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中国の特許無効審判における当事者の立証に関する一般的な規定


北京林達劉知識産権代理事務所

特許無効審判は、請求人の請求に基づいて、既に登録されている特許権の有効性を審査するものであり、通常無効審判を請求した請求人と被請求人の当事者双方が審判に参加する。特許審判委員会は、法により賦与された行政権に基づき、無効審判請求を速やかに審理し、その結果を当事者双方(請求人及び被請求人)に通知しなくてはならない。特許無効審判において、当事者双方(請求人と被請求人)は、自分が主張したい事実及び無効事由を裏付けるために、特許審判委員会に証拠を提出して論証するのが一般的である。その証拠は、一定の形式的要件及び実質的要件を満たし、かつ特許審判委員会の審判官による合議体に採用されなければ、その成り行きに影響を与えることができない。

プラクティス(審査手続)において、当事者双方が証明責任、証拠提出時期及び証拠の要件などに関する法律・審査の基準について正しく理解していないため、その証拠が特許審判委員会の審判官による合議体に認められないケースが数多くある。本来請求人にとって有利な証拠は、事件の結論に影響を及ぼすことはない。また、特許無効審判には、行政手続と民事手続という二重属性があるという理由のほかに、証拠の多くが技術的内容を含んでいるため、特定の証拠法則(証明法則)を有するという原因もある。証拠法則を整理して、まとめることは、請求人がそれぞれ具体的な状況に応じて効率的な措置を取り、要件を満たしかつ有効な証拠を提出することに役立ち、結果として、勝訴の目的を達成することができるのである。

現在、無効審判の証拠法則に関する規定はあまり多くない。特許法実施細則第65条に規定されている請求人による無効審判請求の形式的要件1、第67条に規定されている請求人による理由の追加・証拠の補足の期間2及び「審査基準」の第4部第3章~第8章にある若干の規定を参考とすることができる。なお、実際の事件においては、民事訴訟や行政訴訟からの原則や法則を参考として採用するケースもある。以下、現行の規定から無効審判において当事者双方の立証に関する一般的な規定について、分類して説明する。
 
I.証明責任の分配
 
無効審判は、請求人の請求で開始され、当事者双方(請求人と被請求人)が審査に参加する。また、特許審判委員会では、証明責任の分配について、全般的に民事訴訟法の「請求する人が証明を行う」という法則に基づいて、事件の具体的な状況に応じ、当事者双方と証拠との距離や証明能力などを総合的に考慮した上で、請求人の証明責任の範囲を確定する3

【事例1-1名称が「自動車ハンドルロック」である第200430080768.1号意匠についての無効審判請求審決4において、請求人は本件意匠が国内刊行物に公表された意匠と類似することを証明するために、2004年3月に出版された雑誌「九洲快訊広告」の表紙及び証拠として採用するページのコピーを提出し、口頭審理では、当該雑誌の原本を提出した。しかし、被請求人(意匠権者)は、当該証拠の真実性を認めず、口頭審理中に九州広告有限公司のウェブサイトにアクセスして当該雑誌を調べた。その結果、当該雑誌の存在は確認されなかった。

しかし、合議体は、被請求人(意匠権者)が規定する期間内における当該雑誌の存在の真偽については証明されておらず、またホームページの内容を勝手に変更できることに鑑み、口頭審理当日にウェブサイトに当該雑誌を探し出せないことから、2004年当時に当該雑誌が存在しないことを証明できないと判断し、被請求人(意匠権者)の主張を退けた。
 
II.証拠提出の形式的要件
 
1.証明期間

無効審判では、行政手続のように効率化を図るため、当事者双方の証拠の提出期間である証明期間について厳しく規定されている。具体的には、請求人及び被請求人(特許権者)は証明期間について、以下の規定を遵守しなければならない5

(1)通常無効審判において、請求人の証明期間ついて、無効審判請求日(T)から1ヶ月以内に、証拠の補足を行うことができると規定されている。ただし、被請求人(特許権者)が反証を提出したり、併合による方法でクレームを補正したりする場合は、請求人は、合議体の指定する期間内に証拠を補足することができる。

