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中国における実用新案明細晝の作成から無効審判までの実務要領


北京林達劉知識産権代理事務所
著者:劉新宇[1]、李茂家[2]
瀋顕華[3]、方志煒[4]
 

はじめに

中国の正泰社とシュナイダー社との実用新案権侵害紛争事件は、2009年4月15日に終結した。同事件は、ただ1件の実用新案権で1.575億人民元(約20億円)の損害賠償が認められたことで、世間を大いに驚愕させた。この事件を契機として、中国では一時期、実用新案に関する研究、議論が盛んに行われた。実際、中国の実用新案出願件数は、増加の一途をたどっており、実用新案の存続件数は特許、意匠の存続件数を上回っており、しかも、存続中の実用新案権の約99%の権利者は中国人であることが分かる(下表を参照)。このような状況下において、中国市場に注目している出願人は、中国ならではの実用新案を効果的に活用することを重視し始めている。





しかし、2009年からほぼ3年間の研究検討期間を経たにもかかわらず、多くの出願人、特に外国の出願人は、実際に中国において実用新案出願をしようとする際、実用新案作成時の注意点、特実併願制度の有効な活用法、出願後の各段階での補正方法、実用新案権の無効審判における注意点及び評価報告書の有効な利用方法など、まだしっかり理解できていない点が多いようである。

理解不足が解決されていない主な原因としては、これまで行われた大部分の研究は、中国実用新案のどれか一つの側面に関する理論上の検討に重点を置いていたからではないかと考えられる。例えば、中国の実用新案と特許との比較、中日両国の実用新案制度の比較、実用新案の最終的な運用段階である侵害訴訟時の対応検討及び判例解説などは、盛んに論議されたが、中国実用新案の出願前、審査中及び登録後の主な段階の作業要点、難点など具体的な実務に関する研究はほとんど行われなかった。

本稿では、このような現状に鑑み、以下の観点から実務経験に基づいて上述の問題点に回答する。

I. 実用新案明細晝の作成、
II. 特実併願の活用、
III. 実用新案の補正、
IV. 実用新案の無効審判、
V. 実用新案権評価報告書の活用。

中国実用新案の実務には特許実務との共通点が多いので、本稿では、特に特許との相違点に重点を置いて説明する。

I. 実用新案明細晝の作成

実用新案は、特許と似ているところが多いので、特許出願書類作成の一部の経験は、そのまま実用新案明細晝の作成に応用することができる。一方、実用新案には、特許とは異なっているところもある。実務において、特許出願書類作成時の要求及び基準などに関するやり方をそのまま、実用新案明細晝の作成に利用している出願人が多い。しかし、そのようにして作成された実用新案出願には、補正指令を受けやすい、権利化が遅くなる、登録ができなくなるなどの弊害が起こることがある。

上述の問題を回避するため、出願人は実用新案出願書類を作成する際に、下表に示す実用新案と特許との主な相違点を念頭に置く必要がある。
 
  実用新案 特許
① 保護対象
(専利法2)
製品の形状、構造又はそれらの組合せについて提案された実用に適した新しい技術的ソリューション 製品、方法、又はその改良について提案された新しい技術的ソリューション
 
② 進歩性
(専利法22.3)
公知技術に比べて、実質的特徴及び進歩を有する。
方式審査では進歩性の判断はしない。
公知技術に比べて、格別の実質的特徴及び顕著な進歩を有する。
実体審査において公知文献を調査した上で判断する。
③ 単一性
(専利法31.1)
明らかな単一性違反 明らかな単一性違反
及び
その他の単一性違反
④ 新規性(専利法22.2)、実施可能要件違反(専利法26.3)、不明確さとサポート要件違反(専利法26.4)、 必須要件欠如(細則20.2)等の実質的不備。
明細書、請求項、図面、要約の形式的要件違反(細則17-23) 等の形式的不備。
方式審査において、実質的要件については明らかに違反する場合のみ指摘する。出願書類が形式上、法的規定に合致するか否かは、方式審査のポイントである。 実体審査において、実質的要件をより厳しく審査する。
 

① 保護対象の相違は、実用新案と特許との最も重要な違いであり、実用新案の考案のカテゴリー及びその構成要素の書き方を直接決定づけている。また、②進歩性における違いを利用すれば、進歩性があまり高くなく、特許の実体審査の進歩性審査を通りにくい発明を保護することが可能である。そして、③単一性についての違いを利用することで、明らかな単一性違反ではないものを1件の実用新案出願にまとめることが考えられる。しかし、④のさまざまな点について、実用新案の方式審査では、明らかに違反する不備しか指摘されないことによって、登録された実用新案の権利の安定性が高くないという問題に関係しており、また、形式的不備による権利化の遅延にもつながる。したがって、実用新案の出願人は、作成時当初から、すべての実質的要件を満たすとともに、各形式的要件をも満足することに注意すべきである。

以下、上記の相違点①~④について作成時の留意点を詳細に説明する。

1.実用新案の保護対象

実用新案の定義:中国専利法では、実用新案について、製品の形状、構造又はそれらの組合せについて提案された実用に適した新しい技術的ソリューションをいうと規定している。(専利法第2条第3項)

上述の定義によれば、実用新案の保護対象は、下記3つの要件を満たしていなければならない。

(1)「製品」
(2)「製品の形状及び/または構造」
(3)「技術的ソリューション」

上記のうち、(3)の「技術的ソリューション」は、特許の技術的ソリューションの判断手法と同一であるため、本稿では説明しないことにする。(1)と(2)については、考案のカテゴリー、考案を構成する構成要素という2つの観点から説明する。

1.1 考案のカテゴリー

実用新案は、製品のみを保護対象とし、方法は、保護対象とならない。

方法は保護対象外

この「方法」には、製造方法、実施方法、通信方法、処理方法、コンピュータ・プログラム及び製品の特別な用途など産業的方法が含まれ、あらゆる方法が含まれる。また、装置の各構成部分がそれぞれコンピュータ・プログラムの各ステップと対応する場合、実質上プログラムを保護することになるため、やはり方法に該当し、実用新案の保護対象ではないとされている点についても注意すべきである。

例:~を行うための薬服用周期設定モジュールと、~を行うための薬服用リマインドモジュールと、~を行うためのリマインド再起動モジュールとを備えるマイクロプロセッサー。

上記例の請求項は実際には、プログラムに基づき処理フローを保護するためのコンピュータ・プログラムの保護に関するもので、方法の保護に該当するため、実用新案の保護対象ではないと判断された。

製品を保護対象とする必要性

この場合の「製品」とは、産業的方法により製造されたものであり、確定した形状、構造を有し、かつ一定の空間を占める実体をいう。「一定の空間を占める実体」とすることで、方法を除外することが明確になっている。

つまり、実用新案の製品は以下の2つの要件を満たさなければならない。

(1) 確定した形状構造を有し、かつ一定の空間を占める実体であること。

形状を有し、一定の空間を占める実体

形状とは、製品が持っている、外部から観察できる確定した空間形状をいう。

確定した形状がないものとしては、気体状態の物質や材料、液体状態の物質や材料、粉末状の物質や材料、粒状の物質や材料などが挙げられる。

特定の状況下(例えば、温度範囲、使用状態など)において確定した空間形状を有するもの、例えば摂氏0度以下で存在する氷でできた確定した形状を有するコップ、落下時に開いた状態で確定した形状を有する落下傘のようなものは、特定の状況下において確定した空間形状を有するため、実用新案の保護対象になる。

構造を有し、一定の空間を占める実体

構造とは、製品の各構成部分の配置や組み合わせ、及びそれらの相互関係をいう。

当該「構造」とは、製品のマクロ構造であり、ミクロな分子構造、組成成分、金属組織などは含まない。したがって、分子構造、組成成分、金属組織などにより表現される化学材料や物質は、実用新案によって保護することはできない。

また、製品の構造は、機械的構造でもよく、回路構造でもよい。機械的構造とは、製品を構成する部品の相対的な位置関係、接続関係及び必要な機械的組み合わせ関係などをいう。回路構造とは、製品を構成するエレメント間の確定した接続関係をいい、電子回路、気体回路、油圧回路、光回路などを含む。

(2) 産業的方法により製造されること。

人工的な製造を経ないで、自然に存在するホラ貝の殻などの物体は、製品ではない。

しかし、人工的、産業的に加工された物品、及び、自然に存在するものに産業的な加工を施して得られた物品はいずれも、製品に該当する。例えば、「発声室及び発声板からなる発声部と、ホラ貝の殻とにより構成されるホラ貝吹奏楽器であって、発声部が、ホラ貝の腹腔軸側の殻縁部に設けられた開口内に隙間なく取り付けられたホラ貝吹奏楽器」は、製品に該当する。

1.2 考案を構成する構成要素

製品を構成する要素を以下のように形状要素、構造要素、材料要素、プロセス要素、機能要素、パラメータ要素に分けて、これら要素と実用新案の保護対象との関係を説明する。

(1) 形状要素

製品における一部分の構成要素は、当該製品の構造要素により制限を受けていれば、確定した形状を有しない物質、例えば気体状態、液体状態、粉末状及び粒状の物質であってもよい。例えば、温度計における水銀は、不確定な形状の液体に該当する。しかし、水銀が温度計のガラス棒によって制限を受けているので、温度計の形状や構造を特徴とする考案に、確定した形状を有しない水銀を記載することが認められるのである。

また、製品の構成要素は、生物や自然に形成された形状であってはならない。例えば、植物である盆栽が生長することで得られた形状や、自然に形成された築山の形状を、製品の形状要素として請求項に記載することは認められない。理由は、上述のような物の形状には不確定性があるため、実用新案の製品の形状として規定すべきではないからである。

しかし、製品の構成要素が、課題を解決するための、自然の物体を模倣した形状であることは認められる。例えば、ハート形状の偏心カムは、往復振動を起こすことができるため、実用新案の保護対象に該当する。

また、物の形状を文字で規定することは可能である。例えば、「Y」字状というような言葉で物の形状を表現することができるが、絵によって物の形状を表現し、その絵を請求項に記載することは避けるべきである。どうしても表現できない形状については、意匠によって保護することを考えるべきである。

(2) 構造要素

製品の構造における回路要素については、考案をより明瞭かつ簡潔に規定することができれば、電子回路、気体回路、油圧回路及び光回路などにおける媒質の流れの方向によって回路の構造を表現することができる。電子回路における信号の流れの方向によって、その構造を表現することができ、パイプラインにおける流体の流れる通路を記載することによって、パイプラインによって連結される装置や部品間の空間的接続関係を表現することができる。

例えば、入力電圧を電圧電流変換器により入力電流に変換し、電流フィードバック回路で発生する電流フィードバックを前記入力電流と合流させてコンデンサに充電し、発生する充電電圧を比較回路に供給して温度計コードを出力し、出力する温度計コードをロジックモジュール部に入力し、ロジックモジュール部により演算してデジタル信号を出力することを特徴とするADC回路。この例は電気回路の構造に関するものであり、回路における信号の流れ方を記述しているので、実用新案の保護対象に該当する。

