北京林達劉知識産権代理事務所
化学部 弁理士 李 茂家
新特許法が2009年10月1日より施行されてすでに1年余りが経過した。この間、お客様から新特許法に関する数多くのお問い合わせを受けた。また、外国のお客様は、中国の実用新案特許制度に関心を寄せていることを知った。そこで、お客様が関心を寄せている問題を以下にまとめた。ご参考になれば幸いである。また、この1年間お客様から大きな協力及び支持をいただいたことについて、深甚なる感謝の意を表させていただく。
第一部: 意匠に関わる問題
今回の特許法改正では、意匠に関わる内容が多く、しかも意匠に関わる改正部分は広く注目されている。出願人が関心を寄せる問題を以下に説明する。
Ⅰ.意匠の簡単な説明について
1.意匠の簡単な説明の記載形式及び意匠権に対する影響
2009年10月1日より施行された新特許法第27条には、意匠出願を行う場合は、願書、意匠の図面又は写真及びその意匠に関する簡単な説明等の書類を提出しなければならないと規定されている。改正後の審査基準には、意匠の簡単な説明の内容について、「意匠の簡単な説明は、意匠に係る製品の名称、用途、設計のポイントを含み、また設計のポイントを最も反映できる出版のための図又は写真を指定すべきである。設計のポイントとは、従来の意匠と相違する製品の形状、模様及びそれらの組み合わせ、又は色彩、形状及び模様の組み合わせ、又は部位を指す。」と規定されている。
また、特許法第59条第2項には、「意匠の簡単な説明は図面又は写真に示された製品の意匠の解釈に用いることができる。」と規定されている。上述した規定について、多くの出願人は、意匠の簡単な説明に記載の設計のポイントが意匠権に影響を与えるか否かとの心配がある。
設計のポイントが意匠権の有効性に影響を与えるかどうかについて、参加したセミナーからの情報によれば、中国国家知識産権局(中国特許庁)意匠審査部及び特許審判委員会のシニア審査官や審判官はいずれも、意匠の簡単な説明における設計のポイントは、意匠権の有効性に対して実質的な影響がない、という見解を持っている。無効審判において、やはり「全体観察、総合判断」により当該意匠と対比意匠とを比較し、即ち、設計のポイントだけを比較するのではなく、当該意匠の設計のポイントを含む全ての要件を対比意匠と比較するのである。従って、対比意匠が当該意匠の設計のポイントと同一の特徴を有する場合でも、当該意匠が必ずしも無効にされるわけではない。一方で、対比意匠が当該意匠の設計のポイントと同一の特徴を有しない場合でも、当該意匠が必ずしも有効と維持されるわけでもない。
設計のポイントが意匠に係る侵害判断に影響を与えるか否かについて、『最高裁判所による特許紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』 (2009法釈21号)第11条に「登録意匠の従来意匠に対する相違点となる設計の特徴が、登録意匠の他の設計の特徴に比べてより大きな影響を有する場合、通常は意匠の全体的な視覚的効果に対してより大きな影響を有する。」と規定された。「従来意匠に対する相違点となる設計の特徴」が、意匠の簡単な説明に記載される「設計のポイント」を指すか否かは、裁判所の見解はまだ分からず、弊所の知る限りでは、これまでのところ、新特許法施行後に提出された意匠出願に関わる侵害紛争事件は発生していないので、上記の規定をどのように把握するかは、裁判所の判例を待つしかない。
意匠の簡単な説明の書き方は、皮相的な記載のほうがよく、特に出願人が従来意匠をよく分からない場合には、以下のような書き方ができると思われる。
(1) 「本件意匠の設計のポイントは正面図(又は斜視図)に示すように、…」(即ち、設計のポイントを最も反映できる図を1枚選んで説明する)
(2) 「本件意匠の設計のポイントは形状(模様又は色彩)のデザインにある」(即ち、意匠の要素を用いて説明する)
また、出願人が従来意匠に比べて改良した部分及び設計を行った部分、及びそれら以外の一般的な設計を知る場合には、設計のポイントが位置する具体的な箇所を記載することができる。例えば、タイヤのような製品については、「設計のポイントはタイヤトレッドのデザインにある」と記載することができる。しかし、改良した部位の全体に占める割合が小さい場合、対比意匠との相違点は部分的な微小な差異のみにあり、全体の視覚的効果に対して大きな影響がないと認定される可能性があり、進歩性についての反論に不利である。例えば、電気炊飯器についての意匠出願を希望するが、知っている従来意匠に比べて制御ボタンの形状のみが相違し、制御ボタンは電気炊飯器の部分的な微小な設計であり、かつ、全体に占める割合が小さいときに、出願人が安定した意匠権の取得を希望するなら、他の部分の形状又は模様を改良し、改良部分について記載するのが良い。しかし、改良部分の全体に占める割合が小さいか又は確認できない場合、上記(1)、(2)で述べた書き方を勧める。
2.出願時に意匠の簡単な説明を提出しなければならないか?後で提出することが可能か?提出後に補正可能か?
