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商標の権利付与に係わる先行商号権への保護について――TDK株式会社v. 諾佳公司の商標異議申立行政判決に関する分析


北京林達劉知識産権代理事務所
商標弁理士 王 艶
 
【キーワード】

先行権利 商号権 商品の関連性
 
【判決の要点】

先行商号が比較的高い知名度を有し、且つ当該商号を使用する商品が被異議申立商標の指定商品と比較的強い関連性を有し、特に被異議申立商標の文字部分と先行商号が完全に同一である場合、被異議申立商標の使用は、関連公衆に混同又は誤認を生じさせやすいので、先行商号権に損害を与え、『商標法』第31条の規定に違反する。
 
I. 前書き
 
弊所依頼人であるTDK株式会社と泉州諾佳電訊有限公司(以下、「諾佳公司」という)との間の商標異議申立事件は、4年間の歳月をかけ異議申立、異議裁定不服審判、行政訴訟一審及び二審を経て、ようやく一区切りがついた。最終的に、北京市高等裁判所は当方TDK株式会社の訴訟請求を支持し、北京市第一中等裁判所の一審判決及び商標審判委員会の審決を取り消し、且つ商標審判委員会に改めて審決を下す旨の判決を言い渡した。
 
振り返ってみると、本事件は、商品の類否判断、馳名商標認定、商標の権利付与における著作権や商号権などの先行権利に対する保護等、複数の法律問題に関わり、北京市高等裁判所の二審判決では、商標の権利付与における先行商号権に対する保護問題がポイントとなった。本稿では、当該問題について本事件の分析を進めるものとする。
 
II. 案件の紹介
 
諾佳公司は2002年10月17日、中国で第11類の「照明用器具,溶接トーチ,湯沸かし器,冷蔵庫,ファン(空気調和機),水道水又はガスの設備及びパイプラインの調節用附属品,蛇口,衛生器具及び装置,水浄化装置,温暖器」などを指定商品として第3338546号「TDK及び図形」商標(以下、「被異議申立商標」という)を出願した。TDK株式会社は、被異議申立商標が予備的査定され公告されてから、当該商標に対して異議を申し立てた。それに対して、商標局は、被異議申立商標のアルファベット及び図形部分についてTDK株式会社が第7、9、14、16などの区分において先に登録し、且つ中国において一定の影響力を有している商標(以下、「引用商標」という。下図を参照のこと)と完全に同一で、「冷蔵庫」などの製品において使用された場合、消費者に混同や誤認を生じさせるおそれがあり、悪影響を及ぼすので、その登録が許可されるべきではないと裁定を下した。  


 
諾佳公司は、当該異議申立裁定を不服として、商標審判委員会に異議裁定不服審判を請求した。被異議申立商標と引用商標の指定商品が非類似商品に該当し、且つ引用商標が『商標法』第13条第2項にいう馳名商標に該当しないので、被異議申立商標と引用商標の共存により消費者に混同や誤認を生じさせるおそれがなく、被異議申立商標の登録は、許可されるべきであるとことを主な理由とした。
 
TDK株式会社は定められた期間内に、「『TDK』商標は、自社の独創によるもので、且つ自社の商号でもある。当該商標と商号は、長期間にわたる使用により既に中国の関連公衆において極めて高い知名度及び影響力を有している。そのため、諾佳公司がその商標及び商号と同一の被異議申立商標を照明器具などの商品に登録出願し、且つ使用したら、必ず消費者に混同や誤認を生じさせるおそれがある」と答弁した。
 
しかしながら、商標審判委員会は2011年12月27日、「TDK」商標を馳名商標として認定せず、且つ被異議申立商標の登録がTDK株式会社の先行商号権を侵害したとは認定しがたいとして、被異議申立商標の登録を許可する不服審判裁定を下した。
 
そのため、TDK株式会社は当該裁定を不服として、北京市第一中等裁判所に訴訟を提起した。TDK株式会社は一審の段階で、先行商号権を主張したのは主に「電子部品」に係る商品であることを明確にしたが、北京市第一中等裁判所は、「TDK株式会社が主張している『電子部品』は、被異議申立商標の指定商品と効能、用途の相違点が比較的大きいので、類似商品に該当しない。よって、被異議申立商標が先行商号権を侵害し、その登録が許可されるべきではないというTDK株式会社の主張は、事実的根拠を欠くので、商標審判委員会の裁定を維持する」という判決を言い渡した。
 
それに対して、TDK株式会社は、一審判決を不服として、北京市高等裁判所に上訴を提起した。TDK株式会社は二審の段階で、先行商号権に関する主張を更に強調し、且つ開廷審理の過程で、関連証拠と結び付けながら、同社が先行商号権を享有し、且つ当該商号が被異議申立商標が出願・登録される前に、既に中国において極めて高い知名度及び影響力を有していた事実を裁判所に詳しく陳述した。それと同時に、被異議申立商標の文字部分が当該商号と完全に同一であり、且つその指定された使用商品がTDK株式会社の商品「電子部品」と極めて強い関連性を有することに鑑み、被異議申立商標の登録及び使用は関連公衆に混同や誤認を生じさせるおそれが極めて高いことも強調した。
 
