「シフゾウ(四不像)」製品のブランド保護法——多機能製品の商標出願戦略について
中国商標弁理士 曹 敏
技術革新は現在、世界中の様々な業種において勝ちを制するための有効な方法になっており、それは無尽蔵なエネルギーの宝庫のようであり、製品を単一機能に限定することなく、融合や最適化を絶えず繰り返すことで、日々増加し多様化する消費者のニーズに応えることのできる複合機能製品を生み出すだけでなく、各分野に絶え間ない活力をもたらし続けている。
ハイビジョン撮影、AI顔加工、スーパー手ブレ補正機能を備えたスマートフォンから、水システムを除湿機とスチームアイロンが共有している製品、さらには学習、エンターテインメント、オフィスワークなどの多様なモードをシームレスに切り替えられるタブレットまで、人々の多様化する使用シーンに対応できるようになっている。
これらの多機能新製品は、麋鹿(びろく)という動物を連想させるものである。麋鹿は、角は鹿、頸部は馬、蹄が牛、尾がロバに似ているが、全体的にはどれにも似ていないことから、「シフゾウ(四不像)」1と呼ばれるようになった。本稿では、このように多くの製品の特徴を融合させた革新的な複合型製品を「シフゾウ製品」と称することにする。
本稿では、商標審査審判実務における具体的な実例と結び付けることで、多機能新製品の商標出願戦略及び登録後の不使用取消審判請求への対応について分析し議論を深める。読者の皆様に参考となれば幸いである。
1.シフゾウ製品の全方位ブランド戦略
シフゾウ製品の登場と普及に伴い、そのブランド保護は喫緊の課題となっている。このような製品は従来製品とは異なり、複数の機能や特徴を備え持っているため、現行の『類似商品及び役務区分表』に照らし合わせて、唯一の区分や類似群、又は唯一の商品名称に対応させるのが困難なことが多くなっている。
ニース国際分類の原則によれば、多機能の組合せ製品に対しては、その主な機能や用途に基づいて分類されるべきである。例えば、「書籍付き電子発声装置」は、その主な機能が電子発声装置であることから、第9類で出願すべきであり、「電子発声装置付き書籍」ならその主な機能は書籍であるため、第16類で出願すべきである。一方、主な機能が明確でない場合、前述の2種類の商品表記を第9類と第16類でそれぞれ別々に出願することで、両方の登録を目指すことが最善策であると言える。
そのため、シフゾウ製品に対応する商品表記がまだ『類似商品及び役務区分表』に収録されていない間に、より全面的な保護を受けられるように、多数の関連する区分、類似群、商品表記を指定して登録出願を行うことが、目の前の最適解になっている。
実際に、このようなブランド戦略も広範に利用されており、以下にいくつかの実例を挙げてみる。
[表1.実務におけるシフゾウ製品の商標出願状況]

上表製品のうち、洗濯乾燥機セットは数年前にすでに存在していた複合型商品であるが、『類似商品及び役務区分表』の2022年版改訂時に初めて第7類0724群に「乾燥機付き洗濯機070588」2として追加された。それにより、現在では当該商品を指定商品として保護を求められるようになっているが、近年市場で人気を集めている洗濯乾燥機は、乾燥機付き洗濯機とは若干異なるため、当該商品だけを指定商品とすると、適切な保護を受けられない恐れがある。
また、ショール式の電気ブランケット、折り畳み椅子として使えるキャリーケースなどの複数機能を備えた製品について、その所有者は、期せずして複数の区分や類似群を指定商品として、商標登録出願を行った。
さらに、現在人気を博している「スマートスクリーン」製品は、音声、映像、エンターテインメント、ひいてはビデオ通話など複数機能を兼ね備えているため、その商標保護も同様の問題に直面している。現行の区分表には指定できる非規範商品の「テレビ付きパソコン(類似群コード:0901/0908)」が記載されているものの、その全ての主な機能をカバーしているわけではないので、多区分で登録出願する必要がある。
このように、シフゾウ製品がより全面的な保護を受け、侵害となり得るリスクを効率よく防ぐために、企業は商標出願戦略を策定する際に、商品の機能や用途から考慮し、その外観や原材料などと結び付けて、複数の区分や類似群で登録出願を行うのがベストである。
2.シフゾウ製品が不使用取消審判を請求されたときの対応
中国における商標登録出願件数の飛躍的な増加に伴って、支障となる先行商標を除去するために、当事者は先行商標に対して3年不使用取消審判を請求することが増加の一途である。国家知識産権局の統計データによると、2023年の商標取消不服審判の請求件数は21,393件に上り、2022年と比較して約34%増加した3。
このような背景において、シフゾウ製品について、全方位的な商標の出願戦略を策定する一方で、3年不使用取消審判が請求された場合、一つの製品の使用証拠を提出することだけで、複数区分での登録を維持しなければならないと求られる厄介な状況に直面することも多くなっている。この際、商標登録出願人は、自分の製品が本当にそれほど多くの区分に関わっているのか、一つの製品の使用証拠が複数の不使用取消案件で繰り返し使用されても良いのかという疑問を抱くようになることもある。それによって、抗弁においてどちらか一方しかないという苦境に陥りやすくなるのである。
北京市高等裁判所が2019年4月に公布した『商標の権利付与・権利確定の行政事件審理指南』第19条第7項には「実際に使用した商品又は指定商品が『類似商品及び役務区分表』の中の商品名称に該当しないものの、具体的な商品が属する区分を認定するとき、当該商品の機能、用途、生産部門、販売ルート、消費群を結び付けて判断し、かつ消費習慣、生産モデル、業界経営ニーズなどの市場要素の商品の本質的な属性又は名称への影響を考慮し、総合的に認定されるべきである」と規定されている。
実際に検索してみたところ、実務において、ある製品が複数機能を備えている場合、一つの製品の使用証拠資料が複数の類似群、ひいては複数区分で有効となるケースが非常に多いことが分かった。一部の判例について下表に示す。
[表2.シフゾウ製品関連の不服審判審決取消決定書]

