北京林達劉知識産権代理事務所
中国弁理士 劉 新宇
中国弁理士 王 雪
私(Linda)は今年4月8日と9日、光栄なことに欧州共同体意匠制度設立10周年の記念イベントに招かれ、スペインのアリカンテというとても美しい町を訪れる機会に恵まれた。今回の記念イベンドは、各国の専門家が意匠をテーマにしたスピーチをするという形式で行われた。私は、中国代表の一人として、中国の意匠出願の特徴及び出願人が注意すべき事項について紹介した。具体的には、1)ヨーロッパ、米国、日本などで認められている部分意匠を中国ではどのように出願すればよいのか、2)使用状態において見えなく、ヨーロッパでは明確に保護対象から除外されている部品について、中国では保護することができるか、3)中国の意匠制度では、提出された図面が保護しようとする意匠に係る物品を明確に示していることをどのように確保するのか、4)単独で出願して登録された後に「ダブルパテント」の無効理由により一部の登録意匠が無効になることを予め防止するために、同一の物品に関する2つ以上の類似し得る意匠を一件の出願にまとめて出願すべきかなどの問題について解説させていただいた。
中国における意匠権の重要性は言うまでもないが、多くの外国企業は、中国でとても強い保護を得られる意匠にさほど注目していないように思われる。その一方、中国企業は意匠を非常に重視している。実際にこの2年間、中国企業は毎年約60万件の意匠を出願している。また、意匠権は、権利行使が比較的容易で、訴訟期間が短いが、実際に有効な権利に対しては強い保護を与えることができると知財関係者の一般認識である。そのため、権利者は、意匠出願が中国における意匠出願の重要性にできるだけ早く目を向けるほうがよいと思われる。
本文が、外国の皆様にとって、自社製品が中国で保護できるか、意匠を利用して権利行使すべきかなどについて注目するようになる糸口になれば幸いである。
最後になるが、欧州共同体意匠制度設立10周年に対して改めてお祝いを申し上げるとともに、主催側に感謝の意を伝えたい。また、本文を読み、何か不明な点や意匠に関する他の質問があったら、いつでも連絡いただければ幸いである。
Ⅰ. 中国で意匠登録を受けることができる意匠について
特許法第2条第4項には、「意匠とは、製品の形状、模様又はそれらの組合せ、及び色彩と形状、模様の組合せについて出された、美感に富み、工業的応用に適した新しいデザインをいう」と規定されている。この定義からすれば、意匠登録できる意匠の主な要件として、(1)担体は製品でなければならない点と、(2)工業に応用できる点、つまり、工業的方法で大量生産できなければならない点が挙げられる。
製品とは、工業的方法で生産され、単独で使用価値を有する物品のことをいう。単なる美術、書道、撮影の作品、繰返し生産できない手工芸品、農作物、自然物など、及び分割できない 、又は単独で販売若しくは使用できない部分(例えば、帽子のつば、靴下のかかと、カップの取っ手)、通電しないと表示されない模様(例えば、ソフトウェアのインタフェース、携帯電話のディスプレイに表示される模様、動画など)はいずれも中国意匠の保護対象に該当しない。
また、意匠を構成する3つの要素は、形状、模様及び色彩である。これらの要素は、製品の表面に具体的に表す必要があり、かつ肉眼で観察でき、固定的で識別できるものでなければならない。例えば、砂絵は意匠の保護対象にはならない。そして、製品の色彩そのものは、単独で意匠の要素を構成しない。
特許法第5条第1項には、「
法律、社会道徳に違反し、又は公共の利益を害する発明創造に対しては、特許権を付与しない」と規定されている。
上述の例を説明すると、「人民元模様のシーツ」は『銀行法』に違反し、「恐ろしい造形を有するタトゥーマシン」は、形状が見るからに恐ろしく暴力的であり、社会道徳に違反している。また、「国旗模様付パッケージ」は、国旗を使用しているので、公共の利益を害している。したがって、いずれも意匠登録することができない。
また、特許法第25条第6号には、「次に掲げるものに対しては、特許権を付与しない。…(6)
平面印刷品の模様、色彩又は両者の組合せについて主に標識として用いられるデザイン」と規定されている。
上記「表示札」に、「全国工程建材首選品牌(全国工事用建材ナンバーワンブランド)」と表示されている点から、それが製品に関係する表示札であると明確に特定できるので、標識として用いられる平面印刷品に該当し、意匠登録することができない。一方、右側の「サラサ紙」は主に装飾として用い、標識として用いるわけではないので、意匠登録することができる。
意匠に係る物品が中国意匠の保護対象に該当するかについて、特許法第2条4項、第5条1項及び第25条6項に基づいて判断すべきである。
Ⅱ.意匠出願時の図面についての基本要件について
1.図面の数