その結果、北京市高等裁判所は、TDK株式会社の主張を支持し、商標審判委員会の裁定及び一審判決を取り消し、且つ商標審判委員会に対して改めて不服審判の裁定を下す旨の判決を言い渡した。二審判決書においては、商標権利付与における先行商号権に対する保護問題について、指導的な陳述が行われたと言うことができる。
 
III. 法律問題の分析
 
上記の事件の経緯紹介を通して、本事件における先行商号権に対する保護問題の重要性が分かる。『商標法』第31条には、「商標登録の出願は、先に存在する他人の権利を侵害してはならない。他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならない。」と規定されている。当該条文にいう先に存在する権利(先行権利)とは、係争商標の出願日前に既に取得され、商標権以外の著作権、意匠権、氏名権、肖像権など、商号権も含むその他の権利を指す。これについて、二審判決において下記の通り陳述された。
 
係争商標が先行権利を侵害するか否かの判断において、『商標法』に特別に規定された先行権利について、『商標法』の特別な規定に基づき保護するが、『商標法』に特別に規定されておらず、『民法通則』などそのほかの法律の規定によれば、保護されるべき合法的な権益に該当する場合、それに相応する規定に基づき保護しなくてはならない。また、『不正競争防止法』第5条第3項には、「経営者が勝手に他人の企業名称を使用し、他人の商品と誤認させる不正な手段で市場で取引し、競争相手に損害を与えてはならない」と規定している。さらに、『不正競争に係わる民事案件の審理における法律適用の若干問題に関する最高裁判所の解釈』第6条第1項には「企業登記主管機関が法に従い登記された企業名称及び中国国内においてビジネスに使用される外国(地域)の企業名称は、不正競争防止法の第5条第3項に規定される『企業名称』に認定されるべきである。市場で一定の知名度を有し、関連公衆に知られている企業名称中の商号が不正競争防止法の第5条第3項に規定される『企業名称』に認定されることができる。」と規定されている。上述の法律条文及び司法解釈の規定によれば、企業名称の顕著部分としての商号が『商標法』第31条に規定される先行権利に該当する。
 
上記を踏まえて、二審裁判所は『商標法』第31条に規定される先行権利には先行商号権が含まれる点について明確に認定した。
 
通常、『商標法』第31条の規定に基づき保護される先行権利の商号とは、係争商標の指定商品又は役務と同一又は類似する商品又は役務について先に使用され、且つ一定の知名度を有し、関連公衆に混同又は誤認を生じさせるおそれのあるものを指す。
 
しかし、本件において、被異議申立商標の指定商品である「照明用器具,溶接トーチ,湯沸かし器,冷蔵庫,ファン(空気調和機),水道水又はガスの設備及びパイプラインの調節用附属品,蛇口,衛生器具及び装置,水浄化装置,温暖器」等は、中国の『類似商品及び役務の区分表』(以下、『区分表』という)によれば、第11類に属するが、TDK株式会社の商品「電子部品」は、第9類に属するので、両者は同一又は類似商品に該当しない。この点については、弊所がTDK株式会社の代理人として、主に下記の三つの方面から主張し、被異議申立商標とTDK株式会社の商号が共存すれば、必ず関連公衆に混同や誤認を生じさせるおそれがあることを強調した。
 
1.先行商号の独創性。商号が使用している文字は常用の単語ではなく、確実な意味を持たない造語である場合、独創性があると認定することができる。本件において、「TDK」はTDK株式会社により独創されたアルファベットの組合せで、TDK株式会社が1935年に創立された際の会社の英文名称――Tokyo Denki Kagaku Kogyo K.K.(東京電気化学工業株式会社)に由来するものである。当該アルファベット組合せは、TDK株式会社によって初めて使用され、極めて強い識別力を有するものであると言うことができる。
 
2.先行商号の知名度。先行商号が関連公衆において知名度を有するか否かを判断する時、商号の登記時間、当該商号を使用して経営活動に従事してきた期間、地域範囲、経営実績、広告宣伝などの方面から考慮しなくてはならない。本件において、「TDK」がTDK株式会社によって、1983年に使用されてから今まで継続使用されている商号であり、それと同時に中国に設立され数年間経た複数のTDK株式会社の関連会社の商号でもある。本件の証拠によれば、TDK株式会社の製品はハイセンス、ベンキュー、モトローラ、ハイアール、ファーウェイ、フィリップス、TCL等の複数の有名な通信、照明などの業界にも係っている電子メーカーに販売されたことがあるとのことである。また、電子部品業界においても、とても高い評価を得ており、多数の新聞や雑誌にもTDK株式会社に関する報道がされている。したがって、「TDK」商号が被異議申立商標の出願日前に既に中国において極めて高い知名度を有していたということができる。
 
