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中日における意匠優先権制度の注意点について


中国弁理士
王 雪 張 秋実

一.はじめに

日本は「ものづくり大国」として世界的な人気を誇り、「日本製=高品質」も世界中の消費者の間で広く認知され、日本製品は各国の消費者に愛され、数多くの人気商品が世界を席巻している。海外進出の日本企業を支援する最も効果的かつ直接的な方法の一つとして、意匠権のグローバル戦略が挙げられる。意匠権のグローバル戦略において、国外出願が第一国出願より遅れるというジレンマに直面する場合が避けられず、「優先権」は時間を巻き戻し、出願人の権利を完全に保護するための必勝法と言える。しかし、優先権主張に関する規定は国によって異なるため、出願人は、グローバル戦略に対する自身のニーズに応じて、各国の優先権主張に関する規定を総合に考慮した上、第一国出願のための出願書類や出願戦略を準備する必要がある。

本稿は、意匠権の優先権主張に関する中日間の類似点と相違点の比較分析を試みるものであり、読者の皆様に少しでも参考価値をもたらすことができれば光栄である。

二.関連法律の規定

『中国特許法』第二十九条の規定によると、出願人が意匠を外国で最初に出願した日から6ヶ月以内に、中国で再び同一の主題について特許出願する場合、その外国と中国とで締結した協定又は共に加盟している国際条約に基づき、又は互いに優先権を認める原則に従い、優先権を享受することができる。あるいは、意匠について中国で最初に出願した日から6ヶ月以内に、また国務院特許行政部門に同一の主題について特許出願する場合、優先権を享受することができる。

上述した内容から分かるように、中国では、優先権を主張できる後願意匠は、第一国出願と同一の主題のものであり、かつ最初に出願した日から6ヶ月以内に提出しなければならない。

「同一の主題」については、2010年版と2023年版の『中国特許審査指南』にも類似する表現がある。すなわち、「意匠の同一主題の認定は、後願意匠とその最初の出願に示した内容に基づいて判断すべきである。同一の主題に該当する意匠は同時に以下の2つの要件を満たさなければならない。

(1)同一製品の意匠に属すること。

(2)後願で保護を求める意匠がその最初の出願に明確に示されていること。」

同様に、「日本特許法」の関連規定によると、日本で優先権を主張する場合も、第一国出願の出願日から6ヶ月以内に日本に提起し、かつ後願と第一国出願が「同一の意匠」である必要がある。

これらの条文だけから見れば、優先権主張に関する規定は、中日間で大きな違いがなく、後願の提出時間も主題要件(つまり、第一国出願と「同一」)もほぼ同じであるという大きな「罠」に陥る可能性がある。その真相を見抜き、出願人の権益を十分に保護するために、中日両国の審査官が実務においてどのように審理するかについて、検討してみよう。

三.事例

例1:

第一国出願:折りたたみ携帯電話の意匠で、折りたたんだ状態の形態を示す図面のみが記載されており、開いた状態の内側の形態は記載されていない。

優先権を主張する後願:開いた状態の内側は点線で示され、折りたたんだ状態で示された部分を保護対象とする。

例1の場合、後願が中国での出願であれば、その内側のデザインが第一国出願に明確に示されていないことを理由に、第一国出願と同一製品の意匠ではないと判断されることになる。つまり、新たに追加された内容が、点線で描かれた保護対象外の部分であっても、その点線部分が第一国出願に示されていないため、中国における後願の優先権主張に影響を及ぼしてしまう。

一方、上記例1は、日本の実務では許容されるものである。日本の実務では、第一国出願の記載に対する総合的な判断に基づき、第一国出願は、折りたたんだ状態で示された部分のみについて保護を求めるものであり、かつ折りたたんだ状態で示された部分が占める製品全体の位置や範囲なども明らかであると分かる。したがって、開いた状態の図面で、折りたたんだ状態では示されていない部分を点線で描いたものを出願した場合でも、両出願の保護範囲は同一であり、「同一の意匠」であると判断され、後願は対応する優先権を享受することができる。

例2:

第一国出願:折りたたみ携帯電話の意匠で、開いた状態の形態を示す図面が記載されており、開いた状態の内側は点線で示され、内側以外の部分を保護対象とする。

優先権を主張する後願:開いた状態の内側は実線で示され、全体意匠として出願する。

例2の場合、後願が中国での出願であれば、図中の点線が実線に変更されたか否かにかかわらず、後願の図面に示された意匠がすべて第一国出願に明確に示されているため、中国の実務に従えば、認められるものであり、その優先権主張は成立すると思われる。

一方、上記例2は、日本の実務では認められない。日本の実務によれば、第一国出願の点線が後願で実線に変更された場合(または第一国出願の実線が点線に変更された場合)、その保護範囲が第一国出願と一致しなくなるため、後願と第一国出願が「同一の意匠」であるとは認められず、優先権主張は成立しないと判断される。

四.おわりに

上述した2つの例から、優先権主張については、後願が第一国出願と「同一」であるか否かを判断する際に、中国の実務では、後願が第一国出願に明確に示されているかが重視されるのに対し、日本の実務では、後願の保護範囲が第一国出願の保護範囲と実質的に同一であるかが重視されることが推察される。

上記結論に基づき、出願人が日本で最初に出願した後、その優先権を主張して中国で意匠出願する場合、中国における優先権主張の審査が主に後願意匠が第一国出願に明確に示されているか否かに基づいて行われることを考慮すると、中国に進出した後の現地の様々な必要を満たすために、日本で最初に出願した際に異なる角度の図面をすべて提出することが考えられる。また、立体構造の製品については、斜視図の提出が好ましく、重要な創作の要点又は複雑な立体構造については、その部分の異なる角度を明確に示す斜視図を提出することにより、保護しようとする製品の意匠を明確に示すことができる。さらに、中国では、実際の必要に応じて、全体意匠及び/又は1つまたは複数の部分意匠を出願することが考えられる。

日本企業が世界各国に進出している中、現地のイノベーション能力を十分に引き出し、現地の好みに沿った特色のある製品を製造するニーズが高まってきており、中国で最初に出願した後、優先権を主張して日本などの他国で再出願するケースも多くある。このようなケースについても分析してみる。

出願人が中国で最初に出願した後、その優先権を主張して日本で意匠出願する場合、日本における優先権主張の審査が主に先願と後願の保護範囲が実質的に同一であるか否かに基づいて行われることを考慮すると、日本で事業展開していく際に現地の様々な必要を満たすために、中国で最初に出願した際に、異なる改善点に関する複数の部分意匠を提出することが考えられる。また、重要な意匠については、全体意匠と部分意匠の両方を同時に出願してもよく、後願と第一国出願の保護範囲が完全に一致することを確保する必要がある。

なお、中国で部分意匠制度を導入した後、現行の審査実務によれば、国家知識産権局は、出願日から2ヶ月以内という自発補正期間内に、全体意匠から部分意匠への変更、部分意匠から全体意匠への変更、又は部分意匠の保護範囲の変更を認めている。ただし、上記自発補正が行われた場合、日本で出願する際に、優先権の主張に悪い影響を与える可能性がある。例えば、出願人が中国で最初に出願した際に全体意匠を提出し、自発補正期間内に全体意匠を部分意匠に変更し、その後、優先権を主張して自発補正したものを部分意匠として日本で出願する場合、日本の実務では、同一製品の全体意匠と部分意匠が「同一の意匠」であることが認められず、さらに、弊所が知っている限り、日本では優先権日に提出された書類に基づいて優先権成否を判断するため、この場合は優先権が認められないと判断されてしまう。

以上をまとめると、意匠出願の優先権が成立できるように、出願人は、第一出願国と進出予定国/地域の制度を把握して制度の相違による優先権不成立のリスクを回避する必要がある。例えば、第一国出願において、製品の意匠の異なる角度を十分に明確に示す図面を提出するとともに、第一国出願の段階で各国が必要とする最終的な保護範囲を考慮し、第一国出願を効果的に生かす戦略を構築することが考えられる。


ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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