(2)無効審判における特許権者の証明期間は、合議体によって指定された応答期限とする。

(3)請求人及び被請求人(特許権者)による外国語による証拠の訳文、物証の期限についても、上記の規定と同様である。

(4)技術分野において公知の常識性を持つ証拠(技術辞典、技術マニュアル及び教科書など)及び法律で定める形式を備えた公証文書にした証拠や原本などの証拠について、当事者双方の証明期間はいずれも口頭審理の弁論が終了するまでの期間とする。

(5)期間内に解決できない問題があり証明期間を延期する必要がある場合、上記期間内に書面で請求しなければならない。

なお、上記(5)にあるように証明期間の延期を請求するのは、不可抗力、郵便事情及び物証が封じられたケースなど、正当な理由がある場合のみとする。

【事例2-1名称が「枠式アルミ製ボイラー」である第02275147.5号実用新案の無効審判請求審決6では、請求人は口頭審理中に添付資料6~20(いずれも公開刊行物である)を、技術分野において公知の常識性をもつ証拠として提出した。無効理由としては、請求項1及び2が添付資料6と15、又は添付資料20と15の組み合わせに対して進歩性を有せず、請求項3が添付資料3、1、17の組み合わせ、又は添付資料3、2、17の組み合わせに対して進歩性を有しない理由を明示していた。

合議体は、「請求人は、口頭審理中に上記資料6~20(無効審判請求日から1ヶ月後に口頭審理時に提出)を利用して、請求項1~3の進歩性について評価した。しかし、当該資料は、ある技術的手段がこの分野の技術常識であることを証明するためのものではなく、「審査基準」第4部第3章第3.1節第4~24頁第1段落に規定の新しい証拠に該当しているため、合議体はそれを考慮しなくてよい。したがって、上記新しい証拠を使用した進歩性の判断方法についても、合議体は認めない」と判断した。

2.証拠の完全性に関する要件

特許無効審査において、当事者は、証拠の原本及び全てのコピーを揃えて提出する必要がある。なぜなら、例えば特許文献のフロントページ、刊行物の証拠として使用するページなど証拠の一部のみを提出する場合、合議体としては、通常提出された部分のみを証拠として採用するからである。ただし、口頭審理の弁論終了前に、当事者が特許文献の書誌事項に関するページや出版権を証明する書面を提出しても、新しい証拠としてみなされず、特許審判委員会はそれを考慮する7

当事者が外国語の証拠を提出する場合は、その中国語訳文も証拠の一部として、規定されている期間内に提出する必要がある。さもなければ、その証拠は未提出とみなされる。また、正式な訳文を提出せず、請求書や意見書などの書類に関連部分の訳文を明確に記載したり、明示したりしている場合も、プラクティスにおいて、関連部分の訳文を提出したものとみなされる。

【事例2-2名称が「石炭を燃やすボイラーの高温灰乾式輸送装置」である第01200943.1号実用新案の無効審判請求審決8において、請求人は添付資料2(国家電網の北京国電富通科学技術発展有限責任公司に関する外国語で表記されているウェブページのコピー)を証拠として提出し、本件実用新案が出願日前に国内で公然として使用されていたことが添付資料2を証拠として証明できると主張した。しかし、請求人はそのウェブページの中国語訳文を提出しなかった。

そのため、合議体は、審査基準4部第8章第2.2.1節の規定により、当該外国語証拠を未提出とみなし、本件で証拠として使用することができないと判断した。

3.外国及び香港、マカオ、台湾地域で作成された証拠の証明手続

外国の証拠とは、中華人民共和国の領域外で作成された証拠である。外国の証拠については、真実性を確認するのに地域バリヤーがあるため、証明手続は更に厳しく要求されている。当該証拠は通常、所在国の公証機関により証明され、かつその国に駐在する中華人民共和国の大使館や領事館により認証され、又は中華人民共和国がその国と締結した関連条約に規定された証明手続を履行しなくてはならない。

香港地域で作成された証拠について公証の必要がある場合、公証文書に「中華人民共和国の司法部が香港の弁護士に依頼して中国大陸部で使用される公証文書として取り扱うための専用の印鑑」を捺印してなければならない。

