侵害のことを書面で被疑侵害者に通知しておらず、特許権侵害の範囲および具体的な侵害形態を提示しなかった場合 ▪実施者に交渉の連絡をしなかったか、又は交渉の連絡をしていても、商慣習や取引習慣に従ってかかる特許の権利範囲を提示しなかった場合  
▪被疑侵害者が、特許ライセンス交渉に応じる意思を表明した後、特許権者が商慣習や取引習慣に従って被疑侵害者に特許情報または具体的ライセンス条件を書面で提示しなかった場合 ▪実施者が特許ライセンス交渉に応じる意思を表明した後、特許権者が商慣習や取引習慣に従って実施者に例示的特許リスト、クレームチャート等の特許情報を提示しなかった場合 ▪)実施者にライセンス交渉を申し込む際に、SEPを特定する資料、クレームチャート等の請求項と標準規格や製品との対応関係を示す資料について、実施者が特許権者の主張を理解できる程度に開示しない
▪実施者に対し、ポートフォリオの内容(ポートフォリオがカバーする技術、特許件数、地域など)を開示しない
  ▪被疑侵害者に商慣習や取引習慣に合う応答期限を提示しなかった場合   ▪検討のための合理的な期間を考慮しない期限を設定した申込みをする
 
 
▪ライセンス条件の交渉において、合理的な理由なく交渉を妨害したかまたは中止した場合 ▪合理的な理由なく交渉を妨害したかまたは中止した場合  
▪ライセンス条件の交渉において、明らかに不合理な条件を主張したため、特許ライセンス契約に合意できなかった場合 ▪具体的なライセンス条件及び主張するロイヤルティの算定方法を実施者に提示しなかったか、又は提示したライセンス条件が明らかに不合理なものであるため、特許ライセンス契約に合意できなかった場合 ▪裁判例や比較可能なライセンス条件に照らして明らかに不合理なオファーを最初に提示し、交渉中もそのオファーに執着する
 
  ▪合理的な期間内に応答しなかった場合  
    ▪ 機密情報が含まれていないにもかかわらず、実施者が秘密保持契約を締結しない限りクレームチャート等の請求項と標準規格や製品との対応関係を示す資料を実施者に提供できないと主張する
 
      ▪実施者に警告書を送付する前、送付してすぐに又は交渉を開始してすぐに、差止請求訴訟を提起する
    ▪ FRAND条件を提示する前に、優位に交渉を進めることを目的として、FRAND条件によるライセンスを受ける意思を表明した実施者に対して、差止請求訴訟を提起する
 
    ▪交渉中にもかかわらず、FRAND条件によるライセンスを受ける意思を表明した実施者の取引相手に対して、差止請求権を行使する旨の警告書を送付する
 
    ▪ロイヤルティの算定方法やライセンスの提案がFRAND条件であることの説明をしない
 
実施者 ▪特許権者から書面での侵害の通知を受け取った後、合理的な期間内に積極的に応答しなかった場合 ▪標準必須特許の特許権者からの交渉の申し込みを拒否したか、または交渉の申し込みを受け取った後、合理的な期間内に明確に応答しなかった場合
▪標準必須特許の特許権者が提示した例示的特許リスト、クレームチャート等の特許情報に対して、合理的な期間内に実質的に応答しなかった場合
▪応答が非常に遅いことについての理由を説明せず、あるいは交渉に全く応じないまま、特許を侵害している(又はその可能性がある)技術を使い続ける
 
▪特許権者の書面によるライセンス条件を受け取った後、合理的な期間内に特許権者からのライセンス条件を受けるか否かを積極的に回答しなかったか、または特許権者からのライセンス条件を拒否した際、新しいライセンス条件を提案しなかった場合 ▪標準必須特許の特許権者のライセンス条件を受け取った後、合理的な期間内に実質的に応答しなかった場合 ▪特許権者から提案されたライセンス条件がFRAND条件を満たすことについて具体的な根拠が示されているにもかかわらず、FRAND条件の対案を何ら提示しない
 
▪合理的な理由なく、ライセンス交渉を妨害したり、遅延させたりしたか、またはライセンス交渉への参加を拒否した場合 ▪合理的な理由なく、ライセンス交渉を遅延させたか、またはライセンス交渉への参加を拒否した場合 ▪特許権者が他者との秘密保持契約があるため開示できないような情報を提供することを執拗に求めることなどにより、交渉を遅延させる
▪実質的に意味のない回答を繰り返す
 
▪ライセンス条件の交渉中に、明らかに不合理な条件を主張したため、特許ライセンス契約に合意できなかった場合 ▪提示した実施条件が明らかに不合理なものであるため、特許ライセンス契約に合意できなかった場合 ▪裁判例や比較可能なライセンス条件に照らして明らかに不合理な最初の対案を提示し、交渉中もその対案に執着する
 
  ▪合理的な理由なく秘密保持契約の締結を拒否し、交渉が継続できなかった場合 ▪特許権者が機密情報を含む詳細なクレーム解釈を有するクレームチャートを提供することを要求しながら、秘密保持契約の締結に一切応じない、あるいは秘密保持契約の条件修正を繰り返して交渉を遅延させる
      ▪ SEPの必須性・有効性についての全ての根拠がそろわない限り交渉を開始しないと主張する
      ▪複数の他の実施者と結託して、他の実施者がライセンスを取得していないことをもって、ライセンスの取得を頑なに拒む
      ▪ロイヤルティの算定方法や対案がFRAND条件であることの説明をしない
 
 
(2018)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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