また、複合層構造についても、製品の構造と認めることができる。製品の浸炭層、酸化層などは、複合層構造に該当する。複合層構造は、プロセス上の処理により、物理的な改質を行い、特定の領域に複数の層を形成してできるものであるため、実用新案により保護することができる。上記複合層において、層の厚さ、均一さ、層数及び人間の目で観察できるかということとは関係がない。特定の領域に複数の層を形成していなければ、実用新案の保護対象とはならない。例えば、革の表面に金属粉を加えることで、光沢表面層を形成するという構成は、金属粉と革の表面がそれぞれ金属粉層、革表面層となっておらず、複数の層を形成していないので、製品の構造要素に該当しない。

(3) 材料要素

製品の構成要素として既知ではない材料を記載することは認められず、すなわち、既知ではない材料の名称、分子構造、組成成分及び金属組織などを請求項に記載してはならない。

しかし、請求項に既知の材料の名称を記載することは認められている。つまり、公知技術における既知の材料を、形状、構造を有する製品に用いる(具体的には、既知の材料で、製品の全部又は一部の材料を代替することをいう)ことは認められる。例えば、複合木製フローリング、プラスチック製コップ、形状記憶合金で形成された心臓導管のフレームなどは、材料自体に対する改良に該当しない。製品の材料の名称が、既知ではない材料の名称であると審査官に指摘されることを未然に防ぐために、明細書にその材料の由来を詳細に記載しておくべきである。

例えば、出願番号が200520061438.7、名称が「マイクロ波釜」である実用新案の拒絶査定不服審判請求において、その請求項は以下のようなものである。

「【請求項1】食物を収容する釜本体(1)と、釜本体に嵌合する蓋(2)とを備えるマイクロ波釜において、前記釜本体は複合層であり、外層がマイクロ波を吸収するための加熱層(1.1)であり、内層がガラス又は 紫砂又はセラミック層(1.3)であり、加熱層とセラミック層との間は、マイクロ波シールド層(1.2)であることを特徴とするマイクロ波釜。

【請求項2】加熱層は、フェライトが含まれるガラス又は紫砂又はセラミック層であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波釜。」

中国特許審判委員会(以下、「審判委員会」という)は、オフィスアクションにおいて、請求項2の「加熱層は、フェライトが含まれるガラス又は紫砂又はセラミック層である」という記載は、加熱層の材料構成のみに関する規定であり、実質上、材料自体についての考案であるため、実用新案の保護対象に該当しないと指摘した。この指摘を受けた不服審判請求人は、請求項2に規定する材料が公知技術における既知の材料であることを証明する7件の資料を提出した。その結果、審判委員会は、請求人の主張を認めた。

このケースにおいて、出願人が予め明細書に請求項2の材料の由来を記載しておけば、後で審判委員会から保護対象属否について指摘される可能性は極めて低くなると思われる。

既知の材料について、同材料に通用のネーミングがない場合、出願人は明細書において技術用語として名称をつけるとともに、同材料の出所を記載し、つけた名称によって製品の形状又は構造を請求項に規定することができる。

また、現在のところある材料が既知であっても、通常その分子構造、組成成分、金属組織などを請求項に記載することは認められていない。

代表的な例として、以下の請求項が挙げられる。

「金属組織が30~95%のフェライトと片状黒鉛であり、中央部位の金属組織が90%以上のパーライトであることを特徴とする高強度で切削性が良好な銑鉄。」

しかし、当該請求項は、金属の構造を特定していたため、保護対象に該当しなかった。

また、以下の請求項もある。

「A成分20%と、B成分40%と、C成分40%とから成ることを特徴とする菱形錠剤。」

当該請求項には、「菱形」という形状の規定が含まれており、成分の規定も含まれている。当該請求項に係る考案は、成分を特徴として材料自体をも改良したものであったため、実用新案の保護対象に該当しなかった。

(4) 方法要素

製品の形状や構造に係る特徴以外に、方法自体に対する改良を含む請求項、例えば製品の製造方法、使用方法又はコンピュータ・プログラムに対して限定する請求項は、実用新案の保護対象にはならない。最も代表的な例として、木の爪楊枝がある。その請求項は以下のとおりである。

「本体形状が円筒状であり、先端が円錐状である木の爪楊枝であって、加工成形した後に爪楊枝を医薬用殺菌剤に5~20分間浸して乾かすことを特徴とする木の爪楊枝。」

当該請求項には、方法自体に対する改良が含まれていたため、実用新案の保護対象に該当しなかった。

製品の構成要件において既知ではない方法の名称を記載してはいけないが、既知の方法の名称を記載することはできる。既知の方法の名称により製品の形状、構造を規定することが認められるが、方法のステップ、プロセスの条件などを含んではいけない。例えば、溶接、リベット締めなど既知の方法の名称により各部材の連結関係を規定する場合、方法自体に対する改良に該当しない。例えば、以下の請求項がある。

「リアアクスル本体(1)と、若干の半軸ケーシング(2)と、・・・とを含む自動車リアアクスルであって、前記半軸ケーシング(2)とリアアクスル本体(1)を加熱してリベット締め、半軸ケーシング(2)とリヤアアクスル本体(1)の外部の間は溶接され一体化することを特徴とする自動車リアアクスル。」

当該請求項に係る考案に記載の「リベット締め」、「溶接」が既知の方法の名称であり、「リベット締め」、「溶接」は部材の間の構造関係を規定している。

既知の方法により製品の形状又は構造を規定したくても、当該方法には通用のネーミングがない場合、出願人は明細書において技術用語として名称をつけるとともに当該方法の出所を記載し、名づけた方法の名称により製品の対応する構成を規定することができる。また、請求の範囲に方法の名称を記載して製品の形状又は構造を規定することもできる。

上述の「材料要素」、「方法要素」に関する説明を踏まえた上で、「材料要素」、「方法要素」を含む実用新案の請求項作成時の注意事項について、以下のとおり説明する。

① 請求項の特徴部分に、「材料要素」、「方法要素」のみを記載することをできるだけ回避する。さもなければ、実用新案の保護対象に該当しないと判断される可能性が大きくなる。

② 請求項に「材料要素」、「方法要素」が含まれる場合、既知ではない材料名称や方法名称で記載することをできるだけ避けるようにする。特にそれらを実用新案の改良点にすることを回避する。さもなければ、実用新案の保護対象に該当しないと判断される可能性が大きくなる。

③ 請求項には、既知材料及び/又は既知方法の組み合わせである「材料要素」、「方法要素」を記載することをできるだけ避ける。なぜならば、方式審査官はこれら組み合わせが既知材料、既知方法の範囲に該当するかどうかを判断できないからである。実際に、既知材料の名称の組み合わせは必ずしも既知材料であるわけではなく、既知方法の組み合わせは必ずしも既知方法であるわけでもない。このような組み合わせの使用を回避することができない場合は、請求項作成時に必要な公知技術調査を行い、当業者にこの組み合わせが依然として既知材料(例えば「マイクロ波釜」不服審判請求事案)、既知方法であると認めらえるように、明細書にこれらの組み合わせについて詳述すべきである。また、これらの組み合わせが当業界に周知されているものであり、広く一般的にも認められている名称や効果を有することを証明できれば、より好ましい。しかし、これらの組み合わせを本件実用新案の改良点にすることは、絶対に避けなければならない。

④ できるだけ既知材料の名称、既知方法の名称により請求項における「材料要素」、「方法要素」を記載する。このようにすれば、実用新案の保護対象に該当しないと判断される可能性は通常低くなる。

(5) 機能要素

請求項に機能的表現が含まれることは認められるが、機能的表現だけの記載は通常認められない。例えば、「複数の色を書くことができることを特徴とするボールペン。」という請求項は、ボールペンの機能しか記載されておらず、それに対応する構成を記載していないため、実用新案の保護対象に該当しない。

製品の構成要件が機能的モジュールであることは認められるが、この機能的モジュールが通常、実体のモジュールでもなければならない。

例として、以下の請求項が挙げられる。

「AT90CAN128制御回路のメインチップを含み、前記メインチップはそれぞれTFT液晶表示モジュール、タッチボタン、第1水晶振動子モジュール、制御ロジックモジュール、USBインターフェースチップ、光電隔離モジュール及びリセット回路と接続され、前記光電隔離モジュールはそれぞれ電源入力モジュールとCAN受信・送信チップと接続され、前記USBインターフェースチップはそれぞれ制御ロジックモジュール、第2水晶振動子モジュール及びUSBインターフェースモジュールと接続され、前記CAN受信・送信チップは試験される装置と接続されることを特徴とする携帯式CANBUS試験機。」

上記試験機に係る考案には、複数のモジュールが記載されているが、これらモジュールは明らかにハードウェアモジュールであるため、実用新案の保護対象に該当する。

一方、ソフトウェアは仮想な機能的モジュールであるとされている。実用新案の考案のポイントは、仮想な機能的モジュールであってはならない。

例として、以下の請求項が挙げられる。

「電子的な薬服用リマインド装置であって、前記電子的な薬服用リマインド装置は、キャップに固定接続された上蓋と外装ケースを含み、…前記外装ケース内に薬服用の周期を設定して提示するためのマイクロプロセッサーが設けられ、前記マイクロプロセッサーは、…を行うための薬服用周期設定モジュールと、…を行うための薬服用リマインドモジュールと、…を行うためのリマインド再起動モジュールとを備えることを特徴とする電子的な薬服用リマインド装置。」

上記マイクロプロセッサーに関する規定は、ハードウェアを含むが、マイクロプロセッサーを限定する機能的モジュールをも含む。明細書の記載から、これら機能的モジュールは実体ではなく、仮想なモジュールであると判断できれば、このようなクレームは実質上、マイクロプロセッサーに記憶されたプログラムを保護することとなるため、これら機能的モジュールは実用新案の保護対象に該当せず、削除しなければならない。

また、例えば「XXプログラムを内蔵したCPU」(XXプログラムは従来のプログラムの名称である)という記載のように、実用新案のクレームに既知のソフトウェア名称により規定されるハードウェア装置を記載することは認められる。

ただし、実用新案のクレームには、既知ではないソフトウェアに係る構成要件があることは認められない。実用新案のクレームに、既知ではないソフトウェアに係る構成要件がある場合、通常、2つの結果があり得る。すなわち、考案のポイントが「既知ではないソフトウェア」にあり、つまり、既知ではないソフトウェアに係る構成要件が必須要件である場合、この考案が実用新案の保護対象に該当しないと判断されて権利化ができなくなる可能性は極めて高い。一方、考案のポイントがハードウェアにあり、つまり、既知ではないソフトウェアに係る構成要件が必須要件ではない場合、この構成要件を削除することにより権利化を図ることができる。

(6) パラメータ要素

パラメータにより製品の考案を規定することができる。ただし、このパラメータは、製品の形状及び構造を規定するもの、又は具体的な部材の機能を規定するものでなければならない。

例として、以下の請求項が挙げられる。

「スリップによる巻き取り痕跡と擦り傷痕跡を軽減可能なゴム張りスリーブであって、スチールスリーブを含み、前記スチールスリーブの外部にポリウレタン保護カバーが接続され、前記ポリウレタン保護カバーの表面の粗さがRa8~10であり、前記ポリウレタン保護カバーの硬さがHS=50~55であることを特徴とするゴム張りスリーブ。」

