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『特許法』第26条第4項に係る事例の分析について


北京林達劉知識産権代理事務所
特許代理部
 
周知のとおり、発明創造を合理的に保護し、的確かつ適切に特許の権利範囲を特定することが、特許制度を正常に運営するための基本である。発明特許又は実用新案の権利範囲は、その請求項の記載内容を基準とし、明細書及び図面は請求項の権利範囲の解釈に用いることができる。それゆえ、請求項は、特許の権利範囲を特定するのに非常に重要である。

そのため、『特許法』第26条第4項には、「特許請求の範囲には、特許の保護を求める範囲を、明細書に基づいて、明瞭且つ簡潔に記載しなければならない。」と規定されている。これは、特許請求の範囲に対する実質的な要求である。具体的に言えば、『特許法』第26条第4項には、主として以下の3つの内容が含まれる。(1)特許請求の範囲は明細書に基づいていなければならない。つまり、請求項は明細書により裏づけられていなければならない。(2)特許請求の範囲は、特許の保護を求める範囲を明瞭に記載しなければならない。(3)特許請求の範囲は、特許の保護を求める範囲を簡潔に記載しなければならない。このうち、(1)は特許請求の範囲と明細書との関係を規定しており、(2)及び(3)は特許請求の範囲の記載に対する要求である。

現在、審査官がこの条文を使用する頻度は高く、ここ何年かの統計結果から見れば、『特許法』第26条第4項に係る拒絶理由が全体の50%近くを占めている。本稿では、代表的な事例に基づき、上記の3つの内容からこの条文について分析するので、出願書類の作成及びこのような拒絶理由の応答にお役に立てば幸いである。
 
I.サポート要件について

請求項が明細書により裏づけられているかどうかの判断原則は、特許請求の範囲において各請求項が保護しようとする発明が、当業者にとって、明細書及び図面に記載の内容から導き出すことができるか又は総括し得るものであるかどうか、またそれが明細書及び図面に記載の事項の範囲を超えていないかどうか、ということである。したがって、形式的に裏づけられているかどうかと、実質的に裏づけられているかどうかという2つの場合に分けられる。

1. 請求項が形式的に明細書により裏づけられているかどうか

「形式的に裏づけられていない」とは、請求項に記載の発明が明細書に記載されていないか、又は明細書に記載された内容と一致しない場合をいう。前者の場合、請求項に記載の発明を明細書に盛り込むことによって不備を解消できる。後者の場合、請求項に記載の発明と明細書に記載の内容とを整合させるか、又は応答書において解釈、説明するなど、ケースバイケースで分析する必要がある。

<事例1.1>
係る構成要件 ・・・ストッパー部は、・・・係止突起又はギヤ部・・・、及びスプリングと接続されたロッド状部材と・・・を備え、
 
拒絶理由
請求項には、それぞれ以下の構成要件を有する2つの並列する発明が記載されている。(1)ストッパー部は係止突起を有する。(2)ストッパー部はギヤ部を有する。明細書に記載の(1)に係る発明には、スプリングと接続されたロッド状部材が含まれていないが、(2)に係る発明には、スプリングと接続されたロッド状部材が含まれている。明らかに、請求項に記載の発明と明細書に記載の発明とは一致しないので、請求項は明細書により裏づけられていない。
対応 上記請求項を2つの請求項に分割補正した。すなわち、(1)ストッパー部は係止突起を有するが、スプリングと接続されたロッド状部材を含まない、という第1の請求項と、(2)ストッパー部はギヤ部及びスプリングと接続されたロッド状部材を有するという第2の請求項である。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

明細書に複数の並列する発明が含まれる出願について、その複数の並列する発明を同一の請求項に記載する場合、ある発明の特有の構成要件を共通の構成要件として記載することを避けなければならない。つまり、ある発明の特有の構成要件を他の発明に記載してはならない。

「ある発明の特有の構成要件を他の発明に記載した」請求項は、明細書により裏づけられていないと審査官に指摘されるおそれがある。このような拒絶理由を受けた場合、請求項を分割することを提案し、分割された各請求項に記載の発明と明細書の記載内容との整合性を確保するのが一番好ましい。

拒絶理由に応答する際に、ある発明の特有の構成要件を他の発明に盛り込むという方法で請求項を補正すると、新規事項の追加に該当すると指摘されるおそれがある。このような拒絶理由を受けた場合、請求項を分割するか、又は請求項に記載の一部の発明を削除する必要がある。

<事例1.2>
 
係る構成要件 「請求項1」・・・情報処理装置。
「請求項2」・・・情報処理装置の制御方法。
拒絶理由 コンピュータプログラムに係る物クレームと方法クレームとが一致していないので、この物クレームは明細書により裏づけられていない。
対応 請求項1の主題名称を「情報処理装置の制御システム」に補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

