北京林達劉知識産権代理事務所
中国弁理士 王 小香
中国において分割出願は、特許法第31条に規定されている単一性違反に該当する場合行われるものである。1件の出願に2つ以上の発明が含まれている場合、出願人が自ら分割出願を提出するか、或いは審査官の拒絶理由に基づいて分割出願することができる。これは、規定されている分割出願の一般的な意味である。ただし、中国の特許関係法規には現在、分割出願の理由や内容に関する明確な規定がないため、プラクティスにおいて単一性の要件に関係なく自ら分割出願することがあり、利益の最大化を図るために自らの分割出願を利用する出願人も多くなってきている。以下、筆者が代理実務において積み重ねてきた経験から分割出願をめぐるいくつかの問題点についてご説明する。分割出願という特許出願における強力な武器への理解を深めるために、少しでもお役に立てば幸いである。
1.分割出願の提出時期
1)親出願に基づいて分割出願する場合(子出願)の提出時期
特許法実施細則第42条及び審査基準第1部第1章5.1.1の規定によれば、出願人は遅くとも親出願の特許査定を受領した日より2ヶ月の期間内に(つまり、特許査定後の登録手続きの期限)分割出願をすることができる。上記期間が満了した場合、又は親出願に係る拒絶査定が確定された場合、又は親出願が取下げられた場合、又は親出願がみなし取下げでかつ権利回復されていない場合、一般的には分割出願を行うことができない。拒絶査定が出された親出願について、拒絶査定の受領日から3ヶ月以内に、不服審判請求の有無にかかわらず、分割出願することができる。不服審判請求後及び不服審判審決を不服とし、行政訴訟を提起している期間中でも、分割出願を提出することができる。
プラクティスにおいて、親出願の特許査定を受領した日より2ヶ月の期間内のどの時期でも分割出願を提出することができる。この2ヶ月の期間の満了前に特許査定後の登録手続きを早めに行ったとしても、上記の規定に基づき、その登録手続きの後、2ヶ月の期間の満了前に分割出願することができる。ただし、特許庁の審査官に問い合わせて、同庁で現在認められる取扱い方を考慮してから、その登録手続きを行う前に、或いはその登録手続きを行うと同時に分割出願することを、お勧めする。
2)子出願に基づいて分割出願する場合(孫出願)の提出時期
審査基準第1部第1章5.1.1の規定によれば、出願人が分割出願した出願に基づいてさらに分割出願を提出する場合、再度提出される分割出願の提出時期は依然として親出願に基づいて、審査される。ただし、子出願に単一性不備があるため、出願人が審査官の指摘に基づき再度分割出願する場合は除く。
すなわち、子出願に基づいて自ら分割出願(孫出願)を提出する場合、その提出時期は親出願の法的状態に制約されている。一方、子出願に単一性不備があると審査官に指摘され、さらに分割出願する必要がある場合、その提出時期は親出願の法的状態に制約されない。
子出願に単一性不備があり、さらに分割出願する必要がある場合について、その提出時期は特許関係法規に明確に規定されていない。特許庁の審査官に問い合わせて、同庁で現在認められる取扱い方を考慮してから、子出願の単一性不備に係る拒絶理由に応答すると同時に、子出願に基づいてさらに分割出願(孫出願)を提出することを、お勧めする。筆者の経験では、その拒絶理由に応答する時に分割出願していない場合、遅くとも子出願の特許査定を受領した日より2ヶ月の期間内に(つまり、特許査定後の登録手続きの期限)分割出願を行うことができる。
2.自ら分割出願を行ういくつかの場合
中国の現行の特許関係法規において、分割出願についていくつかの制約がある。具体的には、分割出願が親出願の分類を変えてはならないこと、分割出願が親出願に記載された事項の範囲を超えてはならないことが挙げられる。ただし、分割出願の理由及びその内容に関するさらなる規定はない。それゆえ、必要に応じて分割出願を効率的に利用して利益を最大限に守ることができる。
例1)補正が制約される場合
特許法実施細則第51条第3項及び第61条第1項の規定によれば、自発補正の時期を過ぎた後、出願書類についてのいかなる補正も、審査官(又は合議体)が出した通知書で指摘された不備について行うものでなければならないとのことである。また、審査基準第2部第8章5.2.1、第4部第2章4.2の規定によれば、審査手続の迅速化に不利である場合、自発補正の内容が新規事項の追加ではないとしても、通知書で指摘された不備について行うとみなしてはならないので、その補正が認められないとのことである。
例えば、新規出願の段階に作成した請求項の技術的範囲が狭いが、明細書に公開した範囲が広い場合、或いは、明細書には複数の発明を公開しているが、特許請求の範囲にそのうちのいくつかしか記載されていない場合、自発補正の時期を過ぎてから、請求項における構成要件を変更して技術的範囲を広くしたり、又は新しい独立項及び従属項を追加したりすることは、一般的に審査官から認められない。この場合、所望の権利範囲を取得するには自ら分割出願することが考えられる。
例2)請求項の技術的範囲を改めて考慮する必要がある場合
