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商標の周知性は商品の類否判断の要素となるか


北京林達劉知識産権代理事務所
商標部
 
中国の商標法では、商標権の保護は原則的に、その指定商品又は役務に密接に関わっている。そのため、中国では、この原則を利用して、非同一又は非類似の商品又は役務について、他人の馳名商標又は知名商標に対する悪意の冒認出願行為が多発しているのが現状である。本稿では、事例分析を通じて、商品の類否判断という視点から、商標の周知性は商品の類否判断の要素の一つとなるか否かについて論じるものとする。

1. 中国国家工商行政管理総局商標審判委員会と金花企業(集団)股分有限公司との間の商標異議不服審判行政紛争上訴事件

(1)事件基本状況

① 被異議申立商標と引用商標の基本情報



② 事件に関する基本状況紹介
 
 
「金花企業(集団)股分有限公司」(以下、「異議申立人」又は「金花社」という)は、法定期間中に第3570359号商標「金花」(以下、「被異議申立商標」という)に対して異議を申し立てた。

商標局は2009年4月19日、(2009)商標異字第05392号「『金花』商標異議裁定書」を下し、被異議申立商標の登録を許可することを決定した。金花社は当該裁定を不服として、中国国家工商行政管理総局商標審判委員会(以下、「商標審判委員会」という)に不服審判を請求した。2011年3月21日、商標審判委員会は、商評字【2011】第03189号「第3570359号商標『金花』に対する異議不服審判決定書」を下し、被異議申立商標の登録を許可することを決定した。金花社は当該審決を不服として、北京市第一中等裁判所に行政訴訟を提起した。一審裁判所は、被異議申立商標と引用商標とは、類似商品における類似商標に該当するだけでなく、金花社の先行商号権も侵害していることを認定すべきであるとした。金花社と緑谷社が一審判決に承服したが、商標審判委員会は、(2011)一中知行初字第1973号一審判決を不服として、北京市高等裁判所に上訴した。北京市高等裁判所は、2012年8月31日に(2012)高行終字第961号終審判決を言い渡し、商標審判委員会の上訴を棄却し、一審判決を維持した。

(2)事件の争点

① 被異議申立商標と引用商標のそれぞれの指定商品は、類似するか否か(『現行商標法(以下、「商標法」という)』第28条)

② 被異議申立商標の登録は、金花社の先行商号権を侵害するか否か(『商標法』第31条)

(3)商標局の判断

異議申立人の異議申立理由は成立しないので、被異議申立商標の登録を許可する。

(4)商標審判委員会の判断

被異議申立商標と第3329016号商標「金花」とは、『商標法』第28条に定めた同一又は類似の商品における類似商標に該当するものではない。被異議申立商標「金花」は、金花社の企業名称の主要な識別部分である「金花」と文字構成については、同一であるが、非類似の商品において使用され、関連公衆に混同や誤認を生じさせるおそれがないため、金花社の知名な先行企業名称権(商号権)への侵害に当たらない。

(5)一審裁判所の判断

①引用商標の指定商品である「医療用生物製剤、医薬用化学製剤」は、包括する範囲が広いため、「殺真菌剤、殺菌剤」の上位概念として理解されるべきであり、被異議申立商標の指定商品の「衛生用殺菌消毒剤、消毒剤」と比較しても、機能、用途、消費者層及び販売ルートなどにおいて類似する点があるため、類似商品に該当すると判断すべきである。

②商品の類否判断は、商標の周知性などの要素と結びつけ、全体的に、商品の出所について、消費者の混同や誤認を容易に引き起こすか否かという視点から総合的に考慮しなければならない。金花社が提出した栄誉証書、年度会計監査報告書、薬品の外部包装のコピー、広告契約、薬品供給契約などの証拠によって、引用商標は、被異議申立商標の出願日前に、使用によりある程度の周知性を有していたことを証明できる。また、金花社の商号「金花」についても、同様に非異議申立商標の出願日前に、宣伝普及活動によって医薬分野においてある程度の周知性を獲得していたことも証明できる。

③被異議申立商標、引用商標及び金花社の商号は、完全に同一で、いずれも文字「金花」だけで構成されている。緑谷社は、金花社と同じく生物製薬分野の企業であるので、金花社の商号及び引用商標を知っていたはずである。そのため、それと完全に同一の被異議申立商標を出願する行為には、明らかに悪意があると言える。