単なるコンピュータプログラムに係る発明創造については、『審査指南』第2部第9章5.2節の規定によると、「方法クレーム及び機能モジュールによって限定された装置クレームで記載することができる。ただし、このような装置クレームで記載する場合、その主題名称は方法クレームと完全に対応して一致し、その特徴部分に記載の内容、つまり、各機能モジュールがプログラムのフローチャートの各ステップ又は方法クレームの各ステップと完全に対応して一致していなければならない。」ということである。

上記2つの条件を満たさなければ、審査官からサポート要件違反という指摘を受けるおそれがある。このような拒絶理由については、装置クレームを方法クレームと完全に対応して一致させるのが一般的である。

2. 請求項が実質的に明細書に裏づけられているかどうか

「実質的に裏づけられていない」とは、当業者が明細書及び図面に記載の内容から請求項に係る発明を導き出すことができないか、又は総括することができないことをいう。請求項が明細書の文言記載及び明細書の図面に示す事項について、不合理な総括をすることによって、当業者が請求項に係る発明を導き出すことができないか、又は総括することができない場合、「実質的に裏づけられていない」という不備をもたらす。特許請求の範囲にこのような不備が存在する場合、通常特許請求の範囲を補正して初めて解消できる。このような不備が実際に存在せず、審査官の理解に間違いがある場合には、反論すべきである。

<事例2.1>
 
係る構成要件 ・・・前記第1弁及び第2弁の同時開閉を制御するための制御部材。
 
拒絶理由
この構成要件は、制御部材に関する機能的記載であるので、「前記第1弁及び第2弁の同時開閉を制御する」機能を実現するための全ての実施の形態を含むと理解すべきである。しかし、明細書には、リンクで2つの弁を同時に開閉することを実現したという具体的な実施の形態しか記載されていない。当業者は、上記機能が明細書に記載されていない他の方法によって実現できるかどうかが分からないので、この請求項は明細書により裏づけられていない。
対応 従属項に記載の「リンク」を構成要件に盛り込んだ。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

中国では、請求項における機能的記載が許されるが、機能的記載しかない請求項は許されない。また、機能的記載で特定された請求項は、明細書により裏づけられていないと判断されやすい。よく見られる拒絶理由としては、(1)明細書には、発明を実現するための具体的な形態は1つしか記載されておらず、請求項が「機能的記載」で特定された場合、請求項に係る発明と明細書に記載の発明とは、実質的に一致しない。(2)当業者は、上記機能が明細書に記載されていない他の方法によって実現できるかどうかが分からない、などが挙げられる。

「機能的記載」が含まれる発明が明細書により裏づけられていないという審査官の指摘を避けるために、出願書類の作成時に、1つの具体的な実施の形態(例えば、具体的な機械構造)のみによって上記機能を実現することは避けるべきである。すなわち、できるだけ異なる複数の観点から、当該機能を実現するための実施の形態を複数記載し、かつこれら以外の実施の形態も当業者が明細書に記載の内容から容易に想到し得ることを説明する。何らかの事情により、具体的な実施の形態を1つしか記載できない場合、その他の実施の形態は、当業者が明細書に記載の内容から容易に想到し得るということを十分に説明する必要がある。

「機能的記載」があるというだけの理由により、請求項が明細書により裏づけられていないという拒絶理由を受けた場合、その拒絶理由が正しいかどうかを判断する必要がある。

(1) 拒絶理由が正しいと判断した場合、つまり、請求項の「機能的記載」が、確かに明細書に記載の1つの具体的な実施の形態のみによって実現されたものであり、当業者もその他の実施の形態の使用が可能であるかどうかを予測できない場合には、請求項の「機能的記載」を、明細書に記載の上記具体的な実施の形態に限定する必要があり、明細書から改めて総括することはできない。この点からすれば、明細書又は請求項の作成時に、上位概念、中位概念、下位概念など多面的に総括しておくことが非常に重要である。

(2) 拒絶理由に不合理があると判断した場合、反論すべきである。これによって、当業者が明細書に記載された内容から、「機能的記載」が含まれる請求項を十分に合理的に実施できることを説明する。具体的には、本願明細書から拒絶理由に反論できる記載を見つけるか、及び/又は当該分野における上記機能的記載を実現するための慣用手段のいずれによっても本願の課題を解決できることを証明する証拠、例えば、出願日前の技術資料などを挙げて反論することが考えられる。

<事例2.2>
 
係る構成要件 ・・・空気の圧縮率が2以上であり・・・
拒絶理由 請求項には、広い数値範囲が記載されているが、明細書の実施例には、「2以上」の1つ又は複数の圧縮率しか記載されていない。本願の出願書類の記載により、当業者は、その数値範囲における全ての数値がいずれも本願の課題を解決できることを予測できないので、請求項は明細書により裏づけられていない。
対応 以下のとおり反論した。空気の圧縮率が2以上でさえあれば、当業者は、それが課題を解決することができ、確かに効果も奏し得ることができることを予測できる。明細書に記載の内容及び技術常識に基づき、具体的に説明し、技術常識であることを証明するために、1件の学術論文を引用した。
結論 審査官を説得した。
 

