北京林達劉知識産権代理事務所
中国特許弁理士
宋 満義 岳 紅傑
1.2015年1月から11月までの特許出願の関連データ
中国『国家知識産権局特許業務及び総合管理統計月報』のデータ(http://www.sipo.gov.cn/tjxx/tjyb/)によると、2015年1月から11月までの中国の3種類の特許(発明特許、実用新案、意匠)出願の総受理件数は239万9894件で、前年同期の201万5267件より19%増加した。そのうち、中国国内からの出願件数は前年同期比20%増の225万5829件で、海外からの出願件数は前年同期比6%増の14万4065件であった。
また、特許の種類別では、発明特許、実用新案及び意匠の出願件数はそれぞれ、93万1247件、97万5645件、49万3002件で、前年同期比でそれぞれ19%、31%、1%増加した。
表1 2015年と2014年の実用新案出願受理件数の比較表
表1からも分かるように、前年同期比の増加率が最も大きいのは2月の84%で、最も小さいのは3月の8%で、7月、9月と11月の受理件数は10万件を超えた。
表2 2015年と2014年の実用新案出願の登録件数の比較表
表3 2015年1月~11月中国国内及び海外からの実用新案出願の受理件数、登録件数及び有効件数
2.2010年から2015年までのデータの比較
下記の表からも分かるように、中国の実用新案と発明特許の出願受理件数はほぼ同じである。実用新案の出願受理件数は年々増加しているが、昨年のみ前年比で3%減少した。
また、下記の表から分かるように、2011年から2014年まで、実用新案出願の受理件数の増加率は年々減少したが、2015年は大きく増加した。外国出願人の出願件数の増加率の変動は、国内出願人の出願件数の増加率の変動より小さくなっている。国内出願人による出願件数は2014年に前年比で2.7%減少したが、外国出願人による出願件数は前年比で4.5%増加した。そのほか、国内実用新案の出願件数が膨大であるため、実用新案の増加率は国内増加率とほぼ一致している。
注:中国では、実用新案の総出願件数における外国出願人の比率は依然として低く、発明特許の比率よりも遙かに低い。外国出願人による実用新案出願件数は実用新案総出願件数の0.7%~0.9%(2011年~2015年のデータ)に過ぎないが、外国出願人による特許発明出願件数は発明特許総出願件数の約14%(2013年~2015年のデータ)を占めている。
2011年から2015年までの外国からの実用新案出願件数では、日本、米国、ドイツ、韓国及びフランスが上位5ヶ国となっている。
3.審査期間
中国国家知識産権局の年報(http://www.sipo.gov.cn/gk/ndbg/)によると、中国における実用新案の審査期間は約4ヶ月で、年別の審査期間は、2011年(4.7ヶ月)、2012年(4.4ヶ月)、2013年(4.3ヶ月)、及び2014年(3.5ヶ月)で、年々短縮される傾向にある。
それに比べて、発明特許出願の審査期間は非常に長く、中国国家知識産権局の2011年から2014年までのデータによると、発明特許の審査期間(実体審査に入った後)は平均22ヶ月であった。
4.中国における実用新案出願件数が膨れ上がっている原因
筆者の観点によれば、実用新案出願件数が膨れ上がっているのは、主に以下の2つの要因によると考えられる。
(1) 権利付与までのスピードが速く、登録されやすく、費用も安いこと
中国では、発明特許が出願日(優先権日)から18ヶ月を経過してから公開され、公開後、実体審査を経てから、権利付与段階に入るのに比べて、実用新案は、実体審査が行われないため、方式審査の終了後、直ちに権利付与段階に入るため、実用新案は発明特許より権利付与までのスピードが速く、登録されやすい。
発明特許出願と比較して、実用新案出願のオフィシャルフィーが安価で(出願費が低い、実体審査請求費用がない、年金も安価である)、代理費用も低いため(通常、出願書類作成費用は発明特許出願より安価で、拒絶理由通知書への応答に係る費用も必要でない)、出願に係る費用を低く抑えることができる。
(2) 権利行使において、実用新案は発明特許と明らかな違いがないこと
特許法の角度からしても、司法実務の角度からしても、実用新案の権利行使(権利侵害の賠償額など)は、発明特許と明らかな違いがない。
発明特許と実用新案には、主に①相続期間について、発明特許が20年であるのに対して、実用新案は10年間であること、②発明特許が製品及び方法を保護するのに対して、実用新案は製品しか保護できないことなどの相違点がある。
特許審判委員会は2014年、3422件の無効審判請求を受理し、前年比で16.8%、件数では492件増加した。そのうち、発明特許権に係る無効審判請求は747件で、無効審判請求総件数の21.8%を占め、実用新案に係る無効審判請求は1525件で、総件数の44.6%を占めた。無効審判は通常、権利行使とつながっているので、このデータからも分かるように、実用新案の権利行使は結構活発に行われている。
実用新案は実体審査が行われないため、その権利が不安定であるという観点もある。この主な理由は、実用新案は、審査官が検索に基づく公知技術によって出された新規性・進歩性に関する拒絶理由に基づき、請求項を補正したことがないため、請求項が新規性・進歩性を有しない可能性が高い。しかし、この問題は実用新案の出願書類作成時に、公知技術の検索及び分析をすることで解決できる。
また、特許法の関連規定に基づき、実用新案が具備すべき進歩性・新規性の程度は、発明特許のそれより低いため、発明特許と実用新案に同様の請求項がある場合、実用新案の方が無効にされにくい。
そのため、中国において、実用新案は、広大な市場及び良好な環境があるので、各国の出願人にとって、より重視し、合理的に利用する価値がある。
(2016)