今回の特許法改正では、意匠の簡単な説明を必須な提出書類として規定しているので、出願時に意匠の簡単な説明を提出しなければならない。さもなければ、その意匠出願は受理されないこととなる。
意匠の簡単な説明は提出後に補正可能であるが、出願日から2ヶ月の自発補正可能な期間内に補正したほうがよい。また、この出願が他の不備により補正を命じられ、出願人が意匠の簡単な説明の補正を希望する場合、このような補正は通常審査官に認められる。つまり、登録前に意匠の簡単な説明は補正可能である。
しかし、意匠の簡単な説明の補正は非常に厳しく審査されている。具体的には、出願当初の図面又は写真に示される製品の意匠の範囲を超えてはならず、さもなければ、新規事項の追加に該当すると指摘されることとなる。
Ⅱ.同一製品に関する2件以上の類似意匠を1件として出願する場合
1.このような出願をする際の注意点は?
(1) 同一製品について意匠出願すること
(2) 同日に1件にまとめて出願すること
(3) 10件以下をまとめて出願すること
(4) 意匠の簡単な説明に基本意匠を1件選ぶとともに、他の意匠が基本意匠と類似していること
(5) 複数の外国優先権を主張する場合、最も早い優先日から6ヶ月以内に中国へ意匠出願すること
(6) 分割出願する際、保護を求める対象が分割出願の意匠の図面にクリアに表れるように、各々の意匠の図面に保護を求める対象がクリアに表れていること。
2.このような出願のメリットは?
(1) 費用を節約できる。
(2) 各々の意匠について、単独で権利行使することができ、それぞれ意匠出願する場合に発生し得る新規性が否定されることはない。
3.同一製品に係る2件以上の類似意匠を1件にまとめて出願する場合、それぞれの優先日が異なるとき、又は一部の意匠が優先権を伴うが他の意匠が優先権を伴わないとき、拡大先願になり得るか?
拡大先願にはなり得ない。各々の意匠は1件の出願にまとめたものとして、同一の出願番号及び登録番号を有するが、拡大先願になるか否かを判断する際には、異なる出願日に提出する2件以上の出願を対象とするからである。
それにもかかわらず、各々の意匠が単独で無効にされることが可能であり、その1件又は基本意匠が無効にされたとしても、他の意匠も必ず無効にされるとは限らない。
例えば、A、B、Cは同一製品の類似する3件の意匠であり、これらを1件にまとめて意匠出願し、Aは基本意匠であり外国優先権を伴わず、B、Cは外国優先権を伴い、かつBの優先日がCの優先日より前であるとすれば、Bの優先日からCの優先日までの期間内にA、B、Cの登録を否定し得る引用文献が開示された場合、A、Cは無効にされるが、Bは優先日が当該引用文献の公開日より前であるから、その登録は維持される。
4.審査官が、一部の意匠は基本意匠と類似しないと認定し、分割出願するよう補正通知書を出した場合に、親出願に基本意匠(又は基本意匠を含む複数の類似意匠)を残さなければならないか?親出願にどの意匠を残し、どの意匠を分割出願するかについて任意に選択することが可能か?また、分割出願せず、分割出願するよう要求された全ての又は一部の意匠を放棄することが可能か?
