理解 重視 活用 利益取得 ——中国における実用新案制度について
北京林達劉知識産権代理事務所
知的財産権分野における重要な制度の一つとして、実用新案制度はこれまで百年余りにわたって発展してきた。現在、世界の60以上の国や地域が実用新案制度を保有しており、実用新案制度は製品又は装置の形状、構造についてなされた実用に適した新しい改良であると規定されている国が多いが、各国の実用新案制度はまたそれぞれの特色を有している。中国では特許法が施行されて以来、実用新案は長期にわたって膨大な出願件数及び登録件数に達しており、発明創造の奨励、科学技術の進歩にかけがえのない役割を果たしている。中国特許法3回目の改正において、実用新案権の評価報告制度、「特実併願」制度などの実用新案に関連する規定が改善されたことに伴い、中国実用新案制度は審査期間が短く、出願費用が低く、登録率が高いなどの様々なメリットにより国内外の出願人から更に広く注目されている。
本文では、出願人が中国における実用新案制度を理解し、かつ正確に活用して利益を得るために、中国特許制度における実用新案制度の特徴について紹介するとともに、実務経験に基づいてアドバイスする。
Ⅰ.中国における実用新案制度の紹介
1.基本状況の紹介
1985年に中国特許制度が確立された当初から実用新案制度が制定されたのは、当時の中国経済の発展がアンバランスの状態にあったからである。中国実用新案制度の規定は、ドイツ、日本などの実用新案または実用新案と類似の制度を施行している国の法規を参考にし、中国独自の特徴も盛り込まれている。この制度の20年余りの経過とともに、多くの出願人がこの制度のメリットを適切に活用している。この制度は、特に個人や中小企業の知的財産権の意識を高めることに重要な役割を果たしている。
これまでの3回の特許法改正において、中国経済の発展に適応するように実用新案制度は改善されてきた。それと同時にこの制度の活用も急速に発展してきた。
2.実用新案の定義
「特許法」第2条第3項によれば、「実用新案とは、製品の形状、構造またはそれらの組合せについてなされた実用に適した新しい技術をいう。」と規定されている。
そのうち、製品の形状とは製品の外部から観察できる確定した空間形状であり、製品の構造とは製品の内部構造を指し、すなわち、製品の組成部分及びその構造を指している。それらは確定した空間位置関係を有し、ある形式で相互に連結し、1つのものになっている。
実用新案の保護対象は一定の形状を有する製品のみに限られており、かつ発明より進歩性の基準が低いため、「小発明」とも呼ばれる。
3.審査制度
中国では、実用新案出願に対して方式審査を実施し、すなわち、出願書類は完全であるか否か、形式は要件を満たすか否か、及び明らかな実質的不備がないか否かについて審査を行う。これらの条件さえ満たせば、特許権が付与される。実用新案出願が新規性、進歩性などの実質的な登録要件を満たしているかどうかについては、審査しない。実用新案出願の方式審査制度は簡単な形式審査(または完全な無審査)と比較すると、ある程度審査の質を確保することができる。発明特許出願の実体審査と比較すると、審査及び登録の早期化を図ることができる。このように、審査速度と審査の質との間のバランスがよく取れているといえよう。
Ⅱ.中国実用新案制度の特徴について
以下に実用新案と発明特許とを比較しながら、実用新案制度の特徴及びメリットを説明する。詳細は下表のとおりである。
番号 |
項目 |
発明特許 |
実用新案 |
1 |
進歩性の基準 |
高い |
低い |
2 |
権利期間 |
20年 |
10年 |
3 |
費用(手続費用、代理費用を含む) |
高い |
安い |
4 |
審査期間 |
長い(平均約36ヶ月) |
短い(約9~12ヶ月) |
5 |
保護対象 |
製品、方法 |
製品 |
6 |
権利の安定性 |
高い |
低い |
以下に上述の対比について具体的に説明する。
1.進歩性の基準
「審査基準」第4部第6章には、実用新案の進歩性の基準について規定されている。すなわち、実用新案の進歩性の基準は発明特許の進歩性の基準より低い。主に進歩性を判断する際に、引用する公知技術の分野及び引用文献の件数は発明特許と異なっている。すなわち、ある発明創造が、進歩性はあまり高くないが、公知技術との相違点や効果なども確かに有する場合、発明特許の進歩性の要件を満たしていないとしても、実用新案の進歩性の要件を満たしている場合がある。したがって、創作の程度が高くない発明創造について、出願人は実用新案として出願することが考えられる。