マカオ地域で作成された民事登録類文書を証拠とする場合、公証・認証をする必要がなく、同様に同地域の公証機関により公証された他の証拠についても、認証する必要がない。

台湾地域で作成された証拠は、公証の必要がある場合、公証文書は、中国公証人協会又は省・自治区・直轄市の公証人協会(又は公証人協会の準備グループ)により証明されてなければならない。ただし、公証文書に「中華民国」の文字の印章やドライスタンプがある場合、合議体に証拠として採用されない。

なお、上記証拠は、必ずしも公証・認証手続を行わなければならないというわけではない。「審査基準」には、証明手続を行う必要がない外国の証拠について、以下の3つ状況について規定されている9

すなわち、(1)香港・マカオ・台湾以外の中国国内の公共ルートを通じて入手できるものである場合、(2)その真実性を十分に証明できるその他の証拠がある場合、(3)相手方当事者がその真実性を認めた場合、というものである。

上記(1)について、どのように証拠が香港・マカオ・台湾以外の国内の公共ルートを通じて入手できることを証明するかについて、例えば、公開刊行物又は特許文献であること、非特許文献であるなら、国内で調査及び検索の資格を有する機構(例えば中国科学院の文献情報センターの情報サービス部など)や公共図書館から提出された証拠である必要がある。

4.現場検証の請求

工業設備などの移動が困難な証拠については、現場の写真を撮り、証人証言を提出するなどの証明方法以外に、請求人は、証明期間内に特許審判委員会に現場検証を請求することができる。現場検証を行うか否かについては、合議体が決定する。合議体は通常、以下の観点から現場検証の必要性について判断する。

すなわち、(1)実物証拠が本件と深く関係しているかどうか、(2)実物証拠が使用中であったり、搬送や分解が不可能であったりするなど物理的原因によって特許審判委員会に直接提供できないものに該当するかどうか、(3)当該実物証拠を取得する確実な手がかり、例えば検証物の所在地、検証物の所有者、連絡先などを提供したかどうか、が現場検証を行うかどうかのポイントになる。
 
III.証拠調べに関する規定
 
証拠調べとは、合議体のもとに証拠となるものの資格、証明力の有無、証明力の強さなどについて質疑、説明及び弁論を行うことである。証拠調べでは次のことに注意する必要がある。

1.コピー又は複製品

証拠提出の段階では、書面証明、物証及び視聴覚資料など証拠のコピー又は複製品のみを提出すればよい。その後、証拠調べの段階では、当該証拠の原本又は原物を提出しなければならない。書面証明、物証又は視聴覚資料がコピー又は複製品であったり、原本を提出していなかったりする証拠について、相手方の当事者がそれを認めず、かつ当方の当事者もその他の証拠により証明していない場合、合議体はその証拠をさらに証拠調べを行わなくてもよい。これは、当該証拠が認められないということを意味する。

2.公証により封じられた証拠

請求人が挙げた証拠が公証により封じられた場合、当該証拠を提出する際、封印が完全なものであることを確保すべきである。

3.物証及び視聴覚資料

物証及び視聴覚資料について、口頭審理呼出状への答弁書に、口頭審理時に実演する物証、放送する視聴覚資料があると明確に記入し、証拠調べの時にその場で実演する必要がある。

4.証人証言

証人証言について、書面で証言を提出し、当該証言をした証人は、口頭審理に出頭して証拠調べを受けなくてはならない。口頭審理に出頭できない証人による書面の証言は、単独で事件の事実を認定する根拠とすることができない。ただし、証人が認められる事情があって口頭審理に出頭できない場合は除く10

当事者双方の証人が口頭審理に出頭する必要がある場合、その証人は証言をしたことがなければならない。また、口頭審理呼出状への答弁書に口頭審理に出頭する証人を明確に記入するとともに、口頭審理時に、証人の身分証明書のコピーを合議体に提出して記録として残す必要がある。また、請求人が口頭審理中に、さらなる証人の出頭を請求する場合、合議体は具体的な状況に応じて証人の出頭を許可するか否かを決定する権利がある。
 
(2011)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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