特許法及び審査基準には、「同一製品の2件以上の意匠を1件にまとめて出願する場合に、単一性の要件を満たさなければ基本意匠を残さなければならない」という規定はない。このため、審査官が補正通知書において、単一性違反を指摘しているが、どの意匠を出願に残すかについて要求していない場合、どの意匠を残し、どの意匠を分割出願するかについて任意に選択することが可能である。
しかしながら、審査官が基本意匠及びそれに類似する意匠を審査した上で、基本意匠と類似しない意匠を分割出願するよう要求した場合、審査官の要求に従って基本意匠と類似しない意匠を分割出願すべきである。審査官の提案に対し異議がある場合には、審査官と意見交換した上でどのように分割出願するかを決めることができる。
また、基本意匠とそれに類似する意匠を分割出願しても、基本意匠と類似しない意匠を分割出願しても、分割出願は親出願と同じ出願日を有する。従って、どのように分割出願したとしても、親出願に対して影響はない。
さらに、分割出願するよう通知書を出されても、分割出願せず、分割出願するよう要求された意匠を放棄することができ、一部を放棄し、その他の意匠を分割出願することもできる。
Ⅲ.同一区分に属し、かつセットとして販売又は使用される製品の2件以上の意匠を1件にまとめて出願する際の注意点
同一区分とは、各製品が分類表における同一区分に属し、慣習において同時に販売又は使用され、しかも各製品の意匠の設計構想が同じであることを指す。
この規定によれば、02類(服装、服装用品及び裁縫用品)の衣服、帽子などは1件にまとめて出願することが可能であり、06類(家具及び家庭用品)の例えばソファー、茶卓なども1件にまとめて出願することが可能である。
しかしながら、セット製品に係る意匠出願が、1件又は数件の製品の類似意匠を含むことは許されない。例えば、食事用カップ及び皿を含むセット製品に係る意匠出願が、当該カップ及び皿の2件以上の類似意匠を含むことは許されない。
Ⅳ.パワーオン画面の意匠出願は登録可能か?
パワーオン画面は製品が通電してから表示する図案であり、意匠権を付与しない対象に該当し、中国では意匠登録することができない。
Ⅴ.方式審査時に、新規性及び「進歩性」について審査するか?
意匠出願の方式審査において、審査官は通常、検索を行わず、出願書類の内容及び一般消費者の常識に基づいて、保護を求める意匠出願が特許法第23条第1項(新規性)の規定に合致するか否かを判断する。「進歩性」については、方式審査では審査しない。無効審判において、無効審判請求人が特許法第23条第1項又は第23条第2項を無効理由として関連証拠を提出した場合に、特許審判委員会は、対象意匠が新規性及び「進歩性」を有するか否かについて審査する。
Ⅵ.特許権評価報告について
1.国家知識産権局は出願日が2009年10月1日以降の登録意匠のみに対して特許権評価報告を出すか?
国家知識産権局は出願日が2009年10月1日以降の登録意匠のみに対して特許権評価報告を出す。ただし、特許権者または利害関係人が当該報告の作成を請求した場合にのみそれを出す。
利害関係人とは、裁判所に侵害訴訟を提起するか、又は地方の特許管理部門に侵害紛争を処理するよう請求する権利を有する当事者をいう。
2.「意匠の特許権評価報告」の意匠に係る侵害訴訟に対する影響は?
特許権評価報告は、主に裁判所又は地方の特許管理部門が審理を中止するか否かを判断するための証拠として用いられる。特許権者が侵害訴訟を提起するとき、特許権評価報告を提出していなくても、裁判所はその侵害訴訟を受理する。侵害被疑者が無効審判を請求し、特許権者が特許権評価報告を提出していない場合、裁判所はそれを提出するよう特許権者に要求することができ、特許権者がそれを提出しない場合、審理を中止することができる。特許権者の提出した特許権評価報告が、「この登録意匠には登録要件を満たさない不備はない」場合には、裁判所は審理を中止しなくてもよく、当該報告が「この登録意匠は登録要件を満たさない」ときには、裁判所は審理を中止することができる。
第二部:特許手続に関する問題
Ⅰ.秘密保持審査
1.改正箇所
(1) 外国に特許出願する場合、先ず中国に特許出願しなければならないという規定の廃止
第3回中国特許法改正では、改正前特許法第20条の「中国国内で完成した発明、創作を外国に特許出願する場合、先ず国務院特許行政部門に特許出願しなければならない。」という規定を「中国国内で完成した発明又は実用新案を外国に特許出願する場合、事前に国務院特許行政部門による秘密保持審査を受けなければならない。」に改正した。この改正によって、出願人に多くの利便性及び選択を与える。
(2) 審査対象の明確化
