北京林達劉知識産権代理事務所
中国特許弁理士 張 広平
WIPOが2014年に発表した「Video Games and IP: A Global Perspective」によれば、ゲーム産業は650億ドル規模のグローバル産業に成長し、コンピュータやインターネット技術の発展に伴い、ゲーム産業におけるコンピュータソフトウェアに関する特許出願がますます多くなってきている。本稿では、外国出願人がゲームソフトを中国で特許出願する場合、どのように出願すれば認められるかということをポイントに紹介する。ゲームソフトを中国で特許出願する際、留意すべき事項を以下のとおり説明する。
1 .中国で特許を取得できるゲームソフト
中国の現在の審査実務からすれば、単純なゲームソフトか、ハードウェアと組み合わせたゲームソフトかを問わず、中国の審査基準に規定する要件を満たせば、特許を受けることができる。
中国の特許審査基準第2部第9章に、コンピュータソフトウェアに係る特許出願の審査に関する具体的な規定が定められており、コンピュータソフトウェアに係る発明が技術的なソリューションに該当する場合にのみ特許法により保護されることが特に規定されている。
2 .中国で認められるクレームの書き方
(1) 方法クレーム
ゲームソフトの発明はほとんど、方法クレームで出願することができる。例えば、射撃ゲーム方法、スクリプトでゲームを作成する方法、コンピュータゲームのためのスクリプト実行方法、プレイヤーと仮想空間との対話方法などが挙げられる。ただし、中国特許法に定める「技術的なソリューション」に該当しなければならない。
方法クレームのデメリットは、侵害判定の際に有効な立証が困難である点にある。
(2) means+functionクレーム
中国において、ステップや手順で方法クレームを作成するとともに、方法に対応する装置のクレームを作成することができる。例えば、下記のようなクレームが認められる。
「ステップAを実行する装置と、ステップBを実行する装置と、ステップCを実行する装置と、……を備えることを特徴とする……装置。」
このような装置は、現実的な存在ではない機能フレームであるため、方法クレームの各ステップに対応する装置クレームを作成する際に、下記の点に留意すべきである。
①装置クレームの発明の名称が方法クレームの発明の名称に対応すること。
②装置クレームの各部材が方法クレームの各ステップと一々対応すること。すなわち、機能モジュールのフレーム方式の物クレームでゲームソフトの権利化を図る場合、この装置クレームの各構成部がすべて、コンピュータプログラムのステップを示す仮想装置からなることを確保すべきで、現実的なハードウェアも混在するような書き方は認められない。
【作成例】
仮に、明細書にはサイコロゲームを実現するコンピュータプログラムの下記の流れが記載されているとする。
ステップA→ステップB→ステップC→ステップD
①方法クレーム
プレイヤーから、サイコロ群の勝ちを予測するためのベットを受けてゲーム領域の1つまたは複数のゲームゾーンに格納するステップAと、
第1のサイコロ群及び第2のサイコロ群を振って各サイコロ群の結果を得るステップBと、
各サイコロ群のサイコロの出目を加算して比較し、小さい方を勝ちとするステップCと、
勝ちを正しく予測したプレイヤーにそのベットに対応する報奨を与えるステップDとを含む、サイコロゲーム方法。
②機能モジュールのフレーム方式の物クレーム
プレイヤーから、サイコロ群の勝ちを予測するためのベットを受けてゲーム領域の1つまたは複数のゲームゾーンに格納する装置Aと、
第1のサイコロ群及び第2のサイコロ群を振って各サイコロ群の結果を得る装置Bと、
各サイコロ群のサイコロの出目を加算して比較し、小さい方を勝ちとする装置Cと、
勝ちを正しく予測したプレイヤーにそのベットに対応する報奨を与える装置Dとを含む、サイコロゲームシステム。
コンピュータプログラムの各ステップと全く対応するか、またはこのコンピュータプログラムの流れを反映する方法クレームと全く一致する形で装置クレームを作成する場合、明細書にはこの装置クレームにおける各機能モジュールを含むブロック図を記載する必要がなく、機能モジュールに関する説明を記載する必要もない。この装置クレームは審査時に、対応する方法クレームと全く同様の取扱いを受ける。