代表的な中国意匠の図面は、六面図に斜視図を加える必要がある。『審査基準』には、「立体物品に関する意匠について、創作の要点が6面のどの面にも及ぶ場合には、6面の正投影図を提出しなければならないが、創作の要点が一つもしくはいくつかの面のみに及ぶ場合には、少なくとも関連する面の正投影図と斜視図を提出しなければならない。平面物品に関する意匠は、創作の要点が1つの面のみに及ぶ場合には、当該面の正投影図だけを提出すればよいが、創作の要点が2つの面に及ぶ場合には、当該2つの面の正投影図を提出しなければならない。」と規定されている。
特に立体物品の場合、複雑な物品、単純な物品に拘らず、いずれも上記要件を満たさなければならない。それらの図面を提出しても、一部が明確に表示できない場合、部分拡大図、端面図又は他の方向から示す斜視図を提出することが考えられる。
2.提出図面の形式
提出する図面には、線図、CG図及び写真があるが、以下の事項に注意する必要がある。
(1)1つの出願において、複数の製図方法を採用することが認められるが、同一のデザインの六面図は同じ製図方法を採用し、かつ図面の比率が一致しなければならない。
(2)線図の場合、実線で物品の形状を示さなければならず、破線、鎖線、CG線及び寸法線などを使用してはならない。
(3)CG図又は写真の場合、写真の背景には単一の色にしなければならない。かつ物品と背景との間に適度な明度差が必要で、つまり、白黒に転換しても、物品と背景とを区別できるようにしなければならない。
(4)展開図、端面図、拡大図、変化状態図及び参考図などを提出することができ、これらの図面の数には、制限がない。
3.意匠出願時の「簡単な説明」の提出
現行の特許法第27条には、「意匠の特許出願を行う場合は、……及びその意匠に関する簡単な説明等の書類を提出しなければならない」との規定が、特許法第59条2項には、「簡単な説明は図面又は写真に示された製品の意匠の解釈に用いることができる」との規定が追加された。これらの規定により、「簡単な説明」の法的地位は明確にされたと言える。
また、特許法実施細則第29条には、「意匠の簡単な説明には、
意匠に係る物品の名称、用途、創作の要点、及び創作の要点を最も明示できる図面又は写真の指定を記載しなければならない。色彩又は図面の省略の保護を請求する場合、簡単な説明に明記しなければならない」と規定されている。
特に用途及び創作の要点について、出願人が代理事務所に依頼する際、弁理士がより正確に簡単な説明を作成できるように、詳細な説明を提供することを提案する。
Ⅲ.外国出願人が中国で意匠出願する時の注意事項
1.図面が意匠を明瞭に示すこと
特許法第27条第2項には、「出願人が提出した関係図面又は写真は、特許の保護を求める製品の意匠を明瞭に示さなければならない」と規定されている。しかし、実務において、図面が意匠を明瞭に示していない出願が往々にしてある。以下に、例を挙げながら説明する。
例1:
Balustrade(欄干)
Balustrade(欄干)は立体物品である。このような図を1枚だけ提出した場合、中国では意匠登録することができない。また、欄干以外にも他の物品も示されているので、背景が単一ではなく、意匠に係る物品を明瞭に示していない。
例2:アイドラー(ベルトコンベヤーを支えているローラー)
この例では、出願人は、六面図のみを提出した。正面図と背面図からすれば、中央には複数の同心円の構造があるが、他の図面を参酌しても、その具体的な構造を一義的に特定することができない。したがって、6枚の正投影図だけの提出では、保護しようとする物品の意匠を明瞭に示すことができない場合、斜視図又は端面図を提出する必要がある。
2.優先権の主張について
意匠の同一主題の認定は、中国での後の出願に係る意匠とその第一国出願で表された内容に基づいて行われるべきである。同一主題に該当する意匠は同時に以下の2つの要件を満たさなければならない。
(1) 同一の物品の意匠に該当すること。
(2) 中国での後の出願に係る意匠は、その第一国出願に明確に表されていなければならないこと。
中国での後の出願に係る意匠とその第一国出願における図面や写真とが完全に一致していなくても、後の出願書類に簡単な説明があるのに対して先願の書類には関連する簡単な説明がなくても、両者の出願書類から、後の出願に係る意匠が第一国出願に明確に表されていれば、中国での後の出願に係る意匠とその第一国出願に係る意匠の主題が同一であると認定されることになり、優先権を主張することができる。
以下に、具体的な例を挙げながら説明する。
①先願が部分意匠である場合
先願が部分意匠である場合、破線を全て実線に変更して全体意匠として出願することを提案する。この場合、依然として優先権を主張できる。詳細について、例3の処理方法を参照のこと。
例3:シェーバー
②先願が立体物品で、斜視図が1枚しかない場合
先願に斜視図が1枚しかない場合、
斜視図1枚のみでは、中国で意匠登録できないので、斜視図に明瞭に示されている面の正投影図を正面図として追加することを提案する。つまり、最初に提出された斜視図及び新しく作成する正面図を提出することにより、依然として優先権を主張できる。詳細について、例4の処理方法を参照のこと。