上記考案は、粗さと硬さの数値により保護カバーの具体的な構造を規定しており、実用新案の保護対象に該当する。

また、以下の請求項もある。

「干渉防止電源回路構造であって、第1抵抗、第2抵抗及び第3抵抗を直列につなぐ分圧採用回路を含み、…、第1抵抗の別の端に模擬信号Vを負荷させ、前記ダイオードの負極に電圧を+5V負荷させることを特徴とする干渉防止電源回路構造。」

上記考案は、電圧値によりダイオードの機能を規定しており、実用新案の保護対象に該当する。

ただし、製品のパラメータにはプロセス改良におけるパラメータ要素が含まれないように注意すべきである。

例として、以下の請求項が挙げられる。

「耐摩耗床であって、4層構造に分けられ、上から下へ順に耐摩耗層、装飾層、中間層及び底層を含み、…,熱圧圧力が2.0~2.2MPaであり、熱圧温度が180~200℃であり、圧力を5~10minに保持して成形することを特徴とする耐摩耗床。」

上記考案におけるパラメータは、改良するプロセスのパラメータを特定するものであるため、実用新案の製品のパラメータ要素に該当しない。

以上、専利法第2条第3項の規定に照らして実用新案の「考案のカテゴリー」及び「考案を構成する構成要素」について検討したが、方式審査の実務において、請求項のカテゴリーが実用新案の保護対象に該当しない場合、審査官は通常、専利法第2条第3項により拒絶理由を通知するのに対して、請求項に保護対象に該当しない事項が記載されている場合、審査官は通常、専利法第26条第4項における簡潔要件に関する規定により、その事項を削除するように直接要求する。例えば、拒絶理由通知書には、「請求項には作業原理/作業経過/作業ステップが記載されているため、当該請求項は簡潔ではなく、削除すべきである。」というように指摘される可能性がある。

上述のどちらの拒絶理由を受けても、出願人にとっては高いリスクを負うことになる。例えば、請求項における事項を削除せざるを得なく、ひいては最終的に補正できないため、みなし取下げにされるという窮地に陥る可能性もある。したがって、出願人は請求項作成時に、実用新案の保護対象に対して十分に注意を払うべきである。具体的には、請求項に実用新案の保護対象に該当しない要素を記載することを回避するために、上記に紹介した実用新案の保護対象の要点に基づいて、保護を求める考案のカテゴリーが実用新案の保護対象に該当するか、実用新案として出願することができるかを十分に検討することが必要である。

2.進歩性の程度で判断する実用新案出願の要否

上述のように、中国では、実用新案に対しては、無審査制で方式審査のみが行われている。そして、方式審査において進歩性が審査されていないので、換言すれば、進歩性を有しない実用新案出願であっても、登録される可能性がある。ただし、実用新案の安定性を確保するために、出願時に進歩性について、十分な注意を払うべきである。

専利法第22条第3項には、進歩性とは、出願日前の公知技術に比べて、その発明が格別の実質的特徴及び顕著な進歩を有し、その実用新案が、実質的特徴及び進歩を有することをいうと、規定されている。このことから、実用新案の進歩性の程度は、発明の進歩性の程度より低いことが分かる。詳細については、以下のとおり説明する。

(1) 公知技術の分野

発明特許については、当該発明が属する技術分野だけでなく、それに類似する又は関連する技術分野、及び当該発明が解決しようとする課題から当業者が技術的手段を探し出すことになる他の技術分野を合わせて、考慮すべきである。

実用新案については、通常、当該実用新案が属する技術分野に重点を置いて進歩性を考慮する。ただし、公知技術に明確な示唆がある場合、例えば、公知技術に、当業者が類似する又は関連する分野から関連する技術的手段を探し出すことになる明確な記載がある場合、類似する又は関連する分野を考慮することが認められる。

例えば、食品スライサーに係る考案が食品加工機械の分野に属するため、当業者は進歩性を判断する際に、公知技術におけるスライサーを優先的に考慮する。また、公知技術からの明確な示唆のもとに、類似する又は関連する他の食品加工機械、ひいては共通の機械分野の公知技術を考慮することもできる。上述の類似する又は関連するものには、医療機械分野を含まないことが明らかであり、義歯プラスチック充填加圧に用いられる調整可能なボックス圧力装置の構造により食品スライサーの進歩性を評価することができない。

(2) 引用発明の件数

特許の場合には、進歩性を評価する際の引用発明の件数には制限はない。

一方、実用新案の場合には、通常1件又は2件の引用発明によってその進歩性を評価することができる。公知技術の「単なる寄せ集め」である実用新案について、場合によっては2件以上の引用発明によりその進歩性を評価することができる。

上記「単なる寄せ集め」について、『専利審査基準』第2部第4章4.2に記載の「発明の進歩性判断」における「組合せ発明」に関する規定を参酌して理解することができる。具体的には、保護を求める発明は単に、ある既知の製品又は方法を組み合わせ、又はつなぎ合わせて、各々は通常の方法で作動しており、全体的な技術的効果が各組合せ部分の効果の総和であり、組み合わせ後の各構成要件の間には機能上の相互作用の関係がなく、単なる寄せ集めにすぎない場合、このような組合せ発明は進歩性を有しないと規定されている。

例として、以下の請求項が挙げられる。

「開口部が設けられたベースと、
U字形であり、前記開口部の中に設けられ、収容部が設けられた熱伝導板と、
前記ベースに設けられた放熱体と、を含むヒートパイプ放熱器であって、
少なくとも1つのヒートパイプが平らな加熱端部と冷却端部を有し、前記加熱端部は熱伝導板に設けられ、かつ放熱体と接触し、冷却端部は前記放熱体の端面に設けられることを特徴とするヒートパイプ放熱器。」

http://www.sipo.gov.cn/ztzl/ywzt/zlfswjdpx/201103/t20110324_590914.html

請求項と最も近い公知技術である引用文献1との相違点は、「(1)熱伝導板がU字形であり、それに収容部が設けられる。(2)ヒートパイプは平らな加熱端部と冷却端部を有する」という2点のみである。引用文献2には相違点(1)が開示されており、かつ引用文献3には相違点(2)が開示されている場合、相違点(1)と相違点(2)は相互的に協力関係がなく、かつ相互的な影響と作用がない、つまり相互的な関係を有さないため、この請求項は引用文献1~3の組み合わせに対して進歩性を有しない。

実用新案の上記2つの特徴を利用して、進歩性があまり高くなく、特許の実体審査の進歩性審査を通りにくい発明について、実用新案出願することができる。進歩性が高くない発明が以下の2つの場合に該当するとき、実用新案出願することは最も適切である。

(1) 当該発明が属する技術分野の公知技術には、当該発明のほとんどの構成要件、又は発明と最も類似する公知技術との相違点が開示されておらず、類似する又は関連する分野において、当該発明のほとんどの構成要件、又は上記相違点を開示する公知技術には転用又は組み合わせへの明確な示唆がなく、つまり公知技術には、当業者が類似する又は関連する分野から関連する技術的手段を探す動機づけとなる記載がない場合。

(2) 当該発明の進歩性を否定するには3件以上引用する必要があり、かつ当該発明は上記3件以上の公知技術の「単なる寄せ集め」に該当しない場合。

なお、上述のような発明について実用新案出願することは、単に特許出願より登録される可能性が高くなるだけである。無効審判において、登録実用新案の請求項が進歩性を有するかどうかは、やはり無効審判請求人の提出する証拠、無効審判請求の理由の説得力、及び審判官の進歩性判断への把握によるものである。進歩性について、「Ⅳ.実用新案の無効審判の2.進歩性」に詳述する。
 
3.実用新案の単一性

中国専利法第31条第1項には、「一件の発明又は実用新案の専利出願は、一つの発明又は実用新案に限らなければならない。一つの全体的な発明構想に属する二つ以上の発明又は実用新案は、一件の出願とすることができる。」と規定されている。また、中国の審査基準第1部第2章の「9.専利法第31条第1項について」には、実用新案出願の単一性審査は、「明らかな単一性違反」の審査のみであることが明確に規定されている。

「明らかな単一性違反」とは、公知技術の調査を行わなくても、かかる考案が同一の又は対応する技術的特徴を有していないか、あるいは、同一の又は対応する技術的特徴が全て当業界の慣用手段であると判断できること、つまり、同一の又は対応する特別な技術的特徴(先行技術に対する貢献を明示するもの)を有せず単一性違反に該当することが明らかであることをいう。例えば、1件の出願に二輪車の座席と車輪のそれぞれに関する独立項があり、これらの独立項が、同一の又は対応する構造や形状の特徴を有しない場合、同一の又は対応する特別な技術的特徴を有することは明らかに不可能であるため、審査官は、単一性違反に該当することを、調査せずに判断することができる。

実用新案における明らかな単一性違反を避けるために、少なくとも下記2点に留意すべきである。

① 少なくとも、特許請求の範囲における独立項に係る考案どうしが同一の又は対応する技術的特徴を有することを確保する。また、必要に応じて、それら同一の又は対応する技術的特徴が、本考案の先行技術に対する貢献を明示するものであることを明細書において説明する。

② 特許請求の範囲における独立項に係る考案どうしが、明細書の「背景技術」欄に記載した先行技術の特徴以外にも、同一の又は対応する技術的特徴を有することを確保する。実用新案の方式審査では公知技術の調査はしないので、「背景技術」欄への記載は、審査官が特別な技術的特徴を判断する際の根拠となる。また、方式審査においては、審査官が、「背景技術」欄に記載の技術的特徴を除外した上の独立項に係る考案どうしが同一の又は対応する技術的特徴を有するか否かを判断することにより、単一性要件を満たしているかどうかを判断する。

例えば、実用新案の「背景技術」欄に記載の先行技術が構成要件a、bからなり、請求項には、構成要件a、b、cからなる考案1と、構成要件a、b、dからなる考案2とが記載されている場合、構成要件a、bを除くと、考案1には構成要件cが、考案2には構成要件dが残ることになる。この場合、構成要件cとdについて、同一の又は対応する技術的特徴であることを証明できなければ、考案1と2は明らかな単一性違反に該当すると判断される。

上述の2点を満たしてさえいれば、できるだけ多くの考案を1件の実用新案出願にまとめることができる。また、明細書及び請求項をうまく作成できれば、実質的に単一性要件を満たしていない考案を1件の実用新案権で保護することも可能になる。これにより、分割出願による費用増を軽減することもできる。

4.実用新案の安定性の向上と早期権利化の実現

(1) 方式審査

実用新案の安定性を向上させ、早期権利化を図るために、実用新案の方式審査の内容を事前に把握しておく必要がある。実用新案の方式審査は主に、出願書類の形式に対する審査と、明らかな実質的不備に対する審査とを含んでいる。

出願書類の形式に対する審査の内容には、提出書類の要件(専利法26.1-2)、書類の言語(中国語の使用)等(細則3)、書類の一式2部(細則15.1)、願書の記載様式(細則16)、明細書、請求の範囲、図面、要約の形式的要件(細則17~23)、補正の時期、自発補正(細則51)、補正の方式、差替用紙(細則52)、署名・捺印、書誌事項の変更(細則119)、文字、図式、番号(細則121)等、優先権(専利法30、細則31)が含まれている。そのうち、実用新案の明細書には、実用新案に係る製品の形状、構造又はその組み合わせを示す図面がなければならない。