【示唆】

請求項に数値又は数値範囲が含まれる場合、明細書には、好ましい範囲及びそれを選択する理由を記載し、可能であれば、上記数値範囲内の境界値及び中間値を使用した実施例を記載するのが一番好ましい。

数値範囲が広すぎるので、請求項が明細書により裏づけられていないという拒絶理由を受けた場合、まず本願の出願書類を分析して客観的な判断を行い、必要に応じて公知技術及び技術常識を調査する。拒絶理由が正しくないと判断した場合、反論すべきである。この時、本願の明細書に基づいて客観的かつ具体的に分析し、公知技術などの証拠が存在すれば、反論の効果がより大きくなる。

<事例2.3 >
 
係る構成要件 ・・・前記酸化剤ガスの流量を変更した後、前記絶対電圧差の変化に基づいて、前記燃料電池スタックの加湿状態を判定する・・・
拒絶理由 表現が曖昧であり、絶対的な電圧差の変更に基づき、前記燃料電池スタックの加湿状態をどのように判定するかが記載されていないので、この請求項の技術的範囲は広すぎる。
対応 以下のとおり反論した。請求項の上記構成要件について、当業者の理解の便宜を図るために、明細書には、3つの実施の形態、即ち、絶対電圧差と第2の所定値との比較結果に基づいて燃料電池スタックの加湿状態を判定する実施の形態、絶対電圧差と第3、4の所定値との比較結果に基づいて加湿状態を判定する実施の形態、絶対電圧差と第2、3、4の所定値との比較結果に基づいて加湿状態を判定する実施の形態が記載されている。
当業者は明細書に記載の上記3つの実施の形態に限ることなく、必要に応じて他の加湿状態の判定方法を選択することができる。具体的には、燃料電池スタックの湿度のランクに応じて加湿状態の判定方法を選択することができる。例えば、燃料電池スタックの湿度を、加湿過剰、加湿正常、加湿不足、乾燥及び酸素不足という5つのランクに分ける場合、加湿状態を判定するには、より多くの所定値、即ち、4つの所定値を設定して前記絶対電圧差と比較する必要があるかもしれない。また、所定値の設定条件に応じて加湿状態の判定方法を選択することもできる。つまり、判定方法は、所定値の設定条件によって異なる。
したがって、請求項の記載に基づいて、当業者は明細書に記載の実施の形態に限ることなく、必要に応じて他の加湿状態の判定方法を選択することにより、本願の課題を解決し、かつ同様の効果を奏することができる。
結論 審査官を説得した。
 

【示唆】

パラメータに基づいて他のパラメータを確定する必要のある発明について、明細書作成時に、できるだけ多くの確定方法を記載したほうがよい。

上記発明に係る請求項について、明細書には、1つ又はわずかな確定方法しか記載されていない場合、審査官に「出願書類の記載によると、当業者は総括された他の実施の形態も本願の課題を解決できるということを予測できないので、請求項は明細書により裏づけられていない」と指摘されるおそれがある。このような拒絶理由を受けた場合で、かつ、拒絶理由が正しくないと判断したときには、反論することを考慮すべきである。例えば、まず本願明細書に記載の関連の確定方法を説明し、次に、当業者の知識レベルに公知技術を組み合わせて上記判定方法に基づき、係る発明を合理的に総括することができることを説明する。本事例の反論が代表例である。

<事例2.4>
 
係る構成要件 「請求項4」請求項1~3のいずれか1項に記載の・・・
拒絶理由 請求項2は実施例1に対応し、請求項3は実施例3に対応し、請求項4は実施例2に対応しているが、実施例の組み合わせで構成された発明は、明細書に記載の事項を超えている。
対応 請求項4の従属先を請求項1のみにした。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

ある発明において、複数の実施の形態が含まれ、それぞれの実施の形態は変形又は改良が行われることが一般的によく見られる。このような場合、明細書には、各実施の形態を組み合わせて使用することができることを説明すべきである。さもなければ、各実施の形態の組み合わせに係る発明が明細書により裏づけられていないと審査官に指摘されたり、又はそのような補正が新規事項の追加に該当すると指摘されたりするおそれがある。

異なる実施の形態の組み合わせに係る発明が明細書により裏づけられていないという拒絶理由があった場合、明細書に前記のような説明がないと、審査官を説得するのが非常に難しいので、通常、この部分の発明を削除するしかない。

<事例2.5>
 
係る構成要件 架橋反応する架橋性重合能を有する樹脂成分を第1のワックスの存在下に架橋反応させて、ワックス含有架橋重合体組成物を生成し、該ワックス含有架橋重合体組成物と、少なくとも着色剤と第2のワックスとを混合して・・・トナーの製造方法。
拒絶理由 請求項に記載の第1のワックス、第2のワックスは当該分野の慣用の符号ではなく、両者が異なるワックスであり得ることを説明するためのものである。ワックスの種類はたくさんあり、異なるワックスの構成、組成、性質も大きく異なるので、当業者は、本願明細書に記載された特定の性質を有するワックス以外の他のワックスのいずれも本願に記載のワックスと同じ性質又は用途を有し、本願の課題を解決できることを予測できない。したがって、請求項1は明細書により裏づけられていない。
対応 以下のとおり反論した。請求項に記載の第1のワックスと第2のワックスは、樹脂の架橋反応前に入れるワックスと樹脂の架橋反応後に入れたワックスを区別するためだけのものであり、ワックスの構成及び組成に特別な限定を有しない。したがって、この請求項は、明細書により裏づけられている。
結論 特許審判委員会は拒絶査定を取り消した。
 