例4:パッケージ
③先願図面に中国で認められていないCG線などがある場合
米国などの国では、意匠に必要に応じてCG線で物品の表面の凹凸を示すことが認められているが、中国では認められていないので、これらの線を直接削除することを提案する。削除することで、依然として優先権を主張できる。
④後願が優先権書面とは全く同一ではないが、両者の意匠が基本的に同一である場合、つまり、後願に係る意匠が優先権書面に明瞭に示されている場合、両者は同一の主題の意匠に該当するので、優先権を主張できる。
例5:携帯
例5に示すように、後願では、CG線及びソケット内のデザインが削除された。先願とは全く同一ではないが、示す意匠は基本的に同一であり、かつ後願に係る意匠は対応する優先権書面に明瞭に示されているので、同一の主題の意匠に該当する。したがって、優先権を主張できる。
例6:携帯
両者は明らかに異なる意匠であり、後願に係る意匠が対応する先願に明瞭に示されていないので、同一の主題の意匠に該当しない。したがって、優先権を主張できない。
3.多意匠一出願
特許法第31条第2項には、「1件の意匠出願は、1つの意匠に限らなければならない。
同一の物品に関する2つ以上の類似意匠、又は同一の分類に属しかつ一組として販売又は使用される物品に用いられる2つ以上の意匠は、一件の出願とすることができる(多意匠一出願と略称する)」と規定されている。多意匠一出願が意匠登録できた場合、それぞれの意匠はいずれも単独の権利を有する。
(1)類似意匠
類似意匠は下記4つの要件を満たさなければならない。
①同一物品であること。
②1つが本意匠として指定されること。
③他の意匠が本意匠と類似すること。
④類似意匠が10件を超えてはならないこと。
なお、複数の意匠が類似意匠である可能性がある場合、これらの意匠を類似意匠として1件の出願にまとめて提出することを提案する。各々出願する際に発生し得る「ダブルパテント」の問題を回避できるとともに、コストダウンも実現することができる。
例7:パッケージ
このパッケージの例からすれば、図形の構成が完全に同一で、色及び右下の味を表示する模様が異なっているだけである。これらの意匠は類似意匠に該当するので、類似意匠として1件の出願にまとめて提出することができる。
例8:包装容器
この包装容器の例からすれば、形状が完全に同一で、色彩のみが異なる。これらの意匠は類似意匠に該当するので、1件の出願にまとめて提出することができる。
中国では、色彩を保護する必要がある場合、対応するカラー写真を提出し、かつ簡単な説明においてこの点を主張する必要がある。例8の場合、色彩の保護を主張しなければ、この4つの意匠は同一の意匠に該当し、多意匠一出願をすることはできない。したがって、簡単な説明には、少なくとも3つの容器の意匠の色彩を保護するように主張しなければならない。
(2)組物
組物は下記3つの要件を満たしなければならない。
①2つ以上の意匠に係る物品が
同一の国際意匠分類に属すること。
②各意匠に係る物品の
創作思想が同一であること。
③
通常、セットとして販売又は使用されること。
この「通常、セットとして販売又は使用されること」とは、商業習慣上、同時に販売され、かつセットで使用する価値を有することをいう。
例9:応接セット
通常、ソファーと小型テーブルは、同時販売又は使用される組物であると思われるが、改正前の特許法では、テーブルとソファーは、厳密に言えば異なる分類に属すので、1人掛けソファー、2人掛けソファー、3人掛けソファーのみを組物として出願することができた。しかし、現行特許法では、同一の大分類までに拡大したので、テーブルとソファーは組物として1件の意匠で出願できる。
また、現行法では、同一の国際意匠分類における「分類」を大分類まで拡大したので、現在、ベッドとサイド・テーブル、テーブルと椅子、ソファーと小型テーブル、帽子、上着とズボン、スプーンと皿などは、組物として認められている。
4.部品に関する意匠出願
意匠に係る物品について、複数の部品からなるものが一般的である。例えば、車の場合、ドア、ライト、ハンドル、前後バンパー、ボンネット、エンジン、エンジンのピストンなどから構成されている。
当該物品の意匠を全面的に保護するために、全体意匠の他に、通常、これらの部品に対しても意匠出願することができる。
中国における意匠の定義を満たし、ロカノル分類表に対応する分類があり、かつ交換部品として販売できる物品の部品は、通常、意匠として出願できる。
例10:エンジンのピストン
例11:エンジン用フィルター
例10及び11に示すように、エンジンのピストン又はエンジン用フィルターはいずれも、エンジン用部品であり、かつ使用時に見えない部分に属する部品である。これらの部品に係る意匠は、欧州共同体商標意匠庁では意匠登録することができないが、中国では意匠登録することができる。この点について、注意する必要である。
(2013)