出願書類の明らかな実質的不備に対する審査の内容には、不特許事由(専利法5、専利法25)、保護対象(専利法2.3)、新規性及び産業利用性の明らかな欠如(専利法22.2、専利法22.4)、外国人による出願及びその代理(専利法18、専利法19.1)、秘密保持審査(専利法20.1)、実施可能要件(専利法26.3)、サポート要件又は明確性要件(専利法26.4)、単一性・分割出願(専利法31.1、細則43.1)、補正による新規事項追加の有無(専利法33)、ダブルパテントの禁止(専利法9)が含まれている。実用新案の明らかな実質的不備に対する審査と特許の実体審査との違いは主に、「明らかな」という点にある。

明らかな新規性欠如の審査とは、公知技術の調査を行うことなく、出願の「背景技術」欄に記載の先行文献、当該出願の国際調査報告に引用された新規性に係る文献、新規性喪失の例外規定の適用が認められずに新規性を否定し得る文献及び優先権主張が認められず新規性を否定し得る先願を利用して、請求項の新規性を審査することをいう。一方、進歩性については、たとえ国際調査報告に進歩性に係る文献が記載されていても、実用新案の方式審査において進歩性は審査されない。

明らかな不明確さ、サポート要件違反、実施可能要件違反及び必須要件の欠如については、形式的に所定の要件を満たしてさえいれば指摘されることはない。例えば、請求項、特に独立項については、「考案の開示」欄に完全かつ同一な内容が記載されていることが要求される。そうでないと、サポート要件違反と判断される可能性が高くなる。請求項が実質的に明細書により裏付けられているかどうかについては、技術についての完全な理解と公知技術の調査による判断が必要となるので、実用新案の方式審査では、通常そこまで審査することはできない。

実用新案の方式審査にはこのような特徴があるため、登録後の請求項に新規性・進歩性の欠如或いはその他の不明確な実質的不備があり、請求項が不安定になる可能性がある。

また、実用新案の方式審査は形式上の審査を重んじるため、書類の記載の形式に対する審査が非常に厳しい。弊所でも実際に、要約における「主な用途」に関する記載の欠如(細則23.1)、明細書における解決しようとする課題に関する記載の欠如(細則17.1.3)を理由とする補正通知書を受けたことがあるが、特許出願の場合には、そのような理由による補正通知書を受ける可能性はほとんどない。

したがって、実用新案の早期権利化を図るためには、特許よりも厳格に出願書類を作成し、補正通知書を受ける可能性を低くするようにすべきである。

(2) 作成時の形式上の注意事項

実用新案の出願書類を作成する際、形式上の以下の点について特に注意すべきである。

① サポート要件違反の指摘を受けないように、明細書の「考案の開示」欄には、全ての請求項と全く同一の内容があることを確保する。

② 独立請求項には、「おいて書き」や「~を特徴とする」というような表現を使用し、考案の特徴箇所を明確に記載する。

③ 請求項には、不明確だと指摘されやすい表現をなるべく記載しない。例えば、「厚い」、「薄い」、「強い」、「弱い」、「高温」、「高圧」、「広い範囲」、「やや低い」、「約」、「少し」、「概ね」、「等」、「例えば」、「好ましくは」、「最適」、「必要に応じて」、「してもよい」などのような表現の使用は避けるべきである。

④ 請求項を機能的又は効果的な表現で特定するような記載をしない。特徴部分に、考案の機能のみを記載することは認められない。構造により特定できないか、あるいは構造により特定するよりも機能・効果により特定するほうが適切であり、かつその機能又は効果が明細書に十分に説明されている場合のみ、機能又は効果により考案を特定することが認められる可能性がある。

⑤ 否定的表現、「除くクレーム」のような書き方はできるだけしないほうがよい。このような書き方は、クレームに不明確さをもたらす可能性がある。その例として、「磁気治療装置を取り外してもよい磁気治療マッサージチェア」、「掛けひもを有しないことを特徴とする掛けひも型ランドセル」が挙げられる。

⑥ 従属項は、先の請求項にのみ従属することができる。2つ以上の請求項を引用する多項従属項は、先の請求項の一つにのみ従属することができる。また、マルチのマルチクレームは認められないので、作成すべきではない。

上記①~⑥に留意するとともに、出願人は請求項が専利法実施細則第19~22条に規定されているその他の形式的要件をも満たすようにしなくてはならない。

また、出願書類の細かい箇所の形式的不備(例えば前述のような要約の「主な用途」記載無し)による補正通知書の発行を未然に防ぐために、実用新案の明細書、図面、要約及び選択図の作成はすべて、形式上において専利法第17、18、23条に規定されている各要件を満たしていなければならない。

以上は一般的な注意事項である。また、分野によって間違えやすいところが異なっているので、実際の作成時にその分野の特徴なども考慮するべきである。

(3) 出願前の自己点検

実用新案の方式審査では明らかな不備しか指摘されないので、その審査の不十分さを補うために、出願前に専利法実施細則第65条第2項に照らして自己点検を行うことが必要である。具体的に言えば、以下のチェックを行うべきである。

専利法第5条或者第25条に規定する不特許事由に該当するか否か。

専利法第2条第3項に規定する保護対象に該当するか否か。

専利法第22条第4項に規定する産業上利用性を有するか否か。

専利法第26条第3項に規定する実施可能要件を満たしているか否か。

専利法第22条第2項に規定する新規性を有するか否か。

専利法第22条第3項に規定する進歩性を有するか否か。

専利法第26条第4項に規定するサポート要件、明確性要件、簡潔性要件を満たしているか否か。

専利法実施細則第20条第2項に規定する「独立項は課題を解決するための必須要件を記載しなければならない」という要件を満たしているか否か。

分割する実用新案出願は、専利法実施細則第43条第1項に規定する「分割出願は原出願の記載の範囲を超えてはならない」という要件を満たしているか否か。

そのうち、新規性、進歩性の判断については、公知技術を調査して見つけた先行文献に基づいて検討するのが望ましい。

上述の実質的要件についてのチェック以外に、形式的要件についてもチェックを行うことで、方式審査で補正通知書を受ける可能性をできるだけ低くするようにすべきである。

特に重要な出願の場合、上述のチェックは中国の実用新案実務に詳しい弁理士に依頼するのが好ましい。弁理士によるチェックは、形式上のチェックだけにとどまらないので、早期権利化につながるだけでなく、将来起こり得る第三者による無効審判を有利に進めることにも役立つといえる。

下表は弊所の「実用新案出願用チェックシート」である。新規性や進歩性以外の主な条項のチェック項目がすべて含まれているので、出願人又は弁理士はこのシートを利用することで、逐条的にチェックすることができ、気になるところを担当者に確認して出願書類を修正することもできる。それによって、形式的不備、ひいては権利の安定性に影響し得る不備を予め解消しておくこともできる。
 
実用新案出願用チェックシート
形式的不備について
項目 結論 提案
要約 内容は完全であるか否か、要約の文字数は300字を超えているか否か(細則24.1、24.2)    
選択図 選択図を指定しているか否か(審査基準1.2.7.5(5))    
請求の
範囲
明らかな単一性違反の請求項があるか否か(専利法31.1)    
請求項には「において、…を特徴とする」というような記載があるか否か(細則21.1-2)    
従属項の従属関係は適切であるか否か(細則21.3、22.2)    
請求の範囲はその他の形式的要件を満たしているか否か(細則19、22.1)    
明細書 考案の名称は25字を超えているか否か、請求項の主題名と対応するか否か(審査基準1.1.4.1.1)    
「考案の開示」の欄には各請求項に対応する考案の記載があるか否か(審査基準1.2.7.2(4))    
明細書のそれぞれの部分は、その他の形式的な要件に合っているか否か(細則17)    
図面 文言の記載は図面の符号に一致しているか否か(細則19.3)    
図面に不必要な文言注釈があるか否か(細則19.4)    
*以上の項目をチェックするのは、出願書類の不備を修正することにより、補正通知書の発行可能性を低くするためである。
実質的不備について
項目 結論 提案
実用新案の定義に合致するか否か(専利法2.3)    
不特許事由に該当するか否か(専利法5、専利法25)    
産業上利用性を有するか否か(専利法22.4)    
実施可能要件に違反するか否か(専利法26.3)    
サポート要件に違反するか否か(専利法26.4)    
請求項は明確、簡潔であるか否か(専利法26.4)    
請求項に課題を解決するための必須要件が欠如しているか否か(細則20.2.)    
分割出願は原出願の記載の範囲を超えていないか否か(細則43.1)    
*以上の項目をチェックするのは、実用新案登録後に無効にされる可能性を低くするためである。


II. 特実併願の活用

明細書を作成し出願しようとする際に、特実併願の活用を検討すべきである。特実併願制度は1990年代の半ばに始まったものである。その当時、中国特許庁において受理する出願件数が年々急激に増加した結果、一部の発明特許出願は、出願から権利化までに6~7年間もかかり、多くの出願人の不満を招いた。この状況に鑑みて、中国特許庁では、専利法及び専利法実施細則を改正せずに、出願人が同日または異なる日に同様の発明に関して特許出願と実用新案出願の両方を行うことを認めるという仮措置を講じた。その結果、出願人は実用新案出願により、早期に権利化して発明を適時に保護することができるとともに、特許出願が登録要件を満たした場合には、実用新案権を放棄することにより、特許権を取得することができるようになった。

しかし、上述の仮措置によって、①出願人が実用新案出願を先にして、特許出願を後にする場合、20年以上の権利期間を得る可能性があるという問題と、②特許権が付与される前に、実用新案権が放棄や権利期間満了により消滅して自由技術となった場合、その後に特許権が付与されると、自由技術となったものが再び特許の権利範囲に入るという問題が引き起こされた。

その後今世紀に入って、特許出願の滞りが随分緩和され、かつ、特実併願には、上述のような解決が急務な問題があったため、2008年に第3次専利法改正を議論する際に、中国特許庁は特実併願制度を残すかどうかについて、幅広く意見を募集した。その結果、この制度は出願人に、より広い選択の余地を与えることができる上に、中国の国情にも適しているので、残してほしいという意見が多く、第3次改正専利法において、同制度は残されたのである。ただし、上述の問題を解決するために若干改正され、第3次改正専利法においては、出願人が特許出願と実用新案出願を同日に行わなければならないと規定されたことで、出願人が20年以上の権利期間を得る可能性はなくなった。また、先に取得した実用新案権が消滅していない場合のみ、実用新案権を放棄することにより特許権を受けることができると規定されたので、自由技術となったものが再び特許の権利範囲に入るという問題も解決された。

現在、中国の審査期間は、以前より随分短縮されたが、特許の場合はやはり出願から権利化まで最低でも数年はかかる。長い権利期間を望みながら早期権利化を希望する場合において、特実併願制度はそれなりの価値があると思われる。以下に法律の規定、適用条件などからこの制度を説明する。

1.関連法規

中国専利法第9条第1項:

同一の発明創造には一つの専利権のみが付与される。ただし、同一の出願人が同日に同一の発明創造について実用新案出願と特許出願の両方を行っており、先に取得した実用新案権が消滅しておらず、かつ出願人が当該実用新案権を放棄するという意思表明を行った場合、特許権を付与することができる。

中国専利法実施細則第41条第2項~第5項:

同一の出願人は同日(出願日を指す)に、同一の発明創造について実用新案出願と特許出願の両方をした場合、出願時に同一の発明創造について他の出願もしたことをそれぞれ説明しなければならない。説明がない場合、専利法第9条第1項の同一の発明創造に一つの専利権しか付与されない旨の規定に基づいて取り扱う。

国務院特許行政部門は、実用新案権を付与することを公告する際、出願人が本条第2項の規定に基づき同時に特許出願をしたという旨の説明を公告しなければならない。

特許出願を審査して拒絶理由が見つからなかった場合、国務院特許行政部門は、出願人に指定期間内にその実用新案権を放棄する旨の意思表明を提出するよう通知しなければならない。出願人が放棄する意思を表明した場合、国務院特許行政部門は、特許権を付与する決定をし、かつ特許権を付与することを公告する際に、出願人が実用新案権を放棄した旨の意思表明も公告しなければならない。出願人が放棄に同意しない場合、国務院特許行政部門は当該特許出願を拒絶しなければならない。出願人が期間内に応答しなかった場合、当該発明特許出願は取り下げられたものとみなされる。

実用新案権は特許権の登録公告日から消滅する。

2.特実併願のメリット

特実併願のメリットは、特許出願のみを行う場合と比較して、費用が若干高くなるだけで、特許権を取得できるまでの数年間、実用新案権による保護が得られるという点にある。具体的に言えば、外国出願人にとって、中国へ特許出願する場合、翻訳費用はかなりの負担となる。しかし、特実併願の場合、特許と実用新案は通常、大体同じ出願書類を使用するため、特許出願のみの場合と比較しても、特実併願の場合、実用新案の出願費用などわずかな費用が増加するだけである。

また、中国において、特許出願の公開後、出願人は、仮保護の権利を有するものの、特許権が正式に成立するまでは、中国の裁判所に侵害訴訟を提起することはできない。それに対して、特実併願を行った場合、実用新案権を取得すれば権利行使を行うことができる。また、前述のように、中国裁判所では現在、実用新案権は、特許権と比較しても効力が弱いものではない。さらに、特許出願がその後の審査において特許性無しと判断された場合でも、実用新案権者に悪意があること、又は遡及しないと明らかに公平の原則に違反することを証明する証拠が有る場合を除き、その審査結果は、履行済の、実用新案権に基づく中国裁判所の判決や裁決に対して、遡及効を有さない。

3.特実併願の適用条件

(1) 権利化しようとする発明は、特許出願が可能であり、かつ実用新案出願が可能であること。

特許の保護範囲は、実用新案の保護範囲より広いので、実用新案を出願できるかどうかを判断すればよい。具体的な判断基準は、前述の「実用新案の保護対象」を参照すれば分かる。

(2) 特許出願と実用新案出願に同じ技術的範囲の請求項があること。

上述のように、特実併願は、同一の発明創造について実用新案出願と特許出願の両方を行うことを前提としている。中国の審査基準では、「同一の発明創造」については、同じ技術的範囲の請求項があると規定している。すなわち、特実併願制度が適用される対象は、実用新案及び特許出願における同じ技術的範囲の請求項であって、明細書ではない。例えば、出願しようとする実用新案と特許は、明細書が全く同じであっても、全ての請求項におけるそれぞれの技術的範囲が異なっていれば、特実併願をする必要がなくなる。ただし、この場合も拡大先願にならないように、やはり同日に出願する必要がある。一方、出願しようとする実用新案と特許について、明細書は全く同じではなくても、全て又は一部の請求項の技術的範囲が同じであれば、特実併願条件に従って出願しなければならない。さもないと、専利法第9条に規定する特実併願による例外の適用を受けることができなくなる。

また、「同じ技術的範囲」について、中国専利法、実施細則及び審査基準には明確な判断基準は示されていない。請求項が全く同一又は文言上の表現の違いしかない場合は当然、「同じ技術的範囲」に該当する。しかし、出願時の特許出願と実用新案出願との請求項が全く同一であり、後の審査において請求項の不明確さやサポート要件違反などを解消するために、特許出願の請求項を補正した場合でも、同じ技術的範囲を有するとして、依然としてダブルパテントに該当すると判断されるか否かについての、中国の審査官の見解には、ここ数年変化がみられる。筆者の経験によれば、中国の特許審査において数年前まで、請求項の文言調整以外の補正を行うと、技術的範囲が変わったと判断されていたが、ここ数年の拒絶理由通知からみると、請求項の不明確さのみを解決するための補正であれば、通常、技術的範囲が依然として同じであると判断されることが多くなった。しかし、請求項の上位概念を下位概念に変更することにより、サポート要件違反などを解消する補正であれば、中国の審査官はやはり、技術的範囲が変わったと判断している。

また、仮に2つの請求項は、ともに撮像装置に関するものであり、一方の請求項には「レンズ」という記載があり、もう一方の請求項に「レンズ」というが記載がないという点以外は、両者が全く同じである場合、この2つの請求項は、技術的範囲が同じであると判断されるかどうか。筆者の理解では、請求項に「レンズ」という記載がなくても、当業者なら撮像装置に「レンズ」があることを知っているはずであるので、このような2つの請求項は技術的範囲が同じであると判断されるべきではないかと考える。しかし、一方の請求項に「レンズ」と記載され、もう一方の請求項に「単焦点レンズ」と記載されているのであれば、この2つの請求項は通常、技術的範囲が同じであるとはみなされない。

以上をまとめると、中国の特許審査における「同じ技術的範囲」とは、技術的範囲が部分的に重なっていたり、一方の技術的範囲が他方の技術的範囲を完全にカバーしていたりするという状況は含まず、全く同一の技術的範囲を意味している。ただし、技術的範囲が全く同一であるか否かを判断する際に、請求項の文言上の表現のみならず、明細書や図面、当業者の技術常識なども考えた上で全体的に判断しなければならない。

(3) 同一の出願人が、同日(実際の出願日を指す)に特許出願と実用新案出願を行うこと。

この「同日」とは、実際の出願日が同一であることを指している。この点には、特に注意すべきである。つまり、特許出願と実用新案出願とが同じ優先権を主張する場合でも、中国への出願を同日にしなければならない。前述したように、これは主に出願人が20年以上の権利期間を得ることを未然に防止するためである。

では、仮に親出願(特許)が特実併願であり、子出願が特実併願の実用新案と同じ請求項を有するとして、子出願に特実併願制度を適用することができるのかどうかという点については、中国の審査基準には明確な規定はないが、筆者の理解では、適用できると考える。なぜならば、この子出願は、親出願の実際の出願日を継承しているので、実用新案と同日に出された出願であるとみなすことができるからである。ただし、子出願は、独立した存在となるため、特実併願制度の適用を確保するために、分割出願時にも特実併願の旨の説明をする必要がある。

(4) 出願時にそれぞれが特実併願の旨の説明を記載すること。

実際には、実用新案願書や特許願書の下記の項目にチェックすれば、この説明をしたものとみなされる。



(和訳:本出願人は同一の発明創造に対して、本実用新案出願を行うのと同日に特許出願を行うことを言明する)



(和訳:本出願人は同一の発明創造に対して、本特許の出願を行うのと同日に実用新案出願を行うことを言明する)

出願時にこの説明を行わなかった場合は、特実併願制度の適用を受けることができない。すなわち、出願後の審査段階において、登録実用新案を放棄することによりダブルパテントを避けることはできず、ダブルパテントの拒絶理由を受けた場合は、特許出願の請求項を補正するしかない。

(5) 先に取得した実用新案権が消滅していない場合のみ、実用新案権を放棄することによって、特許権を取得することができること。

前述したように、この条件は主に、自由技術となったものが再び特許の権利範囲に入ることを防ぐために設けられたものである。この条件があるため、出願人は特許が登録されるまで実用新案権の有効性を確保しておかなければならない。さもないと、実用新案権を失うだけでなく、同一の発明について特許権を取得できないおそれが出てくる。

4.特実併願のルート

出願人は、特実併願を2つのルートで行うことができる。すなわち、直接、中国で同日に特許出願と実用新案出願を行うルートと、中国以外の国で第1国出願を行った後、パリ条約に基づきその出願の優先権を主張して、中国で同日に特許出願と実用新案出願を行うルートである。

一方、PCTルートでは実際、特実併願は不可能である。しかし、PCTルートについて、下記の2つの方法が考えられないかという質問をよく受ける。

方法(1



まず、PCT出願を行い、中国移行時に特許と実用新案の両方を指定する方法。

方法(2



まず、中国特許庁にPCT出願と、特許又は実用新案の出願という2件の出願を同日に提出し、その後PCT出願の中国移行時に、最初に中国特許庁に提出したのとは異なる保護の種類を指定することにより、結果としては、特実併願制度を達成する方法。

しかしながら、この2つの方法はいずれも不可能である。理由について以下のとおり説明する。

方法(1)について、PCT出願の中国移行時に、「特許」か「実用新案」のいずれか一方を選択しなければならず、両方を指定することはできないので、この方法は実際には不可能である。

方法(2)について、PCT出願時には、中国国内における実際の出願が発生しておらず、この出願が特許出願であるのか実用新案出願であるのかが確定しておらず、かつ、PCT出願時に特実併願の旨の説明をすることができないため、「特許出願と実用新案出願を同日に行う」という条件を満たしていない。したがって、この方法も、特実併願の適用を受けることができない。

5.典型例

特許出願の審査結果に応じて、特実併願の案件には、下記の2つの状況が起こる可能性がある。

(1) 特許出願の審査の過程において補正が行われたことで、同じ技術的範囲の請求項がなくなり同一性が損なわれた場合、実用新案を放棄する必要がなく、実用新案権と特許権は並存していく。

(2) 特許出願の審査の過程において補正が行われていないか、又は補正後にも同じ技術的範囲の請求項がある場合は、中国の審査官は、ダブルパテントを回避するために特許か実用新案かを選択するように通知する。出願人が実用新案権を放棄すれば、実用新案権は特許の登録日に消滅し、実用新案権から特許権へのスムーズな移行が可能である。

 
III. 実用新案の補正

1.補正の時期

実用新案の補正は、方式審査、不服審判及び無効審判の段階に限られている。裁判所の裁判段階では、補正は一切許されない。

(1) 方式審査段階

出願人にとって、補正が可能な時期は、方式審査段階における自発補正の時期と、補正通知書又は拒絶理由通知書を受けた時という2つである。

自発補正

専利法実施細則第51条の規定によると、出願人は出願日から2ヶ月以内に実用新案の出願書類について自発的に補正することができる。また、この2ヶ月という期間を経過した後に提出した補正書類であっても、補正された書類によって当初の出願書類の不備が解消され権利付与の見込みがあれば、このような補正は受理される。

実用新案権の取得を求める国際出願については、中国国内段階に移行する際に、PCT条約第28条又は第41条に基づいて補正することができる。さらに、実用新案を公告する準備作業の前に、専利法実施細則第113条の規定に基づいて誤訳を補正することができる。

補正通知書又は拒絶理由通知書の受領後の補正

補正通知書の受領後の補正

出願人は、補正通知書の受領後、通常2回の補正の機会がある。

補正によって不備を解消できる出願書類に対して、審査官は、補正通知書を発行する。これが、出願人にとって、1回目の補正の機会である。また、出願人が補正を行ったにもかかわらず、出願書類に依然として不備が存在する場合、審査官は通常、再度補正通知書を発行する。これが、出願人にとって、2回目の補正の機会である。補正によって解消できる不備に対して、補正通知書を2回発行し、かつ指定期間内に、出願人の反論又は補正によって依然として不備が解消されない場合、審査官は拒絶査定を発行することができる。