【示唆】

化学分野において、出願書類を作成時に、数字で物質を区別しなくてもよい場合は、このような記載方法を避けたほうがよい。避けられない場合は、明細書に説明する必要がある。実際の状況に応じて、例えば、このような記載は、限定された物質の構造及び/又は組成に対して限定作用を果たすか、又は異なるステップで使用された物質を区別するためだけのものであることを説明する。

数字で物質を区別しているので、請求項が明細書により裏づけられていないという拒絶理由を受けた場合、これらの数字の役割を具体的に分析し、これらの数字によって限定された物質が特定の構造及び/又は組成を有しているなら、その特定の構造及び/又は組成を請求項に盛り込む必要がある。その数字が単に異なるステップで使用された物質を区別するという役割のみを果たしているならば、上記物質が同一の構造及び/又は組成を有していてもよく、異なる構造及び/又は組成を有していてもよいことを説明すべきである。

<事例2.6>
 
係る構成要件 一般式(1:式中、・・・Xは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はヘテロ環基を示す;なお、Xの炭素原子上のひとつ又は複数の水素原子が、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、ジアルキルアミノ基、アシル基及びアリールカルボニル基に置換されていても良い;又は、Xの炭素原子上の複数の水素原子が、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、ジアルキルアミノ基、アシル基及びアリールカルボニル基で置換されている場合、隣接している基同士が結合して環を形成しても良い、で示される置換エチニル金―含窒素へテロ環カルベン錯体。
拒絶理由 請求項1におけるXに関する記載は、いずれも広い範囲を有する上位概念であり、構造の異なる基をたくさん含んでいる。本願の実施例には48種の化合物しか記載されていない。有機発光分野では、化合物の性質は置換基の電子効果、空間効果、置換基の種類など多くの要素に影響されている。そのため、化合物の構造上の微細な差異が発光性に大きな変化を与える可能性がある。当該発明には出願人が推測した内容が含まれており、その効果を特定・評価することは困難である。したがって、請求項1は明細書により裏づけられていない。
対応 請求項1に記載の「X」を、「Xは、アリール基又はヘテロ環基を示す、なお、Xの炭素原子上のひとつ又は複数の水素原子が、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシル基、アシル基及びアリールカルボニル基に置換されていても良い」にさらに限定した。
結論 審査官は第3回拒絶理由通知書を発行し、引き続きサポート要件違反の不備を指摘した。
 

【示唆】

化学分野において、本願明細書に記載の内容によってマーカッシュクレームに総括された発明がいずれも本願の課題を解決できることを当業者に理解してもらうためには、出願書類の作成時に、できるだけ多くの具体的な物質(例えば、異なる置換基を有する具体的な化合物)を挙げたほうがよい。

マーカッシュクレームが明細書により裏づけられていないという拒絶理由を受けた場合、本願の解決しようとする課題から、本願の主な技術的手段を確定する。審査官に指摘された技術的範囲の大きな構成要件がこの主な技術的手段である場合、この構成要件をさらに限定する必要がある。この構成要件が主な技術的手段ではない場合、当業者が合理的に総括でき、かつ明細書に記載の具体的な構成要件が本願の好ましい実施の形態に該当し、よりよい効果を奏し得ると反論すべきである。
 
II.請求項が明瞭であるかどうか

請求項が明瞭であるかどうかは、特許の権利範囲の確定にとって非常に重要である。各請求項自体が明瞭であり、主に主題名称、用語、文言表現などが明瞭でなければならない。他方、特許請求の範囲を構成する全ての請求項が全体としても明瞭でなければならない。

1. 請求項の主題が明瞭であるかどうか

請求項の主題が不明瞭であるとは、請求項の主題名称がこの請求項の類型を表明していないか、又は技術的事項と一致していない場合をいう。例えば、「・・・技術である」、「・・・レシピである」というのは不明瞭である。また、現在中国の審査プラクティスでは、発明の名称が単なる「製品」、「方法」の場合には、発明に係る技術分野を反映していないので、不明瞭となる。このような不備については、通常、主題名称を補正しない限り、解消できない。

<事例3.1>
 
係る構成要件 ・・・トランス及びトランスを制御するための回路装置。
拒絶理由 保護しようとする主題名称が不明瞭である。
対応 上記主題を、「トランスを制御するための回路装置」に補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