上記の要因を総合的に考慮すれば、被異議申立商標と引用商標は、類似商品における類似商標に該当すると同時に、金花社の先行商号権も侵害していると認定すべきである。

(6)商標審判委員会の上訴提起時の主な主張

①『類似商品及び役務区分表』(以下、「区分表」という)は、ある程度の客観性、科学性及び安定性を有し、商品の類否を判断する際に重要な参考となる根拠であるので、簡単にその枠組みを打ち破るべきではない。被異議申立商標の指定商品の「衛生用殺菌消毒剤、消毒剤」は『区分表』0501類似群第(6)部分に属し、引用商標の指定商品の「医療用生物製剤、医薬用化学製剤」は0501類似群第(1)部分に属するものであり、かつ機能、用途及び使用方法などの面においても差異が大きく、類似商品には該当しない。

②裁判所は、できる限り『区分表』に基づき商品の類否判断をしなければならない。金花社は、『区分表』について参考とする可能性を覆す根拠がない限り、裁判所が自発的に、機能、用途、生産部門、販売ルート及び消費対象などの面において、「衛生用殺菌消毒剤、消毒剤」と「医療用生物学的製剤、医薬用化学製剤」について、類似商品に属すると判断できる根拠はない。

③商標の周知性は、類似商品を判断する参考要素としてはいけない。商品の類否は、客観的に存在する事実であり、他の主観的な要素に影響されてはいけない。商品の類否判断は商標の周知性などの要素を結び付けて総合的に判断すべきであるという一審の判決の観点は、類似商品の確定が事件により異なってしまうことになり、二重基準が存在するということになってしまう。

④被異議申立商標の指定商品である「衛生用殺菌消毒剤、消毒剤」と金花社の商標「金花」の「薬剤(人用のもの)」などの指定商品は、類似商品に該当しないため、被異議申立商標の登録は、商品の出所について関連公衆の混同及び誤認を生じさせることがなく、金花社が享有する「金花」についての先行商号権を侵害することもない。

(7)二審裁判所の判断

①商品の類否判断の際に『区分表』を参考にすることはできるが、機械的に『区分表』に従うのではなく、機能、用途、製造部門、販売ルート及び消費対象などの面において類似している点があるか否か、関連公衆の混同を容易に生じさせるか否かということを考慮しなければならない。引用商標の指定商品である「衛生用殺菌消毒剤、消毒剤」と被異議申立商標の指定商品である「衛生用殺菌消毒剤、消毒剤」とは、『区分表』によれば異なる類似群に属しているが、機能、用途、製造部門、販売ルート及び消費対象などの面において同一又は類似している点があるため、関連公衆が一般的な注意力しか払わない場合、容易に混同や誤認を生じさせるおそれがある。したがって、両者は、類似商品に該当すると判断すべきである。

②商品の類否判断は、『区分表』に基づき行なわれるべきであるという商標審判委員会の主張には法的根拠がないため、これについては支持しない。

③『商標法』における関連商品の類否判断は、単純に関連商品についての物理属性を客観的に比較することではなく、商標が共存できるか否か、商品の出所に関する混同を回避できるか否かを主に考慮することである。また、先行商標に対する保護は、その周知性を考慮しなければならない。通常、先行商標の周知性が高ければ高いほど、権利範囲がより広くなり、排除できる商品範囲も広がることで、商品の出所に関する混同を効果的に回避することができるはずである。したがって、商品の類否判断においては、個別事件のそれぞれの状況を考慮して、先行商標の周知性も適当に勘案する必要があり、関連商品の類否判断は必ずしも絶対的で不変であるということはなく、異なる事件の状況によって異なる結論が出される可能性がある。一審判決においては、引用商標の周知性などの要素を総合的に考慮したうえ、関連商品が類似商品に該当すると判断したのは妥当なことである。

④被異議申立商標の指定商品と引用商標の指定商品(即ち、商号「金花」が用いられている販売商品)とは、類似商品に該当し、かつ、商号「金花」は、一定の周知性を有している。このような状況において、一旦被異議申立商標の登録が許可され、関連公衆が被異議申立商標を見た場合、金花社の先行商号「金花」と容易に結びつけ、被異議申立商標が付されている商品の出所が金花社であると誤認しやすいため、商号「金花」に凝集されている商業名誉及び「金花」に関する金花社の先行商号権を侵害していると言える。