(3) ソフト+ハードの装置クレーム
以前の審査実務では、中国特許庁は仮想的なソフトウェア機能モジュールと実在的なハードウェア構成とが混在するクレームを認めていなかった。審査官は通常、クレームが不明確であるか、明細書によりサポートされていないという理由により、このような虚実混在のクレームを拒絶する。
例えば、「処理部と記憶部とを含むゲーム制御装置において、前記処理部は、ステップ1、ステップ2、ステップ3を実行するように構成されたことを特徴とするゲーム制御装置。」というようなクレームが、虚実混在クレームに該当する。
しかし、最近の不服審判例(200880019469.2)では、中国特許庁の専門家チームは「明細書には、コンピュータプログラムによりこの機能を実現する処理部が主に記載されている。しかし、技術上の実現の観点からいえば、当業者は、コンピュータプログラムのほか、例えばFPGAやDSPによりこの機能を実現することも可能であると合理的に予測できる。つまり、審査官の指摘のようにソフトウェアのみにより実現できるというわけではない。また、裁判実務からすれば、このようなクレームが明細書によりサポートされていないことを示す事例は多くない。」という新たな見解を示した。
つまり、中国特許庁は今後、虚実混在クレームに対する審査を緩和させる傾向があると思われる。
(4) GUIクレーム
GUI(グラフィカルユーザインターフェース)は、外観属性と対話機能属性を持っている。ゲーム画面の構成要素の文字、色、形状、レイアウトなどの外観属性のみについて規定するクレームは、中国特許法にいう技術的なソリューションに該当しない。対話機能属性について、ゲーム操作による画面の外観状態の変化に関するルールのみ規定するクレームも、中国特許法にいう技術的なソリューションに該当しない。ゲーム画面対話技術は、人為的に定められた対話法則を実現するためのベースの信号・データ処理技術であり、中国特許法にいう技術的なソリューションに該当する。
【作成例】
[請求項1]
タッチパネル表示部を備える機器におけるグラフィカルユーザインターフェースであって、
ゲーム用のカード、第1のボタン、第2のボタンを含み、
第1のボタンがタッチされたことを検出すると、前記カードを左へ移動させ、
第2のボタンがタッチされたことを検出すると、前記カードを右へ移動させる、グラフィカルユーザインターフェース。
このようなクレームは画面対話法則の定義に該当するもので、信号又は内部データを検出して処理することで特定の操作を制御するインターフェース対話技術に関するものではなく、中国特許法にいう技術的なソリューションに該当しない。
しかし、下記のようにGUIの裏のソフトウェアを表示する装置に関するクレームは、現在の審査実務において権利化できる可能性がある。
[請求項1]
タッチパネル表示部付き機器に用いられる表示装置であって、
前記表示装置はゲーム用のカード、第1のボタン、第2のボタンを表示し、
前記機器は、
第1のボタンがタッチされたことを検出すると、前記カードを左へ移動させる装置と、
第2のボタンがタッチされたことを検出すると、前記カードを右へ移動させる装置とを備える、表示装置。
ただし、その前提として、このようなクレームは明細書によりサポートされている必要がある。
(5) ビジネスモデル関連クレーム
中国特許庁は現在、ビジネスモデル関連発明の特許出願について、①ビジネスモデルに関するクレームが特許法の保護対象に該当するかをまず判断し、②YESの場合、その新規性、進歩性を審査するという審査方針を採用している。進歩性を判断する際に、相違点に基づいてこの発明の実際に解決する課題が技術的な課題であるかを判断する。NOの場合には、この出願は先行技術に対する技術的な貢献をもたらしておらず、進歩性を有しないと結論付けるが、YESの場合には、さらにこの技術的な課題の解決手段が自明であるか否かを判断する。
したがって、このようなクレームを作成する際、先行技術に対する「技術的な貢献」を反映するように特に留意すべきである。
以上の情報がゲームソフトを中国で特許出願しようとする外国出願人にお役に立てば幸いである。
(2015)
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