3.被異議申立商標の指定使用商品と先行商号権者より提供された商品との関連性。本件において、被異議申立商標の指定商品とTDK株式会社の商品「電子部品」とは、『区分表』によれば類似商品に該当しない。しかし、商品が『区分表』によって類似しないからといって、『商標法』第31条を適用して先行商号権を保護することができないというわけではない。商標と商号は共に商業標識に属し、その主な役割は商品の出所を区別することである。商標と商号が衝突するかどうかの判断において、関連公衆に製品の出所を誤認や混同を生じさせるか否かが、根本的な判断基準となる。TDK株式会社の先行商号が極めて高い知名度を有し、且つその知名度が及ぶ分野と被異議申立商標の指定商品とは比較的強い関連性があり、更に被異議申立商標の文字部分がTDK株式会社の商号と完全に同一であるため、消費者が被異議申立商標を見たら、TDK商号の先入観にとらわれて、必然的にTDK株式会社のことを連想する。その結果、被異議申立商標の商品がTDK株式会社又はその関連会社により生産された商品で、当該製品がTDK株式会社が経営しているシリーズ製品の一つで、又は当該製品がTDK株式会社に授権されて生産され、また当該商標が授権を得たうえで使用されているものであると誤認し、又はTDK株式会社との間で法律関係や生産経営関係があると誤認する可能性が高くなる。
 
同時に、当方は「商標の権利付与・権利確定に係わる行政案件の審理における若干問題に関する最高裁判所の意見」(法発〔2012〕12号)における関連原則を十分に考慮したうえで、消費者及び同業経営者の利益を保護し、不正な先取り行為を効果的に抑制し、できるだけ商業標識を混同させる可能性をなくす角度から、商標の権利付与・権利確定の基準を適宜に厳しく把握し、TDK株式会社の高い知名度及び強い識別力を有する先行商号権を保護する必要性を裁判所に主張した。
 
当方の主張は二審裁判所に支持された。二審裁判所は最終的に被異議申立商標の登録出願がTDK株式会社の先行商号権に損害を及ぼし、『商標法』第31条の規定に違反していると認定した。その具体的な認定は下記の通りである。
 
被異議申立商標の指定商品である「照明用器具,溶接トーチ,湯沸かし器,冷蔵庫,ファン(空気調和機,水道水又はガスの設備及びパイプラインの調節用附属品,蛇口,衛生器具及び装置,水浄化装置,温暖器」等は、効能、用途等の方面において「電子部品」商品とは一定の相違点が存在しているが、「電子部品」が「照明用器具,溶接トーチ,湯沸かし器,冷蔵庫,ファン(空気調和機),水道水又はガスの設備及びパイプラインの調節用附属品,蛇口,衛生器具及び装置,水浄化装置,温暖器」などの商品を生産するための部品であるのは一般的な通念であり、両者は生産の段階から比較的に強い関連性有している。特に、被異議申立商標の文字部分が先行商号と完全に同一であり、上述の商品においてTDK株式会社により先に使用され、且つ一定の影響力を持つ商号と同一又は類似する商標を使用したら、関連公衆に混同や誤認を生じさせるおそれがあるので、TDK株式会社の先行商号権を侵害する。
 
本件において、二審裁判所の上述の認定は、最高裁判所の(2011)知行字第37号行政訴訟再審案件中の認定と一致し、以下の見方が再度表明された。つまり、商標の権利付与・権利確定の案件において、関連商品が類似するか否かを判断する場合、商品の効能、用途、生産部門、販売ルート、消費対象などが同一であるか、又は比較的に強い関連性があるか、2件の商標の共存により関連公衆に商品又は役務が同一の主体で提供されるものだと誤認させやすいか、又はその提供者の間に特定の関連性があるかを考慮する必要がある。『区分表』は、類似商品又は役務の判断の参考にはなるが、商品及び役務項目の更新に伴い、また市場取引状況は絶えず変化しており、商品及び役務の類似関係は不変のものではない。したがって、機械的に単純に『区分表』を依拠又は標準としてはならず、実情を熟慮した上、且つ個別案件の状況と結び付けて認定しなければならない。
 
IV. まと
 
1.先行商号権は『商標法』第31条に規定されている先行権利に含まれる。具体的な案件において、先行商号の独創性、知名度及び双方の商品又は役務の関連性の度合いに基づいて、先行商号権の保護範囲を確定しなくてはならない。
 
2.先行商号が一定の知名度を有し、且つ係争商標の登録及び使用が関連公衆に混同及び誤認を生じさせるおそれがあり、先行商号権者の利益に損害を与える可能性がある場合、係争商標の登録出願が先行商号権を侵害したと判定すべきである。
 
3.単純に機械的に『区分表』に基づいて、双方の商品又は役務が同一又は類似するかを判断し、且つこれを先行商号権が保護されるか否かの前提条件としてはならない。根本的な判断基準は、商標と先行商号の共存により関連公衆に商品の出所について混同や誤認を生じさせるか否かにある。
 
(2013)


ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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