誤認条項に対する商標使用状況の抗弁に関する考察 ——商品の原材料及び効能を表す語を含む商標標識
近年、商標の権利付与・権利確定に係る案件において、商標標識が誤認条項(中国商標法第10条1項7号)に当たるかどうかについての当局審査はますます厳しくなり、それに関する拒絶査定件数及び拒絶査定不服審判件数が増加する傾向にあるが、拒絶査定不服審判の請求成立率は年々低下している。そのうち、商品の原材料や効能などの特徴を直接に表す言葉を含む商標標識が、誤認条項違反と判断されることはよく見られるケースである。
新たに発表された「2023年度商標権利付与・権利確定に係る司法保護10大事件」のうち、9番目の「竹塩」に係る商標権無効審判審決取消訴訟事件
iにおいて、係争商標標識は欺瞞性を帯びるか否か、誤認条項に違反するか否かが争点の一つである。本稿では、この事件を切り口として、誤認条項に対し、商標の使用状況を抗弁として主張することを分析してみた。読者の皆様のご参考になれば幸いである。
1.第3953036号商標「竹塩BAMBOO-SALT及び図」に係る無効審判事件
本件において、係争商標は、2004年に株式会社LG生活健康によって出願され、2006年に登録が許可されたもので、第3類の「歯磨き粉、せっけん」などを指定商品とした。2020年9月(登録から14年経過後)、仏山某会社に無効審判を請求された。請求理由は主に二つある。一つ目は「竹塩」が指定商品の主な原材料であり、商標標識は商品の主要原材料などの特徴を直接表示していて、識別力がないため、『商標法』第11条第1項に違反すること。二番目は商標標識が商品の原材料、効能などの特徴について需要者に誤認を生じさせやすく、欺瞞性を帯び、『商標法』第10条第1項第7号に違反するとのこと。
1回目の無効審判審決
iiによると、無効審判請求人は製塩工業に関する国家標準・業界標準などの資料、塩製品としての「竹塩」に関する権威ある論文、他社の竹塩製品情報などの証拠資料を提出した。本件判決がまだ公開されていないため、訴訟段階では新たな証拠資料が提出されたか否かが確認できない。二審裁判所は、係争商標全体が指定商品の主要原材料、品質などの特徴を表示するだけであるという請求人の主張を認めたが、最終的には「歯磨き粉」における係争商標の登録を維持した。
日常生活の経験からみれば、歯磨き粉に竹塩が含まれている可能性はあるが、必然ではない。もし竹塩の含まれていない歯磨き粉に係争商標が使用される場合、当該商品に竹塩が含まれていると消費者に誤認させる可能性は否定できない。しかし本件において、裁判所は最終的に、「歯磨き粉」における係争商標の使用は欺瞞性がないと判断した理由は何であろうか。
公開された事案によれば、裁判所は主に商標権者が製造した歯磨き粉製品に「竹塩」の成分が含まれており、かつ係争商標が歯磨き粉において比較的高い知名度を有しているという2つの事実を考慮して認定したわけである。言い換えれば、商標権者による係争商標の実際の使用状況は登録維持の決定的な要素である。
報道
iiiによると、株式会社LG生活健康は1992年に世界初の竹塩が含まれた歯磨き粉を発売し、韓国では漢方塩歯磨き粉分野で1位を守っている。中国でも、竹塩歯磨き粉が大人気である。2008年、商標「竹塩」は歯磨き粉商品で馳名商標に認定された。無効審判事件において、商標権者が売買契約書とインボイス、広告契約書とインボイス、監査報告書、国家図書館の検索資料、受賞証書、権利保護の関連資料などを証拠として提出した。これらの証拠をもって係争商標の使用と宣伝が続いていることを証明した。
このように、誤認条項に関わる無効審判事件では、係争商標の実際の使用状況を強調することは有効な抗弁方法であることが分かる。もちろん、これは使用商品の特徴が標識に含まれる記述的表現と一致する場合に限られる。
2.拒絶査定不服審判における商標の実際の使用状況に対する考察
拒絶査定不服審判事件において、商標の使用状況は誤認条項の拒絶理由を克服するために有用であるのか。
第17545726号商標「腎源春氷糖蜜液」に係る拒絶査定不服審判事件
ivにおいて、商標標識の「氷糖」と「蜜液」は指定商品の「生薬」などに氷砂糖の成分が含まれ、蜜液の生地があると需要者に誤認させやすいとし、国家知識産権局と二審裁判所はいずれも第10条第1項第7号に違反すると認定した。しかし、商標出願人は係争商標を使用した製品の効能試験報告書、食品安全に関する毒性試験報告書などの証拠資料を提出し、関連製品の成分に氷砂糖と蜂蜜が含まれていることを証明した。最終的に、最高裁判所は係争商標標識そのものだけでは、出願商標を指定商品に使用したことが需要者に商品の原材料や成分などの特徴について誤認を生じさせることに至らず、欺瞞性を帯びる行為に当たると認定し難いとして、係争商標の登録を認めた。
もう一つ似ている事件としては、第44050872号商標「紓糖膳底」に係る審決取消訴訟事件