第3回改正特許法には、秘密保持審査は発明又は実用新案を対象とし、意匠には及ばないことが明確に規定された。
(3) 処罰規定の追加改正特許法には、特許法第20条第1項の規定に違反して外国に特許出願した発明又は実用新案は、中国で特許出願した場合、特許権を付与しない、と規定された。
2.秘密保持審査の範囲
特許法第20条及び特許法実施細則第8条の規定によれば、出願が以下の2つの条件に該当するときには、秘密保持審査を受けなければならない。
(1) 発明の実質的な内容が中国国内で完成したものであるとき;
香港、マカオ及び台湾、特に香港、マカオで完成した発明創造について、秘密保持審査を受けなければならないという明確な規定はないが、秘密保持審査を請求することを勧める。
(2) 出願人がその発明創造を中国以外の国に特許出願しようとするとき。
3.秘密保持審査の請求方式
特許法実施細則第8条には、秘密保持審査請求を行う3つの方式が規定されている。これら3つの方式にはそれぞれメリット及びデメリットがあるので、プラクティスでは、必要に応じて適当な方式を選択することができる。これら3つの秘密保持審査請求方式についての分析及び対比をリストアップして下表に記す。
請求方式 |
適用状況 |
提出の必要がある書類 |
審査期間 |
メリット |
デメリット |
1. 独立請求:秘密保持審査を直接請求する |
中国以外の国に特許出願するか又は中国以外の国の機関へ国際出願する場合 |
① 秘密保持審査請求書+②発明の詳細な説明(中国語)+③代理機関への委任状(代理機関に委任する場合) |
法的規定:4~6ヶ月
プラクティス:請求日から約1ヶ月後に審査結果が出る。 |
① 中国に特許出願する必要はない。
② 官庁手数料は発生しない。 |
① 中国語の発明の詳細な説明を作成する必要がある。
② 方式2に比べて審査期間が長い。 |
2. 関連請求:中国特許出願に基づき秘密保持審査を請求する |
中国に特許出願した後に中国以外の国に特許出願するか又は中国以外の国の機関へ国際出願する場合 |
秘密保持審査請求書 |
法的規定:4~6ヶ月
プラクティス:① 出願と同時に秘密保持審査を請求する場合、特許出願を受理する旨の通知書と同時に秘密保持審査の結果を受け取ることが可能であり、約1週間かかる。緊急な場合は当日審査結果が受け取れる。
② 出願が受理されてから請求する場合、審査結果が出るまで約1ヶ月かかる。 |
方式1に比べて、
① 請求手続が簡単である。
② 審査期間が短い。
③ 中国で出願した後に請求した場合でも、中国出願を優先権とする主張が可能である。 |
中国出願に用いられる明細書など完全な書類を準備する必要がある。 |
3. 黙認請求:中国で国際特許出願を行う |
中国で国際出願し、複数の国で同時に特許出願しようとする場合 |
なし |
法的規定:1~3ヶ月
プラクティス:① 秘密保持審査の必要がない場合、通常、請求日から約20日後にPCT/ISA/202表を発行し、国際事務局にサーチレポートを送付したことを通知する。
② 秘密保持審査の必要がある場合、通常、請求日から3ヶ月以内にPCT/RO/147 表を発行し、当該国際出願を中止することを通知する。 |
① 請求手続が簡単である。
② 複数の国での出願権が同時に取得可能である。
③ 英語版の出願書類を用いることができる。 |
方式1、2に比べて、国際出願の出願手数料が高い。 |
注記:方式1でいう「発明の詳細な説明」について、その形式に関する具体的な規定はないが、中国特許庁は、発明の主題及び内容を十分記載したものであって、かつ後に外国に出願する明細書及び請求の範囲に記載する内容と実質的な差異がないことを要求している。
Ⅱ.遺伝資源情報の開示
特許法実施細則第26条第1項の規定によると、特許法にいう遺伝資源とは、人、動物、植物又は微生物に由来し、遺伝機能単位を有し、かつ実際的な又は潜在的な価値を有する材料をいう。
発明創造が遺伝資源に依存して完成したものである場合、出願人は当該遺伝資源の由来に関する情報を開示する必要がある。即ち、
1.願書に本願に係る発明創造は遺伝資源に依存して完成したものであることを意思表明する。
2.「遺伝資源の由来情報開示登録表」に当該遺伝資源の名称、取得ルート、直接的由来及び原始的由来を明記する。
出願人が遺伝資源の原始的由来を明記できない場合、その理由を説明し、必要に応じて証明書類を提出しなければならない。
例えば、遺伝資源の直接的由来がある機構(例えば保存機構)であり、当該機構が当該遺伝資源の原始的由来を記録していない場合、出願人は「遺伝資源の由来情報開示登録表」に理由(例えば、「当該保存機構は当該遺伝資源の原始的由来を提供できない」など)を説明し、当該機構が発行した書面を証拠として提出する。