特許出願の審査過程において、審査官に指摘された不備を解消するために出願人が請求項を補正することは、可能である。その補正を行った後、最終的に特許査定された請求項に係る発明が、出願人が当初に希望した発明と大きく相違し、ひいては実質的に保護することができなくなる可能性がある。この場合、本件の審査手続の終了前に所望の権利範囲から分割出願を提出することができる。
現行の特許関係法規からすれば、分割出願の特許請求の範囲は、親出願当初の特許請求の範囲と全く同じであってもよい。というのは、審査基準には、分割出願と親出願とはそれぞれ異なる発明について特許を請求すべきであると規定されているが、特許関係法規に全く同じの特許請求の範囲を提出することを禁止する明確な条文がなく、しかも実体審査された分割出願の特許請求の範囲が親出願の当初の特許請求の範囲に一致する可能性も低いからである。
親出願の当初の特許請求の範囲と全く同じの分割出願を提出するのは、次のようなメリットがある。まず、分割出願の審査時期が親出願に比べて遅れており、時間が経つにつれて特許庁の審査基準への理解にも、若干の変化が生じる可能性がある。また、審査官によって審査基準への理解が客観的に異なることもある。なお、その分割出願の審査過程に、現在希望する権利範囲を得られるように、補正・主張を行うことができる。
例3)早期権利化しようとする場合
自ら分割出願を提出することによって、親出願の早期権利化を図ることができる。例えば、3つの独立項を有する出願について、1回目の拒絶理由通知において、独立項1及びその従属項が進歩性を有しないと指摘され、ほかの請求項については、何も指摘がない場合、その拒絶理由通知に応答する時に、早期権利化のために、請求項1及びその従属項を削除して別途分割出願を提出するとともに、指摘されていないほかの2つの独立項及びその従属項を残すことができる。このようにすることで、早期に特許を受けられ、広い権利範囲を得ることもできる。
上記3つの例から分かるように、適切なタイミングで自ら分割出願すれば、所望の権利範囲を得ることができる。このようなやり方は分割出願に係る規定の本来の意図に合致しないようであり、現在特許庁に注目されている。しかし、筆者の理解では、分割出願そのものは新規出願とみなされて官庁手数料を納める必要があるため、実際に出願人が、本来得られるべきであったにもかかわらず、ある原因で得られなかった利益を、代価を払って得ることに相当する。したがって、筆者は、これについて、ある程度合理的であると考える。
3.分割出願をめぐる他の問題点
1)新規事項の追加
自ら分割出願を提出することでその発明創造をしっかり保護することができる。しかし、筆者が取り扱った事件からすれば、現在分割出願が新規事項の追加に該当するかどうかについては、非常に厳しく審査されている。特許請求の範囲において、明細書の記載から総括した構成要件が認められないほか、明細書の記載から総括した発明も認められない。すなわち、特許請求の範囲において、各構成要件が明細書によりサポートされているにもかかわらず、全体の発明が親出願に記載されていないか、又は全体の発明が親出願の明細書の1つの実施例に含まれておらず、各実施例から総括したものである場合、その分割出願が新規事項の追加に該当すると判断される。
このように、出願人又は代理人が出願書類を作成する時に、明らかに単一性の要件を満たしていないとしても、すべての発明を特許請求の範囲に記載するほうがよい。なぜなら、親出願にその発明が記載されていれば、一般的にはその発明に関する分割出願が新規事項の追加に該当しないからである。また、親出願の特許請求の範囲に発明をすべて記載したくなければ、出願書類を作成する際に、例えば、少なくとも【発明の開示】にすべての発明を記載し、かつ【発明の実施の形態】に詳しく説明することが考えられる。このように、後で分割出願を提出する場合、請求項を改めて作成することによる新規事項の追加を回避することができる。
2)中国国内への移行が行われた国際出願の分割出願
審査基準第1部第2章15.2.2及び第3部第2章5.5の規定によれば、出願人による単一性回復手数料が未納なため削除された発明又は実用新案について、分割出願を提出してはならないとのことである。
国際機関が発明に単一性違反があるという結論を出し、しかもその結論が正しいとされた場合、中国国内への移行が行われた国際出願に、国際段階に検索又は方式審査がされていない発明創造が含まれているか、或いは国際段階に出願人が放棄の意を表明した発明創造が含まれていれば、単一性回復手数料支払通知書を受領した時、その発明をどのように取り扱う(残す或いは削除する)か慎重に考慮しなければならない。単一性回復手数料支払通知書が出された2ヶ月以内に、単一性回復手数料を納付しなければ、その発明創造を削除しなければならず、しかもその発明創造について再度分割出願することができない。
以上の検討から、中国現行の特許関係法規下で、分割出願を利用することで発明創造をしっかり保護することができる。ただし、出願人及び代理人が特許出願を提出する際、事前に万全な準備をしておかなければならない。
(2012)