請求項の作成時に、1つの請求項は、通常1つの明瞭な主題を有していなければならず、1つの請求項の主題の類型は、明瞭でなければならない。つまり、物クレームと方法クレームを区別しなければならない。また、1つの請求項の主題名称は、保護しょうとする発明に係る技術分野を反映できるものでなければならない。

主題名称が不明瞭であるという拒絶理由を受けたときには、通常、主題名称を補正することによって不備を解消する。また、主題名称の変更によって削除された発明を保護するために、必要に応じて、請求項を追加することもできる。

<事例3.2>
 
係る構成要件 企画プログラムと、クレードルプログラムと、入庫プログラムとを含む平面倉庫の立体化作業システム。
拒絶理由 これらのコンピュータプログラムの限定事項は、構造特徴でも、方法特徴でもないので、請求項に記載の技術的範囲が不明瞭である。
対応 上記構成要件を「企画ステップと、クレードルステップと、入庫ステップとを含む平面倉庫の立体化作業方法」に補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

コンピュータプログラムに係る請求項の作成時に、主題名称について、一般的に、「プログラム」、「プログラム製品」、「指示」、「パッチ」などの用語を使用せず、不特許事由に該当しないように、限定事項もプログラム自体にかかってはならない。コンピュータプログラムに係る請求項は、方法クレームで記載してもよく、装置クレームで記載してもよいが、請求項の類型に関わらず、特徴部分は必ず主題名称と対応させなければならない。すなわち、方法クレームは、具体的なステップ及びコンピュータプログラムが執行又は完成する機能を記載するものであり、装置クレームは、各構成及びその関係、及びコンピュータプログラムの各機能がどの構成によって完成するか、又はどのように完成するかを記載するものでなければならない。

コンピュータプログラム又は指示によって装置クレームを限定する場合、そのプログラム又は指示に係る記載は、構造特徴でもなく、方法特徴でもないので、保護しようとする装置の構造が不明瞭であり、請求項の技術的範囲が不明瞭であると審査官に指摘されるおそれがある。このような拒絶理由に対しては、方法クレームに補正するか、又は方法クレームと完全に対応して一致する機能モジュールに限定された装置クレームに補正すればよい。

2. 請求項における用語の意味が明瞭であるかどうか

請求項における用語の意味は、通常、当該分野の一般的な意味と解釈される。この用語が当該分野で不明瞭、又は特定できない場合には、その請求項は不明瞭となる。このような不備について、補正で解消できる場合は、補正を行う。補正が新規事項の追加に該当する場合には、意見書にて説明する。

<事例4.1>
 
係る構成要件 ・・・栄養液を作物の成長に用いる所定の濃度に希釈した溶液にし、・・・
拒絶理由 請求項に記載の「所定の濃度」が不明瞭である。
対応 以下のとおり反論した。異なる作物、又は異なる成長段階の同一の作物が要求する栄養は異なる。したがって、請求項には具体的な濃度を特定できない。また、異なる作物、又は異なる成長段階の同一の作物に適した濃度を設定することは、当業者が技術常識に基づき、容易に想到し得ることである。したがって、「所定の濃度」は、不明瞭ではない。
結論 審査官を説得した。
 

【示唆

請求項の作成時に、「一定の」、「所定の」、「適宜な」といった用語に注意を要する。これらの用語の明瞭性を確保できない場合は、請求項に使用することを避けるべきである。どうしても使用する必要がある場合には、その後の補正段階又は権利侵害訴訟段階における請求項の解釈に便宜を与えるために、当該用語を明細書に詳しく説明すべきである。

不明瞭な用語があるので、請求項は不明瞭であるという拒絶理由を受けた場合、当業者の観点から分析する必要がある。用語が明瞭である場合は、反論すればよいが、用語が明瞭であるかどうかを特定できない場合は、請求項を補正したほうがよい。もちろん、請求項の補正ができない場合には、詳しく分析したうえで、必要な証拠を提出し、審査官を説得すべきである。

<事例4.2>
 
係る構成要件 ・・・酸化物に含まれるリンの含有量が1.5原子%を超えない・・・ゴム製品の補強部材。
拒絶理由 この請求項に記載の「原子%」は、当該分野の慣用の用語ではないので、請求項の技術的範囲が不明瞭である。
対応 以下のとおり反論した。原子%とは、つまり原子百分率であり、ある元素の原子数が元素全体の原子合計数に対する百分率を表す。原子数をアボガドロ定数6.02×1023で割って得られる値がモル数であるので、「原子%」と各元素の「モル%」とは同一である。これは当業者にとって明瞭である。また、登録済の特許文献には「原子%」又は「原子百分率」の表現が多く記載されている。
結論 審査官を説得した。
 

【示唆】

出願書類の作成時に、特に請求項の作成時に、各用語の意味が明瞭かどうかを充分に確認すべきであり、社内で使用されている用語ではなく、当該分野の慣用語を使用する。やむをえず多義語やその他の不明瞭な用語を使用する場合には、その後の補正段階又は権利侵害訴訟段階における請求項の解釈に便宜を与えるために、当該用語を明細書に詳しく説明すべきである。

