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技術常識に対する応答の考え方


北京林達劉知識産権代理事務所
中国特許弁理士 陳 涛
 
中国の特許実務の実体審査において現在、審査官は進歩性の判断に係る場合、技術常識を大量に導入して審査している。通常、審査官はまず、発明と引用文献とを比較して、相違点に係る構成はあるが、当該相違点に係る構成が当技術分野の技術常識であることを指摘する。

拒絶理由通知への応答時に、相違点が技術常識ではないことを証明することは、とても困難である。これに対して、「当業者には、相違点を最も近い先行技術に応用する動機がない。」という観点から反論できる。以下に、筆者が実際に処理した事例に基づき、説明をする。

出願番号が(CN201180014828.7)である特許出願は、電磁制振装置についての保護を要求するものである。審査官は拒絶理由通知において、「引用文献1(JP2003073792A)に比べて、請求項1は、『エッジ位置算出手段は、入力された前記鋼板の幅寸法及びリアルタイム又は所定時間毎に入力された当該鋼板の幅方向への変位量に基づいて当該鋼板のエッジ位置を演算して求める』点において相違する。」と指摘した。

当該相違点に対して、審査官はさらに、「当業者は先行技術の示唆のもとで、鋼板のエッジ位置に基づいて、制振制御することを想到でき、鋼板のエッジ位置を得るため、請求項1のエッジ位置算出手段を設置することを容易に想到できる。」と指摘した。

前記相違点は、出願人が強調している発明のポイントであるが、審査官は、推測によって、当該相違点は技術常識に属すると断定し、請求項1は「進歩性を有しない」と判断した。

これに対して、当該相違点は技術常識ではないと反論し、審査官に対して、挙証することを要求できる。しかし、実際には、審査官は初めて技術常識を引用する際、証拠を提示する必要がない。出願人が審査官の引用した当該技術常識に対して、異議を申し立てたとしても、審査官は証拠を提供せずに、理由を説明するだけでよいのである。

したがって、審査官に挙証することだけを要求するのは、有効な方法ではないので、他の観点から、反論の理由を考慮すべきである。

まず、技術常識の進歩性に係る判断における役割を説明する。中国特許審査基準第2部分第4章第3.2.1.1節③において、「3ステップ法」のステップ3について、以下のように規定している。

「このステップでは、最も近い先行技術及び発明で実際に解決しようとする課題から出発して、保護を要求する発明が当業者にとって自明であるか否かを判断しなければならない。判断の過程において、先行技術全体に、なんらかの技術的示唆が存在するかを確定する。つまり、先行技術において、前述の相違点をその最も近い先行技術に応用することにより、そこに存在する課題(すなわち、発明が実際に解決しようとする課題)を解決するための示唆が示されているか否かということである。このような示唆は、当業者がその課題に直面した時に、当該最も近い先行技術を改善し、保護を要求する発明を得るための動機づけになる。

以下にの場合、通常、先行技術に前述の技術的示唆が存在するとみなされる。

(ⅰ)前述の相違点が技術常識である場合。例えば、当分野において、当該改めて確定された課題を解決する慣用手段、或いは教科書や参考書などで開示されたその改めて確定された課題を解決するための技術的手段など。」

前記規定によれば、「3ステップ法」のステップ3において、先行技術に技術的示唆が存在しているかどうかを判断することが目的で、「相違点は技術常識であること」は、先行技術には技術的示唆が存在していることを証明するための1つの手段となる。そして、先行技術に技術的示唆が存在するには、2つの前提条件を満たさなければならない。1つ目は、最も近い先行技術に発明の実際に解決しようとする課題が存在しなければならないことである。さもなければ、当該課題を解決するために、最も近い先行技術を改善する必要がなくなる。2つ目は、相違点に対する改善は、最も近い先行技術に対する改悪ではなく、改善でなければならないことである。さもなければ、当業者に最も近い先行技術を変える動機がなくなる。

したがって、技術常識を回避する反論として、例えば「最も近い先行技術には発明の実際に解決しようとする課題がない、相違点は最も近い先行技術と結びつけられない、相違点を最も近い先行技術と結びついても、発明の目的を実現できない、又はその発明を実施できない。」などの観点から、当業者には、相違点を最も近い先行技術に応用する動機がないことを証明できる。筆者の実務経験によれば、上述の状況に合致する場合、このような反論理由は有効で、審査官にも通常、このような反論は認められている。

しかし、本事例では、このような状況が存在しない。

審査官は、「鋼板のエッジ位置を得るため、エッジ位置算出手段を設置することを容易に想到できる。」と指摘したが、当該特許出願の背景技術において引用された特許文献1( JP 2009179834A)において、鋼板のエッジ位置を得ることに及び、それに応じて制振制御の発明が提出された。しかし、鋼板のエッジ位置を得る方法としてエッジ位置検出センサーが利用されただけであった。そのため、鋼板のエッジ位置を得るためには、エッジ位置算出手段ではなく、エッジ位置検出センサーを設置することが容易に想到できる。

この考え方に基づき、筆者は意見陳述の際に、以下のような反論を展開し、審査官に認められた。

「先行技術において、鋼板のエッジ位置に基づき、制振制御の発明が提出された。鋼板のエッジ位置を得るため、先行技術において鋼板の幅方向に複数のエッジ位置検出センサーを配置して、当該エッジ位置検出センサーを利用し、鋼板のエッジ位置を検出している。

当業者は、当業界の全ての先行技術を得ることができるので、鋼板のエッジ位置を得るため、公知技術に既に存在しているエッジ位置検出センサーを配置することだけを想到でき、他のよりベターな解決方法を考えたり、研究したりするはずがない。なぜならば、これは、当業者の有する能力ではないからである。」

前記反論の理由は特殊であり、多くの場合には適用できないが、本質的な観点からみると、推論から「当業者は、相違点を最も近い先行技術に応用する動機がない。」ことを証明した。

以上のように、技術常識に対する反論について、個別の案件の具体的な状況に基づき、「当業者は、相違点を最も近い先行技術に応用する動機がない。」という観点から、先行技術には技術的示唆がないという結論を導き出すことができ、「相違点は技術常識であるか否か」についてこだわる必要はなくなる。もちろん、技術常識に対する反論は、他にも方法があるが、ここでは逐一述べないものとする。最後になるが、本文が弁理士及び特許出願人に、少しでも参考になればと思う。

 
(2016)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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