上記の意思表明書(願書)及び「遺伝資源の由来情報開示登録表」は、通常、中国特許出願と同時に提出すべきであり、PCT国際出願の場合、中国国内への移行手続の際に提出すべきである。提出した書類が関係規定に合致しない場合、中国特許庁は補正通知書を出し、出願人に補正のチャンスを与える。出願人が出願時に意思表明をしておらず、「遺伝資源の由来情報開示登録表」も提出していない場合、方式審査の審査官は、通常それに気付かない。実体審査において、実体審査の審査官がそれに気付き、かつ、その発明が遺伝資源に依存して完成したものであると認定した場合、「遺伝資源の由来情報開示登録表」を提出するよう通知書を発行する。当該発明が明らかに遺伝資源に依存して完成したものである場合、方式審査において、審査官は「遺伝資源の由来情報開示登録表」を提出するよう通知書を発行する場合もある。
Ⅲ.特許/特許出願の譲渡
1.必要な書類及び関係手続
(1) 全当事者間で譲渡契約を締結する。
① 譲渡契約は全ての譲渡人及び全ての譲受人が一緒に締結したものでなければならない。
② 譲渡人及び譲受人がそれぞれ同じである場合、数件の特許/特許出願について、1件の譲渡契約を締結することができる。
③ 中国特許庁に譲渡契約の原本又は公証されたコピーを提出しなければならない。
(2) 中国の個人又は法人が外国の個人又は法人に譲渡する場合、『技術輸出入管理条例』の規定に従い、譲渡者は所在する経済貿易管理部門に登録し、「技術輸出入許可証明」を取得する必要がある。
(3) 中国特許庁に特許権者/特許出願人の変更請求をし、手数料を支払う。
2.かかる手数料
特許/特許出願の譲渡にかかる手数料は、約RMB900(USD135)/件である。
(1) 官庁手数料:RMB200(約USD30)/件
(2) 代理機構の手数料:RMB700(約USD105)/件
3.かかる時間
中国特許庁へ変更を請求した日から変更の審査結果が出る日まで、約1~2ヶ月かかる。
4.譲渡を行う主体
代理機構に委託する場合、代理機構が中国特許庁への変更手続を行う。代理機構に委託しない場合、譲渡前の全ての特許権者/特許出願人が共同で手続を行う。
Ⅳ.早期審査
1.中国の早期審査制度
(1) 適用範囲
現在、中国特許における早期審査制度が利用できるのは中国国内(香港、マカオ及び台湾を含まない)の出願人に限られる。発明、実用新案及び意匠出願はいずれも早期審査を請求することができ、出願時に又は出願から登録までのいつでも請求することができる。
(2) 通常、以下の場合、早期審査を請求することができる。
① 出願に係る発明が国家の利益又は公共の利益に重大な意義がある場合。
② 出願に係る発明が国家、省(直轄市、自治区)の重大科学技術プロジェクトなどに選ばれた場合。
③ 特許出願が公開された後、他人がその発明を実施し、出願人の利益に重大な影響を与えている場合。
④ 出願人が当該発明を実施することにより、失業者の再就職を解決した場合。
⑤ 発明を無形資産として投資する重要なプロジェクトに係わる場合、又はその特許を譲渡した場合。
⑥ 特許庁が実体審査を自発的に行った場合。
⑦ 親出願の出願日を留保する分割出願について、親出願とともに審査する場合。
上記理由①~⑤に係わる場合、出願人又はその主管部門が早期審査を請求し、特許庁長官の許可を得て審査を開始し、かつ、後の審査過程においても優先的に処理される。
(3) 必要な書類及び手数料
早期審査を請求するときには、出願人は省級知的財産局が発行した「特許早期審査証明」を提出し、理由を説明するとともに、補助資料を提出する必要がある。補助資料とは、特許出願の技術が国家科学技術計画に選ばれたことの証明、特許出願の譲渡契約書、他人がその発明を実施していることの証拠などを含むがこれらに限らない。
早期審査請求の官庁手数料は、発明特許出願の場合、RMB1400(約USD210)/件、実用新案/意匠出願の場合、RMB1000(約USD150)/件である。
(4) 関係手続及び審査期限
出願人からの早期審査請求が中国特許庁により許可された場合、出願人が早期審査の手数料を支払えば、早期審査が開始される。
早期審査の対象となった発明特許出願について、実体審査段階に入った場合、審査官は2ヶ月以内に第1回目の拒絶理由通知書を出し、6ヶ月以内に査定する必要があり、実体審査に入っていない場合、方式審査を経て合格と認められてから1年以内に査定する必要がある。
2.審査の迅速化を図る他の方法
(1) 方式審査段階
出願人は特許出願の形式的不備をできるだけ回避し、早く方式審査を通過して実体審査に入るようにすべきである。
① 出願書類(願書、請求の範囲、明細書など)が十分であり、かつ全ての形式的要件を満たすようにする。