上記を踏まえると、一審判決は、事実認定が明らかで、適用法律が正確で、手続きが合法的であるため、維持されるべきである。

(8)弊所のコメント

2002年に施行された「最高裁判所による商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(法釈【2002】32号)」の第10条には、「商標の類否判断の際に、保護を求めた登録商標の顕著性及び周知性を考慮すべきである」と定められている。しかし、商品の類否判断の際に商標の顕著性及び周知性についても、考慮すべきか否かについては、これまで長らく議論されてきている問題である。本件の上訴提起時に、商標審判委員会は「商標の周知性は、類似商品を判断する参考要素としてはいけない」という観点を主張した。とは言っても、周知の通り、商標の周知性は、一般消費者の認識能力に影響をもたらすものである。もしある登録商標が影響力が高い商標であったり、馳名商標であったりする場合、一般消費者に強い印象を与えると考えられる。そのため、一般消費者は、商標又は商品の間の差異を識別できたとしても、両者の間には関連性があると思い込み、混同や誤認が生じる可能性がある。したがって、商品の類否判断の際に、消費者の混同を生じさせるか否かということを基準にした上で、先行商標の周知性を総合的に考慮して、引用商標にその周知性に相応する商品の保護範囲を与えるべきであると考える。

実際に商品市場は絶え間なく発展し変化している。社会的分業化及び企業の経営分野の多角化の進展に伴い、商品及び役務の関連類似の程度も絶え間なく変化している。また、商標異議申立及び係争事件は、特定の民事的な権利を保護することに深く関わっており、事件の個別性と救済性がより求められるものである。したがって、商標異議申立、係争及び後続の訴訟、更に侵害訴訟における商品の類否判断の際に、単純に機械的に『区分表』を根拠又は基準とするだけではなく、さまざまな実際の要素をより十分に考慮すべきである。特に商標の周知性は、それぞれの事件ごとに総合的に考慮し認定しなければならない。それぞれの事件における認定及び制限を打ち破ることは、商品関係の変化をタイムリーに反映することができるだけではなく、『区分表』改訂によるタイムラグを克服することができる同時に、「ただ乗り」のような法律にぎりぎり抵触しない行為に打撃を与え、権利者により本当に効果的な保護を与えることができると確信するものである。

2.本田技研工業株式会社が商標審判委員会を訴えた異議不服審判行政紛争事件

(1)事件基本状況

①被異議申立商標と引用商標の基本情報


 
 
②事件に関する基本状況紹介

本田技研工業株式会社(以下、「異議申立人」又は「本田社」という)は、法定期間中に第4442873号商標「雅閣YAGE及び図形」(以下、「被異議申立商標」という)に対して異議を申し立てた。商標局は審理を経て、(2010)商標異字第15874号「『雅閣YAGE』商標異議裁定書」を下し、被異議申立商標の登録を許可することを決定した。本田社は当該裁定を不服として、商標審判委員会に不服審判を請求した。商標審判委員会は2012年1月16日、商評字【2012】第01415号「第4442873号『雅閣YAGE及び図形』商標異議不服審判決定書」を下し、同様に被異議申立商標の登録を許可することを決定した。本田社は当該審決を不服として、北京市第一中等裁判所に行政訴訟を提起した。北京市第一中等裁判所は2012年12月19日に一審判決を言い渡し、第01415号審決における認定事実が明確でないため、取消すべきであり、被異議申立商標が『商標法』第28条の規定に違反しているという本田社が主張する理由には事実及び法的根拠があると認定した。

(2)事件の争点

①被異議申立商標と引用商標とは、類似商品における類似商標に該当するか否か。

②被異議申立商標の登録は、『商標法』第13条第2項に規定されている状況に該当するか否か。

(3)商標局の判断

被異議申立商標と本田社が引用した先行登録の商標「雅閣」などとは、指定商品が類似していない。本事件において本田社が提出した証拠は、その引用商標が馳名商標であることを証明するのには十分でない。また、趙輝がその引用商標を複製したという本田社の主張は、証拠が不十分である。そのため、異議申立人の異議申立理由は成立せず、被異議申立商標の登録を許可する。

(4)商標審判委員会の判断

被異議申立商標と引用商標とは、その構成文字及び称呼は類似しているが、被異議申立商標の指定商品である「金属錠(電気式のものを除く)、スプリング錠」などの商品と引用商標の指定商品である「自動車」などは、製造技術、販売ルート、消費対象、機能及び用途などの面において差異があるため、類似商品に該当しない。

本田社の提出した証拠は、被異議申立商標の出願日前に引用商標が自動車などの商品についてある程度の周知性を有していたことを証明できるが、まだ馳名の程度までに至っていない。被異議申立商標の登録は『商標法』第13条第2項に規定されている状況に該当するものではない。

