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コンピュータ支援診断方法に関する登録特許の例示


中国弁護士・弁理士 沈 顕華
 
「中国特許審査基準」の改訂版(以下、「改訂審査基準」という。)は2024年1月20日から施行されている。改訂前の審査基準と比較して、改訂審査基準の第2部第1章4.3.1.2には、診断方法に該当しない例として、「(3)すべてのステップがコンピュータなどの装置により実施される情報処理方法」(以下、「例(3)」という。)が追加されている。

例(3)の追加について、中国特許庁は、

「医療分野においては、情報処理機能を有するコンピュータなどの装置により実施される診断に関する情報処理方法は一般に、情報処理の精度を向上させ、情報の識別、保存、伝達を容易にするためのものであり、コンピュータによって得られる結果は単なる確率にすぎず、通常、医師が疾患を正しく診断し、治療計画を立てるための参考しか提供できない。科学技術の進歩及び経済社会の発展のニーズに順応するために、今回の改訂では、「すべてのステップがコンピュータなどの装置により実施される情報処理方法」を疾患の診断方法として直接認定すべきではないことを明確化することにより、近年のイノベーターの要望に応え、このようなタイプの革新に対する保護を強化する。」と解説している。

概して言えば、改訂審査基準では、コンピュータ支援診断方法は、不特許事由である「診断方法」から除外されている。

ところが、中国特許庁は、コンピュータ支援診断方法に関する特許の例を示しておらず、どのような発明がコンピュータ支援診断方法に該当するかについての詳細な説明も行っていない。そのため、実務において、例(3)をどのように捉えるべきかについては、様々な見方がある。

筆者は、実例から学ぼうと思いながら、改訂審査基準の施行後に例(3)に該当する方法として登録になった特許を調べた結果、以下の典型例を整理できた。これらの例は、コンピュータ支援診断方法のクレームを作成する際のご参考になれば幸いである。

①医療画像における病変の特定
 
特許番号 クレームの記載
CN202311713164.4 ・・・事前に保存された AI モデルを使用して、融合画像上で病変検出支援を実行し、病変標識画像を出力し、・・・3D 狭帯域光病変標識画像を出力することを含む、AI支援検出付き3D 内視鏡のイメージング方法。
CN201580082801.X
 
超音波データの第1の容積内の解剖学的構造を検出する方法であって、・・・前期解剖学的構造は患者の乳房内の病変である・・・方法。
CN202110315923.6 ・・・動脈瘤を表示すること、動脈瘤の最大径を測定すること、動脈瘤の検出結果を出力することを含む、MRAによる頭蓋内動脈瘤検出方法。
CN202211619803.6 ・・・分割して病変部の病変画像を取得すること、・・・を含む、2次元画像に基づく3次元CT画像病変再構成方法。
CN202310503578.8
 
・・・予め設定された検出状態での胃内視鏡画像における病変領域を判定し、・・・胃マーカーの浸潤深さの検出方法
CN202310143985.2 内視鏡による消化管潰瘍の深さ及び面積の測定方法であって、消化管潰瘍の領域があるかを判断し、・・・方法。
CN202110048048.X 歯科用パノラマフィルムにおける疾患の識別及び分割の方法であって、・・・疾患の分類結果及び病変の分割結果を取得することを含む前記方法。
CN202311531851.4 介入手術を支援するための画像処理方法であって、・・・前記第2の血管造影画像上で少なくとも血管狭窄解析及び/又は動脈瘤解析を含む病変解析を実行し、前記病変特徴は少なくとも血管狭窄特徴及び/又は動脈瘤特徴を含み、・・・画像処理方法。

②疾患の診断
 
特許番号 クレームの記載
CN202210958444.0 糖尿病性足が存在するかを判定し、糖尿病性足が存在する場合には、糖尿病性足の程度及び傾向を判断し、・・・糖尿病性足の検査方法。
CN202111483918.2 ・・・検査対象者がうつ病に罹患している可能性は高いと判定し、・・・うつ病の検査評価支援方法
CN202110483938.3 ・・・脳疾患の総合的な診断方法。

③病変の識別と外科的支援との組み合わせ
 
特許番号 クレームの記載
CN202311425955.7 ・・・医療画像からアブレーション対象病変の初期状態を取得し、・・・トレーニングにより最終的な多針アブレーション計画モデルを取得することを含む多針アブレーションの計画方法。
CN202310226343.9 ・・・医用画像中の病変の病変画像位置に対してレジ合わせを行うことにより、目標病変位置と、前記目標病変位置に対応する基準針刺入位置とを取得し、・・・針刺入位置の決定方法。

④治療/回復評価
 
特許番号 クレームの記載
CN202410015245.5 ・・・心・脳血管疾患患者の術後回復評価の結果を出力することを含む、人工知能に基づく患者の術後回復評価方法。
CN202110977038.4 ・・・データ統計に基づく診断・治療効果の評価方法。

⑤診断用分類器の構築方法
 
特許番号 クレームの記載
CN201910244902.2 脳画像融合特徴に基づいててんかん焦点位置特定分類器を構築する方法であって、・・・てんかん焦点位置を特定するための分類器を構築することを含む前記方法。
CN202111048315.X 粘菌最適化アルゴリズムによる心血管疾患識別モデルの構築方法であって、・・・機械学習アルゴリズムにより心血管疾患識別モデルを構築して、心血管の健康状態を判定することを含む前記方法。

上記登録例は、あくまでも参考である。中国を含む各国の判断基準が常に調整されているため、現在認められたものが、基準の調整により、また不特許事由として判断される可能性は低いといっても、ゼロではない。そのため、中国特許庁の今後の運用をさらに見ていく必要がある。

なお、例(3)のコンピュータ支援診断方法に該当すると思われる登録特許のうち、ほとんどは中国出願人、特に中国の病院、大学及び中小医療企業により出願されたものであり、外国の大手医療企業による出願は少数であった。

その理由としては、特許の出願から成立までの期間が長く、大手医療企業は改訂前の審査基準を厳守し、改訂審査基準の施行前に例(3)のコンピュータ支援診断方法に関する発明の出願を慎重にしていたのに対して、中国国内の病院や中小医療企業は改訂審査基準の施行前であっても、リスクを冒してチャレンジしていたのではないかと思われる。

改訂審査基準の施行に伴い、例(3)のコンピュータ支援診断方法が特許の保護対象となり、これに該当すると思われる登録特許の公報も発行されていることから、コンピュータ支援診断分野の出願人としては、現在作成中や検討中の技術には出願できるものがあるかを急いで確認し、先手を打つことが考えられる。どこまで認められるかについては十分に把握できないところもあるが、せめてこのような出願はすべて同じ基準やルールで判断されるので、現段階でコンピュータ支援診断方法に関する特許出願をトライアルする価値はあると思われる。

因みに、上記登録例では、コンピュータ支援診断方法に関するクレームの他、方法に対応する装置クレームも設けられており、明細書には方法クレームに対応する実施例と、装置クレームに対応する実施例の両方が記載されているのがほとんどである。このような方針で出願する場合、コンピュータ支援診断方法のクレームが適格性問題で認められなかったとしても、せめて装置クレームの権利化は可能であると考えられる。また、このような出願方針で登録になった場合、方法と装置の両方をカバーすることができる。
 
 
 
 


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©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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