② 出願とともに委任状、優先権証明書類、優先権譲渡証明(必要がある場合)などの証明資料を提出することにより、補正通知を受ける回数を少なくする。
③ 中国特許庁に出願書類を提出すると同時に実体審査及び早期公開を請求することにより、早く公開され実体審査に入るようにする。
(2) 実体審査段階
① 拒絶理由通知書に対しできるだけ早くかつ全面的に応答することにより、拒絶理由通知書の回数を少なくし、早期権利化を図る。
② 拒絶理由通知書への応答時に、審査官が特許出願の関連技術を理解できるように、できるだけ審査官との面談又は電話インタビューを行い、また審査官の参考になり得る関連の技術資料がある場合、その資料を審査官に提供する。
(3) 特許査定段階
特許権を付与する旨の通知書を受け取ったら、関係手数料の支払いなどの登録手続をすばやく行うことにより、特許証書を早く取得することができる。
第三部:中国実用新案制度の新たな発展
Ⅰ.中国実用新案制度の簡単な紹介
1.基本状況の紹介
1985年より施行された中国の最初の『特許法』において、実用新案制度が確立された。中国の実用新案制度は、ドイツ、日本など実用新案制度を数年施行している国の法規を参考にして制定された。中国の実用新案特許は、審査が早い、特許査定され易い、手数料が安いなどの特徴がある。当該制度は施行してから20年余り経過し、多くの出願人がその優位性を合理的に利用してきており、個人及び中小企業の知的財産意識の向上に重大な役割を果たしている。
2.実用新案の定義
中国『特許法』第2条第3項には、「実用新案とは、製品の形状、構造又はそれらの組合せについて出された実用に適した新しい技術をいう。」と定義されている。
これは実用新案の保護対象についての規定である。即ち、実用新案特許権が付与される対象は、製品、形状及び/又は構造、発明という三つの要素を満たさなければならず、方法(用途)の発明について実用新案出願することはできない。ここでいう製品とは、産業方法で製造された、一定の形状、構造を有し、かつ一定の空間を占める実体をいう。製品の形状とは、製品の有する、外部から観察できる一定の空間形状をいう。製品の構造とは、製品の各組成部分の配置、組織及び相互関係をいう。例えば、一定の空間を有しない化学製品(化合物、組成物など)について、実用新案出願することはできない。発明とは、解決しようとする課題を解決するための自然法則を用いた技術手段の組み合わせを指す。技術手段は、通常、技術的特徴により反映されている。
3.審査制度
中国では、実用新案特許出願について、実体審査制度、登録制度又は登録+評価報告制度とは異なる方式審査制度が施行されている。具体的には、方式審査においては、出願書類が十分であるか、関係要件を満たすか、明らかな実質的不備がないかについてのみ審査する。これらの要件を満たしさえすれば、特許権が付与される。実用新案の主題が新規性要件、進歩性要件など実質的登録要件を満たすか否かについては、通常審査しない。
Ⅱ.特許法及び実施細則における実用新案に係る改正条項
1.特実併願
特実併願とは、同一の発明創造について中国特許庁にそれぞれ発明特許及び実用新案特許を出願することをいう。第3回特許法改正では、特実併願に係る条項は主として第9条第1項である。
「同一の発明創造には一つの特許権のみが付与される。ただし、同一の出願人が同日に同一の発明創造について実用新案特許出願と発明特許出願の両方を行っており、先に取得した実用新案特許権が消滅しておらず、かつ出願人が当該実用新案特許権を放棄するという意思表明を行った場合、発明特許権を付与することができる。」
改正『特許法』では、「拡大された先願」の範囲が「いかなる組織や機関又は個人」まで拡大されているため、特実併願をする場合、同日に行わなければならず、さもなければ、後願の新規性は先願によって否定されることとなる。
また、特許法実施細則第41条第2項には、「同一の出願人は同日(出願日)に、同一の発明創造について実用新案特許出願と発明特許出願の両方を行う場合、出願時にそれぞれに説明しなければならない。説明しなかったときは、特許法第9条第1項の規定に基づき処理する。」と規定されている。
この条項は、特許出願する際に、それぞれの願書に同一の発明創造について別に特許/実用新案を出願したことを説明しなければならないと定めている。そうしなければ、通常、実用新案が先に特許査定されるので、審査官が発明特許出願を審査するとき、調査により同一の発明創造に係る実用新案が特許査定されたことを見つけ、特許法第9条第1項の規定に基づき処理する。この場合、出願人は実用新案特許権を放棄しても、発明特許権を取得することはできず、実用新案特許権の権利範囲と異なるように発明特許の出願書類を補正せざるを得ない。ただし、説明した場合は、以下の2つの処理方法がある。