2.権利期間
実用新案の権利期間は比較的短いが、実用新案は通常、市場における製品のライフサイクルが比較的短く、かつ創造性の程度が高くない発明創造を保護するので、10年の権利期間は特許権者のニーズを満たすといえよう。
3.費用
発明特許及び実用新案の出願時及び登録後の基本的な費用は下表のとおりである。
発明特許
費用の項目 |
手続費用(RMB) |
代理費用(RMB) |
出願費用(印刷費用を含む) |
950 |
4,500 |
実体審査費 |
2,500 |
1,300 |
拒絶理由に応答する費用 |
0 |
約1,400/時間 |
年金(20年) |
82,300 |
13,950 |
実用新案
費用の項目 |
手続費用(RMB) |
代理費用(RMB) |
出願費用 |
500 |
3,600 |
補正通知書に応答する費用 |
0 |
約1,400~2,000/回 |
年金(10年) |
11,200 |
5,760 |
このように、実用新案権を取得・維持する費用は発明特許を取得・維持する費用より遙かに安い。多くの企業がコストを削減し、激しい市場競争に対応しなければならない環境のもと、適切な発明創造を実用新案として出願することは知的財産戦略の一つであるといえよう。
4.審査期間
中国では、実用新案出願に対して方式審査制度を有し、発明特許出願に対して早期公開・実体審査制度を有する。発明特許出願は出願から公開まで1年半かかるほかに、実体審査にも長い時間がかかる。したがって、実用新案の審査期間は発明特許の審査期間より遙かに短い。出願人は早期権利化を図るとともに、長い権利期間を必要としない場合、実用新案出願が好ましい。
5.保護対象
発明特許は製品及び方法を保護できるのに対し、実用新案は製品しか保護できない。したがって、実用新案の保護対象の範囲は比較的狭い。このように実用新案には限界もあるので、出願人は実用新案のメリットを盲目的に求めてはならず、発明創造の具体的な内容によって適切な保護(すなわち、発明特許出願とするか実用新案出願とするか)を選択すべきである。
6.権利の安定性
審査過程において、実用新案は新規性、進歩性について調査や実体審査を行わないので、その権利の安定性は、発明特許と比べて大きな差がある。1986年から2007年までの中国における特許の無効請求のうち、50%が実用新案であり、発明特許はわずか30%である。
7.特徴の分析
実用新案の上述の特徴からすれば、短期技術の発明創造、進歩性の低い発明創造及び権利行使に迫る発明創造について、実用新案を出願することは有利である。現在のように、市場競争が激しい背景のもとでは、市場を先に占めることは、企業にとって非常に有利であり、かつ肝心なところであるといえよう。実用新案を出願し、できるだけ早期権利化を図ることは、製品の宣伝や、消費者の技術に対する理解及び競争相手による偽物の防止などにも積極的な役割を果たす。企業の知的財産戦略において、実用新案は商業競争の土台として、また、その後の市場展開において、上記の役割を果たすことができる。
もちろん、実用新案も権利の安定性が低いという欠点がある。この欠点を補うために、出願人は実用新案出願前の準備及び出願書類の作成を重視すべきである。そうすることにより、登録された実用新案権が高い安定性を確保できるであろう。また、中国特許庁も、特許法の改正などの措置によって実用新案制度を改善するために積極的にアプローチしてきた。以下に上述の内容についてより詳しく紹介する。
Ⅲ.実用新案出願前の準備及び出願書類の作成
実用新案出願は審査期間が短く、通常、方式審査を行った後に登録されるが、実用新案を出願するのは簡単な作業とはいえない。逆に、プラクティスからみれば、出願人が安定性の高い、実質的価値のある実用新案権を取得したい場合、その出願は発明特許出願より特別な難しさがある。
特許法実施細則によれば、実用新案出願は出願書類を提出してから2ヶ月以内に自発補正することができる。すなわち、発明特許出願のように、拒絶理由通知において指摘された不備に対して出願書類を複数回補正することはできない。したがって、実用新案権の安定性に影響を及ぼす多くの実質的不備及び形式上の不備は、出願前の準備及び出願書類の作成の段階で発見し、かつ解決しなければならない。この状況について、出願前の準備及び出願書類の作成の段階において、実用新案の出願人は可能な限り以下のことをすべきである。