趙輝が被異議申立商標を出願した行為が信義誠実の原則に違反しているという本田社の主張には、事実根拠が欠如している。

したがって、異議申立人が提起した不服審判の理由が成立しないので、被異議申立商標の登録を許可する。

(5)一審裁判所の判断

周知のように、日常生活において、手押し車、オートバイ、自転車などの車両の停車時に盗まれることを防ぎ、財産の安全を保証するために、スプリング錠、南京錠、車両用金属錠などの錠前で上述の車両をロックすることは通常よく見られることである。かつ車両と錠前の間に密接な関連性があるのも基本常識である。引用商標の「手押し車、オートバイ、自転車」などの指定商品は、被異議申立商標の「スプリング錠、南京錠、車両用金属錠」などの指定商品と機能及び用途においても密接な関連があり、消費者層もほとんど同一であるため、類似商品に該当すると判断すべきである。また、被異議申立商標と引用商標の標識には、明らかな差異がないため、両者は類似する。したがって、被異議申立商標と引用商標とは類似商品における類似商標に該当する。

被異議申立商標が『商標法』第28条の規定に違反していることに鑑み、本田社の訴訟理由が既に成立するため、被異議申立商標が『商標法』第13条第2項に違反しているという本田社の主張については、審理しないものとする。

(6)弊所のコメント

類似商品とは、機能、用途、製造部門、販売ルート及び消費対象などの面において同一又は類似しているもの、或いは関連公衆が特定の関係があると認識し、容易に混同を生じさせるもののことをいう。商品の類否判断は、「混同を生ずる可能性」と密接な関連がある。

本事件では、本田社の引用商標は、被異議申立商標の出願日前に自動車などの商品においてすでに周知性を有していたため、当該周知性は関連消費者の商品の類否判断においてある程度の影響を与えると言える。さらに、車両と錠前の間に密接な関連性があるということも基本常識である。したがって、本事件では、一審裁判所は、客観的に存在する需要者の「一般的な認識」に基づき、最終的に被異議申立商標の登録を拒絶することを決定した。

上記を踏まえ、商品の類似を認定する際に保護を求める引用商標の周知性の程度にについて考慮する必要があると考える。それに、引用商標は、周知性が高ければ高いほど、より広くかつ強い保護が与えられるべきである。そうすることで、より市場競争における勝者を励まし、市場環境の浄化を推し進め、不正に「ただ乗りする」悪意のある模倣行為を抑制することができるようになると考える。

3. スズキ株式会社が王銀輝の出願した「王川鈴木」に対して提起した商標異議申立事件

(1)事件基本状況

①被異議申立商標と引用商標の基本情報


 
②事件に関する基本状況紹介

「スズキ株式会社」(以下、「異議申立人」又は「スズキ社」という)は、2009年9月27日付第1185号『商標公告』に掲載された第57901504号商標「王川鈴木」(以下、「被異議申立商標」という)が自社の著名な商標「鈴木」を模倣し、その先行権利を侵害していることを発見し、『商標法』第13条2項、第28条、第31条などの条文に基づき、商標局に被異議申立商標の登録を拒絶し、且つ異議申立人の商標「鈴木」を馳名商標として認定するよう請求した。

商標局は2011年10月9日、(2011)商標異字第36423号「『王川鈴木』商標異議裁定書」を下し、異議申立人の異議申立理由が成立せず、第5791504号商標「王川鈴木」の登録を許可すること決定した。スズキ社は当該裁定を不服として、2011年11月14日に商標審判委員会に不服審判を請求した。商標審判委員会は2013年8月27日、【2013】第52438号『第5791504号商標異議不服審判裁定書』を下し、被異議申立商標の登録が『商標法』第28条に規定した類似商品における類似商標の状況に該当するため、その登録を拒絶することを決定した。

(2)事件の争点

①被異議申立商標と引用商標とは、類似商品における類似商標に該当するか否か(『商標法』第28条)

中国『区分表』によれば、第1208類似群に属する「車両用タイヤ」と第1202類似群に属する「車両及びその部品」とは、類似商品に該当しない。

②「鈴木」は馳名商標に該当するか否か(『商標法』第13条)

(3)商標局の判断

被異議申立商標「王川鈴木」は、異議申立人が引用した先行登録の商標「鈴木」などと指定商品又は役務が類似していない。被異議申立人が悪意によりその馳名商標を模倣し、かつその企業名称を侵害しているという異議申立人の主張は、証拠が不十分である。