a. 実用新案特許権を放棄して発明特許権の取得を図る。この場合、実用新案特許権は発明特許の登録公告日から放棄したこととなる。
b. 実用新案特許権の権利範囲と異なるように発明特許の出願書類を補正する。
2.その他の形式的要件
2010年2月1日より施行された特許法実施細則第17条には、「実用新案特許出願の明細書には、保護を求める製品の形状、構造又はそれらの組合せに係る図面を含まなければならない。」という第5項が追加された。
この条項は、実用新案特許と発明特許との保護対象の相違を反映しており、つまり、実用新案は方法を保護対象としないので、その図面にプロセスフローチャート、温度変化曲線図などのみを含むものは許されない。
Ⅲ.材料、方法要件による実用新案特許権の権利範囲及び特許性に対する影響
特許法第2条第3項の規定によると、実用新案特許権は製品しか保護しない。従って、実用新案の請求の範囲には材料、方法そのものに関する要件、即ち、例えば材料の組成、含有量又は方法のステップ、プロセス条件に対する限定などの材料、方法そのものに対する改良点が記載されることは許されない。ただし、請求の範囲に公知の材料又は方法により製品の形状、構造を特定することは許される。
1.材料、方法要件による実用新案特許権の権利範囲に対する影響
『最高裁判所による特許紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』(2009法釈21号)第7条の規定によると、裁判所は、被告の技術構想が特許権の権利範囲に入っているか否かを判断するとき、特許権者が主張する請求項に記載された全ての構成要件について審査しなければならない。
この規定から、実用新案の権利範囲を特定する際に、請求項に記載の製品の用途、製造プロセス、使用方法、材料の組成及び含有量などの要件は、権利範囲を特定するためのものであるから、省略されてはならない、ということが分かる。
2.材料、方法要件による実用新案の特許性に対する影響
審査基準第2部第3章3.2.5には、「当業者が請求項の材料要件や方法要件により、その製品が引用文献に開示された製品と異なる特定の構造及び/又は組成を有すると判断できる場合、当該請求項は新規性を有し、逆に、製造方法のみ異なり、得られた製品の構造及び/又は組成が同一である場合、当該請求項は新規性を有しない。」と規定されている。
『審査基準』第4部第6章において、実用新案特許権の無効に関する部分には、「実用新案の進歩性の審査において、材料要件及び方法要件を含む全ての構成要件を考慮する。材料要件が最も近い従来技術における対応要件に比べて材料のみが相違し、材料の差異が製品の形状、構造又はこれらの組み合わせに変化をもたらさない場合、材料の差異により材料要件を含むその効果が従来技術より有利な効果又はそれと異なる効果を奏したとしても、当該材料要件は考慮しない。」と規定されている。
同様に、請求項の方法要件が、製品の形状、構造又はこれらの組み合わせに変化をもたらさない場合、実用新案の進歩性の審査において、当該方法要件も考慮しない。
一方、方法要件が製品の形状、構造又はこれらの組み合わせに変化をもたらす場合、実用新案の進歩性の審査において、方法要件自体を考慮せず、上記形状、構造又はこれらの組み合わせの変化だけを考慮する。
3.実用新案特許権の権利範囲における材料、方法要件と進歩性評価における材料、方法要件との矛盾
上述したように、実用新案の請求項における材料、方法要件は、実用新案の権利範囲の特定において、他の要件とともにそれを限定するため、権利範囲を狭くするものであると言える。一方、進歩性の評価において、実用新案に係る製品の形状、構造上の変化をもたらさない場合、これらの材料、方法要件は存在しないと見なされ、進歩性に影響しない。これらの材料、方法要件が実用新案に係る製品の形状、構造上の変化をもたらす場合でも、材料、方法そのものの改良点を考慮せず、形状、構造の変化のみを考慮する。
従って、実用新案の請求項を記載するとき、材料、方法が製品の形状、構造上の改良をもたらすと判断できる場合を除き、材料、方法で製品を特定することはできるだけ回避すべきである。材料、方法が進歩性の評価に役立たない可能性があることに鑑み、このようにすれば、材料、方法による実用新案の権利範囲の縮小を回避できる。
Ⅳ.実用新案の新規性、実用性に対する審査
1.明らかな新規性欠如の判断基準
中国では、実用新案について方式審査が行われており、出願書類の形式的要件及び明らかな実質的不備の有無について審査している。明らかな実質的不備とは、特許法第22条第2項(新規性)及び第4項(実用性)に合致しない不備を指す。