したがって、2回目の補正通知書への応答時に、拒絶査定されることを避けるために、できるだけ拒絶理由に基づいて補正を行うことを勧める。また、応答書の提出前に、審査官と直接電話で意見交換することも必要であると思われる。

拒絶理由通知書の受領後の補正

出願書類に補正によって解消できない明らかな実質的不備が存在すると判断した場合、審査官は、拒絶理由通知書を発行する。これが、出願人にとって、1回目の補正の機会である。

審査官から発行された拒絶理由通知書に対して、出願人が指定期間内に更に説得力のある意見書及び/又は証拠を提示せず、通知書に指摘された不備に対して補正を行っていない場合、審査官は、拒絶査定を発行することができる。例えば、誤字や表現方法だけを変更したものが挙げられる。

また、通知書において指摘された不備に対して補正を行ったが、指摘された不備が依然として存在する場合にも、出願人に再度陳述及び/又は補正する機会が与えられるべきである。これが、出願人にとって、2回目の補正の機会である。

さらに、2回目の補正が同じような不備に関するものであり、補正後の出願書類に既に通知したことのある不備が依然として存在する場合、審査官は、拒絶査定を発行することができる。

(2) 不服審判段階

不服審判段階において、出願人は、下記の4つの場合に補正する機会が与えられる。

不服審判請求を提起する時

不服審判請求人は、拒絶査定を受領した日から3ヶ月以内に不服審判請求を提起する場合、出願書類に対して補正を行うことができる。

不服審判通知書への応答時

合議体から発行された不服審判通知書に対して、不服審判請求人は、当該通知書を受領した日から1ヶ月以内に通知書に指摘された不備について、書面にて応答する場合、出願書類に対して補正を行うことができる。

不服審判請求口頭審理通知書への応答時

合議体から発行された口頭審理通知書に対して、不服審判請求人は、当該通知書を受領した日から1ヶ月以内に通知書に指摘された不備について、書面にて応答する場合、出願書類に対して補正を行うことができる。

口頭審理への出頭時

口頭審理に出頭する際、出願書類に対して補正を行うことができる。

ただし、中国において、不服審判では通常、口頭審理は行わない。

(3) 無効審判段階

無効審判段階では、権利者は、以下の4つの場合に補正する機会が与えられる。

無効審判請求通知書への応答時

無効審判請求通知書を受領した日から1ヶ月以内に、権利者は、請求の範囲に対して補正を行うことができる。

請求人が無効理由の増加又は証拠の補充をする場合

請求人が無効審判請求を提出した日から1ヶ月以内に無効理由を追加する場合、権利者は、補正を行うことができる。

請求人が無効審判請求の提起日以降に無効理由を追加する以下のような場合において、権利者は補正を行うことができる。すなわち、権利者が併合方法で補正した請求項に対し、請求人が審判委員会の指定した期間内に無効理由を追加する場合、請求人が提出した証拠と明らかに対応していない無効理由を変更する場合である。

また、請求人が無効審判請求を提出した日から1ヶ月以内に証拠を補充する場合、権利者は、補正を行うことができる。

請求人が無効審判請求の提起日以降に証拠を補充する以下のようなの場合において、権利者は補正を行うことができる。すなわち、権利者が併合方法で補正した請求項又は提出した反証に対し、請求人が審判委員会が指定した期間内に証拠を補充し、かつ当該期間内に当該証拠と組み合わせて、無効理由を具体的に説明する場合、口頭審理の弁論が終了する前に、その技術分野における公知で、かつ常識的な証拠、又は証拠の法定形式を完備させるための公証書(提出した外国語証拠の中国語訳文を含む)を提出し、かつ当該期間内に当該証拠に基づいて具体的な無効理由を説明した場合。

審判委員会が請求人の主張しなかった無効審判請求又は証拠を引用した場合、権利者は請求の範囲に対して補正を行うことができる。

審判委員会が無効審判請求の審決を下す前に、権利者は請求項又は請求項に含まれる考案を削除することができる。

2.補正の原則

どの段階の補正も専利法33条の規定に合致しなければならない。また、方式審査段階の補正は、専利法実施細則51条第3項、専利法実施細則第43条第1項、専利法第31条第1項、専利法実施細則第40条の規定に合致しなければならない。さらに、不服審判段階の補正は、専利法実施細則第61条第1項の規定、無効審判段階の補正は、専利法実施細則第69条の規定に合致しなければならない。

(1) 一般原則

方式審査段階、不服審判段階及び無効審判段階において、出願書類に対して行った補正はいずれも、当初明細書及び請求の範囲に記載された事項の範囲を超えてはならない。つまり、全ての補正は、専利法第33条の規定に合致しなければならない。その判断基準は、特許の補正による新規事項の追加に対する判断基準とほぼ同様である。

通常、拒絶理由に基づいて実用新案の保護対象の規定に合致しない請求項の構成要件を削除する補正は、当初明細書及び請求の範囲に記載された事項の範囲を超えていないと判断される。例えば、請求項から、ある部材を限定する材料要素を削除し、当該材料要素が新しい部材に関するものであっても、本発明の発明ポイントではない場合、当初明細書及び請求の範囲には、当該部材が当該材料要素によって規定されている旨の記載があったとしても、出願人は当該材料要素を削除することができる。

補正による新規事項の追加に係る拒絶理由通知書に対して、出願人が出願書類を補正せずに反論のみを行い、かつその反論が認められない場合、審査官は、拒絶査定を発行することができる。したがって、このような通知書については、慎重に取扱うべきである。審査官の認定した事実が間違っているか、又は事前に審査官と意見交換して審査官から反論に対する同意を得ている場合以外、反論のみで応答することはできるだけ避けたほうがよいと思われる。

第1回と第2回拒絶理由通知書に指摘された不備がともに「補正による新規事項の追加」であり、第3回拒絶理由通知書においても「補正による新規事項の追加」と指摘された場合、認定された事実が前の2通の通知書が認定した事実と異なっていたとしても、審査官は、専利法第33条の規定に基づいて拒絶査定を発行することができる。つまり、出願人は、「補正による新規事項の追加」には、通常補正の機会は2回しか与えられない。

(2) 方式審査段階

専利法実施細則51条第3項の規定に合致すること

方式審査段階の補正は、専利法実施細則51条第3項の「出願人は国務院特許行政部門が発行した審査意見通知書を受領した後、特許出願書類を補正する場合、通知書に指摘された不備に対して補正しなければならない」という規定に合致しなければならない。

また、出願人が提出した補正書類に、通知書に指摘された不備に対する補正ではないものが含まれていたとしても、その補正が専利法第33条の規定に合致し、かつ当該補正が行われたことによって、当初の出願書類に存在した不備が解消され、権利付与される見込みがある場合、当該補正は通知書に指摘された不備に対する補正とみなされ、補正された出願書類は認めるべきであると考える。しかし、専利法第33条の規定に合致しない場合、審査官は通知書を発行し、出願人に指定期間内に規定に合致する補正書類を提出するよう要求することができる。指定期間が経過した後も依然として規定に合致しない場合、審査官は、補正前の書面について引き続き審査し、特許査定、又は拒絶査定を下すことができる。

専利法実施細則第43条第1項の規定に合致すること

方式審査段階の補正は、専利法実施細則第43条第1項の「分割出願は、原出願日を主張でき、優先権を主張できる場合は、優先日が維持されるが、原出願に記載された事項の範囲を超えてはならない」という規定に合致しなければならない。

専利法第31条第1項の規定に合致すること

方式審査段階において、追加した独立項と当初の請求項との間に単一性が欠如し、単一性欠如という不備が指摘された場合、出願人は、追加した独立項を削除して当初の請求項を保留する方法か、又は当初の請求項を削除して追加した独立項を保留するという方法の二者択一で対応することができる。

追加した独立項に係る考案が当初の請求の範囲には記載されていないが、当初の明細書には明確に記載されており、当初の請求項との間に単一性を有する場合、当該追加した請求項は認められる。例えば、請求項1が「構成要件Aを有するソケット」であり、追加した請求項2が「構成要件Aに対応するソケット」である場合、請求項2は認められる。しかし、特許の実体審査に場合は、上記の補正方法が認められない。

専利法実施細則第40条の規定に合致すること

方式審査段階の補正は、専利法実施細則第40条の「明細書に図面の説明が記載されたが、図面が添付されないか又は図面の一部が不足したは、出願人は国務院特許行政部門が指定した期間内に図面を補正し、又は図面の説明の削除の説明を提出しなければならない。出願人が図面を補正した場合、図面を国務院特許行政部門に提出又は郵送した日を出願日とする。図面の説明を削除したときは、原出願日が留保される」という規定に合致しなければならない。

また、当初の図面に不明確で又は完備されていないという不備がある場合、出願人は、明確な図面を提出することで不備を解消するが、補正による新規事項の追加という不備が生じる場合、出願日を特定することによって図面を追加することができず、専利法第33条に基づいて審査することになる。

なお、出願日に影響を及ぼさない場合には、背景技術の図面を追加すること、文言記載が明確な時には局部拡大図を追加したり、図面の説明を追加したりすること、及び規範に合致しない図面を機械製図に置き換えることなども行うことができる。

(3) 不服審判段階

専利法実施細則第611項の規定に合致すること

不服審判段階の補正は、専利法実施細則第61第1項の「請求人が不服審判を請求し、又は審判委員会の審判通知書に応答するとき、特許出願書類を補正することができる。ただし、補正は拒絶査定又は審判通知書に指摘された不備の解消に限られる」という規定に合致しなければならない。

また、不服審判段階の補正が規定に合致しない場合には、①補正後の請求項が拒絶査定の対象となる請求項と比べて、技術的範囲が拡大している場合、②拒絶査定の対象となる請求項に特定されている考案と、単一性が欠如する考案を補正後の請求項とする場合、③請求項の種類を変更するか又は請求項を追加する場合、及び④拒絶査定で指摘された不備が請求項又は明細書に及んでないものに対して補正を行う場合(ただし、明らかな誤記に対する補正、又は拒絶査定に指摘された不備と同じ性質を有する不備を補正する場合を除く)の4つが挙げられる。

規定に合致しない補正方法について、合議体は、通常認めず、補正前の規定に合致している書面を審査する。

一部の補正のみが規定に合致する場合、規定に合致する部分に対してのみ、拒絶理由を発行することができる。規定に合致しない部分に対して、合議体は、「規定に従って補正すべきであり、さもなければ、補正前の規定に合致する書面を審査する」と不服審判請求人に通知する。

(4) 無効審判段階

専利法実施細則第69条の規定に合致すること

無効審判において、実用新案権者は、請求項を補正できるが、当初の実用新案の保護範囲を拡大してはならない。無効審判において、実用新案権者は、明細書及び図面を補正することはできない。

補正は、請求の範囲に限られており、当初の請求項の主題名称を変えることができず、権利化された請求項と比べて、当初の保護範囲を超えてはならず、当初の明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲を超えてはならず(専利法第33条)、通常権利化された請求の範囲に含まれてない構成要件の追加ができないという要件を満たさなければならない。