(4)商標審判委員会の判断

①『商標法』第28条について

被異議申立商標と引用商標は、いずれも文字商標である。被異議申立商標は漢字「王川鈴木」から、引用商標は漢字「鈴木」から構成されている。被異議申立商標は引用商標の漢字を完全に含んでおり、かつ引用商標と明らかに識別できる他の意味を形成していないため、両商標は類似商標に該当する。被異議申立商標の指定商品である「車両用タイヤ」と引用商標の指定商品である「車両及びその部品」とは、機能、用途、流通ルートなどの面において密接な関連性を有し、類似商品に該当する。被異議申立商標と引用商標とは、上述の類似商品において共存した場合、商品の出所について消費者の混同や誤認を容易に生じさせるため、『商標法』第28条に定めた類似商品における類似商標に該当する。

②『商標法』第13条について

請求人は類似商品において商標『鈴木』を先に登録したことに鑑み、前述したように、『商標法』第28条の規定に基づき請求人の先行商標の権利に保護を与えるため、請求人の商標「鈴木」が馳名商標に該当するか否かについては審理せず、本事件は『商標法』第13条の規定については適用しないものとする。

(5)弊所のコメント

本事件は、弊所が取扱った異議不服審判案件で、その基本状況は上述の「金花社」及び「本田社」の行政訴訟事件と類似するところが多い。本事件において、異議申立人は、会社概況、関連会社の営業許可証、業界ランキング、会計監査報告書、関連宣伝における使用、周知性、偽物摘発材料に関する大量の証拠を提出し、異議申立人及びその引用商標「鈴木」は自動車業界において高い周知性及び影響力を有していることを証明した。中国商標実務において、馳名商標の認定には現在、認定される時間及び認定される数について制限を受け、且つ証拠に対する要求が極めて高くなっている。したがって、本事件において、商標審判委員会は、引用商標を直接馳名商標として認定して保護を拡大することはしないが、異議申立人の商標「鈴木」の高い周知性を有していることに鑑み、車両及びその部品と車両用タイヤとは機能、用途において密接な関連性を持ち、かつ消費者層もほぼ同様であることを総合的に考慮し、『区分表』の商品分類を枠組を越え、関連性の高い商品「車両用タイヤ」を「車両及びその部品」の類似商品の範囲に組み入れた。

実務において現在、『区分表』は操作しやすいという特徴を有するため、商標局や商標審判委員会の審判官は、ほとんど『区分表』に基づき商品類否を判断して、分類の枠組を打ち破ることがめったにない。したがって、分類の枠組を越えるためには、異議申立又は係争において、権利者及びその引用商標の周知性を積極的に主張することは大きなポイントとなる。審判官は、先行引用商標が比較的高い周知性を有することを認めることによって、商品の出所の混同を効果的に回避するという視点から『区分表』の制限を越え、指定商品において拡大保護を与えてくれる可能性がようやく出てくる。

また、2012年年末に行われた数件の商標行政訴訟事件において、『区分表』の安定性を簡単に打ち破ってはいけないという主張を提出した商標審判委員会の主張が、裁判所に否定されたことは非常によい傾向であると考える。それによって今年に入り、商標審判委員会の一部の審判官は、判決を下す際の考えの道筋を調整し始め、裁判所の関連事件の指導的な精神に従って、実務において個別事件の分析を重要視し、商品の類否判断の際に引用商標の周知性などの要素を積極的に考慮し、権利者の権利を保護することになってきている。

4.まとめ

上述の事例からもわかるように、現在、『区分表』の枠組を越えて類似商品を認定する必要がある場合、引用商標の周知性の有無が判断の重要なポイントになっている。引用商標の周知性が高ければ高いほど、特定の権利者との関係がますます密接になり、関連公衆は、同一又は類似の商標を同一の実体から由来すると誤認する可能性もますます高くなり、混同を生じさせる可能性がより高くなる。したがって、それぞれの事件、特に異議申立及び係争事件において、『区分表』に基づき関連商品が類似商品だと判断されなかった場合、権利者は積極的にその商品の関連性及び引用商標の周知性について立証しなければならない。関連する客観的な事実によって、引用商標が相当な周知性を有することを証明することさえできれば、『区分表』の枠組みを打ち破り、より広くかつ強い保護を獲得できる可能性が出てくる。
 
(2013)


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©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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