北京林達劉知識産権代理事務所
耿 秋
現行中国商標法第41条は、不正登録商標の取消審判請求と答弁に関する規定です。当該条項は4項からなり、前3項は審判請求に関する規定で、最後の1項は審判請求の答弁に関する規定です。具体的な法律条文は以下のとおりです。
第 41 条
登録された商標がこの法律第10条、第11条、第12条の規定に違反している場合、又は欺瞞的な手段又はその他の不正な手段で登録を得た場合は、商標局はその登録商標を取り消す。その他の事業単位又は個人は、商標審判委員会にその登録商標の取消しについての審判を請求することができる。
2.登録された商標がこの法律第13条、第15条、第16条、第31条の規定に違反している場合、商標の登録日から5年以内に、商標権者又は利害関係人は商標審判委員会にその登録商標の取消しについて審判を請求することができる。ただし、悪意による登録、著名商標の所有者は5年の期間制限を受けない。
3.前二項に規定された状況を除き、登録商標に異議があるときは、その商標の登録日から5年以内に、商標審判委員会に審判を請求することができる。
4.商標審判委員会は審判請求を受けた後、関係する当事者に通知し、かつ期限を定めて答弁書を提出させなければならない。
この条文の具体的な内容からみれば、第41条は商標取消審判請求の要件及びその手続きを規定しています。第41条に含まれる内容は豊かであるため、それを理解又は適用する際に、誤解を招くおそれがあるので、ここで解説します。ご参考になれば幸いです。
中国商標局が自主的に登録商標を取り消すのは官庁自身の救済行為なので、本文の説明範囲に含めていません。本文は、主として当事者の係争による商標取消審判請求の面から説明します。
1.審判請求の類型
商標法第41条の規定に基づいて、商標審判委員会に請求した登録商標取消審判は、通常、主に2タイプに分けられています。
一つは、登録商標が商標法の禁止条項又は民法の誠実信用の基本原則に違反しているので、その登録は正当ではなく、又は適当ではないとして、商標法第41条第1項又は第2項の規定により、商標審判委員会に請求した取消審判事件です。これはいわゆる「大係争」です。
もう一つは、相対的な理由、すなわち、先登録の商標権者は、後で出願し、かつ登録された商標が、自己の商標と同一又は類似商品における類似の商標を構成すると考え、商標法第41条第3項の規定により、商標審判委員会に請求した取消審判事件です。これはいわゆる「小係争」です。
2.取消審判の請求人適格及び請求期限
第41条の前三項の内容は、取消審判の類型を明確に分けただけでなく、それぞれの状況下で請求された取消審判の請求人適格と請求期限についても規定しています。
そのうち、第1項の規定による取消審判の請求人は、いかなる事業単位又は個人でも可能です。また、請求期限については制限がありません。禁止条項に違反した商標に対して取消審判を請求するのは、公衆の利益を保護するためなので、商標法第41条第1項による取消審判の請求人適格及び請求期限について制限を設けていないのです。第2項の規定による取消審判の請求人は、商標権者又は利害関係人です。すなわち、請求人は係争商標に対して一定の先行権利を有し、又は、被請求人が係争商標を登録出願するとき、誠実信用の原則に違反した場合です。このような取消審判の請求期限は係争商標の登録日より5年以内です。しかし、著名商標に対しては特別な保護がありますので、被請求人が他人の著名商標を出願、登録した場合には、著名商標の所有者は、取消審判を請求する際、5年の制限を受けません。
実務において、他人の登録商標が自己の先行商標権を侵害したと主張する場合で、もし自らが中国で商標登録していない場合、請求人は、自己の商標が著名商標であることを主張・立証しなければなりません。第3項による取消審判を請求するときには、他人の登録商標が、自己が先に出願又は登録した商標と同一又は類似の商品における類似の商標であることを主張しなければなりません。そして、審判の請求は係争商標の登録日より5年以内に行わなければなりません。
3.大係争条項に関する説明
第41条は、取消審判の請求人適格と請求期限を規定しただけでなく、同時に取消審判請求の根拠となる実体条項を明記しています。第1項には三つの実体条項を含んでいます。すなわち、第10条、第11条と第12条です。商標法第10条は、使用禁止条項として、国名、国旗、国章などの標章、社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼす標章、若しくは地名などの標章は商標として使用してはならず、かつその登録を禁止することを規定しています。第11条は、登録禁止条項として、普通名称、商品の品質や原材料など識別力を欠く標章は商標として登録してはならないことを規定しています。第12条は、立体形状に関する登録禁止条項です。すなわち、単にその商品自体の性質により生じた形状、技術的効果を得るための不可欠の商品形状、又はその商品に本質的な価値を備えさせるための形状の場合には、登録しないことを規定しています。
第41条第2項は四つの実体条項を含んでいます。すなわち、商標法第13条(著名商標の保護に関する条項)、第15条(代理人又は代表者が授権を得ずに被代理人又は被代表者の商標について登録することを禁止する条項)、第16条(地理的表示を含む商標が公衆を誤認させる場合、その登録を拒絶することに関する条項)、第31条(他人の先行権利を保護する又は他人が先に使用している商標を不正な手段で登録することを禁止する条項)です。
登録商標が上述の実体条項のいずれかに違反している場合、関係権利者は、不正な登録を理由として、商標審判委員会に取消審判を請求することができます。