「用語の意味が不明瞭である」という拒絶理由を受けた場合、以下のいずれに該当するかを分析する必要がある。

(1) 指摘された用語が慣用語である場合には、反論する。

(2) 指摘された用語について、明細書に具体的な説明又は解釈がある場合、意見書でその旨を説明するか、又はその具体的な説明又は解釈を請求項に盛り込む。

(3) 指摘された用語が不明瞭であり、かつ、明細書に具体的な説明又は解釈がない場合には、意見書で説明又は解釈するか、又は関連する発明を削除する必要がある。

3. 請求項の文言表現が明瞭であるかどうか

請求項の文言表現が不明瞭であるとは、主に、文章の意味が誤っていたり、前後矛盾していたり、上位概念と下位概念を並列する選択肢にしていたり、又は除外/引用するための表現が不合理であるなどの場合をいう。このような不備について、補正で解消できる場合は、補正を行う。補正が新規事項の追加に該当する場合には、意見書にて解釈・説明することを勧める。

<事例5.1>
 
係る構成要件 ・・・伝達構造の他面に嵌合部が形成され・・・
拒絶理由 前の文章には伝達構造の一面又はそれと類似する表現が記載されていないので、「他面」が伝達構造のどの表面を指すかが不明瞭である。
対応 「他面」を「位置合せ部に対向する表面」に補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

請求項の作成時に、ある特徴(例えば、事例5.1の「他面」)がそれ以前に記載の特徴に依存する場合、2つの特徴とも明瞭に記載し、両者の関係を明瞭にしなければならない。

用語の選択の間違いで請求項が不明瞭であるという拒絶理由を受けた場合、補正が新規事項の追加に該当しないことを前提に、全ての用語を変更するという対応策もある。

<事例5.2>
 
係る構成要件 ・・・空冷ユニットには、1セットのナイフホルダー空冷管路が含まれ、前記ナイフホルダー空冷管路は、1つの空気入れ口と、ナイフホルダーの内壁を取り巻いており、かつ前記ナイフホルダーの内壁及び前記ナイフホルダーの周壁によって配合して設定された1つのナイフホルダー空冷チャンネルと、1つの空気排出口と、1つのナイフホルダー空冷ランナーとを含む・・・
拒絶理由 「ナイフホルダーの内壁を取り巻いており、かつ前記ナイフホルダーの内壁及び前記ナイフホルダーの周壁によって配合して設定された」という修飾語は、「1つのナイフホルダー空冷チャンネル」のみを限定するものか、又は「1つのナイフホルダー空冷チャンネルと、1つの空気排出口と、1つのナイフホルダー空冷ランナー」を限定するものであるかが不明瞭であるので、請求項の技術的範囲が不明瞭である。
対応 上記構成要件を「・・・空冷ユニットには、1セットのナイフホルダー空冷管路が含まれ、前記ナイフホルダー空冷管路は、1つの空気入れ口と、1つのナイフホルダー空冷チャンネルと、1つの空気排出口と、1つのナイフホルダー空冷ランナーとを含み、前記ナイフホルダー空冷チャンネルは、ナイフホルダーの内壁を取り巻いており、かつ前記ナイフホルダーの内壁及び前記ナイフホルダーの周壁によって配合して設定されたものであり・・・」に補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

出願書類の作成時に、特に請求項を作成する場合、できるだけ短い文章を使用する。複数の並列する構成要件において、ある構成要件を限定する場合、限定事項を分けて記載するのが一番好ましい。例えば、「・・・Bを有するA1、A2、A3・・・」ではなく、「・・・A1、A2、A3・・・であり、前記A1は・・・Bを有する」と記載したほうがよい。

適切でない表現があるので、請求項は不明瞭であるという拒絶理由を受けた場合、まず本願の明細書を詳しくレビューし、実質的な所望の意味を確認し、必要に応じて意見書にて説明・解釈するか、又は請求項を補正する。

<事例5.3>
 
係る構成要件 ・・・前記穴埋め材料を覆って形成されたソルダーレジスト層とを備え、前記穴埋め材料と前記ソルダーレジストとの、・・・ことを特徴とするプリント配線板。
拒絶理由 「前記ソルダーレジスト」という記載は先行語が欠如する。
対応 請求項を補正した。すなわち、ソルダーレジスト層とソルダーレジストとの関係を追加した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

請求項の作成時に、ある構成要件を初めて記載する場合、「前記」の用語を記載してはならない。「前記」を使用する際には、先行語と一致させる必要がある。例えば、先行語として「ポリマー組成物」がある場合、「前記ポリマー組成物」、又は「前記組成物」を使用するのはよく、このような表現は通常認められる。また、各構造、組成及びそれらの関係を明瞭にしなければならない。これらの構造、組成は、当業者がこの請求項の技術的範囲を特定できるように、直接又は間接に保護しようとする課題と何らかの関連を有していなければならない。