3.補正の方法

(1) 方式審査段階

方式審査段階では、実用新案の出願書類に対して補正を行うことができる。具体的には、実用新案の出願書類の請求項、明細書、図面、要約及び選択図に対する補正を行うことができる。補正の方法としては、削除、追加、補正が挙げられ、専利法33条、専利法実施細則第51条第3項、専利法実施細則第43条第1項に規定する要件を満たさなければならない。

(2) 不服審判段階

不服審判段階では、実用新案の出願書類に対して補正を行うことができる。具体的には、実用新案の出願書類の請求項、明細書、図面、要約及び選択図に対する補正を行うことができる。補正の方法としては、削除、追加、補正が挙げられ、専利法33条、専利法実施細則第61条第1項に規定する要件を満たさなければならない。

(3) 無効審判段階

無効審判段階では、補正原則を満たす前提における請求の範囲に対する具体的な補正方法は、通常請求項の削除、併合及び発明の選択肢の削除に限られている。請求項の削除は、請求の範囲から1項又は1項以上の請求項を削除することを指す。また、請求項の併合は、2項又は2項以上の従属関係がないが、登録公告公報に同一の独立項に従属する請求項の併合を指す。独立項が補正されていない場合、その従属項に対して併合という方法で補正することができない。さらに、発明の選択肢の削除は、同一の請求項に並列する2項以上の発明の選択肢から1項又は1項以上の選択肢を削除することを指す。

これまでの無効審判のプラクティスにおいて、審判委員会は請求項の補正が「請求項の削除、併合及び発明の選択肢の削除」という3つの補正の方法しかできないことを厳しく要求しているので、出願人は他の方法で請求項に対して補正を行うことができない。しかし、先声公司(Simcere Pharmaceutical Group)「アムロジビン・イルベサルタン複方製剤」特許無効行政紛争事件【(2011)知行字第17号】において、最高裁判所は、特許無効審判において、請求の範囲の補正が補正原則を満たしている場合、その補正の方法は、通常請求項の削除、併合及び発明の選択肢の削除という3つの方法に限られているが、他の補正の方法が絶対的に除去されるわけではないという見解を示した。
 
IV. 実用新案の無効審判

無効審判における実用新案と特許との相違点は、保護対象及び進歩性の判断基準のみにある。それ以外、他の無効条文、無効証拠の形式、無効の基本プロセス及び口頭審理の要求などは、ほぼ同様である。

1.保護対象

特許に比べて、実用新案の無効理由は、保護対象に係っているものが多い。

方式審査段階において、保護対象に対する審査が非常に厳しいので、登録実用新案が保護対象に該当しないという理由で無効とされる可能性は比較的低い。また、請求項に形状、構造要素に該当しないものが記載されたとしても、無効とされない可能性もある。以下に、具体的な例を挙げながら説明する。

無効審判請求の審決 WX17884、 决定日:2011-12-28。

当該審決に係る実用新案の請求項:

「1.電性の切り替え機能を提供するために基板に熔接され、絶縁本体、第1端子群、第2端子群及び少なくとも1つの導電シートを含むキースイッチであって、…該第1端子群及び第2端子群は埋め込み成形法によって絶縁本体と一体化され、該導電シートは電性の切り替え機能を提供するために絶縁本体の凹部に収容され、該導電シートの一部は第1端子群の第1接触部と連続して接触していることを特徴とするキースイッチ。

3.該第1端子群と第2端子群は、シート状の金属をプレス加工して製造されることを特徴とする請求項1に記載のキースイッチ。

11.該頂部は、押圧用のものであり、外力によって第2端子群の端子体の第2接触部と接触するように設けられていることを特徴とする請求項9に記載のキースイッチ。」

請求人は、補正後の請求項1の「埋め込み成形法」、請求項3の「シート状の金属をプレス加工して製造される」、及び請求項11の「外力によって第2端子群の端子体の第2接触部と接触するように設けられている」がいずれも、プロセス又は作業過程であるため、実用新案の保護対象には該当しないとして、旧専利法実施細則第2条第2項(専利法第2条第2項)の規定に合致していないと主張した。

しかし、合議体は、「本実用新案の全ての請求項は、いずれもキースイッチに関するもので、かつキースイッチの形状及び構造を特定しているので、実用新案の保護対象に該当し、旧専利法実施細則第2条第2項の規定に合致している。また、逆に請求項1、3、11に、形状や構造要素に該当しないものが記載されていることだけによって、上記請求項が実用新案の保護対象に該当しないと導くことはできない。ただし、その進歩性を評価する時には、当該構成要件のうち製品の形状、構造又はその組み合わせの変化のみを考慮し、形状や構造要素に該当しないものを考慮しないものとする。実用新案の場合、製品の形状、構造又はその組み合わせに変化をもたらさない構成要件については、進歩性を評価する際に考慮しないものとする」と認定した。

この事例から分かるように、装置クレームが保護対象に該当するか否かを判断する際に、審判委員会は、主に当該請求項に記載されている形状、構造要素に基づいて判断し、請求項に記載されている個別の形状や構造要素に該当しないものについては、考慮しない可能性が高い。

ただし、実用新案の請求項の特徴部分が全て方法要素である場合、審判委員会は、当該請求項の考案の改良点が方法にあるため、不特許事由に該当すると判断する可能性が高い。例えば、以下のような事例がある。

無効審判請求の審決 WX13386、 决定日:2009-05-12。

当該審決に係る実用新案の請求項:

「1.円筒(3)、上・下十字骨格(2、7)を含み、前記円筒(3)の上部はロート状であり、下部は円柱形であり、円柱形円筒(5)の上端壁には4つの孔(6)が均一に設けられ、円筒(3)内には、上・下十字骨格(2、7)が千鳥配置されている組み立て式ステップリングフィラーであって、ロート状円筒(4)が上十字骨格(2)と一つのパーツとして形成され、円柱形円筒(5)が下十字骨格(7)ともう一つのパーツとして形成され、両パーツの接続箇所には、接着層(1)が設けられるか、又はロート状円筒(4)が円柱形円筒(5)と一つのパーツとして形成され、上、下両十字骨格(2、7)がもう一つのパーツとして形成され、両パーツの接続箇所には、接着層(1)が設けられることを特徴とする組み立て式ステップリングフィラー。」

審判委員会は、「特徴部分は、組み立て式ステップリングフィラーの製造方法自体について特定するものである。実用新案権者は、接着層について構造要素であると主張したが、請求項1は、ステップリングフィラーの製造方法自体に係る考案であり、かつ実用新案権者は、請求項1の特徴部分について、公知技術のうち既知方法の名称で製品の形状、構造を特定するものであることを明らかにしたり、又は十分に説明したりする証拠を提示していない。したがって、請求項1は、実用新案の保護対象に該当せず、専利法実施細則第2条第2項の規定に合致していない」と判断した。

この審決に対し、北京市第一中等裁判所((2009)一中行初字第2082号行政判決)は、それと異なる見解を示した。すなわち、当該特徴部分の2つの考案は、主題名称及び前述に記載の形状、機構の形成プロセスについて記述するものではなく、上記ステップリングフィラー自体の構造について特定するものである。具体的に言えば、2つのパーツ及び中間の接着層を含むという当該ステップリングフィラーの構造について特定するものである。その後最終的に、北京市高等裁判所((2010)高行終字第214号)は、一審裁判所の判決を支持した。

2.進歩性

進歩性について、実用新案は、特許より低くても認められ、主に組み合わせる公知技術の分野及びその数から判断する。以下に、前述した実用新案の進歩性基準に基づき、具体的な無効審判請求の事例を挙げながら説明する。

(1) 技術分野についての判断

無効審判請求の審決 WX13549  决定日: 2009年6月18日

当該審決に係る実用新案の請求項1:

「1.外装と外装内に収容される磁石とを備える磁気圧漏れ防止装置であって、…ことを特徴とする磁気圧漏れ防止装置」

請求人は、本件実用新案の請求項1の進歩性を否定するために、次の証拠2点を提出した。

証拠1:①登録番号:93225854.9、②登録日:1994年4月13日、③名称:「永久磁石リフター」である中国実用新案の明細書、計12頁(以下、引用文献1という) 

証拠2:①登録番号:90222661.4、②登録日:1991年5月1日、③名称:「永久磁石リフター」である中国実用新案の明細書、計16頁(以下、引用文献2という)

合議体は、「本件実用新案は、漏れ防止装置という技術分野に属し、引用文献1及び引用文献2はともに、永久磁石リフターという技術分野に属す。両者の技術分野が異なり、かつ引用文献1及び引用文献2にはともに永久磁石リフターが漏れ防止装置として用いられるという示唆が明確に開示されていない。『審査基準』第4部第6章第4節の規定に基づき、引用文献1と引用文献2は、ぞれぞれ単独で又は組み合わせることで、本件実用新案の請求項1の進歩性について評価することができない」と判断した。

審決の要点について、合議体は「実用新案の場合、通常実用新案が属す技術分野を中心に考える。請求人が証拠として提出した引用文献の分野は本件実用新案の分野と異なり、かつ引用文献には明確な示唆がないため、当該引用文献は本件実用新案の進歩性判断に用いられない」と認定した。

この事例から分かるように、審判委員会が2件の公知技術を組み合わせることができるか否かを判断する基準は、①公知技術の分野が類似しているかどうか、②公知技術に明確な示唆があるかどうかという点である。本件において、証拠2に永久磁石リフターが漏れ防止装置に用いられると明確に開示されている場合、証拠1と2の分野が異なるとしても、証拠1と2との組み合わせに影響を及ばさない。

分野が類似しているかどうかという判断において、裁判所は、通常審判委員会の見解と一致するが、異なる場合もある。

例えば、2009年8月24日に下された第14353号無効審判請求の審決において、審判委員会は、「本件実用新案の請求項1と添付資料1は、大型装置支持材/柱の構造という分野に属すので、添付資料1で請求項1の進歩性を評価した」と説明した。当該審決に対して、第一中等裁判所((2010)一中知行初字第1376号行政判決)は、「国際特許分類によると、本件実用新案は添付資料1と異なる分野に属すものであることが分かる。解決しようとする課題、目的及び効果について、本件実用新案は添付資料1と顕著な相違を有し、当業者は添付資料1から対応する示唆を得ることができない。

審判委員会が添付資料1を本件実用新案の近い又は関連する分野のものとして考慮することは、事実及び法律的根拠が欠如しており、この点について是正すべきである」と判定した。さらに、北京市高等裁判所((2010)高行終字第1235号)は、第一中等裁判所の同判決を支持した。

この事例から分かるように、技術分野の遠近を判断する際には、主に、課題、目的及び効果から本件実用新案と証拠との相違を判断し、本件実用新案と証拠の国際特許分類番号を参考にすることも可能である。

(2) 組み合わせる公知技術の数

無効審判請求の審決号:WX18488  决定日期:2012年4月19日

当該審決に係る実用新案の請求項:

「1.回転式陽極装置と陰極線と非集塵領域内に設けられる回転鋼製ブラシ除塵機構とを備え、回転式陽極装置は駆動ローラ、従動ローラ、駆動ローラと従動ローラとを接続する伝達スプロケット、伝達チェーン、伝達チェーンに接続される陽極板を含み、前記陽極板と陰極線との間の異極間隔は、200mm又は230mm又は260mmであり、前記従動ローラは自由サスペンション構造であり、従動ローラの自発的調整及び伝達チェーンの自由な緊張を確保でき、前記回転鋼製ブラシ除塵機構は少なくとも1対の逆方向回転の除塵ブラシ部材を含み、各逆方向回転の除塵ブラシ部材の中心ピッチは連続的に調整することが可能であり、除塵ブラシ部材の両端には、移動可能な密封装置が設けられることを特徴とする回転陽極式静電除塵器。
2.……

6. ……」

審判委員会は、「請求項1~6は、ぞれぞれ複数の証拠と技術常識による単純な積み重ねであり、予想外の効果を有しないため、請求項1~6は、いずれも進歩性を有しない」と指摘した。その具体的な評価方法は、以下のとおりであった。
 
請求項 評価方法 予想外の効果の有無 進歩性の有無
1 D1+D5+D11+技術常識
2 D1+D5+D11+D4+技術常識
3 D1+D5+D11+D4+技術常識
4 D1+D5+D11+D4+D10+技術常識
5 D1+D5+D11+技術常識
6 D1+D5+D11+D9+技術常識
 
D1 証拠1:出願番号が200610006008.4である中国特許出願の公報、

D4 証拠4:Recent Application and Reliability Improvement of Moving Electrode Type Electrostatic Precipitator、『第11回全国電気除塵学術会議論文集』に収録、

D5 証拠5:『電気除塵器の選択取付と運行管理』、黎在時編著、中国電力出版社出版、2005年6月第一版、計3頁(奥付、第161、163頁)、

D9 証拠9:『現代煙霧除塵技術』、祁君田、党小慶、張浜渭編、化学工業出版社、2008年4月第1版第1次印刷、計2頁(奥付、第115頁)、
 
D10 証拠10:『机械設計ハンドブック』第5版第2卷、成大先主編、化学工業出版社、2008年4月第5版第28次印刷、計3頁(奥付、第8~155、8~156頁)、
 
D11 証拠11:公開番号が平4-33946である日本実用新案公開公報、公開日が1992年3月19日、計5頁(書誌事項頁、明細書第6~7頁、図1~2頁)、及び一部の内容の中国語訳文2頁。

審決の要点において、審判委員会は、「実用新案の請求項の考案が公知技術の単なる積み重ねに過ぎず、各構成要件どうしに機能的な関連がなく、かつ積み重ねによる考案にも予想外の効果がない場合、当該請求項は格別の実質的特徴及び進歩がなく、専利法第22条第3項に規定する進歩性要件を満たしていない」と指摘した。

この事例では、実用新案権者は、請求項の具体的な構成要件が対応する公知技術に開示されていないことを強調しただけで、本件実用新案の考案が複数の公知技術の単なる積み重ねであるか否か、積み重ねによって予想外の効果が生じるか否かについて反論しなかったようである。審判委員会は、「回転陽極式静電除塵器」の具体的な部材の構成要件どうしに機能的な関連がなく、「組み合わせ発明」の判断方法によって、これらの構成要件の組み合わせによって予想外の効果がもたらされていないため、請求項が複数の公知技術の組み合わせに対して進歩性を有しないと判断した。進歩性を評価する際に引用する公知技術の数は、通常の2件までという規定を遥かに超えていた。

また、実用新案の請求項が複数の公知技術の単純な積み重ね、予想外の効果が生じるか否かによって、複数の公知技術を組み合わせることで請求項の進歩性を評価できるか否かを決める。当該複数の公知技術は具体的な数量について、制限を受けない。したがって、実用新案の請求項の各構成要件がそれぞれ公知技術に開示されているか否かを判断すると同時に、無効請求人又は実用新案権者も請求項が複数の構成要件の単純な積み重ねであるか否かについても説明する必要がある。実用新案の明細書には、請求項の複数の構成要件が機能的な関連があり、単純な積み重ねではなく、又は予想外の効果が生じたなどと明確な記載がある場合、実用新案権者は、単純な積み重ねであるか否かという弁論において、有利なポジションに立つことができる。

実用新案の進歩性判断における公知技術の単純な積み重ねに対する判断について、裁判所と審判委員会の見解は通常一致するが、両者の見解が全く正反対の場合もある。

例えば、(2010)高行終字第407号行政判決書では、審判委員会は、3件の引用文献と2つの技術常識とを組み合わせて実用新案権の進歩性を評価できないと判断したのに対し、北京市高等裁判所は、5つの公知技術の組み合わせで請求項1の進歩性を評価することを堅持した。

さらに、(2010)高行終字第686号行政判決書では、北京市高等裁判所は、審判委員会が5つの公知技術の組み合わせで本件特許を無効にしたが、本件特許の進歩性の判断では、その基準が厳しすぎ、審査基準に記載されている実用新案の進歩性判断の基本原則に違反していると指摘した。

(3)形状や構造要素に該当しないものについて

無効審判請求の審決WX17884から分かるように、実用新案の請求項における一部の形状や構造要素に該当しないものについては、無効審判で保護対象を判断する際には、これらを考慮しないが、無効審判の新規性又は進歩性を判断する際には、これらが製品の形状、構造又はその組み合わせに影響するか否かを考慮する。
 
V. 実用新案権評価報告書の活用

1. 関連法規

2001年6月に施行された最高裁判所の司法解釈『特許権侵害行為の訴訟前停止に対する法律の適用に関する若干規定』には、「出願人が提起した特許権侵害行為の訴訟前停止に関する請求について、実用新案に係るものは、出願人は国務院専利行政部門が発行する調査報告(つまり、実用新案権調査報告書)を提出すべきである」と規定されている。

また、2009年10月1日に施行された『専利法』第61条第2項には、「特許権侵害の紛争が実用新案又は意匠特許に関わる場合、裁判所又は特許業務管理部門は、特許権者又は利害関係者に、国務院特許行政部門により作成された特許権評価報告を提出するよう要求することができる」と規定されている。

2.二つの報告書の比較

実用新案権調査報告書と実用新案権評価報告書とを以下のとおり比較する。
 
  実用新案権調査報告書 実用新案権評価報告書
調査
新規性(専利法22.2)、進歩性(専利法22.3)
不特許事由(専利法5、25)、保護対象(専利法2.3)、実用性(専利法22.4)、実施可能要件(専利法26.3)、不明確・サポート要件違反(専利法26.4)、必須要件欠如(細則20.2)、補正による新規事項の追加(専利法33)、分案の補正による新規事項の追加(細則43.1)、ダブルパテン(専利法9) ×
実用新案の種類 出願日在2009年9月30日まで(同日を含む)実用新案 出願日在2009年10月1日以降(同日を含む)の実用新案
 
このように、実用新案権調査報告書は、主に調査に基づいて新規性又は進歩性を評価する時に用いられる。実用新案権調査報告書に比べて、実用新案権評価報告書は、専利法第20条第1項(出願前の秘密保持審査)以外の実用新案に係る大部分の無効条文について評価する。この点からみれば、実用新案権評価報告書は、特許実体審査通知書により近い報告書であると言える。

3.報告書の役割

実用新案権調査報告書又は実用新案権評価報告書における結果は、無効審判における審判委員会の決定に影響を及ぼさない。実用新案権調査報告書又は実用新案権評価報告書は、裁判所が特許権侵害事件又は特許行政部門が実用新案権侵害紛争事件を審理する際の初歩的な証拠であり、主に事件を受理する裁判所又は行政部門において特許権の安定性を判断する時に用いられ、さらに侵害被疑者が提起した無効審判請求によって関連手続きを停止すべきか否かを判断する際に用いられる。しかしながら、実用新案権調査報告書又は実用新案権評価報告書は、原告が実用新案権侵害訴訟を提起する時の必須要件ではなく、裁判所は、実用新案権者又は利害関係者に対して、実用新案権調査報告書又は実用新案権評価報告書を提出するように要求することはできるが、提出することを義務付けているわけではない。例えば、(2011)琼民三終字第17号判決に関する事件では、実用新案権侵害訴訟を提起した原告は対応する実用新案権調査報告書を一切提出しなかった。

実用新案権者の立場からすれば、実用新案権評価報告書があることで、実用新案権者は取得した実用新案権の法的安定性を確認することができ、権利行使時の不適切な行為を回避できるため、自身の利益を損なうことがない。公衆の立場からすれば、実用新案権評価報告書があると、他の企業又は個人が実用新案権の法的安定性を正確に認識でき、価値のないビジネス活動(例えば実用新案権の譲り受け、ライセンス契約の締結、実用新案権の投資など)を回避できる。

4.報告書利用時の留意点

実用新案権評価報告書の請求人は、実用新案権者又は利害関係者でなければならない。利害関係者とは、専利法第60条の規定に基づき、特許権侵害の紛争について裁判所に提訴するか又は特許事務管理部門に処理を請求できる人をいう。また、独占的実施権許諾契約の被許諾者及び特許権者より提訴権が付与された通常実施権許諾契約の被許諾者も含まれる。一つの実用新案権が複数の実用新案権者によって共有されている場合、請求人はその一部の実用新案権者であってもよい。

専利法実施細則第57条には、「国務院特許行政部門は、特許権評価報告の請求書を受領した日から2ヶ月以内に特許権評価報告を作成しなければならない。国務院特許行政部門は同一の実用新案又は意匠の特許権に対して、一通の評価報告のみ作成する。いかなる機関又は組織又は個人も当該特許権評価報告を調べ、又はコピーすることができる」と規定されている。

実用新案権評価報告書に、実用新案権が不安定であるという結論が記載される可能性があり、当該結論がいかなる機関又は組織又は個人に知られる可能性もあるので、特許庁への実用新案権評価報告書の作成の請求については、慎重に考えなければならない。実用新案権者又は利害関係者が特許庁に特許権評価報告書の作成を請求する前に、「予備評価報告」を最初に作成することができる。つまり、実用新案権評価報告書の要求に基づいて実用新案権利の安定性を予測した後、「予備評価報告」の結果に応じて実用新案権評価報告書の作成を特許庁に求めるか否かを決定することもできる。

結び

本稿では、中国の実用新案の現状に基づいて、実用新案に関するさまざまな疑問を明らかにした。しかし、中国の実用新案制度は現在、非常にが変動が激しく、これらの回答は、今後時間の経過に伴い、変化する可能性もあると考える。例えば、実用新案の方式審査には現在でも、さまざまな変化がみられている。そのため、出願人又は実用新案権者は、中国実用新案制度の変化に随時留意しながら、それに応じて実用新案の作成、出願、無効審判段階の作業方法を調整する必要があると思われる。

現在、日本の多くの企業や組織が、中国の実用新案に注目をし始め、実際に日本からの出願数も徐々に増えつつある。本稿が、皆様の中国実用新案の理解の一助になれば幸いである。また、本稿をご覧になり、日本の皆様には、さらなる新たな疑問や質問も生まれるものと考える。そのときは、是非弊所にお問い合わせいただければ幸いである。
 

[1] 劉 新宇、所長・弁理士
[2] 李 茂家、副所長・弁理士
[3] 瀋 顕華、機械部・弁理士
[4] 方 志煒、電気電子部・弁理士
(2012)


ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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