表2における2件の商標を使用する製品は、いずれも複数機能を備えている。1つ目の商標を例にとると、その出願人が実際に使用している「多機能ナイフ」は、類似群0807と0810の「やすり、のこぎり(手動工具)、ねじ回し(手動工具)、ナイフ、非電動式缶切」といった不服審判商品と機能や用途において一定の共通性があると審査官に認定されたため、最終的には非類似商品を含む全ての不服審判商品における登録が維持された。
一方、同一種類の製品が異なる区分で登録された商標案件において、それぞれの区分での不服審判商品における使用として認定される場合もある。表3ではタブレッドキャンディを例にして説明する。
[表3.タブレットキャンディ関連証拠が異なる区分で有効と認定された判例]

表3における3件の商標はいずれも「美敦力加MEYDUNLG」であり、不服審判審決の内容から、3つの案件におけるタブレットキャンディはそれぞれ第5類の「乳児用食品」、第29類の「乳製品」と第30類の「キャンディ」などに該当すると認定されたことが分かる。その認定の根拠はそれぞれの商品の機能や用途(ベビー用/乳児用)、成分や原材料(ミルク/牛乳)、製品形態(キャンディ)であった。
表3の2と3の例から分かるように、実務において、国家知識産権局の多機能製品や複合型製品の使用証拠に対する審査は、区分表の類似関係、指定商品の表記に機械的に制約されておらず、製品の機能や用途、原材料、消費対象などの特徴に基づいて個別案件において製品の性質を総合的に認定して登録維持の範囲が判断されている。これは、北京市高等裁判所の審理指南の規定にも合致している。
3年不使用取消審判制度の立法趣旨に戻ると、これも商標登録出願人にその商標使用を奨励して促進し、市場における商品や役務の出所を区別できる商標の役割を十分に発揮させるためのものである。
当該制度は、商標登録出願人の商標不使用行為に対する処罰でも、商標登録出願人に使用義務を課すものでもなく、登録商標を3年連続して使用しなかったことにより商標の役割が長時間発揮されない場合は、その商標をパブリックドメイン化することで、他人の登録出願の便宜を図り、商標資源を活性化するための措置である。
以上を踏まえ、シフゾウ製品が他人から不使用取消審判が請求された場合、登録出願人がよりポジティブな戦略を採用し、使用証拠を提出して答弁することをご提案する。登録維持の結果を勝ち得るために、案件の具体的な状況に応じて、実際使用した商品と指定商品との関係を多角的な視点から強調すべきである9。
3. まとめ
中国には、「兵馬未動、糧草先行」(部隊が出動する前に、糧秣を先行させる、つまり行動する前に準備を整えるべきであることのたとえ)という諺がある。「シフゾウ」製品のブランド戦略に当てはめると、将来を見据え、包括的な戦略的ビジョンがより一層必要とされる。商標登録の戦略を策定する際には、目先の利便性のためだけに指定商品や役務を従来定義された分野のみに限定することや、無計画に広範な範囲で出願することを避けるべきである。商品の機能、用途、形態、生産モデル、消費群などの特徴に基づいて、商品の本質的な属性を総合的に判断してから合理的かつ全面的な商標登録出願戦略を策定する必要がある。そうすれば、登録後に当該商品に係る複数の商標は不使用取消審判を請求されても、出願人は係争製品が複数区分に該当する理由を理路整然と答弁でき、さらに一つの製品の使用証拠が複数の区分や類似群で有効と認定されるよう求めることができる。したがって、「登録出願に根拠があり、権利保護に自信がある」ということを目標にして前向きに取り組むことが必要不可欠である。
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1「シフゾウ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%95%E3%82%BE%E3%82%A6
2NCL(11-2022)中国語版と区分表の改訂内容
3国家知識産権局2023年度報告書(39ページ)
https://www.cnipa.gov.cn/module/download/down.jsp?i_ID=194458&colID=3430
4『第20175113号商標「Callaway」に係る不服審判審決取消決定書商評字[2024]第0000274851号』
5『第G683326号国際商標「ADAM」に係る不服審判審決取消決定書商評字[2024]第0000292967号』
6『第7021640号商標「美敦力加MEYDUNLG」に係る不服審判審決取消決定書商評字[2019]第0000306943号』
7『第8478626号商標「美敦力加MEYDUNLG」に係る不服審判審決取消決定書商評字[2019]第0000306938号』
8『第7021639号商標「美敦力加MEYDUNLG」に係る不服審判審決取消決定書商評字[2019]第0000306940号』
9『3年不使用取消案件における「景品」形式の有効使用の分析と認定――第18754103号商標「経典水星」に係る取消不服審判案件』中華商標雑誌20241111期、曹娜 宋張明(著者所属:国家知識産権局商標局評審7処)