(1)自らまたは関連能力を有する機関や団体に依頼して、公知技術の調査及び分析を十分に行うことにより、実用新案が新規性及び一定の進歩性を有していることを確保する。
(2)出願書類を翻訳する必要がある場合、翻訳ミスを少なくするために、翻訳者が高い技術及び法律知識を有していることを確保する。
(3)出願書類を提出する前に、出願書類に他の実質的不備及び形式上の不備(例えば実用新案の保護対象外、実施可能要件違反、サポート要件違反、請求項の記載不明確など)がないことを確認することにより、審査官が補正通知書又は拒絶理由通知書を発行する可能性を低くし、登録までの時間やコストを削減することができ、登録された実用新案の安定性を高めることが何より重要である。
弊所はプラクティスに基づいて、実用新案出願について豊富な経験及び特独な方法を纏めた。高いレベルの調査サービス及び翻訳サービスを提供するほか、上記第(3)点について、出願書類を提出する前にクライアントと意見を交換し、出願書類の品質を保つ「実用新案出願の評価及び補正確認表」を作成した。この表に基づいて、弁理士は審査官の視点から出願書類を項目ごとにチェックし、かつ、不備を発見した場合、出願人と確認して、出願書類を適宜補正し、権利の安定性に影響を及ぼすおそれのある不備を出願書類の提出前に解消するようにしている。こうすることにより、権利者は安定した実用新案権を取得することができ、発明特許権とほぼ同一の効力でこの実用新案権を行使することが可能となる。
この表は本文の末尾に添付するので参照されたい。また、この表の具体的な項目や本文の見解に何かアドバイスや意見などあれば、連絡していただければ幸いである。積極的に意見交換し、皆様から学ぶことにより我々の業務を改善し、多くのクライアントにより完全なサービスを提供していきたい。
Ⅳ.「特実併願」制度
「特実併願」制度とは、同一の発明創造について中国特許庁に発明特許及び実用新案の両方を出願することを指している。この制度は、中国特許法が中国の具体的な国情及び出願人の客観的なニーズに応じて制定されたものであり、特許法の複数回の改正につれて改善されてきたものである。この制度のもとでは、発明特許出願が特許権付与の要件を満たし、かつ出願人が同一の発明創造について登録された実用新案権を放棄することにより、発明特許権を取得することもできるし、発明特許出願を補正することにより2つの権利の技術的範囲を異なるものとすることにより、同時に存在させることもできる。
「特実併願」制度はそのニーズのある出願人にとって大いに役立つといえよう。ある重要な技術成果について、出願人は発明創造を早く権利化し市場においてその効力を発揮したいと考えると同時に、長期間保護されたいという気持ちもある。このような場合、出願人は「特実併願」制度を合理的に活用することにより、短期間内に実用新案権を取得でき、発明特許の登録と同時に実用新案権を放棄することにより、発明特許のより長い権利期間も得られる。また、技術によりその進展のスピードに差があるため、ある技術が市場に入って初めて当該技術の重要性及び淘汰され得る具体的な期間が分かるので、出願する前には、当該技術にとって必要な保護期間を特定することはできない。このような場合、出願人は「特実併願」の形式で出願することができ、市場競争を経てこの技術の「生命力」を知ったうえで、適切に選択することにより、知的財産権の保護に要するコストをできるだけ削減することができる。
第3回の特許法改正において、改正特許法及び特許法実施細則には「特実併願」制度がより合理的に規定され、プラクティスにおけるこれまでに議論されてきた多くの問題点を解決できた。主な改正点は以下のとおりである。
1.提出日
旧規定におけるダブルパテント及び権利の合計存続期間が20年を超えるという問題点を解決するために、特許法第9条は、「同一の出願人が同日に同一の発明創造について、実用新案特許出願と発明特許出願の両方を行っており、先に取得した実用新案特許権が消滅しておらず、かつ出願人が当該実用新案特許権を放棄するという意思表明を行った場合、発明特許権を付与することができる。」と規定された。この新規定によれば、出願人が代理機関や組織に依頼するとき、「特実併願」であることを説明すべきである。こうすることにより、代理機関は発明及び実用新案の出願を調整することができ、同一の出願日に出願書類を提出することができる。
2.提出時の説明
