北京林達劉知識産権代理事務所
新規事項(ニューマター)追加について、この一年で取扱った拒絶理由通知(OA)において、当初の出願書類(明細書及び特許請求の範囲)に記載された事項の範囲内であるか否かという点に対する中国特許庁の審査には明らかに変化が見られています。以下に関係規定の改正及び実例に基づいて、この変化についてご説明させていただきます
1.法律法規及び関係規定
まず、法律法規及び規定を見てみましょう。
○中華人民共和国専利法 (以下、特許法という)
第33条 出願の補正(現行):出願人は、その特許出願書類を補正することができる。ただし、発明及び実用新案特許の出願書類についての補正は、明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲を超えてはならない。
○審査基準
2001年版第2部分第8章5.2.2(廃止):補正後の内容は当初明細書に記載されているものか、または当初明細書に記載された内容から
直接導き出せるものでなければならない。
2006年版第2部分第8章5.2.1(現行):「当初の明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲」は、当初の明細書及び特許請求の範囲に記載された文言の内容と、当初の明細書及び特許請求の範囲に記載された文言の内容及び図面から
直接かつ一義的に特定される内容とを含む。
発明及び実用新案特許の補正可能な範囲に関する中国特許法における規定は改正されていませんが、上述のように、2006年7月1日から施行された審査基準では、「当初の明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲」の意味がより明確に規定されており、かつ、旧審査基準における同部分と比較すると、文言に記載された内容以外の補正の根拠について「直接導き出せる」から「直接かつ一義的に特定される」に改正されました。
文面から見ても、「直接かつ一義的に特定される」という基準は明らかに「直接導き出せる」という基準より厳しいものです。改正後の審査基準が施行されてから約2年にわたるさまざまな代理経験からも、この点はすでに実証されています。
2.実務における判断基準
実際に取扱った拒絶理由通知(OA)から見ても、補正可能な範囲に関する審査基準の規定が明確になるにつれて、中国特許庁においても、審査過程における判断基準を調整してきています。調整前後の基準の対比は次のとおりです。
同表が示すように、調整前は事例1の補正のみが新規事項追加になると判断され、事例2の補正は認められるものとされていましたが、調整後は事例1のほか、事例2の補正も新規事項追加になると判断されます。
そのうち、事例1は、主に上位概念から下位概念への変更、当初の明細書及び特許請求の範囲に記載されていない事項の変更または追加などの補正に関連します。したがって、事例1に対する審査の基準は、改正前の基準と同じですので、それについての説明は省略させていただきます。
事例2は、主に下位概念から上位概念への変更、一部の不必要な構成要件の特定事項記載の削除などによる補正に関連します。
実際には「下位概念から上位概念への変更」がよく見られますので、次に実例から具体的に説明いたします。
「下位概念から上位概念への変更」とは、補正後の発明において、補正前の発明と比較すると、一般的な上位概念が用いられていることをいいます。この場合、補正後の上位概念には、当初の出願書類に記載の下位概念に含まられていない実施の形態も含まれていると指摘され、新規事項追加になると判断される可能性が高いです。以下の実例1及び2をご参照ください。
例1:
補正後の構成要件:「目標値と前記第1の光検出装置による検出結果との比較から得られた値に基づいて、前記密度制御装置により密度制御を行うか否かを判断する判断装置」
当初の出願書類における記載内容:「前記第1の光検出装置による検出結果と目標値との差が所定値以上である場合に、前記密度制御装置により密度制御を行うか否かを判断する判断装置」
この例1から見れば、補正後の構成要件には、補正前の構成要件のほかに、「第1の光検出装置による検出結果と目標値との差が所定値未満である」場合も含まれています。これが当初の出願書類に記載されていないので、上記の補正後の構成要件は新規事項追加になると判断されました。
例2:
補正後の構成要件:「ディスプレイ装置」
当初の出願書類における記記載内容:「液晶ディスプレイ」
この例2では、補正後の構成要件には補正前の構成要件のほか、「プラズマディスプレイ装置」や「CRTディスプレイ装置」も含まれています。これらが当初の出願書類に記載されていないため、「液晶ディスプレイ装置」から「ディスプレイ装置」への補正が認められませんでした。
このような補正は、拒絶理由通知の応答によく見られます。例えば、進歩性欠如による拒絶理由を解消するために、明細書に記載された構成要件を適正に上位概念化して特許請求の範囲に追加することなどが挙げられます。以前にはこのような補正は認められるものでしたが、現在このような補正は、新規事項追加とみなされます。つまり、現在の判断基準では、明細書に記載された構成要件をそのまま特許請求の範囲に追加することは認められますが、それを上位概念化することは認められていません。たとえ、この上位概念化が不適切でなく、明細書によりサポートされているものであっても、認められません。
したがって、拒絶理由通知の応答において補正が必要な時に補正の根拠があるように、出願前に予め発明の要点に関する上位概念を明細書に記載しておいたほうがよいと思われます。
以上、これまでに把握している新規事項追加に対する審査の最新動向にについて、簡単にご紹介させていただきました。読者の皆様の中国特許出願業務に少しでもお役に立てば幸いに存じます。この文章を契機として、皆様とこの問題について、さらに交流を深めることができますことを切に期待してやみません。
(2008)