商標法第41条は救済の条項でもあります。元来その登録は認められるべきではないのに、種々の原因で誤って登録された商標を取り消すことができるわけです。
第41条第1項にいう「欺瞞的な手段」とは、係争商標の商標権者が商標登録出願する際、商標行政主管機関に事実を欺瞞し、真相を覆い隠し、偽造の出願書類又はその他の証明書類を提出することにより、商標登録を騙し取ることを指します。「その他の不正な手段」とは、商標法第13条、第15条、第31条などの条項に規定された状況以外に、十分な証拠があり、係争商標の商標権者は他人の先使用商標を知りうるべきであった又は明知しているにもかかわらず、それを模倣、翻訳、複製、剽窃などの手段により、係争商標を出願したことを証明でき、かつ、その行為は不正競争行為であり、不当な利益を得ることを目的としているので、「民法通則」と「不正競争防止法」の誠実信用の原則に違反して、悪意により登録した情況を指します。係争商標の商標権者が係争商標を出願する際、悪意を有していたかどうかを判断するとき、以下の要素を総合的に考察します。
(1)係争商標の出願人は他人と取引関係又は提携関係を有するか否か。
(2)係争商標の出願人は他人と同一の地域に存在し、又は双方の商品/役務の販売ルートと販売範囲が同一であるか否か。
(3)係争商標の出願人は係争商標について他人と係争を生じたことがあるか否か。
(4)係争商標の出願人は他人の内部者と交流関係を有するか否か。
(5)係争商標の登録後、係争商標の商標権者は不当な利益を得るために、取引や提携について他人を脅迫し、又は他人に高額の譲渡料、使用許諾料、権利侵害賠償金を要求したことがあるか否か。
(6)他人の先使用商標は強い独創性と識別性を有するか否か。
(7)その他の知るうるべき又は明知している情況。
以上の点からみれば、ここにいう「その他の不正な手段」は、実際に一般条項の性質を有しています。係争商標の商標権者が知るうるべき又は明知しているにもかかわらず、誠実信用の原則に違反して係争商標を出願したことを証明できるかぎり、この条項をもって取消審判を請求することができます。この点は、第840299号「王子OJI及び図形」商標に関する北京市第一中級裁判所(2007)一中行初字第1016号行政判決書(原告は王子製紙株式会社であり、被告は商標審判委員会であり、第三者はアモイ鑫盛捷企業有限公司です)によく表現されています。
4.商標法第 41 条は商標異議申立事件に適用できるかどうか
商標法第41条は、「登録商標」に対する取消審判の問題を解決するものですが、当該条項の実体的な内容は、商標異議申立案件に適用できるでしょうか。この点について、「The Gap」 VS 「TheGap」案件に関する北京市第一中級裁判所行政判決書(2006)一中行初字第178号において、北京市第一中級裁判所は次のとおり認めました。「第41条については、まず、字面からみれば、当該規定は登録商標に関する条文です。しかし、法律に関する理解については、その字面に直接表現された意味だけを理解するのではなく、立法精神及び立法目的を結合して総合的に考慮しなければなりません。商標法第41条の立法の本意からみれば、その主旨は誠実信用の原則をもとに、悪意による商標登録出願を阻止し、良好な市場秩序を維持するということです。この主旨は、商標審査、異議申立、取消審判の各段階において一貫していなければなりません。商標局又は商標審判委員会が商標登録出願の段階において、当該商標の出願人が欺瞞の手段又はその他の不正な手段で商標登録を得る意図を発見した場合には、その条項を適用して当該商標の登録を認めるべきではありません。当該商標は認められてはじめて、その条項を適用して不正登録の商標として取り消す必要はありません。また、商標法第10条、第11条と第12条の内容は商標として使用・登録してはならない情況に関する規定です。一方、商標法第41条第1項の規定には、これらの情況と並列されている『欺瞞的な手段又はその他の不正な手段で商標を登録する』行為は商標法の他の条項に列挙されていません。そして、商標法の他の条項に規定された『不正な手段で商標を登録する』行為は、あらゆる不正な手段で商標を登録する情況を全て包括していません。したがって、商標法第41条第1項は、手続き条項として、他の事業単位又は個人に商標審判委員会へ登録商標に対する取消審判を請求する権利を付与しています。同時に、それは実体条項として、『欺瞞的な手段又はその他の不正な手段で商標を登録する』行為を制止する原則について規定していますので、商標審判委員会が商標異議申立及び商標取消審判を審理するとき、適用できます。」これからみれば、商標法第41条は実体条項と手続き条項を含んでいますので、商標異議申立にも適用できます。
以上のとおり、現行商標法第41条の規定について説明しました。この条文はその表現された基本的法律の内容、適用範囲及び請求期限などの面からみれば、十分な実用価値があります。当事者の合法的権益をよりよく保護するため、異なる案件に対して、異なる法律条項により、十分かつ全面的に法律の主旨を理解した上、その法律条文をよく運用して、できるだけ全面的に権利を主張し、法的根拠を提出することにより、クライアントにより良い法律サービスを提供し、より良い結果を求めていきたいと思います。
参考文章:
1.「中華人民共和国商標法」
2.「中華人民共和国商標法実施条例」
3.「中華人民共和国商標法解釈」
4.「商標業務ガイド」
5.「商標審査及び審理基準」
6.北京市第一中級裁判所(2007)一中行初字第1016号
7.北京市第一中級裁判所(2006)一中行初字第178号
8.「不正手段による登録禁止の普通適用原則」
(2008年)
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