ダブルパテント禁止の審査フローに便宜を図るため、特許法実施細則第41条によれば、同一の出願人が同日に、同一の発明創造について実用新案出願と発明特許出願の両方をした場合、出願時に同一の発明創造が他の発明または実用新案を出願したことを別々に説明しなければならない。こうすることにより、審査官は発明特許権を付与しようとするとき、出願書類の資料からこの発明特許出願が同時に実用新案出願もされていることが分かる。審査官は、この実用新案が登録されかつ有効な状態にあると確認できた場合、出願人にこの実用新案権を放棄する旨を声明するよう通知し、または権利範囲を実用新案に係る権利範囲と異なるものとするため、発明特許出願の権利範囲を補正するよう通知する。さもなければ、発明特許権は付与されない。このように、最大限度でダブルパテントの発生を回避できる。
また、出願人が出願時に発明特許出願及び実用新案出願の書類にそれぞれ説明した場合にのみ、実用新案権を放棄することにより発明特許が付与される。したがって、出願人が代理機関に依頼する際、「特実併願」について説明し、代理機関は出願書類を提出するときまでに説明の対応書類を準備する必要がある。
3.登録時の公告説明
「特実併願」の状況を公衆に知らせるため、特許法実施細則第41条によれば、特許庁は、実用新案を登録することを公告するときは、出願人が発明特許出願を同時にしたと説明したことを公告しなければならない。
4.声明放棄の効力
改正前の特許法によれば、発明特許の登録時に、実用新案特許権は出願日に遡って放棄したものとみなされる(実用新案特許権は最初から存在しなかったことになる)。これは実際には、先に取得した権利が無効とされた場合と同じ結果になり、例えば、実施許諾の際のロイヤリティの取扱いなどについて問題を生じるおそれがある。これらの問題点を解決するために、特許法実施細則第41条によれば、出願人が実用新案権を放棄する旨の声明を提出した場合、特許庁は、発明特許権の登録を公告する際に、この放棄声明を公告しなければならず、また、実用新案権は発明特許権の登録について公告された日をもって消滅する。
これらの規定は同一の発明創造による2つの権利を合理的に継続させており、出願人はこれらの規定によって、実用新案権と発明特許権の権利期間を正確に理解することができ、各期間における2つの特許権を適切に使用することができる。
5.実用新案を放棄して発明特許権を付与するその他の要件について
公衆のすべての特許情報を知る権利を確保し、公衆利益が害されることがないよう、特許法には、実用新案を放棄して発明特許権を付与する際のその他の要件が明確に規定された。すなわち、「先に取得した実用新案権が消滅していない」ことである。プラクティスでは、出願人が同一の日に同一の発明創造について実用新案及び発明特許の両方を出願し、先に取得した実用新案権が発明の登録前に消滅した場合、同一の発明創造の発明特許権を取得できない。したがって、出願人は発明特許が登録される前に実用新案権の有効性を確保すべきである。
上述の分析に基づいて、プラクティスにおいて、適切な発明創造に「特実併願」を行うことを提案する。わずかな費用が増えるだけで(実用新案の出願費用及び代理費用のみである。発明特許出願と実用新案出願の出願書類は同一であるため、翻訳費用を追加する必要はない)、実用新案制度及び特許制度のメリットを十分に活用することができる。
Ⅴ.実用新案権の評価報告制度
実用新案の出願件数は多いため、方式審査制度(実体審査なし)を採用するのは合理的であるが、それと同時に実用新案権の安定性は実体審査を行う発明特許権と比較して低い。そのため、実用新案権の経済応用及び関連司法手続きに様々な不便を与えてきた。従来の実用新案制度の活用において、安定性を確保できない実用新案権は往々にしてその経済上の価値を発揮できなかった。また、実用新案権の侵害事件について、裁判所は裁判手続きを中断し、審判委員会が実用新案権の有効性を判断した後に判決を下し、裁判所の業務効率に著しい影響を与えてきた。
そこで、2001年の特許法第2回改正時に、外国の経験を学び、実用新案権に対して調査報告を提出することが規定された。すなわち、実用新案出願の侵害事件において、裁判所や特許管理部門は、出願人に中国特許庁による調査報告を提出することを追加した。しかし、この調査報告の内容は実用新案の新規性、進歩性のみに関するものであり、この調査報告の法的効力が明確にされなかったため、実用新案が実体審査を受けずに登録されることによる権利不安定の問題を依然として十分に解決できなかった。