vがある。この件において、国家知識産権局と一審裁判所は、「紓糖」は糖質の吸収を緩やかにし、血糖値をコントロールする意味があり、商標全体が指定商品の効能及び用途などの特徴について需要者に誤認させる恐れがあると判断した。しかし、二審裁判所は出願人が提出した係争商標を使用した粉ミルク製品のグリセミック・インデックス(GI)の測定及び評価報告書に基づき、かかる製品は確かに血糖値をよくコントロールすることができると認めた。係争商標を粉ミルクなどの商品に使用することは欺瞞性を帯びないとし、登録を認めるべきであると言い渡した。
上記2つの事件の発効判決は「竹塩」に係る無効審判事件と同じ考え方を示している。すなわち、
商標出願人または商標権者は、標識が相応の「欺瞞性」の結果を引き起こさないことを立証し、ロジック上で違法性阻却事由が成立できれば、「欺瞞性」の結果viに至らないと認定することができる。当事者は係争商標を使用した商品の特徴が商標にある記述的な語と一致することを立証すれば、当該商標標識は「欺瞞性」を帯びないと推定できる。従って、商標標識が欺瞞性を帯びるか否かを判断する際に、商標の実際の使用状況は非常に重要な役割を果たしている。
しかし、第22206123号商標「鋅烯望」に係る拒絶査定不服審判事件
viiでは、裁判所は正反対な判断基準を採用した。当該事件において、係争商標の指定商品は塗料(ペンキ)などの商品である。商標出願人はその製品に金属の亜鉛、アルケン類化合物が含まれていることを証明するために、製品検査報告書を提出したが、二審裁判所は当該検査報告書がその製品の一部分しかに関わっていないため、指定商品の全てがその成分を含めていることを証明できないと判断した。そして、インボイス及びネット報道などの証拠も、係争商標の使用が商標権者と唯一の対応関係を形成し、商品の品質などの特徴について需要者に誤認させないことを証明するには不十分であるとして、最終的に係争商標の登録出願を拒絶した。
この判決の論理は、登録商標が商品の原材料や成分などの特徴を保証する機能を担うべきではないし、担えないというものである。当事者が一時製造した製品に関連成分が含まれていたとしても、その後の製造行為の一貫性を予測できない。従って、商標の実際の使用状況が欺瞞性の認定にあまり影響を与えないと思われる。
Viii
最近の拒絶査定不服審判事件において、このような観点を採用する不服審判の審決はますます増えていることに気づいた。例えば、第71118858号商標「AGE PERFECT COLLAGENE ROYAL」に係る拒絶査定不服審判事件(審決期日:2024年03月12日)
ix、第67449566号商標「豚角PORK RICE及図」に係る拒絶査定不服審判事件(審決期日:2023年12月08日)
x、第70408161号商標「skin79」に係る拒絶査定不服審判事件(審決期日:2024年3月12日)
xi等。審決書には、次のような旨が明確に記載されている。
「『商標法』第10条第1項第7号に規定する不登録及び使用禁止の状況は法律禁止条項であり、需要者に誤認を生じさせやすい関連標識が使用を経て相応の知名度を有するか否かにかかわらず、その登録と使用を一切許可することはできない」。つまり、当該条項は絶対的な不登録事由として、当事者が標識の実際の使用によって登録性を得ることはできない。このやり方は、誤認条項に違反する商標標識を第10条第1項の他の状況に違反する商標標識と同等に扱っている。これは悪影響を及ぼす商標標識(例えば、暴力団)がどのように使用されても登録できないのと同じである。
このように、拒絶査定不服審判の司法実務において、商標の実際の使用状況が考慮されるか否かについて意見が分かれている。最近の審決から見ると、国家知識産権局はそれを考慮しない傾向が少し強い。
3.まとめ
商標権は私権であるが、『商標法』第10条第1項第7号の立法主旨は公衆の利益を保護することにある。権利付与・権利確定事件における同条項の適用は実質的に公権秩序と私権保護の調和と衝突である。
ここ数年、国家知識産権局及び司法機関は誤認条項に対する審査が厳しくなり、明らかに公衆利益の保護を優先される。しかし、次のとおり指摘する有名な学者もいる。「商標の選択権は私権であり、商業的表現の十分な自由を持つべきである。(中略)そのため、法律は登録禁止の商標に対する規定は法律の限界線の設定と見なされるべき、このような規定を厳格に把握し、その適用範囲をできるだけ狭くすべきである。グレーゾーンの「両可」型商標出願(登録性五分五分の商標出願)について、商標出願人に有利な解釈と把握をしたほうが良い」
xii。公権秩序が優先なのか、私権保護が優先なのかは諸説ある。
しかし、「竹塩」に係る商標権無効審判事件から見ると、商標出願人/商標権者の立場で考えて、誤認条項に関する絶対的な理由を受けた場合、私権の最大化を図るために、係争商標の実際の使用状況に合わせて積極的に立証し、法的救済手続きを尽くすことを提案する。
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