「前記」という用語があるので、請求項は不明瞭であるという拒絶理由を受けた場合、不備を解消するために、通常、請求項を補正する必要がある。

<事例5.4>
 
係る構成要件 ・・・下記一般式(1)で表される構造を有する(b)スルホンアミド化合物の金属塩を含有してなる・・・ポリエステル樹脂。

式(1)中、・・・Mは2価の金属原子・・・又は連結基・・・を表す。
拒絶理由 Mが連結基の場合には、一般式(1)で表される構造を有する化合物は金属原子を含有しないので、請求項1で規定した、一般式(1)で表される化合物がスルホンアミド化合物の金属塩であることと矛盾する。
対応 請求項を補正した。すなわち、Mが連結基である場合を削除した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

請求項の作成時に、前後矛盾することがないように注意すべきである。同一の構成要件について、複数の限定を行う場合は、特に整合性に注意を要する。

複数の限定が相互に矛盾しているので、請求項は不明瞭であるという拒絶理由を受けた場合、審査官の理解が間違っていない限り、拒絶理由を解消するために、通常、請求項を補正する必要がある。

4. 特許請求の範囲全体が明瞭であるかどうか

特許請求の範囲全体が明瞭であるかどうかとは、特許請求の範囲を構成する請求項間の引用関係が明瞭であるかどうかをいう。例えば、前の請求項が後の請求項を引用する場合、又は後の請求項が前の請求項に従属するが、先行語が欠如している場合は、不明瞭に該当する。このような不備については、通常、請求項の補正によって解消できる。

<事例6.1>
 
係る構成要件 「請求項1」・・・第1部材は、水平部分を有し、・・・。
「請求項2」・・・第1部材は、ジグザグ状部分を有する。
「請求項3」・・・第1部材は、曲線状部分を有する。
そのうち、請求項2~3はそれぞれ請求項1に従属する。
拒絶理由 請求項2~3に記載のジグザグ状部分、曲線状部分と請求項1に記載の水平部分とがどのような関係を有するのかが分からず、第1部材が水平部分とジグザグ状部分とを同時に有するか、又は水平部分と曲線状部分とを同時に有するか、又はジグザグ状部分と曲線状部分とが水平部分の具体的な形態である可能性もある。
対応 請求項2を「・・・第1部材の水平部分がジグザグ状部分である」に、請求項3を「・・・第1部材の水平部分が曲線状部分である」にそれぞれ補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

請求項の作成時に、後の請求項の付加要件が前の請求項のある構成要件をさらに特定するものである場合、後の請求項の付加要件と前の請求項の対応する構成要件との関係を明瞭にしなければならない。

付加要件の特定する対象が不明瞭であるので、請求項は不明瞭であるという拒絶理由を受けた場合、補正が新規事項の追加に該当しないことを前提に、通常、両者の相互関係を追加することによって解消できる。

<事例6.2>
 
係る構成要件 1.・・・チャンネル層はチタンまたはタングステンをドープした酸化インジウムからなる薄膜トランジスタ。
3.上記インジウムを含む金属酸化物は、酸素が含まれる雰囲気でインジウムを含むターゲットをスパッタしてなす請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
拒絶理由 請求項3における「上記インジウムを含む金属酸化物」は、従属する請求項1における「チタンまたはタングステンをドープした酸化インジウム」と異なるので、先行語が欠如している。
対応 請求項3の「上記インジウムを含む金属酸化物」を「チタンまたはタングステンをドープした酸化インジウム」に補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

請求項の作成時に、異なる請求項における同一の構成要件の記載を一致するようにすべきである。一致していない場合、請求項は不明瞭であるという拒絶理由を受けるおそれがある。このような拒絶理由を受けた場合は、その構成要件が前後一致しているかどうかを分析し、一致している場合は、意見書で説明すればよいが、一致していない場合は、補正によって一致させる必要がある。

5. その他

<事例7.1>
 
係る構成要件 ・・・入力されてくるドライブパルスを初期値から一方向にカウントするとともに、前記ユニットカウンタからのユニット検出パルスによりカウント値を初期値の方向にカウントするドライブカウンタ・・・
拒絶理由 上記請求項におけるカウント値とは、「ユニットカウンタ」のカウント値なのか、「ドライブカウンタ」のカウント値なのか不明であるので、請求項は不明瞭である。
対応 上記「カウント値」を「前記ドライブカウンタのカウント値」に補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

請求項の作成時に、ある構成要件が異なる技術的内容を指す場合、何を指すか不明瞭であるという指摘を受けないように、これらの構成要件の前に限定事項を入れたほうがよい。

何を指すか不明瞭であるので、請求項は不明瞭であるという拒絶理由を受けた場合、具体的にどの内容を指すかを明瞭にするために、通常、請求項を補正する必要がある。

<事例7.2>
 
係る構成要件 ・・・前記機械シャッターには、電力で移動前の初期位置が保持された後幕が含まれ・・・
拒絶理由 「先幕」が使用されていない状況下において、使用された「後幕」は、一種の部品の名称であるのか、又は一種の順序を示すものであるかを特定できないので、前記機械シャッターに「先幕」が含まれるかどうかを特定できない。
対応 「後幕」を「幕」に補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