この問題について、特許法第3回目の改正において、調査報告の名称を、「特許権評価報告」に変更するとともに、報告の内容を拡大し、ヒットされた文献情報から実用新案権が新規性、進歩性を有するかどうかについて分析・評価するだけではなく、実用新案権が特許権を付与できるその他の実質的要件を満たすかどうかについても全面的に分析・評価する。具体的には、実用新案権評価報告の内容は、特許法第20条第1項に規定する秘密審査以外のすべての無効理由(新規性及び進歩性のみならず、例えば、実施可能要件違反、サポート要件違反、新規事項の追加などその他の実質的登録要件も含む)を含む。
それと同時に、特許法は特許権評価報告の性質及び法的効力を明確にした。すなわち、特許権評価報告は、裁判所が特許侵害事件を審理し、又は特許を管理する部門が侵害紛争を取り扱う場合の証拠とした。裁判プラクティスにおける特許権評価報告の主な役割は、事件を受理した裁判所が特許権の安定性を判断するのに役立ち、それによって、提訴された侵害者が特許無効審判を請求したとき、裁判手続きを中断するか否かを決める。報告の結論からみて、この実用新案特許権が法的登録要件を満しておらず、提訴された侵害者が無効審判を請求した場合、事件を受理した裁判所は訴訟手続きを中断し、無効審判手続きの結果を待つ。逆に、この報告の結論が、この実用新案特許権が法的登録要件を満たしている場合、この特許権が一定の安定性を有することを表しているので、侵害者が無効審判を請求しても、裁判所は訴訟手続きを中断する必要がない。そのため、この規定は裁判所の業務効率を有効に高め、実用新案権の合理的行使を基準に合うようにした。
特許権評価報告は裁判所が特許侵害紛争事件の審理を中断するか否かを判断するのに役立つだけではない。その役割は、「一つ目は、特許権者が取得した実用新案権及び意匠権の法的安定性を正確に認識し、盲目的に権利行使することを回避することにより、特許権者自身が損害を受けないようにすること。二つ目は、他の機関や個人が実用新案権及び意匠権の法的安定性を正確に認識し、特許権の譲渡、ライセンス契約の締結、特許権による投資の受け入れなど価値のない取引活動を回避することにより、公衆の利益に損害を与えないよう保護すること」にもある。
特許権評価報告は証拠として使用されるため、特許書類とともに保管され公衆が自由に閲覧することができるが、1件の特許権に対して特許権評価報告は1回しか請求できないので、慎重に請求すべきであるということに留意すべきである。特許権者は特許庁に特許権評価報告を請求する前に、専門の代理機関や団体に依頼して「予測評価報告」を作成し、特許権の安定性について全面的かつ客観的に評価し、将来の特許権評価報告にあり得る不利な要因を予測することにより、特許庁に正式な報告を請求するか否かを決定するための根拠とすることを提案する。
要するに、実用新案権評価報告の規定及びその法的効力が明確になったことにより、実用新案権の安定性は高くないため権利行使しづらいという問題点を根本的に解決し、中国の実用新案特許権は価値の高い、かつ権利行使できる権利になった。この観点からみれば、出願人、特に外国出願人は実用新案制度をより一層重視し、低コストで高い利益を得るためにこの制度をより合理的に活用すべきである。
Ⅵ.まとめ
中国実用新案制度のメリットは非常に顕著であり、改正特許法におけるいくつかの規定は、実用新案権における一部の欠陥を補うことができた。方式審査及び実用新案権評価報告の審査制度は、審査期間が短く、費用が低く、進歩性のレベルの低い発明創造を保護できるという実用新案のメリットを保つとともに、実用新案権の法的安定性が低いというこれまでの問題点も有効に解決した。また、侵害紛争における裁判及び無効審判の期間を短縮させ、中国特許法に規定する登録要件を満たす実用新案権を適切に保護するという目的を果たしている。
制度の調整及び実務経験の積み重ねにより、中国の実用新案制度は中国の特許制度において大きな役割を担い、より大きな活力を発揮するであろう。最近のプラクティスからみれば、出願人は実用新案制度をより重視し、かつそのニーズに応じて実用新案出願を行うようになり、その結果、その出願件数は増加している。国内外の出願人が実用新案制度に対してより多く理解することにより、実用新案制度をより正確かつ十分に活用でき、その中からより多くの権利や利益をもたらすことになると信じている。
(2010)