特許法改正前の審査プラクティスでは、実用新案の新規性及び進歩性については審査していなかったので、実用新案特許権の安定性が低い、ダブルパテントが多いなどの問題があった。改正特許法実施細則第44条には、「実用新案が新規性及び実用性を有するか否かを審査する」と規定された。
現在、中国の実用新案の審査において、審査官は通常、検索により実用新案が明らかに新規性を有しないかを判断するのではなく、検索を経ずに知り得た従来技術又は拡大先願の情報に基づいてそれを判断する。しかしながら、審査官は当該実用新案が明らかに従来技術を剽窃したものであるか、又は別の特許出願と内容が明らかに実質的に同一であると判断した場合、検索により得た引用文献又は他のルートにより得た情報を用いて当該実用新案が明らかに新規性を有しないかを判断すべきである。
検索を経ずに知り得た従来技術又は拡大先願とは、主として実用新案の明細書の背景技術に記載の従来技術(主に特許文献)を指し、また以下のものを含む。
(1) 出願人が新規性を喪失しない期間であると主張するが、関係規定に合致しないため、当該実用新案出願の新規性を否定し得る証明資料。
(2) 出願人の主張する優先権が成立しないことによる、出願の新規性を否定し得る先願。
(3) いかなる機関や組織又は個人が審査されている実用新案出願に対して提出した、その出願の新規性を否定し得る引用文献、又はそれが記載されたサーチレポート。
(4) 国内移行の実用新案の国際出願に対する国際調査報告又は国際初歩報告に記載された当該実用新案の新規性を否定し得る引用文献。
(5) いかなる機関や組織又は個人が審査されている実用新案出願に対して提出した拡大先願の情報、又は審査中の実用新案に対して拡大先願となる既に審査した実用新案。
(6) いかなる機関や組織又は個人が審査されている実用新案出願に対して提出したその出願の新規性を否定し得る従来技術。
2.明らかな実用性欠如の判断基準
主に以下の3点から実用新案の明らかな実用性欠如を判断する。
(1) 明らかに自然法則に違反するもの(例えば永久運動機関)。
(2) 明らかに積極的な効果を有しないもの。
(3) 唯一の自然条件を利用するもの。
Ⅴ.実用新案特許制度の保護における利益のバランス
以上のことから、実用新案は実体審査することなく特許査定されるから、権利が安定しない、無効にされる割合が高いなどのデメリットがある、ということが分かる。特許権者が実際に特許法に規定された登録要件を満たさない実用新案特許権について軽率に権利行使した場合、特許権者の人力や財力の浪費及び公衆の利益に対する損害を招き易く、自分に対しても他人に対しても不利となるため、実用新案特許制度における利益のバランスを考慮することが必要となる。
今回の特許法改正により、実用新案特許権評価報告に関する規定が完備された。特許法実施細則第56条第1項の規定によれば、実用新案の特許権を付与する決定が公告された後、特許権者又は利害関係人は国務院特許行政部門に特許権評価報告を作成するよう請求することができる。
実用新案の特許権評価報告は、当該実用新案の新規性要件及び進歩性要件のほか、実施可能要件、サポート要件、補正による新規事項追加など特許権を付与する実質的な要件についての評価も含む。
特許権評価報告は作成された後、公衆の閲覧、コピーのため特許ファイルに保管される。このように、特許権評価報告が作成された場合、特許権者、特許権者のライバル、当該特許権の商業価値に興味を持つ企業など誰でも当該特許権評価報告により、その実用新案特許権の安定性を知ることができる。
特許権評価報告は、特許権の有効性に対する正式な鑑定報告ではなく、特許権が有効であるか否かは、無効審判の判断を待たなければならない。このため、特許権評価報告の役割を誇大評価すべきでなく、それを実用新案特許権の有効性を証明する唯一の証拠とすべきでもない。裁判所又は特許管理部門が特許侵害紛争事件を処理するための証拠として用いられることが、特許権評価報告の主な役割である。具体的には、特許権評価報告は主に、裁判所又は行政機関が関係特許の安定性を判断し、侵害被疑者が無効審判を請求したことを理由として審判を中止するか否かを決定する際に用いられる。
そのほか、特許権評価報告により、特許権者にとっては、自らが取得した実用新案特許権の法的安定性を正しく認識し、不当な権利行使を回避し、また、他の機関や組織又は個人にとっては、実用新案特許権の法的安定性を正しく認識して、特許法に規定する登録要件を満たさない実用新案特許権に関わる無価値の取引行為(例えば、特許権の譲受、特許実施許諾契約の締結など)を回避することができる。
(2010)