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造語商標は心配事なし? ——実務から見る英語の造語商標の登録可能性について


中国商標弁理士 曹 敏
 
近年、グローバル化が進む中で経済文化交流が日増しに盛んになり、多国籍企業も国潮ブランド企業(中国要素を取り入れたトレンド商品を経営する企業)も期せずしてアルファベット又はアルファベットと漢字の組み合わせを商標として使用するようになった。例えば、「Apple(苹果)」、「Safeguard(舒肤佳)」、「frestec(新飞)」、「youngor(雅戈尔)」などの商標が挙げられる。そのうち、各大手ブランド企業が熟考したうえで独創した造語商標の多くは市場に登場するとすぐ消費者に新鮮さを感じさせる。造語はよく見られる商標のネーミング方法の一つである。本稿で、筆者は商標登録出願の審査審理実務における事例を踏まえて、英語の造語商標の登録可能性について考察する。

一、「造語商標」とは

造語とは、通常、主観的な意図に基づいて新しく創り出された語彙をいう。造語を商標として登録する場合、商標の設計者は指定商品又は指定役務の特徴、機能、用途に基づき、様々な方法と論拠を採用し、言語、心理、市場などの学科の原理を結びつけたうえ、今までなかった新しい語彙を創り出すことができる。

よく見られる造語商標の語彙の構成方法は、1. 短縮法【一部のアルファベットを略す又は連語の主要語彙の頭文字を結合】、2.組み合わせ法【2つ以上の語彙を変えないまま一定の順序で配列】、3.綴り合せ法【元の2つの語彙に対し最初、中部又は末尾を取捨選択】、4.スペル変形法【記述性質の一般用語を直接に採用すると同時に語彙のスペルを変更】、5.接辞法【接頭辞又は接尾辞を語根に付記】の5つが挙げられる1

造語には固有且つ特定の意味がなく、商標として登録する場合、いかなる商品又は役務と関連することにならないため、理論的には全ての商品及び役務において識別力を有する。しかも、商標自体は固定的な意味を持っていないため、「欺瞞性があり、商品の品質などの特徴又は産地について需要者に誤認を生じさせるもの」(『商標法』第10条7項)、「社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼすもの」(『商標法』第10条7項8号)などの禁止的な法律条項に違反することもないかと思われる。

二、「チングリッシュ(Chinglish)」視点から見る造語商標の登録出願に関する問題点

しかし、商標の権利付与・権利確定の実務において、造語商標の登録出願は予想通りに万事順調ではなく、識別力欠如、品質誤認などの絶対的な禁止事由で拒絶査定を受けたケースはよくある。

筆者は次のとおり、一部の事例を通じ、造語商標が登録出願の審査・審理にあった問題を説明する。
 
 
「表1:実務における造語商標拒絶査定通知書に関わる不服審判審決/判決の例」

表1の事例が示したように、各商標にある英語部分はいずれもフォント、文字サイズが同じである複数のアルファベットより構成される。各アルファベットの間にスペース又は大文字のアルファベットを挿入することによって商標が2つの部分に分けられることを示唆することがない。いずれも全体から見れば一体不可分で分割できないアルファベットの組み合わせで、且つ各英中辞典では関連の解釈がないため、確かに造語である。

しかし、審決書/判決書の内容によれば、表1にある商標3件はいずれも審査官に自発的に分けられ、さらに分けられた各部分の意味を組み合わせて理解したうえで登録可能性の有無を判断された。特に、2番目の商標について、「EVERSWEET」から単独に「SWEET」を抽出し、その意味が強調された。

このような拒絶理由通知書は、出願人を困惑させ、頭を悩ませることが多く、真の拒絶理由を推測することは難しい。たとえ出願商標が分けられ、不適切な意味に無理やり解釈されたと推測できたとしても、審査官がなぜこのようなランダムに見える分割方法を使って審査を行ったかについても理解しにくい。

実は、この点について、2008年に当時の北京市第一中等裁判所の行政廷裁判官を勤めていた蒋利瑋弁護士は以下のとおり分析した。

中国一般消費者の認識レベルはいまだにチングリッシュの段階に留まっている。いわゆる「チングリッシュ(chinglish)」とは、中国語の考え方で英語を理解し、受け入れ、伝えることを指す。

中国人は英語に対する全面的な理解が欠如であるため、いったい造語なのか固有の英語表現なのかについて正しく区別することができない。そのため、上記商標は標準的な英語の文脈において「造語」の性質を有するが、この性質は中国式の英語の文脈において考慮されにくい。
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上記のことから、英語の造語商標の登録可能性を判断する際に、自発的に造語を分けて、又は造語の一部を単独に抽出して審査を行うというような審査官又は裁判官のやり方は、リスクをできる限り回避する視点から、主に中国消費者の英語に対する一般の受容程度、及び中国人の慣れている中国語式スペル・閲読の習慣がその英語商標の識別能力に与えた影響を考慮した上に行われたものである。

実務上、造語商標が分けられて審査された後、拒絶理由の大半は『商標法』第11条1項(識別力欠如)、第10条1項7号、8号(誤認、悪影響)などの絶対的不登録事由である。このような拒絶理由は拒絶不服審判、審決取消訴訟において解消されるハードルがやや高いと思われる。
このような分割式の審査方法は妥当か否かについて一概には言えないが、このような現象に留意するほうがいいのではないかと思われる。