請求項の作成時に、部品の名称に順序が含まれる場合、通常順次に番号を付す。例えば、「第一」、「第二」・・・や「先」、「後」など。

記載不備のために請求項は不明瞭であるという拒絶理由を受けた場合、具体的な部品の表現をより明瞭にするために、通常、請求項を補正する必要がある。

<事例7.3>
 
係る構成要件 ・・・(a)で示される少なくとも1種のシラノール化合物(以下、(a)成分)・・・
拒絶理由 請求項には「(以下、(a)成分)」という表現があり、この括弧書きによって異なる技術的範囲が限定されるので、請求項の技術的範囲が不明瞭である。
対応 請求項を「・・・以下(a)成分という下記一般式(a)で示される少なくとも1種のシラノール化合物・・・」に補正した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

各国の特許制度には差異があるので、一部の国では請求項における括弧書きが認められるが、不必要な括弧書き(例えば、化学式、数式、図面符号などに用いるのではない場合)は認められない国もある。現在、中国特許審査のプラクティスにおいて、請求項には括弧書きが完全に使用できないわけではないが、通常、化学式、数式、図面符号などにおける使用のみが認められる。請求項の作成時には、この点に注意する必要がある。

請求項に括弧書きがある場合、通常、技術的内容が不明瞭であるという不備をもたらすことはなく、技術的範囲が明瞭であるかどうかにのみかかっている。このような拒絶理由を受けた場合、通常、補正によって解消できる。例えば、括弧を削除するか、又は技術的範囲が縮減されないことを前提に、表現をより明瞭にするために、括弧内の内容を残し、用語の順序を適切に変更するなどである。
 
III.請求項が簡潔であるかどうか

請求項が簡潔であるかどうかは、特許の権利範囲に大きく影響するわけではないが、特許請求の範囲が簡潔でないという不備をもたらす。請求項が簡潔でないとは、主に、請求項に発明の特定にとって実質的な意味を有さない記載があるか、又は特許請求の範囲に技術的範囲が実質的に同一の請求項があることなどをいう。

請求項には、構成要件を記載すべきであるが、発明の特定にとって実質的な意味を有さない記載があってはならない。例えば、宣伝用語、発明の目的、原理などが挙げられる。中国の特許制度ができてから30年以上が経過しており、出願人及び代理人のレベルも向上してきたので、今では、請求項に宣伝用語を記載することは極めて少なくなった。発明の目的、原理などの内容が含まれる請求項について、プラクティスにおいて審査官は、「簡潔ではない」という拒絶理由を通知しない場合もある。ただし、このような拒絶理由を受けた場合、補正が新規事項の追加に該当するかどうかを十分検討する必要がある。まず審査官と必要な意見交換を行なってから、どのように応答するかを決めることもできる。新規事項の追加に該当するおそれがある場合は、意見書に新規事項の追加に該当しない理由を説明したほうがよい。

1件の特許出願に、2項又は2項以上の技術的範囲が実質的に同一の請求項を記載してはならない。このような不備は、当初の出願書類に存在することもあるが、補正後の出願書類に存在する場合が多い。

<事例8.1>
 
係る構成要件 請求項2.さらに、登録されたインデックスによって画像を検索することを特徴とする請求項1に記載の画像処理方法。
請求項3.請求項1に記載の画像処理方法によって得られた登録されたインデックスを介して画像を検索することを含む画像検索方法。
拒絶理由 文言記載は異なるが、両者は、技術的範囲が実質的に同一の請求項であるので、特許請求の範囲が簡潔でない。
対応 請求項3を削除した。
結論 上記不備が解消された。
 

【示唆】

請求項の作成時に、請求項間の関係を総合的に考慮し、1つの特許請求の範囲に、技術的範囲が実質的に同一の複数の請求項を記載しないようにしなければならない。

技術的範囲が実質的に同一の複数の請求項が同時に存在するので、請求項は簡潔でないという拒絶理由を受けた場合、通常、一部の請求項を削除することによって解消できる。

IV.結論

『特許法』第26条第4項は、特許出願のコア部分―請求項に係る条文であるので、拒絶理由によく見られる条文である。明細書に記載の内容から請求項を導き出せること、又は総括し得ることを確保するために、請求項の作成時には、請求項と明細書との関係に注意しなければならない。また、適切な用語・表現、標準的な形式を選択し、請求項の技術的範囲が明瞭であることを保証する。さらに、発明と無関係の記載を削除し、適切な従属関係を選択し、特許請求の範囲が全体として明瞭、簡潔であることを確保する。拒絶理由に応答する際には、まずその拒絶理由が正しいかどうかを判断する。拒絶理由が正しくないと判断した場合、直接反論すべきであるが、拒絶理由が正しいと判断した場合には、不備が生じた原因を分析したうえで、適切な応答方法、例えば、意見書に解釈、説明を記載するか、請求項を補正するか、又は両者とも行うなどを選択することができる。
 
(2011)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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