三、実務における「造語商標」を採用する際の注意事項

●  造語商標のネーミングに関する注意事項

上記のような拒絶理由をできる限り回避するために、商標設計者は造語商標をネーミングする際に、組み合わせ法以外の4つの方法を優先的に利用し語彙を創り出した上に、「チングリッシュ」の視点から理解してみて、その意味を繰り返し吟味することが考えられる。

その理由は、定義から見れば組み合わせ法が2つ以上の語彙を変えないまま一定の順序で配列し、新しい語彙を創り出すものであるが、これは「たまたま」前記の分割式の審査ロジックと一致しているからである。そのため、できる限り正反対の方法を採用するほうがお得策かと思われる。

もちろん、組み合わせ法で創り出した造語は全く使用できないということではない。この方法を使う場合、指定商品、役務の原材料、機能用途などの特徴と密に関連している語彙の使用をできる限り回避すると同時に、各要素を組み合わせる前に、意味上には悪影響があるか否かという点に留意しなければならない。


●  造語商標が分けて審査され、拒絶査定を受けた場合の対応策

造語商標が分けて審査され、拒絶査定を受けた場合、出願人は拒絶不服審判審決取消訴訟などを通じて引き続き権利化を求めることが考えられる。最高裁判所知財案件年度報告(2022)に掲載された『商標「Bioderma」拒絶不服審判に係る審決取消訴訟の再審事件』から、この問題の解決に少しヒントを得るかもしれない。これは第29087232号商標「Bioderma」の拒絶不服審判に係る審決取消訴訟の再審である。不服審判の段階で当局は商標「BIODERMA」を「BIO」、「DERMA」に分けて、商標の全体的な意味を「生物皮膚」と理解し、更に商標全体として識別力欠如で、且つ誤認を生じるという結論を導いた。それに対し、最高裁は係争商標の識別力を判断する場合、その全体的な構成要素及び意味から考慮すべきであり、簡単的・機械的に分割後の語根の意味の組み合わせを、「BIODERMA」の固有の意味にすることは認定の根拠にならない6と、明確に指摘した。

上記の事件から、最高裁は「簡単的・機械的に商標を分けて審査する」という当局の審査方法に対し、否定的な態度を持っていることが把握できる。これは審決取消訴訟の司法裁判、更に行政機関の行政決定に対しても大いに指導的な役割を果たす。

この背景の下で、2023年に当局が下した商標拒絶不服審判審決書において、審判の段階で商標を無理やりに分けて拒絶査定を下した行為を自発的に是正した案件が現れている。その中の一部の案件を下表にまとめた。
 
 
「表2:2023年度造語商標に関する拒絶不服審判審決の例」

上表のように、審査の段階において、一部の造語商標が分けて審査された後に識別力欠如、誤認、悪影響などの理由により拒絶査定を受けたが、不服審判の段階において、請求人は出願商標が造語商標であると主張することを前提に、造語商標自体の先行登録又は使用状況を結びつけ、出願商標の状況と似ている先行商標の登録例を挙げることを通じて、商標を分けて審査する方法の不合理性を明確に指摘して、審判の段階で逆転勝訴を収める可能性もある。

すなわち、現在の商標登録審査審理の実務において、造語商標が無理やりに分けて解釈される拒絶理由を解消することは難しいではあるが、全く不可能でもない。

上記のことを踏まえ、英語の造語商標は固有的な意味を持たず、国際的にはより広い範囲の公衆に受け入れられるという優勢があるため、多くの企業に採用されている。現在の商標審査審理実務のトレンドを考慮し、不必要な拒絶査定をできる限り回避するために、造語商標を選択する際に、「チングリッシュ」の視点から慎重に観察することを提案する。実務において、たとえ審査方法の関係で商標を分けて理解し、拒絶されるリスクがあるとしても、引き続き権利化を求めるために拒絶不服審判、審決取消訴訟などを通じて努力することができる。
 
参考文献

1. 『英語商標語彙の構成方式に対する一考察』(張春燕 張艶 2008.12)
2. (2021)京73行初6929号河南智慧路網高速道路有限公司と国家知識産権局その他との一審行政判決書
3. (2021)京73行初10018号愛宛塞婭公司と国家知識産権局その他との一審判決書
4. 商評字[2023]第0000307960号第67846157号商標「Goleader及び図」に関する拒絶不服審判審決書
5. 『中国語文脈下の英語商標審査』(蔣利瑋 北京市第一中等裁判所行政廷 2008.11)
6.  「(2022)最高法行再4号最高人民法院行政判決書」(2022.5.9)
7. 商評字(2023)第0000322041号国際登録第G 1601851号商標「superfit及び図(指定色)」に係る拒絶不服審判審決
8. 商評字(2023)第0000295822号国際登録第G 1680327号商標「HyCOsyn」に係る拒絶不服審判審決
9. 商評字(2023)第0000251743号第67559650号商標「PIPAK」に係る拒絶不服審判審決
 
 
 
 
 


ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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